【アメリカで注目の最新ヨガ】内的体験を重視する「ソマティック・ヨガ」の魅力とは?
ヨガジャーナルアメリカ版の人気記事を厳選紹介!よりマインドフルで瞑想的なプラクティスを求める人々の間で、内的体験を重視するソマティクスに基づくヨガが今、注目を集めている。感情を整え、力強さを生み出すその実践内容を紹介しよう。
私は今ソファに座りながら、ボニー・ベインブリッジ・コーエン(ムーブメントアーティスト、研究者、教育者、セラピスト)の電話セッションを受けている。彼女は私の注意を呼吸に向けさせ、全身に意識を行き渡らせるように導いていく。私は横隔膜が伸び縮みし、血液が血管をめぐり、ヨガでいうナディ(経絡、エネルギーの通り道)に流れるエネルギーを感じた。「ボディ・マインド・センタリング(動きの原点を体験するボディワーク)」の創始者でもあるベインブリッジ・コーエンは、電話の向こうで、「頭から尾骨、足までのすべてのものの間に在る空間を感じてみて」と言った。
「その空間を意識しながら右手を左肩にあて、目を閉じて呼吸をしましょう」とベインブリッジ・コーエンは続ける。ただし脳の前面から呼吸を指示するのではなく、「脳の後ろを開いて」と彼女は言った。つまり、高次の認知機能を司る前頭前野で考えすぎるのをやめて、原始的な本能や直感を働かせるということだ。そのとき私は、文字どおり後頭部のスペースが広がるのを感じた。
ベインブリッジ・コーエンは、ヨガのクラスにも導入され始めたソマティックベースのボディワークを教えている(「体が喜ぶことをしなさい」と講師が言っていたら、おそらくソマティクスの影響だろう)。ソマティック・ヨガは、ゆったりした動きと最小限の調整を通じて、身体感覚を高める(つまり、体の内側の感覚に導かれる)ように組み立てられている。このボディワークは、過度に疲労した神経系を静めて回復させ、周囲の世界が身体的、感情的、政治的に激しさを増す中で、より確かな行動に起こす後押しをしてくれる。
私は心の声のスイッチを切って、手をあてている肺の上部に息が入るのをただ感じた。ベインブリッジ・コーエンから舌の力を抜くように言われると、あごが少しゆるんだ。それから、右手を左の脇腹の肺の真ん中あたりにあてて、肺から脳へ、脳から肺へと意識を移しながら、何が起きているのか興味を持つように言われた。次に右手を左の肋骨の下にずらして肺の下にあて、同じようにエクササイズを行った。数分後、彼女は、「肺から左腕を横に伸ばして肺で腕を動かし、腕で肺を動かしてみて」と言った(混乱しても、とにかく試そう!)。その時私は、臓器と手足がどのようにつながっているのか、初めて気づくことができた。息を吸うたびに、その息に腕がのっかるような滑らかで完全に統合された動きが感じられた。自分が塗り絵の中の人物だとしたら、誰かが私の体の左側だけをバラ色に塗ってくれて、右側はまだ腕と胸の輪郭のまま残されているような気がした。
ソマティック・ヨガとは?
ソマティクスとは、ボディワーク(身体技法)、ムーブメント(動き)、心理療法にまたがる研究・実践分野であり、体の内側からの感覚に注意を払い、その感覚にゆだねて体を動かすことが求められる。「ソマ」はギリシャ語の「身体」に由来している。ソマティクスでは、マインドフルネスを通じて自分の身体的、精神的、感情的なコンフォートゾーン(居心地のいい場所)を知ることにより、緊張やトラウマ、喜びが体のどこに、どのように蓄積されているかに気づき、理解していく。これは古い記憶やパターンから解放し、心身のバランスを整えて本能や直感を取り戻し、最終的には自分が力強くて完全であるという感覚に近づくための第一歩となる。
ボディワークや哲学としてのソマティクスは、1970年代に教育者で研究者のトーマス・ハンナによって欧米で体系化された。彼は心身のつながり、動き、触れ合いを通じて体を癒し、痛みを軽減するための実践を考案した。ハンナや、モーシェ・フェルデンクライスなどの先駆者たちによるボディワークは、太極拳やヨガなどの微細なエネルギーレベルに働きかける東洋の哲学や実践を西洋式に解釈したものといえる。ロルフィング、フェルデンクライス、アレクサンダー・テクニーク、ラバン身体動作表現理論、ボディ・マインド・センタリングは、すべてソマティクスに基づいたメソッドと考えられている。
ソマティック・ヨガは、これらの療法から派生したものだ。一般的なヨガクラスでは、決められた動き(曲げ伸ばし、ストレッチ、保持する、押すなど)に従うことが多いが、ソマティック・ヨガでは、より直感的に動いていく。「現代のヨガのほとんどは、微細なエネルギーの流れを重視していない」とベインブリッジ・コーエンは言う。彼女はこれを機会損失と見ている。「ただ腕を伸ばすのではなく、ナディを流れるエネルギーと共に動くことで、『スカ(快適)』と『スティラ(安定)』を見いだせるのです」。彼女は自分のボディワークをヨガに応用し、多くの講師を指導しながら新たな視点をもたらしている。ポーズの快適さと安定性が重要視される背景には「ポーズ(アーサナ)は安定(スティラ)していて快適(スカ)でなければならない」と記されているパタンジャリのヨーガスートラ第二章46節が関連する。「アーサナの出来栄えに焦点をあてた現代の練習は、けがにつながる可能性があります。ソマティクスはヨガを療法の域に戻すものです」と彼女は主張する。
意識を高める
「ソマティクスをベースにヨガを練習すれば、ポーズからポーズに移行するときの意識を高めることができる」とハンナの寡婦であるエレノア・クリスウェルは説明する。彼女は元心理学教授、国際ヨガ療法学会の前会長で、『ソマティクス・マガジン』誌の編集者を務めている。
「速いペースで行う多くのヨガスタイルでは、心と体がつながるための十分なスペースと時間を生み出せない」とクリスウェルは言う。彼女はソマティック・ヨガと呼ばれる体系をつくり、ヨガ講師やヨガセラピストたちと共有している。「完璧なポーズをとろうと集中すると、そのポーズに移行するときに体で起きていることに注意を向けられなくなる」と彼女は言う。そうなると、体と心の間に断絶が生じて、けがにつながりやすくなる。
クリスウェルのクラスでは、最初にシャヴァーサナ(亡骸のポーズ)で横たわってソマティックエクササイズを行う。エクササイズでは、伸びている筋肉よりも縮んでいる筋肉に意識を向けながら、特定の筋肉や筋肉群を収縮させ、解放させる。そして、ゆっくりと注意深くシャヴァーサナを終える。
20〜30分ほどソマティックエクササイズを行った後、クリスウェルは生徒たちにポーズに移行する様子をイメージするように促す。それから自分ができる範囲でポーズを行うように指示する。つまり、快適な範囲で無理なく動くということだ。次のポーズに移る前に、生徒たちはシャヴァーサナに入り、感覚に意識を向けながら深い腹式呼吸を行う。これは、左肩に緊張があるとか、左肺で深呼吸しづらいといった、体からのフィードバックを受け取るスペースを空けるためだ(次ページの「ソマティック・ヨガを体験しよう」を参照)。
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