「アパレル店員からヨガ講師に。変わらないのは人を輝かせたい思い」|佐藤ゴウ先生の転身ストーリー

 「アパレル店員からヨガ講師に。変わらないのは人を輝かせたい思い」|佐藤ゴウ先生の転身ストーリー
Sayaka Ono

生徒さんから圧倒的な支持を集め、メディアやイベントでもひっぱりだこのヨガ講師たち。そんな彼らに共通しているのは、「セカンドキャリア」としてヨガ講師を選んでいるということ。彼らの転身までの背景を知ることは、「どうしてヨガ講師として成功できたのか」に結びついているに違いない、そんな思いからスタートした企画。異業種からヨガ講師へ転身した彼らの、決意、行動、思いから、「本当に良いティーチャーとは」という講師の素質にも迫ります。

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♯CASE2「アパレル店員」からヨガ講師への転身ストーリー

佐藤ゴウ先生は、YMCメディカルトレーナーズスクールを代表するヨガ講師。レギュラークラスはもちろん地方で開催するイベントも盛況で、その知名度はもはや全国区。男性限定の「男ヨガ」を立ち上げ、女性中心だったヨガ界に新しい風を吹き込んだ立役者でもあります。洋服の販売員からヨガ講師に転身するまでのストーリー、現在の謙虚な人柄からは想像できない新人時代の失敗談。生徒と向き合う姿勢、ヨガ講師を目指す人へのアドバイス、「男ヨガ」ムーブメントを生み出した考えなど、“これからのヨガ講師”に必要な視点を教えていただきました。

――ヨガ講師になる前は、どんな職業をされていたのですか? また、ヨガに出会ったきっかけを教えてください。

「おしゃれが大好きで、20代はずっとアパレル業界で洋服の販売員をしていました。個性的で目立つほど一目置かれ、売上がある人が支持される、そんな世界に身を置いていました。ヨガに出会ったのは31歳。当時のパートナーのすすめでヨガスタジオに行き、リラックスヨガをしたのが最初のヨガ体験です。ヨガは美容にいい女性のためのメソッドという印象があり、あまり乗り気ではなかったですね。ところが75分のクラスが終わりシャヴァーサナから目覚めた時、気分がふわっと軽くなり、ものすごく温かい気持ちになったんです。そこからヨガにハマりました。実はヨガに出会う前に、一年位誰とも会わず自分が生まれてきた意味なんかを考え欝々としていた時期があって……。そんな時期にヨガに出会ってプラクティスを続けるうちに、自己肯定が苦手で誰かに褒められないと落ち込んでしまう、自分は人から評価されたい承認欲求のかたまりだったと気付かされたんです。自分を客観的に受け入れ、視界が開けていく感覚も衝撃的でした」

佐藤ゴウ
Photo by Sayaka Ono

――シャヴァ―サナの体験が、人生を変えるきっかけになったのですね。講師を目指そうと思うほどの体験だったのですか?

「そうなんです、きっかけはシャヴァ―サナです。初めてのレッスンで心が軽くなった衝撃的な体験が忘れられず、ヨガを一生やろうと決意。周りの人にもすすめて、ダンス仲間を誘ってはヨガを教えていました。最初から講師になろうと思ったわけではなく、職業としてヨガ講師を意識したのは、Five Elements Yogaの創設者、山本俊朗先生のクラスを受けた時でした。『男性でもヨガを教えられるんだ。なんかかっこいいぞ』と思い、指導する姿に触発されヨガ講師の資格を取れるスクールを探し、PCの検索画面で一番上に名前があったYMCメディカルトレーナーズスクールに即入校。ヨガで生活できるか不安でしたが迷っていても始まらないと思い、すぐに行動しました」

佐藤ゴウ
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――アパレル店員の仕事を続けながら、指導者養成スクールに通ったのですか?

「仕事と両立しながらでしたが、指導者養成コースに通うために雇用形態を社員からアルバイトに変えました。収入が半分になり経済的な不安はありましたが、とにかく学ぶ時間の確保を優先しましたね。バイトは週3~4回、それ以外の時間を勉強にあて、自主的に他のスクールのレギュラーレッスンにも参加して積極的に学んでいました。当時は受講した指導者養成コースのカリキュラムに物足りなさを感じていて、自分が率先して会社をもっと魅力的に変えたいと思い、卒業するのが目的ではなく感じる心を研ぎ澄まし、自立心を養い人間的に磨かれていくカリキュラムを作りたいと意気込んでいました(笑)」

佐藤ゴウ
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――現在は、YMCメディカルトレーナーズスクールの正社員としてご活躍されていますが、どのような経緯でスクールに所属する正社員のヨガ講師という働き方を選んだのですか?

「僕の場合、通っているときに目立っていたのか(笑)、通っていたYMCメディカルトレーナーズスクールの担当者に「うちで働いて社員にならないか?」とお声がけがあったんです。その後、面接を受けて正式に採用していただきました。声をかけていただいたので運もよかったのですが、フリーランスではなくYMCで正社員になる道を選んだ理由は、経済的な安定に加え、ヨガを生業にできる確実性です。でも、入社してみると予約の電話対応やパソコン業務といったヨガ講師以外の仕事も多く、『呼吸は浅くなるし、こんなの全然ヨガ的じゃない。もう辞めたい!』と苛立ったことも。思えば『ヨガ的じゃない』と仕事をえり好みする自分が、一番ヨガから遠い存在でしたね。今では与えられたことすべてを役割として受け入れ、ありがたくやらせていただいています」

――いつも生徒さんの笑いをとりながら、楽しいクラスをされているゴウ先生ですが、もともと人前で話すことは得意だったのですか? 

「苦手ではなかったです。というか、アパレル時代はおしゃれをしてかっこよくしなくちゃいけない。注目されてなんぼ、とにかく目立ちたいという気持ちのほうが強かったので、ヨガ講師になりたての頃はその意識が抜けず、『誰よりも目立って生き残ってやる!』と思っていました。心の中で他の先生や流派を否定し、完全に謙虚さが欠けていましたね。クラスでは笑いを取ることに必死、楽しさの意味をはき違え生徒からクレームが来たことも。ヨガ講師になって3年目、『ヨガフェスタ横浜』にも出演し、いよいよ調子に乗っていました(笑)。そんな矢先、他の先生のクラスは満員なのに自分だけ生徒が集まらない。それでも原因が自分の態度にあると気付かないまま。態度を改めるきっかけをくれたのはスタッフの一言でした。「最近調子に乗ってない?このまま行くとヨガ業界から呼ばれない人になるよ」。ショックでしたが目を覚ますきっかけをくれた救いの言葉でした」

佐藤ゴウ
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――アパレル店員の経験で、ヨガ講師に活かせていると感じるところはありますか?

「もちろん、アパレルでの経験が役立つことも。洋服の販売とヨガ講師、『目の前の相手を輝かせたい』という気持ちは同じなんです。外見ではなくその人の本質を見てアドバイスするようになりましたが、アパレル定員のときに養った相手を観察する力やその人を思う視点が、ヨガ講師になっても活かせています」

佐藤ゴウ
「目の前の相手を輝かせたい」という気持ちが講師の原動力に

――講師としてご活躍される今も、「もっと学びたい」「こんな知識が足りない」と感じることはありますか?

「日々思っています。ヨガ哲学の本を読むことや、ポーズの実践は欠かしませんが、もはや生活の一部であり学んでいるという感覚はないですね。言ってしまえば生活そのものが学び。ヨガ講師になって9年、毎日が穏やかであるはずがなく、ケガや病気で休んでこともありました。ケガをして体という道具の扱い方を間違えていたと気付き、ポーズは他人に披露するためではなく、体を整えるものだと本来の意味に立ち返る機会に。病気で入院した時は自分が休めばスクールや生徒に迷惑をかけると実感。自分のために生きている感覚でいましたが、みんなの中の一部として生かされている存在だと自覚しました。日々の出来事から学び取る姿勢を持ち、常に感謝や反省、素直さと謙虚さを忘れないように心掛けています」

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――「男ヨガ」など、社会のニーズをとらえて新しい発信をされているゴウ先生ですが、多方面から求められるヨガ講師になるには、ヨガの知識以外にどんな視点が必要と感じていますか?

「誰もやらないことをしたいなら『未開拓な部分』と『社会が抱える問題』に目を向けること、政治や経済を含む社会全体を観察する広い視野が必要だと思っています。「男ヨガ」を作った時、ヨガをする大多数は女性なので未開拓な男性を引き付けよう。そうすればヨガ業界はもっと活性化し、元気な男性が増えれば仕事がうまく回り経済も活気付く。そこまで考えて行動しました。生徒を集めるには発信力も大切です。ポイントは、『パッケージはおしゃれに、中身は本物』。興味を引く状態で提供しないと人は振り向かず、ヨガの本質を伝えたくても伝えられない。僕の場合、洋服をいかにかっこよく着こなすかにこだわり、魅せるセンスを磨いてきた前職の経験が役に立っているのかも。ヨガ講師は受け入れてくれる場があって成り立つ職業。敷居を下げる意味での『ファッション性』と『ヨガの本質』の部分を行ったり来たりできるバランス感覚を養うことが大切ですね」

男ヨガ
「男ヨガ」ムーブメントの火付け役に

――トレーナーとして指導者養成コースの講師も務めていらっしゃいますが、今スクールに通う生徒さんに伝えたいことはありますか。

アーサナやヨガ哲学を覚えることはもちろん大切。もう一つ望むなら視野を広げ、考え方を深め、時には一息つける自分になるなど、人として成長することを目的に通ってほしいです。そして、堂々と自分のことが好きと言える自分になって修了式を迎えてください。指導者になった卒業生から時々相談を受けます。「生徒の反応が薄いと不安になってしまう」と。そんな人は、感謝の言葉を期待しすぎていませんか。「やらせていただいている」という気持ちでひたむきにレッスンをして生徒一人ひとりにこちらから感謝して終われば、それ以上求めるものはないはず。教えるという役割を得たことにもっと感謝しましょう。でも落ち込むのは悪いことではなく、自分と向き合ういい機会。落ち込む必要はないという気付きに辿り着くために、必要な過程なんです」

――最後に、今後のキャリアプランを教えてください。また、ヨガを通してどのように社会貢献していきたいですか?

「これからはスクールで働く後輩の育成に力を入れたいですね。まだまだ至らない部分はありますが、人そしてヨギとして大切なことは学んできたつもり。その知識や経験を後輩に伝え僕の考え方を引き継いでほしいです。追求したいメソッドは、健康寿命を延ばすためのヨガです。シニア世代に限らず若いうちからヨガでメンテナンスしてほしい。ヨガを通して健康な心身を手に入れるための役割を担っていきたいです」

佐藤ゴウ
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佐藤ゴウ
子供や若い世代に、もっとヨガを伝えていきたいです

佐藤ゴウ
ヨガインストラクター、IHTA理事。YMCメディカルトレーナーズスクールでクラスを担当する他、各地でのヨガイベントに講師として出演。これまでに「男ヨガ」を発起して男性にもヨガを広め、現在は幅広い世代に健康で暮らすためのヨガを広めている。

 

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Text by Ai Kitabayashi



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