「学ぶ」は「魔法」。63歳のヨガ講師、ピラティスで“教わる側”に戻って思うこと|連載 #60代のリアル

「学ぶ」は「魔法」。63歳のヨガ講師、ピラティスで“教わる側”に戻って思うこと|連載 #60代のリアル
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松木千枝
松木千枝
2026-04-18

「60歳」と聞いて、あなたはどんな姿をイメージするでしょうか。「もう60代」と捉えるか「まだ60代」と捉えるか、人生100年時代と呼ばれて久しいこの社会で、60代は「人生後半戦の始まり」とも言える世代ではないでしょうか。60代の体、心、仕事…連載「60代のリアル」では、現在63歳のヨガインストラクター千枝さんのリアルな心境を綴ります。

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実は最近ピラティスの養成講座に通っている。

2月に一旦マットピラティスの養成講座を終わり、予定では4月からマシンピラティスの養成講座に参加するつもりでいる。

ピラティスは人気で私が主宰している長原ヨガの周辺でもどんどん増えているが、ヨガはというと、スタジオ勤務のヨガインストラクター仲間の話や、私自身のレッスンもそうだが、生徒数がまばらなところも増えていると感じる。

経営者としては、不安。

ヨガの指導を始めてちょうど10年経過した昨年、いろんな偶然に背中を押されてスタジオの経営をスタートしたが、実はその時から導入を考えていたピラティス

最近はいよいよ「打開策を考えないと」と切実に思うようになり、「ピラティス、始めようかな」という想いがふつふつと沸いてくるようになった。

スタジオに導入するなら自分もある程度学んでおく必要があるのではないか。

でも、もう60代。

「昨日の夕飯も思い出せないのに、いまさら新しいことなんて覚えられる?」

SNSでよくいただくのが「私も50代からヨガを始めました」「私も60代でヨガインストラクターとしてお仕事を始めました」といったメッセージで、ヨガの指導現場も大人世代が増えてきた気がする。

「けど、ピラティスは若い人が中心で、インストラクターも若い人だらけじゃ?」

そんな葛藤の中ふと目に入った養成講座の広告を見ると、ちょうど2月から講座がスタートすると書いてあるではないか!

「やっぱり、やるしかない」

突然そう決意したのだった。

ヨガの養成講座に入ったのは51歳。ヨガを始めてまだたった1年だった。

「ヨガを始めて」などと書いたが、実はスポーツクラブのレッスンにしか参加したことがなく、ヨガスタジオという、本気でヨガをする人たちの練習に生まれて初めて参加してみたのは養成講座に申し込む2ヶ月前だった。

スポーツクラブでは一番年下(ほぼ60〜70代)だったから、自分は動けるとすっかり勘違いしていたが、いざスタジオで本格的なレッスンを受けると、いちいち先生に直しに来られる始末で、自分がいかにできていないかを思い知った。

「ちゃんと勉強したい」

なので、養成講座に入ったのは人に教えることを仕事にするためではなく、自分のために、もっといえば「楽しそうだったから」だった。

そうして養成講座初日を迎え、スタジオに向かうエレベーターに乗ると、同乗してきたのは茶髪に派手なネイルの若い女性。

「やっぱり私、場違いだな…」と嫌な汗が流れた。

同期は30名近くいたが50代は1〜2人、残りはかろうじて40代、メインは30代と20代といった構成だった。

アシスタントの人たちは全員私より年下だし、イシュタヨガの第一人者であり養成講座のメインティーチャーだったマック久美子先生も、おそらく同じ年くらい。

そんなところに「生徒」として参加するなんて、無謀というしかない。

けれど、「学ぶ」は魔法だ。

養成講座が始まると何も気にならなくなり、同期も、10歳も20歳も年上の私にタメ口になっていった。

いや本当のところ、たまに何かあって正気に戻ると「うわあ…」となることもあったが、正気に戻る暇さえほとんどなかった。

それより、オームと唱えたこともなく何も知らないまま叩いたその扉の向こうにあった『ヨガワールド』はめくるめく世界で、IT企業で働き「1+1=2」だった私にとって、すべてが「なにそれ!面白すぎる!」の連続だったのだ。

こんな世界があるなんて。

そして、こんな自分がいたなんて。

51歳。50代を迎え硬直しつつあった「私」という世界。

社会を知り、傷つく子供の部分を誰にも見られないようにひっそりと抱えながら大人として暮らし、不安と諦めがいつも心の中に漂っていた。

けれどそれが無邪気に崩壊し、好奇心のフタがパカっと開いて、思いもよらない形で再構築されていくのが自分でも不思議で、怖くて、ワクワクした。

同世代の友人たちがワインを飲みながらお墓や介護の話をする中で、私だけが真新しい顔でチャイを飲み、ヨガ・スートラを読んでいた。

今回ピラティスの養成講座に行こうと思ったのはいわば販路拡大が動機だったが、どこかで現状を再構築したい意図があったように思う。

自分が作ったスタジオで、みんなに「先生」と呼んでいただいて、これで良いような気がしているけれど果たして本当に良いのか…。

わかっていないこと、自信を持って言えないことがまだまだたくさんある。

特に解剖学。

「本格的なシニア時代を迎える前に運動習慣を持つことは不可欠」と生徒さんたちに説明してきたが、解剖学を深めたらもっと貢献できるだろうか?

っていうか、ピラティス、楽しそう。やってみたいな。

そしてピラティスの養成講座の初日。奇しくもその前日に私は63歳になっていた。

先生も同期も全員遥かに年下。

初日には周りの若さに圧倒され場違いさに後悔し、けれど学ぶほどに「なにこれ!」の連続。

解剖学を意識して体を動かすと、自分のどこが弱く補完すべきところなのかがくっきりと見えてきて、ヨガで半ば完成されたつもりでいた自分の体への概念が書き直され、病気や年齢の限界だろうと思っていた部分もリカバリーされつつある、60代なのに!

体って、すごい。

最終日、みんなとLINEを交換し練習の約束をした。

…って、これ、デジャブですよね。

いいえ、「学ぶ」が魔法なんです。

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