【アメリカで注目の最新ヨガ】内的体験を重視する「ソマティック・ヨガ」の魅力とは?
ソマティクスを世界に伝える
「ボディ・マインド・センタリングでは、動きの起点はナディ(経絡)、内臓器官、呼吸にあると考える」とベインブリッジ・コーエンは説明する。体の中の筋肉や細胞、血管、神経のエネルギーから動きが伝わるという意識を持ってみよう。
ロンドンでソマティック・ムーブメントを教えている、ボディ・マインド・センタリング協会公認講師のアキ・オオモリは、「自分自身に耳を傾け、必要なものを見極めるコツは、ゆっくり動くことかもしれない」と話す。「ゆっくり動けば、自分がどのように動き始めるか注意を向けられるので、その後の動きがスムーズになります。ソマティクスとは、自分自身の専門家になることです」
ヨガにソマティクスを取り入れる目的は、インテロセプション(身体の内側で感じる感覚)とプロプリオセプション(空間における身体の位置感覚)を感じ、その内外の経験の間に均衡を見いだす高度な運動感覚を生み出すことだとオオモリは説明する。「つまり、安定と安らぎを感じる快適な可動域の中で動くということです」
ソマティック・ヨガでより多くの気づきを得るほど、自分の動きを制御できるようになる。「心と体のつながりを感じ始めるでしょう」とクリスウェルは付け加える。「感覚を研ぎ澄まし、感じたことに対して偏った判断を下さずに反応できるようになるには時間がかかるが、これはマットの外でも非常に役立つ」とオオモリは言う。たとえば、人間関係において間違ったことをしていると友人から指摘されたとき、それに対してすぐに反応する自分に気づくかもしれない。ひと呼吸おいて心と体に意識を向けると、首と頭が熱くなっていて、心臓を守ろうとして肩が縮こまっていると気づくかもしれない。スローダウンして好奇心を持って自分の身体感覚を観察し、反射的でなく理性的に反応すれば、恥や防衛、怒りの感情を認識することができる。怒りをぶつけたり、引きこもったりする代わりに、自分にも他人にも共感できるスペースをつくることで、不要な揉め事は避けられるのだ。
「好奇心を忘れなければ、どんな経験も価値になります」とオオモリは言う。「そうすれば、もっと今を生きられるようになるし、自分自身を信頼して寄り添えるようになります」
また、「ソマティック・ヨガが生活上での身体的、精神的痛みの軽減に役立つこともある」とクリスウェルは言う。「クラスに来たときに肩こりの痛みを感じていても、帰る頃には消えているかもしれません。練習で睡眠の質が良くなって、不安やうつが和らいだ人もいます。身体的にも社会的にも、職場や家庭でも、次に起きることを受け入れやすくなるでしょう」
近くのスタジオにソマティック・ヨガのクラスがなくても、どんなクラスでも(特にゆったりとしたペースのクラスで)、よりマインドフルに練習に取り組めば、多くの気づきを得ることができる。ポーズに移るときの体の感覚に興味を持ってみよう。そして自分の体が心地よいと感じる範囲で動いてみる。ポーズのピークよりも、ポーズからポーズへの移行に重点を置こう。これをクラスの中だけでなく、日常のあらゆる場面でも実践してみよう。
ベインブリッジ・コーエンに導かれて動いている間、私は今までにない満たされた感覚に出会った。まるで自分の体に真に宿るための原始の暗号にアクセスしているような……あらゆる雑音や人間の共有体験が起きる前の静寂に触れるような感じだった。グラウンディングしながら活力が湧いてきて、それと同時にパラダイムを打ち砕くような、最も自然で本質的な感覚だった。
ソマティック・ヨガを体験しよう
ソマティック・ヨガの創始者エレノア・クリスウェルによるこのプラクティスでは、ポーズに入る前にそのポーズを行っている自分の姿をイメージすることを大切にしている。また、体からの感覚的なフィードバックに気づくことにも重点を置いている。
自分が仰向けになって、両脚を天井に向かって伸ばしている様子をイメージする。準備ができたら実際に仰向けになり、膝を曲げてから、無理のない範囲で両脚を上に伸ばす。普通の呼吸をしながら20秒ホールドする。準備ができたら、膝を曲げて足裏を床に下ろし、床の上に両脚を伸ばす。4カウントで息を吸い、4カウントで吐きながら、深い呼吸を1分間繰り返す。体に起きている感覚を味わおう。
次に、両脚を上げて両手をお尻の下におくハーフショルダースタンドに移行しよう。ポーズができない、やるべきでないと感じたら、まずはポーズを行う自分をイメージしてみる。膝を上体の上に引き寄せ、腹筋を使って上に伸ばしたら、お尻を下げて手の上にのせる。20秒ホールドする。次に背中を丸めてから、背骨を1個ずつ床に下ろすようにゆっくりと仰向けの姿勢に戻る。シャヴァーサナに入り、1分間深い呼吸をしながら体の感覚を味わう。
トラウマのためのソマティック・ヒーリング
心理療法では、体に蓄積された、あるいは閉じ込められたトラウマに対処するために、よくソマティックワークが用いられる。
「私が定義するトラウマとは、生命が脅かされる、または生命の危険を感じる体験に対して起きた心身の闘争・逃走・凍結反応が中断されている状態のことです」と、ボディ・マインド・サイコセラピーの認定プラクティショナーで、ソマティック・サイコセラピストのケイティ・アズマスは説明する。「この反応は、本来は私たちを守るために起こるのですが、神経系や筋肉内で行き場を失ったために、そのまま心身で習慣化しまうのです」
心理療法のセッションにソマティックワークを取り入れると、衝動的な動きに寄り添いながら癒していくことができる。目指すのは、自分で大丈夫と思えるほどトラウマから解放された状態になることだが、難しい場合もある。
文●ターシャ・アイゼンヘア
『ヨガジャーナル』の元編集者兼デジタルディレクター。科学分野のライターとしても活動し、『ナショナルジオグラフィックニュース』『ディスカバー』『Environmental Science & Technology』などに寄稿。マインドフルネスに基づくトランスパーソナル心理学を学んでいる。
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