「ヨガを通して予防医学を広げたい」｜中村尚人さんの転身ストーリー

――経営者としての顔もお持ちの中村先生ですが、新しいビジネスを始める際、社会のニーズをどのようにキャッチしていますか？

昨年は、姿勢と歩行改善に特化したスタジオ「アップライト」を八王子にオープンしました。このスタジオではトレーニング前に体の状態をチェックする「アセスメント」を行っています。アセスメントはいわば臨床であり、僕が現場の技術者であり続け、利用者に直接体の悩みを聞くことが一番の情報収集になっています。同時に、予防医学の観点で社会の中で提供されていないサービスは何か、常にアンテナを張っています。たとえば、日本では側弯症の運動療法が確立されておらず、多くの人が科学的根拠のない民間療法に頼りがちです。そこに注目し、理学療法士の経験をもとに考案したトレーニングを提供する「側彎トレーニングセンター」を立ち上げました。僕の場合、困っている人がいるのに、医療では対応できない分野を切り開くのが事業展開の奥義。その際、大手が参入する整体や介護の分野は避け、ニッチだけど確実に需要のある領域にアプローチします。これからヨガ講師を目指す方にも、自分にしかできなくて、ほかが着手していない分野を見極める嗅覚を養ってほしいですね。

――解剖学の知識など、フィジカルのプロとして大変博識な中村先生ですが、今もなお学び続けていることはありますか？

今も医学とヨガを相互に学び続けていますよ。医学は日進月歩なので、フィジカルのプロであり続けるために暇さえあれば論文や医学書に目を通し、科学的根拠に基づく最新情報をインプットしています。一方、インドの伝統文化であるヨガは、新しい価値観より本質を知る学びを大切にし、毎年インドのアシュラムでヨガを学び、アーサナだけでなくヨガの背景にある歴史や宗教にも見聞を深めています。そうは言ってもヨガは奥深いもの。時間は有限なので、自分に必要な分野を見極めて学ぶのが大事ですね。僕はフィジカルベースで心と体を整える専門家だから、アーユルヴェーダを究めようとは思いません。専門性を高めるための学びを取捨選択しないと、すべてが中途半端になるので注意しながら学ぶ必要があると思っています。

――これまでのキャリアを生かし、次に中村先生が考えている「掛け算」とは？

現在進行中のプランは、「温泉×ヨガ」！温泉に注目したのは、運動嫌いの人にも寄り添いたいと思ったから。予防医学の普及にあたり、ヨガやピラティスというアクティブなツールを提唱してきましたが、中には頑張りたくない人、マイペースにやりたい人もいると気付いたんです。そうした人たちにパッシブな養生法として温泉療法とヨガを組み合わせた癒しを提供していきたいと考えています。僕はヨガが絶対という考えは持っていません。ヨガ講師に必要な社会性とは、多様性を受け入れる柔軟さではないでしょうか。ヨガに依存せずに多角的なアプローチができる人は、異なる分野とも融合して活動の幅も広がるはず。その意味で、前職で様々な人や価値観と接した経験は、ヨガ講師をやるうえでプラスに働くと思います。

――最後に、ヨガインストラクターを目指している方たちにメッセージをお願いします。

ヨガは誰に習うのかがとにかく大事。いい先生の指針は、ヨガを文化と歴史の面から俯瞰できる幅広い学びを積んでいることだと思います。自分の専門性を理解し、わからない部分を認められる謙虚さも必要です。講師になってから行き詰まらないために、料金や通いやすさではなく「先生」重視で養成講座を選びましょう。

中村尚人さん
TAKT EIGHT、UPRIGHT主宰・ヨガティーチャー。理学療法士の資格を取得後、医療・介護分野にて急性期から訪問リハビリなど幅広い臨床経験を積む。ヨガ指導者に転身後、医療とボディワークの融合、予防医学の確立を目指し、ヨガ・ピラティスと姿勢・歩行改善に特化した2軒のスタジオを運営。UTLでは解剖学講師を担当している。そのほかにヨガイベントへの出演、著書や監訳の実績も多数。

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