「家族で夕ご飯を食べたい。それが働く基本」 落合さんが仕事と生活、休みの自由を手に入れるまで

 「家族で夕ご飯を食べたい。それが働く基本」 落合さんが仕事と生活、休みの自由を手に入れるまで
腰塚安菜
腰塚安菜
2023-09-15

30年以上の新聞記者生活を経て、2017年4月から台東区・田原町で「Readin’ Writin’ BOOKSTORE」の店主を務める落合博さん。本屋を始めるまでのストーリーを2021年『新聞記者、本屋になる』(光文社新書)にまとめています。 デジタルネイティブ時代の休み方を考えるインタビュー企画 #私たちの自由な選択 。初回は、落合さんが本屋やイベントを営み続ける姿勢に迫ります。

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ーー『新聞記者、本屋になる』(光文社新書)を読んで、記者から本屋への転身はターニングポイントだったと認識できました。改めて、ご自身の働き方・休み方はどう変わりましたか。

落合博さん(以下、落合さん):2017年3月に新聞社を辞めて、本屋の仕事を始めてからは午後6時に店を閉める生活になりました。
家族を中心にした生活にしたい。そのためにはどうするかと考えてきました。初めからそんな生活をしていたというわけではないんですけれどね。

2014年に妻と待望していた子どもが産まれてからは、子ども中心の生活になりました。※現在は小学3年生

妻とお互いの仕事に合わせて保育園の送り迎えを分担していましたが、記者時代、もちろん僕は午後6時に子どもをお迎えに行けなかった。妻が時短勤務だった頃、送りは僕でお迎えは妻という分担だったんですが、僕が店を始め、妻の時短がなくなってから「僕がお店の営業終了を早めればいい」と、5時や5時半にお店を閉めて、僕がお迎えもするにしたというわけです。

ーー家族が人生の軸、生活の軸になっていると聞いて安心しました。

落合さん:「休み」ということでいうと、今年9月から、実は週休2日にしようと思っています。それは家族との時間というより、自分の時間づくりのためです。取引先に行ったり出かけたりしていると、時間に追われて1日が終わってしまうので。

これにより自分自身にも変化が生まれてくるだろうし、時間が生まれることで、また何か新しいことを見つけて、スタートすることもできるかなと思います。

ーー本屋さんを営む中で、具体的な生活のルーティンはありますか。

落合さん:大体5時ごろに起きて、21時ごろに寝ます。そんな生活だと、体がその日の変化を教えてくれますね。これが、夜遅くまで起きているとか、朝遅くまで寝ていると、わからないと思います。

僕は朝3日くらい走っていますが、それは、走るということが自分の体調を知る上で助けになるから。走り初めは重たいけど、後半は軽くなってくるとか、逆に軽かったけど重くなってくる、なんてこともありますね。

また、朝走ると血流がよくなって、物事に前向きに慣れて、仕事にもスッと入れるのがいいところ。スポーツクラブとか、運動にもいろいろありますが、汗をかく、シャワーを浴びる、そして仕事に行くという一連の流れが自分に合っています。

ーーランニングという朝時間が、営業時間以外での大切な自分時間の一つなのですね。

「休んでいる」という感覚より、「過ごしている」感じ。 自分に無理の無い休み方のコツ

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『休暇のマネジメント』刊行に合わせた本屋イベントで高崎順子さんと筆者

ーー私が本屋さんを訪れたきっかけは『休暇のマネジメント」(KADOKAWA)の著者、髙崎順子さんをゲストに招いたトークイベントでした。今回は、落合さんの「休み方」に迫りたいのですが。

落合さん:「体を休めている」という感覚はあるけど、休んでいるという感覚は、正直あまりなくて、過ごしているという感じです。家でもあまりゴロゴロしない性格で、常に動き回っているなぁ。でも、最近、まとまった夏休みを取りました。

ーーTwitter(X)の投稿を見て、7月後半の1週間ほど「本屋さんの夏休み」だったのだと知りました。実際、夏休みはいかがでしたか。

落合さん:毎年、夏は妻の実家の佐賀に行って、そこからどこかへ行くという過ごし方をしていますが、今年は前半に沖縄に行って、後半は佐賀に行きました。

ーーお子さんがいると、夏休みはお子さん中心の過ごし方になりがちですよね。親御さんとしての夏休みの満足度はいかがですか。

落合さん:親だけの都合で出かけると、子どもはつまらないし、かといって子ども中心になりすぎても親がつまらない。だから、互いの楽しみを組み合わせる感じがベストですね。
今年は休みが終わってすぐ妻と、「お正月は韓国旅行を目指して頑張ろう」という話もしましたよ。

生き方のコツは、深く考えないこと。 仕事が変わっても変わらない姿勢

ーーデジタル社会ならではの生きづらさも抱える若者に、人生の先輩として、落合さんから何かアドバイスやメッセージをいただけないでしょうか。

落合さん:まずは、他人のことを気にしない、ですかね。「他人の人生は他人の人生」と考えること。自分自身、群れることが嫌いで、人も物事も変化するものと考えてきたからです。

例えば本の売れ行きも、いい時もあれば、悪い時もある。物事の良し悪しは、長続きしないと思っていて、いつか上がるだろうし、いつか下がるだろうと思っておけばいいのでは。だから、悪いことも続かないよ、と思っておけば気楽なのではと思います。

先ほど、僕が走っていることについてお話ししましたが、ポジティブ思考になれるのは本当です。深く考えない。だから、クヨクヨすることってないんですよ。

例えば、原稿の書き方なんかも、あるテーマで書こう思っている時に、「おりてくる」というのでしょうか。走っているうちに「こうやって書いたらいいんじゃないか」とひらめくこともあります。

ーー本屋さんだからこそお聞きしたいのですが、若者や私に「これを読んでおけ」というおすすめの本はありますでしょうか。

落合さん:この仕事をやっていると「人生を変えた本とかありますか」と時々聞かれますが、「特にありません」と答えているんです。ないから。(笑)

「面白いな」って思う本はあるんですけど、自分の人生が変わったとかはなくて・・・。色々な本を読んでいるので、何らか影響は受けていると思うんですけどね。それを若い人に薦めて面白いかと聞かれたら、どうかわからない。

子どもの頃も本なんてあまり読んでいなかったんです。そんな僕が今は本屋をやっています。

ーー「本」そのものに意外とこだわりがないということに驚いてしまいました。

強いて言えば、そうだなあ・・・(棚から取り出したのは、ノンフィクションライター島﨑今日子さんの『ジュリーがいた 沢田研二、56年の光芒』(文藝春秋))

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これはジュリー(沢田研二さん、今年75歳)の自伝的な本ですが、ジュリーを好きか嫌いかという話ではなく、島﨑さんの取材力の凄さに引き込まれました。8月6日のイベントのゲストにもお招きしました。

(本の1ページを見せながら)ここ、僕が線を引いているジュリーが「シフトダウン」しているという部分。具体的には、アルバムを30曲にしていたけど、それを10曲にします。それでも、一生懸命やることには変わらない。そんなことを教えてもらえる本です。

ジュリーとはレベルの違う話ですが、僕も週休2日を始める予定で「シフトダウン」を考えながら生きています。僕の年齢(11月で65歳)だから共感するので、若い人に共感してもらえるかはわからないですが。

ーーまた、初めてこちらを訪れた時、店の棚を見て、ジェンダーや性教育など女性関連の本が目立つなと思いました。これは落合さんの興味からなのでしょうか。

落合さん:女性の生き方に関する本が増えているのも事実ですが、数年前から自分が関心を持ち、読んでみたいのがジェンダーやフェミニズムをテーマにした本なんです。

「『聡子の部屋』は、4回目以降、オンライン配信もしながら今も続いている。いつまで続けるか?答えは店がある限り、僕が生きている限りだ。」

–「新聞記者、本屋になる』第4章「本を売るだけでなく」より ※「聡子の部屋」は社会学者の梁(やん)・永山聡子さんが聞き手を務め、落合さんがコロナ禍も中断することなく続けているイベント。

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落合さん:イベントは、店を始めて間もない2017年8月ごろ、知り合いの編集者から「イベントをやりませんか」と持ちかけられたのが最初です。

最大40人くらいがこの本屋の会場を埋めていましたが、2020年の4月(コロナ初期)から、オンライン配信とのハイブリッドを始めました。

ーーTwitter(X)も積極的に使って告知をされていますね。幅広い見識を持つゲストばかりですが、落合さんの人脈で集まるのですか。

落合さん:人脈というより、出版社のフェアなどイベントでつながるケースが多いですね。

「聡子の部屋」の永山さんとの出会いは、別で開催したイベントでした。髙崎順子さん(5月に筆者が参加したイベントのゲスト)も、イベントを続けているうちに繋がったお一人。

――「いつかリアルで会いたい」と念願だったゲストと書店で出逢う機会を作っていただき、当時は本当に嬉しかったです。「休むこと」を主題に取材させていただきましたが、生活も大事にしながら仕事を息長く続ける落合さんの姿勢にヒントを得ることができました。貴重なお話、ありがとうございました。

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Profile:落合博さん

1958年山梨県甲府市生まれ。Readin’ Writin’ BOOKSTORE店主兼従業員。東京外国語大学イタリア語学科卒。読売新聞大阪本社、ランナーズ(現アールビーズ)を経て、1990年毎日新聞社入社。主にスポーツを取材。論説委員(スポーツ・体育担当)を最後に2017年3月退社。『新聞記者、本屋になる(光文社新書)」より

「Readin' Writin' BOOKSTORE」公式サイト:http://readinwritin.net

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腰塚安菜

腰塚安菜

慶應義塾大学法学部政治学科卒業。学生時代から一般社団法人 ソーシャルプロダクツ普及推進協会で「ソーシャルプロダクツ・アワード」審査員を6年間務めた。 2016年よりSDGs、ESD、教育、文化多様性などをテーマにメディアに寄稿。2018年に気候変動に関する国際会議COP24を現地取材。 2021年以降はアフターコロナの健康や働き方、生活をテーマとした執筆に転向。次の海外取材復活を夢に、地域文化や韓国語・フランス語を学習中。コロナ後から少しずつ始めたヨガ歴は約3年。



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