【デジタルネイティブの選択】 「人の役に立つ自分を見てほしい」日仏の架け橋となる24歳の働き方
デジタルネイティブ時代の自分を大切にする生き方を考えるインタビュー企画 #私たちの自由な選択 。連載全体で若者の「自由な選択」を応援しています。今回は、日仏2カ国での学位(ダブルディグリー)を取得し、SNSで数万人のフォロワーに発信を続けるフランス在住の大学院生、ルイスさんのデジタルネイティブな生き方に迫ります。
ーーまずは生い立ちから大学入学までを聞かせてください。これまでの海外経験についても詳しく知りたいです。
ルイスさん:父がフランス人、母が日本人で、東京で生まれました。小中高大と日本の学校に通い、2011年から2012年までニューヨークとフランスのボルドーにいました。意外に思うかもしれませんが、人生の9割は日本で過ごしてきました。
ーー語学が堪能なルイスさんなので帰国子女だと思っていましたが、長く日本で育ってきたのですね。語学は日仏英と、どのようにしてそのレベルまで引き上げられたのでしょうか。
ルイスさん:中学3年生で英検2級レベルからスタートしましたが、もともと小さい頃から耳はよかったみたいで、そこには自信があります。
フランスへ留学してからは授業が全て英語で始まったので、はじめは英語を使いこなすのにとても苦労しましたね。入試のための勉強は正直、好きで出来たとは言えませんが、部活の同級生とテストの点数でアイスクリームを賭ける勝負をして賭けが始まったんですよ。そうしたら数学以外の成績で出来がよくて「やったらできるんじゃないか」と思ったのが受験の動機でした。1つのターニングポイントは、この時かもしれません。
今フランスで在籍しているのは政治経済分野で世界2位のグランゼコール、パリ政治学院という学校ですが、この学校と日本で「ダブルディグリー・プログラム」(日本と海外の学位を2つ取得すること)による進学をめざすことを前提に、慶応義塾大の経済学部に20年の秋に入学し、23年の3月に卒業し、9月にパリ政治学院の大学院へ進学して今に至ります。
ーー大学入学時点でさまざまなことを突破してきて、今まさにフランスで頑張り続けていると思います。現地でどんな毎日を過ごしているかは次に詳しく伺っていきますが、これまで海外で印象的だったことはありますか?
ルイスさん:大学受験の前の他、もう1つはニューヨークの経験だったと思います。先ほどもお話ししたように、留学前の海外長期滞在は半年くらいで、長くはないのですが、小学生の時にアメリカで差別を受けてショックを受けた記憶は今も残っています。
ーー「差別を受けた」と感じた経験もあったのですね。
ルイスさん:国際社会は、語学ができない人、そのレベルというより、外国語を話そうとしない、意欲がない人に対しては冷たいと感じます。逆に、話そうと試み、努力している人に対しては、あたたかい人が多いなと感じます。
旅が好きで、自分でお金を貯めて観光や仕事で様々な国に行ってきましたが、もう一つ海外で身についたのは「世界を舞台にどこでも生きていける」と思える体質だと思います。
クリエイターを自称するのは自分じゃない。パン職人の姿勢に共感
ーーデジタルを使いこなしていると私たちは見て取れますが、ルイスさんにとってずばり、SNSは「仕事」と捉えられるものですか?
ルイスさん:仕事か、趣味の領域かという線引きは難しいと思うところです。活動の1つに、日仏英語で発信する動画コンテンツで、数万人のフォロワーを抱えるSNSがあるので、自分で動画制作をすることもあれば、お話をいただいたことにはビジネスとしてひたむきに向き合っていますが、SNS経由では「これは正当な対価(報酬)に見合わないのでは」と思うお話をいただくこともあるので、自分のやっていることがそれに値するのかわからなくなってしまうこともあります。疑い深くもなってしまうこともあります。
ーーそれは視聴者から見えない世界ですね。自由に発信できる当事者のひとりとして、SNSが必要不可欠なクリエイターとしての生き方をどう思いますか?
ルイスさん:たとえば、僕の身近にいる存在だと大学教授や、例を挙げるならパン屋さんなど、一人のプロを周囲で多く見てきた中で「自分が『クリエイター』を自称することってどうなのか」も葛藤しながら発信をしています。
僕がやっていることの稀有(けう)性が注目を浴びているのはわかっていますが、やっぱり何をやっても「二番煎じ」になってしまうような、難しい時代だとも痛感しています。
ーー今のルイスさんができる(技能)という意味ではSNSの発信活動以外にも、スキルがたくさん手元にあるのでは?
ルイスさん:確かにそうだとは思いますが、自分のキャパシティにも限界があるので、手元に「できること」のカード的なものがあって、10枚くらいのうち、常時2枚、3枚くらいを引き出して、掛け持ちして仕事化している状態が今の自分にしっくりきています。
たとえば学部3年生まで語学を生かして個人・法人向けに英語・フランス語の教師もやっていましたが、それをやっていた自分は当時のステータスで、今はそのカードは使っていない状態です。今の自分が語学教師までやると、キャパオーバーになってしまうからです。
ーースキルとしては「できる」けれど、手元のカードを隠しておく。学生のうちから仕事も抱える中でバランスを取る秘訣だとも思えるのですが、ご自身の今の感覚はどうですか。
ルイスさん:生活のバランスでいいますと、正直、今は余裕のなさを自覚しています。多忙にしていることで、考えたくないことをカバーしている感覚もあるので、できればもう少し余裕のある人間になれたらな、と思う一方で、余裕のある人間になってしまったら僕の今の良さは減ってしまうのかな、とも思っていて。(苦笑)
今年は12カ国に行きたいという目標があるし、旅の中でリラックスタイムを確保することで自分の力をギリギリ保てているのかなとも思いますが、これが正しいやり方なのかはまだわかりません。
新しいことをしていると、リフレッシュやストレス解消になっている感覚はありますね。
ーー余裕のない自分も、余裕のある自分の理想の姿も把握して言葉にできているから、実現したら新しい自分が開けそうですね。これからのルイスさんの変化も楽しみです。
「ビジュアル化された名刺」で人の役に立つSNS発信を
ーーSNS使用も人それぞれですが、ルイスくんがSNSで伝えているコアは何でしょうか。SNSを使う動機も教えてください。
ルイスさん:僕が考える僕の強みは、旅行が好きであること。SNSのコアコンセプトは、日本文化を正しい方向で伝えることです。そうして作った情報が人の役に立てばすばらしいなと思います。この2つを軸に、今の自分がやれることは全てやりたいと思っています。ちなみに昨日(この取材の前日)は、パリ市内のガイドを担当する仕事をしていました。
ーーただどこかの国の文化を発信するだけでなく「正しい方向で伝えたい」。そして「人の役に立つこと」もSNS発信を続けていく動機になっているのが印象的に感じました。
ルイスさん:縦型動画では抱負とか夢にあたるものをわかりやすく語っていますが、あれはあくまで「動画用のストーリー」だと思ってほしいです。それを凌ぐ僕の夢は「かっこいい大人になる」ことの方かもしれませんね。
SNSで「僕はこういう人間なんだ」ということを知ってもらえれば、ビジネスチャンスになります。なので、SNSはビジュアル化された名刺と言えるのではと考えています。ただ、あくまでSNS=ビジュアル化された名刺は、短い映像でわかりやすくされた「魅せ」のツールでもあるということも言っておきたいです。
ーービジュアル化された名刺。ルイスさんならではの言葉でSNSのメリット、デメリットまでよくわかりました。最後に、後輩世代や10代に働き方や進路の面で伝えたいことをお願いします。
ルイスさん:SNSには本当に助けられていると思いますし、ありがたいなと思いますが、自分の仕事の選択肢は、SNSの他にも持つに越したことはないと思っています。
SNSを活用するのは特殊な働き方で、僕の働き方は一般化できない。だからこそ、マルチに手を広げています。何か1つだけに集中して働くやり方って、今の時代に合わないのかもしれません。
「二兎を追うものは一兎を得ず」という言葉がありますが、最終的に一兎すら掴めない結果になるくらいなら、だったら僕は最初から「三兎」を追いたいタイプ。これは僕ならではの働き方のメソッドのようなものです。
フランス生活のリアルだと、ちょうど昨晩、一緒にディナーをとった友人とも働き方の話になりました。僕らの世代は父親世代と働き方が違うが、稼ぎで上回るにはどうすべきなのか。世代を経るにつれて貧しくなっていくのではという不安や、父親世代のように死ぬほどたくさん働いて稼ぐという時代ではないよね、といったことも、僕らの中で日常的に話しています。
今、ぱっと思いついたのが、<Live to work>より<Work to Live>という言葉です。
人は生きるために食べるのであって、食べるために生きるのではない。この海外的な働き方の価値観を借りて、誰かのヒントになればと思います。
Profile : ルイスさん
2001年生まれ、24歳。慶應義塾大学経済学部とパリ政治学院(Sciences Po Paris)で「ダブルディグリー・プログラム」を修了し、パリ在住の大学院生。フランスと日本の観光情報、パリでの大学院生活をvlogで発信中。
Instagram : @louis.arwd
TikTok:@louis_aroundtheworld
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