【92歳の精神科医に学ぶ】不安を手放し、人生を豊かにする「孤独」との向き合い方

 【92歳の精神科医に学ぶ】不安を手放し、人生を豊かにする「孤独」との向き合い方
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「人生100年時代」の後半戦に待ち受ける、憂鬱なあれこれと、うまいこと折り合いをつけて生きていくコツとは? 92歳の精神科医・中村恒子先生と、54歳で同じく精神科医の奥田弘美先生のコンビが対談形式で語り尽くす『不安と折り合いをつけて うまいこと老いる生き方』(すばる舎)から抜粋してお届けします。

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人間は孤独が本来の状態。一人時間が自分を豊かにする。

奥田 先生は一人でいることが全く苦にならない方ですよね。一方、私くらいの世代もそうですが、若い世代になればなるほど、一人ぼっちでいることにコンプレックスを持ったり、孤独感に悩んだりする人が多いようです。先生は一人でいるとき、孤独感とどう向き合ってらっしゃるのですか?

中村 もちろん孤独は感じるけど、孤独は恥ずかしいことやの? それにコンプレックスを感じるっていうのは、私にとっては非常に不思議な感覚や。私は人間、孤独で当たり前やと思ってる。むしろ一人の時間がないとしんどいくらい。誰にも気を遣わんと、一人でしたいことして、考えたいこと考えられる時間は、なくてはならない大切な時間やな。

奥田 16歳から誰の力も借りず、一人で生きてきた先生が仰ると説得力があります。まずは「一人は恥ずかしい」「孤独はみじめ」といった妙な先入観を、私たちは見直さないといけませんね。

中村 その気持ちがある間は、一人の時間は居心地が悪いだろうね。

奥田 私は産業医や精神科医として色々な世代の方と面談しますが、とにかく「孤独は良くないこと」と多くの人が思い込んでいます。
例えば休日に一人で過ごしているときにふと「私って寂しい人間なのかな」と思ってみたり、SNSを見て友達が誰かと楽しそうに食事をしたり、遊んだりしている写真を見てしまい、さらに自己嫌悪に陥る……という話を良く聞きますね。私自身も大学生ぐらいまでは、そんな感覚がありました。

中村 そんな面倒くさいこと、今の人は考えているの? 他人さんがどう過ごしてるかなんて、どうでもええやんか。人に囲まれて楽しそうに見えても、本当は気を遣いまくって窮屈な思いをしていることって、けっこうあるもんよ。一人なら誰に気兼ねすることもなく、のびのび快適にグータラ過ごせるやんか。

奥田 先生は他人に細やかに気を遣われるからこそ、一人で過ごす時間が欠かせないんですよね。孤独が怖いとか、苦手と感じる人は、先生のように「一人は気楽で快適」という捉え方に、変えていけると良いですね。
かくいう私自身は、今は家族と暮らしているので孤独を感じることは少ないのですが、子どもたちが巣立ってしまったあと、果たして先生のように孤独上手になれるかどうか、ちょっと自信がありません。先生は何をして一人の時間を快適なものにしているんですか?

中村 それそれ! その「何かをしなきゃいけない!」という決めつけが、一人時間を貧しくしていると思うよ。なんもせんでええやん。私なんてサボり放題、だらけ放題よ。ゴロゴロとソファーで寝転んで日向ぼっこをしたり、テレビ見ながらボーッとしたり。そのうち何かしたいことを思いついたら、ゆっくりやってみるって感じ。

奥田 なるほど。たしかに常に何かしていなくちゃいけない、楽しまなくちゃ時間がもったいない、というのも、孤独が苦手になる刷り込みの一つですね。とにかく誰の目も気にせずに、ぐーたら好き放題に過ごしていいよ、とまずは自分を許してあげると孤独が楽しくなるかも!

中村 せやせや、そういう固定観念を捨てていけばいいんや。今の人は、「あれこれしなくちゃ」と思い過ぎ。時間に追われ過ぎているんとちがいますか?

奥田 「あれこれしなくちゃ」という時間に追われる感覚と、孤独への苦手意識は、大いに関係しているかも。今は身の回りがどんどんデジタル化してしまって、ソファーに寝転がっていてもスマホやテレビから絶えず情報が入ってくるので、常に刺激を受けてしまうんですよね。だからボーッと何もせずに過ごしていると、取り残されていくような感覚に襲われてしまうのかもしれません。私自身、アナログな昭和時代の記憶をたぐれば、家でのんびりと空の雲を眺めていたり、電車に乗っていても、スマホの画面ではなく、窓の外の景色を見ていたりといった「何もしない時間」が、もっとあったような気がします。

中村 たしかに、私の感じている時間の流れと、今の若い人たちが感じている時間の流れは、ちょっと違うのかなと思うことはあるね。私は携帯でメールはするけど、若い人のようにスマホでニュースや動画をずーっと見たりしないし、情報はテレビや新聞を見るだけ。SNSやらで他人さんの生活に触れる機会もないから、自分と他人を比べる材料もない。一人でいると時間がゆったりと流れていくし、誰に気を遣う必要もなくのんびり過ごせるから、それが非常に心地よくて仕方がない。

奥田 先生の生活は、まさに「デジタルデトックス」とか「ITデトックス」と呼ばれる形ですね。私たちの世代は、IT技術で生活が便利になった反面、常に時間に追われ、情報に振り回されています。その結果、一人でゆったりとした時間の流れを楽しむ、心の癒やし方を忘れてしまっている。それに加えて、もともと一人の時間に対する罪悪感やコンプレックスを抱かせられるような、社会からの刷り込みもあります。孤独を怖がる人が増えているのも、自分と向き合いながら一人で過ごす時間を過ごせなくなった、現代人の心のひずみが現れているのかもしれませんね。もっと時間に追われず、情報や刺激を追いかけず、一人でゆったり過ごす感覚を意識して作り、それに慣れる必要があるのかもしれません。

中村 なるほどね。先生に分析してもらったら合点がいったわ。私は一人でいるときは、なんにも追われる気持ちはしないし、誰が何しているかも気にならへん。ボーッとしていることもあるし、ふと思いついたことをやってみることもある。ひたすら自由なんやな。あ、そうそう、この自由に過ごせる一人の時間をたっぷり持てるのも、子どもを独立させたあとの老人の特権やで。私も、子どもがある程度大きくなった40歳ぐらいからは、ふと思い立って、ふらりと日帰りバスツアーに出かけたりもしていたね。私の他にも一人で来てる人が必ずいたから、たまには一人者同士でしゃべったりして、それはそれで楽しかったな。

奥田 私も先日、徒歩で遺跡を巡る半日ほどのツアーに参加したんですが、運動にもなるし、知識も増えるしで楽しかったです。最近は1人で参加できるようなツアーも増えているらしいですね。

中村 1人でふらりと行く旅もいいもんやで。私も若い頃は、学会を口実にして、日本全国あちこち行ったもんや。学会に行ったついでに日帰りとか、せいぜい一泊や二泊の小旅行やったけどな。足腰が元気なうちにあちこち回って見聞を深めておくとな、テレビの旅番組が楽しくなるねん。「ああ、あそこはこんなふうに変わったのか」とか。80過ぎて体力が落ちてきたときに、旅番組を観るだけで観光気分になれるよ。

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『不安と折り合いをつけて うまいこと老いる生き方』(すばる舎)より

中村 恒子(なかむら・つねこ)
1929 年生まれ。精神科医。1945 年6 月、終戦の2 か月前に医師になるために広島県尾道市から一人で大阪へ、混乱の時代に精神科医となる。二人の子どもの子育てと並行して勤務医として働き、2019 年(90 歳)までフルタイムの外来・病棟診療を継続。奥田弘美との共著『心に折り合いをつけて うまいことやる習慣』(小社)は16 万部超のベストセラーとなった。現在はリタイアして心穏やかな余生を送っている。

奥田 弘美(おくだ・ひろみ)
1967 年生まれ。精神科医・産業医(労働衛生コンサルタント)。日本マインドフルネス普及協会代表理事。内科医を経て、2000 年に中村恒子先生と出会ったことをきっかけに精神科医に転科。現在は精神科診療のほか都内20 か所の企業の産業医としてビジネスパーソンの心身のケアに従事。著書に、『1 分間どこでもマインドフルネス』(日本能率協会マネジメントセンター)、『「会社がしんどい」をなくす本 いやなストレスに負けず心地よく働く処方箋』(日経BP)など多数。

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ヨガジャーナルオンライン編集部

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ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。



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