【日照時間が心の健康を左右する】英国大規模データが示した「メンタルヘルスと天気」の深い関係
「曇りの日は、なんとなく気分が沈む」「梅雨時はやる気が出ない」─そんな経験はないだろうか。気分の問題と思われがちなこうした変化だが、最新の研究は、その感覚が決して気のせいではない可能性を示している。
日照時間が短い日はメンタルヘルスの不調が起こりやすい
英国・イーストアングリア大学の研究チームは、約460万件に及ぶ医療データを分析し、日照時間が短い日ほど、メンタルの不調を理由に医療機関や相談窓口を利用する人が増える傾向を明らかにした。一方で、「雨が降ること」そのものとメンタルヘルスとの間には、明確な関連は確認されなかった。
研究では、英国健康安全保障庁(UKHSA)が保有する2014年から2022年までの約9年間のデータを解析。精神的な不調に関する460万件以上の医療利用記録を対象に、電話相談サービス「NHS111」、時間外診療、救急外来の利用状況を、英国気象庁(Met Office)が観測した日照時間や気温、降水量などの気象データと照らし合わせ、天候との関係を詳しく調べた。
その結果、日照時間が短い日は、メンタルヘルスの不調を理由に支援を求める人が増えることが判明。一方で、降水量との関連はほとんど見られず、研究チームは、「雨」ではなく「日照時間」が重要な要因である可能性を指摘している。研究を率いたリチャード・エルソン博士は、「熱波のような極端な気象だけでなく、日々の天気も、人々のメンタルヘルスや支援を求めるタイミングに影響していることが分かりました」とコメントしている。
最も影響していたのは雨よりも「日照時間」
今回の研究で最も一貫した関連が確認されたのは、日照時間だった。日照時間がほとんどない日は、約10時間の日照がある日と比べて、電話相談サービス「NHS111」や時間外診療の利用がいずれも約6%増加していた。救急外来の受診も約4%増える傾向がみられ、不安や抑うつに関連する受診も増えていた。一方、多くの人が「雨の日は気分が落ち込みやすい」と感じるものの、今回の研究では降水量と精神的な不調による医療利用との間に一貫した関連は確認されなかった。つまり、人の心に影響していたのは「雨」そのものではなく、日照時間の短さだった可能性が示されたのである。研究チームは、太陽光が体内時計を整えるほか、気分の調節に関わる神経伝達物質セロトニンや睡眠のリズムにも影響することが、この結果の背景にある可能性を指摘している。
気温についても一定の関連がみられた。精神的な不調による相談や受診は、気温の上昇とともに増え、およそ18℃付近までは利用件数が増加する傾向が確認された。その後は横ばい、あるいはやや減少する傾向を示した。また、65歳以上では、暑い日だけでなく寒い日にも精神的な不調による救急外来の利用が増えるU字型のパターンがみられ、高齢者は気温の変化に影響を受けやすい可能性も示された。さらに、暖かい日にはアルコール関連や睡眠障害に関する相談が増える傾向があった一方で、自傷行為やうつ病については、気温との明確な関連は確認されなかった。
「なんとなく不調」の背景には、天気の影響もあるかもしれない
これまで、天気とメンタルヘルスの研究では、熱波や豪雨などの異常気象が主なテーマとされてきた。しかし今回の研究が示したのは、曇り空や日照不足、気温の変化といった、私たちが日常的に経験する「ありふれた天気」も、人々の心の状態に影響を与えている可能性があるということだ。もちろん、この研究で調べたのは精神疾患と診断された人の数ではなく、医療機関や相談窓口の利用件数である。そのため、「曇りの日に精神疾患が増える」と結論づけることはできない。しかし、天気と心の不調に一定の関係がある可能性が示されたことで、「最近なんとなく気分が晴れない」「やる気が出ない」と感じたとき、その背景には日照不足などの環境が影響しているのかもしれない、という新たな視点を与えてくれる研究といえる。
梅雨や曇り空が続く日本では、「最近なんとなく不調が続く」と感じる人も少なくない。そんなときは、自分の気持ちだけを責めるのではなく、「天気の影響もあるのかもしれない」と少し見方を変えてみることも大切だ。
出典:
Reduced sunshine linked to higher demand for mental health care
Short-term changes in weather can increase demand for mental-health support
More People Call For Mental Health Help On Cloudy Days, Study Finds
- SHARE:
- X(旧twitter)
- LINE
- noteで書く







