「厳しいことは美しい、と思っていた」写真家・中川正子さんが自分への厳しさを手放せるようになるまで

 「厳しいことは美しい、と思っていた」写真家・中川正子さんが自分への厳しさを手放せるようになるまで
Naoki Kanuka(2iD)
磯沙緒里
磯沙緒里
2023-05-27

心と体が大きく変化する”更年期”。年齢とともに生じる変化の波に乗りながら生き生きと歩みを進める女性たちにお話しいただくインタビュー企画「OVER50-降っても晴れても機嫌よく」。第4弾は、写真家の中川正子さんにお話を伺いました。前・後編に分けてお届けします。

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写真家として多方面で活躍中の中川正子さん。2011年に岡山県へ移住された後も各地を飛び回り、ますます精力的に活動されています。日常を切り取った光豊かな写真の美しさと、写真に添えられた文章の感性の高さが魅力的な中川さん。年齢を重ねるにつれ魅力が増す中川さんが更年期をどのように過ごされているのかお伺いしました。

やりたい気持ちが溢れているから動きたくなる

ーー中川さんはお忙しく様々なお仕事をされている印象ですが、先日、ゆっくり過ごす時間もgoogleカレンダーで管理されていること、その時間にVoicyの録音をされていたことに驚きました。常に動き続けているのですか?

中川正子さん(以下中川さん):客観的に見るとそうだと思いますが、無理しているわけではないんですよ。様々なことをやりたい気持ちが溢れているから、自然と動きたくなるんですよね。慌ただしいようで、これが今の自分にとってちょうどいいペースなんです。

ーー予定を詰めすぎて後半は疲れ切ってしまうことはありませんか?

中川さん:あまりないかもしれません。今回も2泊3日の東京出張で、ぎっしりスケジュールが詰まっているんです。今日だけでもあと3つの予定があって、それが全て人に会う予定なんです。私は人に会うとエネルギー全開にしちゃうのでエネルギー消費も激しいんですけど、次の日は朝から晩まで撮影。岡山へ帰ると、翌日は息子の小学校の卒業式なんです。ずいぶん詰め込んでいますよね(笑)。

私は動ける方ではありますが、予定を詰め込んだ出張の翌日はいつもなら休みにしています。休むといっても、山に登ったり、voicyを録ったりすることもあるんですけどね。そういうことは、私にとっては無理なくできるので休みながらできるんです。

思えば、30代は24時間ずっと動いてるマグロみたいでした。今では自分の限界を把握して、休む日を設定するようにしています。

ーー年齢と共に働き方は変わりましたか?

中川さん:それはもちろんです。大きな変化がありました。

30代前半までは東京で鬼のように撮影の仕事をしていました。例えば、朝4時に集合して撮影して、日中には色々と予定を詰め込んで、夜にもう1本撮影をして、へとへとになってタクシーで帰宅する。翌日もそんなスケジュールで動くといった具合でした。早朝から深夜まで動き続けるのが日常だったんです。

しかも、合間で遊んだり、その後に結婚をしたので恋愛もしていたわけで。今思えばどうやって時間を作っていたのかという感じですが、仕事と遊びの境界線が曖昧な職種だから仕事の合間に遊ぶ時間を捻出できたんですよね。それに比べると、今は非常に健康的になりました。今は夜は仕事をしていない(つもり)です(笑)。

Photo by Masako Nakagawa
Photo by Masako Nakagawa

仕事を早く終え、家族の時間へ

ーー夜は何時まで仕事をするか決めていますか?

中川さん:コロナを経てからは、18時には仕事を終えることにしています。息子がもう少しで小学校卒業という年齢で、家族の時間を大切にしたいと思ったんです。コロナ以前は出張が多かったのですが、コロナ禍ではずっと岡山にいたんですよね。

これは暮らしを立て直す時期だと考えました。子どもが学校から帰ってきたら、ごはんを作って3人で食べるっていうことをしたいと思ったんです。ちゃんと家族らしいことをやろうと思ったんですよね。それから、仕事を終える時間を設定しました。

この頃から、自分の体力もこれまで通りではないのだと感じていました。何かを発想するような、脳を使う仕事を夜に行うと効率が落ちることに気付いたんです。最初はそれでも夜もがんばっていたんですけど、あまりいいアイディアは浮かばなかったんですよね。それなのに翌朝にはあっさり浮かぶものだから、「夜に考えるのって効率が良くないのかもしれない」と思うようになりました。

これらが重なって仕事を早めに切り上げるようになり、夫には「あとは早寝だけできるようになったら完璧な人間だね」と言われることがあります(笑)。

そうはいっても、今だって素敵な朝型生活からは程遠いんですけどね。夜はもう仕事しないし、もしもするならば特別な時だけにすると決めたのは大きな決断でした。

Photo by Masako Nakagawa
Photo by Masako Nakagawa

ーー生活の変化や体力の衰えというと、産後にも共通しますね。中川さんの産後はいかがでしたか?

中川さん:産後は、自分の時間を持ちにくいですよね。だから子どもが寝てからがチャンスだと思って、わりと夜中に作業していました。子どもが運よく寝てくれると、「やった!1人の時間だ!」ってなって、ついつい仕事をしたくなっちゃうんですよね。もちろん一緒に寝落ちすることだってありましたが。その頃はまだ30代だったので、体力があったからこそできたことだと思います。体力任せだった分、効率は決して良くなかったと今となっては思いますけどね。

ーー体力の低下を意識したのは最近ですか?

中川さん:体力の低下にはっきりと気づいたのは最近のことです。ある日ガクッと体力が落ちたわけではなくて、徐々に落ちていったので気づかなかったんですよね。

これまでずっと気合と根性で乗り切っていたけど、朝の方がよっぽど物事の解決が早いことに気づいたのが、自分の体力の低下を感じたタイミングかもしれません。自分を分析するのが遅くなって、ずいぶんと無駄な足掻きをしてきたと思います。

産前産後を経て「なるようになる」と思えるように

ーー若く体力も充実している若い頃と現在とで、考え方も変化していますか?

中川さん:今年50歳になるので、振り返ると様々なフェーズがあります。若い頃はトゲトゲしていましたね。20代は自分に満足できなくて、自分に腹を立てていたこともありました。

「なるようになる」と思えるようになったのは、産前産後を経てからです。子どもとの生活は計画通りにいかないことがたくさんあります。だから、突然の計画変更までも計画のうちと考えるようになりました。

産前は、自分が無理を通してでもがんばれば、思い描いていた完成形に辿り着けたんです。例えば、寝ないでひたすらに作業するとかね。力技でなんとかなったので、そういう物事の成し遂げ方があると思っていました。負けず嫌いなので、今思えばあの頃はなんでも完璧にやろうとしていたんだと思います。

子どもが生まれてからは予想ができないことの連続でした。撮影前に、「明日はお願いだから熱を出さないで」と私がピリピリすればするほど子どもは熱を出すとか。そうなったとき、これまでのように気合だけでは乗り越えられない。それならば、計画変更があっても仕事に行けるように事前にいくつものプランを用意しておくようになりました。

おしゃれをしたい仕事があって綺麗な服を着ていても、産後は出かけようとしたら子どものミルクやよだれがついてしまうこともしょっちゅう。そういう時、以前ならなんとしても綺麗な服を着て行こうとしたと思うんですけど、産後はあえてスウェットを着てみるなど、全く違う選択ができるようになったのです。その時に、負けの選択をしたわけではなく、自分で選んでこの選択をしたのだと意識できるようになりました。

子どもが幼いうちは自分に意識を向けられなくて、ずいぶん悔しい思いもしたし、私が描いていた「理想の絵」とも違うのだけど、今ではこれでよかったと思っています。

Photo by Masako Nakagawa
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自分に厳しすぎた時期を経て自分を甘やかすことができるように

ーー自分に一番厳しかったのでしょうか?

中川さん:以前は自分にとにかく厳しかったと思います。「厳しいことは美しい」って思っていたくらい。人に対して厳しくするのは随分前にやめたつもりだけど、自分への厳しさはずっとありました。こんなことを言うと超ストイックな人みたいですね。でも、子どもを産んで13年経って、今では自分を甘やかすこともできるようになりました。

もしかしたら、周囲からは生きづらい人に見えるかもしれません。私の真っ直ぐすぎるところや、感受性が人一倍強いところは、そうでない人から見ると完全に生きづらい人ですよね。でもね、わたしは「生きづらさ」とは捉えていません。むしろギフトだと思っているんです。自分を甘やかすことができるようになった今の方がずっといいとは思いますが、そう思えるようになったのも、自分に厳しすぎた時期を通ったからこそなんですよね。

 

*インタビュー後編へと続きます。
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磯沙緒里

磯沙緒里

ヨガインストラクター。幼少期よりバレエやマラソンに親しみ、体を使うことに関心を寄せる。学生時代にヨガに出合い、会社員生活のかたわら、国内外でさまざまなヨガを学び、本格的にその世界へと導かれてインストラクターに。現在は、スタイルに捉われずにヨガを楽しんでもらえるよう、様々なシチュエーチョンやオンラインでのレッスンも行う。雑誌やウェブなどのヨガコンテンツ監修のほか、大規模ヨガイベントプロデュースも手がける。



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Photo by Masako Nakagawa
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