「コロナ禍の今こそ、感謝を胸に…」3つの金メダルを獲得したヨギアスリートの次なる挑戦
最初の世界選手権優勝から2年後、バートレッタは睡眠障害に悩まされるようになり、知人から陰ヨガを勧められた。「それからヨガの魅力に夢中になったわ」と彼女は言う。陰ヨガの次にのめりこんだのは、ヨガニードラと瞑想だった。「本当に優れたヨガティーチャーたちは、私が〝ダルマのしずく〞と呼ぶ行いをしています。私たちが現実を見ていないときに必要な哲学を身をもって教えてくれるの」と彼女は言う。「今私は生活のすべてにおいてヨガを実践しています。目を覚まし、眠り、トレーニングに向かう時も」
2018年、バートレッタはサンフランシスコのラブストーリーヨガで200時間ヨガティーチャートレーニングを受講した。「とにかくできるだけ多くの実践を学びたかったの」と彼女は言う。
あとで振り返ると、それはまさにぴったりのタイミングだった。2019年7月、オランダのパペンダル・オリンピックトレーニングセンターで練習していた時、彼女の健康状態は一変した。めまいに襲われ、肉体的にも精神的にもくたくただった。トップアスリートとして自分にプレッシャーをかけ続けてきた当然の結果だと、彼女はどこかで思っていた。だがある日、オリンピック陸上競技の出場候補者たちを監視する世界アンチドーピング機関と世界陸上競技の両方に関わる医師から、驚くべき内容のメールが送られてきた。血液検査で異常が見つかり、彼女はひどい貧血状態にあるというのだ。トップアスリートの場合の正常なフェリチン(鉄を含む血液中のたんぱく質)の値40前後だが、彼女の値は5だった。「〝すぐに病院に行きなさい。非常に悪い状態です〞と言われました」とバートレッタは振り返る。だが彼女は聞き入れず、代わりに、7月開催の最後の国内選手権大会のためにアイオワに向かった。ようやくバートレッタがコロラドの医師を訪れたのは6週間後だった。だが医師は貧血は月経過多によるものと誤診し、彼女に鉄分を投与した。
それから12月まで、バートレッタは通常のトレーニングもこなせない状態だった。「死にかけている気分でした」と彼女は言う。「心拍は不安定で、眠ったら昏睡状態のようになっていたわ。なかなか起きられなかったの」。いら立ち、疲れ切っていた彼女は、米国オリンピック・パラリンピックのトレーニングセンターの婦人科医に診てもらうことにした。その医師は、良性の子宮筋腫が深刻な出血と貧血を引き起こしていることを発見した。もしこのまま放置すれば、数週間で臓器不全になり、一度の激しいトレーニングで本当に昏睡状態になるだろう、と医師は述べた。その夜バートレッタは緊急手術を受け、2カ月後に輸血を受けた。
4つ目のオリンピック金メダルを狙う彼女にとって、それは致命的な打撃だった。「通常の年は10月から3月の練習でコンディションを仕上げます」とバートレッタは説明する。「大会シーズンに入れば、あとは微調整や仕上げをするだけなの」。だが手術の後の6週間は、いっさいの練習が禁止された。 「泣いてばかりいたわ」と彼女は話してくれた。「自分のタイトルを守るために全力を尽くしたかったのに。まるでミス・アメリカの気分よ。戦わずして、年末には王冠をほかの誰かに渡さなきゃいけないんだから」。だがヨガを通じて学んだ教訓のおかげで、彼女は落ち着きを取り戻し、不愉快な現実を受け入れることができた。毎日プラーナヤーマを実践し、感謝を表し、「すべてうまくいっている」というマントラとともに瞑想した。「『バガヴァッド・ギーター』の〝行為の成果にとらわれずに、とにかくやり続けなさい〞というメッセージが、私の原動力でした」
2020年の早春、新型コロナウイルスの感染拡大により、オリンピックの開催が危ぶまれ始めた。3月半ばには世界中のトレーニング施設が閉鎖され、薬物検査も中止された。だが開催の有無についての正式な発表はなされず、アスリートたちにすら何も知らされていなかった。そして3月23日の朝、ついにバートレットはソーシャルメディアニュースで「オリンピックは2021年に延期」という見出しを見つけた。彼女をはじめ、多くのアスリートたちは前代未聞の事態に理解を示しながらも、大きく肩を落とした。
だがこれまでも不屈の精神で乗り切ってきたバートレッタは、この延期は現実を受け入れるための機会だと捉えることにした。体を鍛えて、けがや病気で遅れた分を取り戻せるチャンスだと彼女は言う。「自分でコントロールできない理由のせいで、ほかの人に金メダルの座を明け渡すなんてできないわ。それだけは嫌なの」
「あのレベルで何かを成し遂げるのにどれほどの忍耐力が必要か、完全に理解できる人はいないと思う」と、彼女のコーチで、同居人でもあるチャールズ・ライアンは言う。「彼女の人生ですべてが順風満帆な時なんてあっただろうか。彼女は何年にもわたって辛いけがや挫折に直面しながら、勝利を勝ち取ってきたんだ。僕が知るかぎり最強の人だよ」。今バートレッタは、延期によって授かったトレーニング時間だけでなく、自分の体や、これまでの経験のすべてを大切に感じている。 「ヨガのクラスでは、シャヴァーサナで休息する際に右手を心臓に、左手をお腹において、〝この体に感謝しています〞と言います。この体はこれまでたくさんのことをしてくれたけれど、今ほど感謝を感じることはなかったわ」とバートレッタは言う。「ありがたみを十分にわかっていなかった。すべての体は奇跡と魔法と科学の賜物であって、どのような形であっても完璧なの。それが今年私が学んだことよ」。彼女はこの学びとともに、次のオリンピックでトップを目指す。開催がいつであっても。
"Every body is a work of miracles and magic and science, and it's perfect in whatever form it manifests itself - and that is what I have learned this year."
すべての体は奇跡と魔法と科学の賜物であって、どのような形であっても完璧なの。それが今年私が学んだことよ。
Every day she practiced pranayama and some form of gratitude,and meditated on the mantra "Everything is as it should be."
毎日プラーナヤーマを実践し、感謝を表し、「すべてうまくいっている」というマントラとともに瞑想した。
※表示価格は記事執筆時点の価格です。現在の価格については各サイトでご確認ください。
- SHARE:
- X(旧twitter)
- LINE
- noteで書く