「商社の営業マンを完走。次は、ヨガで目の前にいる人を幸せに」|高野真利さんの転身ストーリー

 「商社の営業マンを完走。次は、ヨガで目の前にいる人を幸せに」|高野真利さんの転身ストーリー
Shoko Matsuhashi

生徒さんから圧倒的な支持を集め、メディアやイベントでもひっぱりだこのヨガ講師たち。そんな彼らに共通しているのは、「セカンドキャリア」としてヨガ講師を選んでいるということ。彼らの転身までの背景を知ることは、「どうしてヨガ講師として成功できたのか」に結びついているに違いない、そんな思いからスタートした企画。異業種からヨガ講師へ転身した彼らの、決意、行動、思いから、「本当に良いティーチャーとは」という講師の素質にも迫ります。

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♯CASE3「大手総合商社営業」からヨガ講師への転身ストーリー

凛としたまなざしの奥に芯の強さがうかがえるヨガ講師、高野真利さん。前職は大手総合商社で男性と肩を並べて働く営業マン。ハードワークをいとわない働きぶりと女性ならではの細やかな気配りで取引先からの信頼は厚く、凄腕営業といわれた時代も。収入や実績にしがみつかず潔く退社をできた理由は? 転機の見極め方、ヨガ講師の仕事を軌道にのせた行動力、営業職で培った「相手のニーズを読む力」など、ヨガ講師としてフリーランスで活躍するために必要な「スキル」を探ります。

――ヨガ講師になる前は、どんな職業をされていたのですか? また、ヨガに出会ったきっかけを教えてください。

「商社で繊維部門の営業を担当していました。どんな仕事かというと、アパレルメーカーと洋服の作り手の間に立ち、生地の調達、サンプル出し、生産、納品まであらゆる業務をこなしていました。営業は圧倒的な男性社会なので、取引先から『女性の営業マンで大丈夫?』と冷ややかな視線を浴びるなんて日常茶飯事。男性と同等の仕事量をこなす一方、女性ならではの視点や気配りを行き届かせ、取引先と少しずつ信頼を深め仕事を任せてもらうことにやりがいを感じていました。仕事は忙しく深夜の帰宅は当たり前。そんな生活だから運動不足になり、ダイエットを兼ねて体を動かそうと始めたのがヨガでした。初めて体験したのはホットヨガ特にレッスン中に先生が言った、『頑張らなくていいんだよ』という一言が印象的でした。それまでは会社では頑張って当然、頑張らないことが許される世界があることにびっくりしたんです。そうは言ってもヨガは趣味の範疇、そのときはまだヨガ講師を目指すつもりはありませんでした」

高野真利
Photo by Shoko Matsuhashi

――ヨガ講師を目指して商社を辞めたわけではないのですね。退職しようと思ったきっかけは何だったのでしょう?

「確かに、ヨガ講師が退職の理由ではありません。営業の仕事は好きでしたが、この会社にいたら自分が大切にしている「思い」を貫けないと気付いたことが、退職を決めた一番の理由です。私が仕事をするうえで譲れなかったのは「目の前の人を幸せにすること」。だから取引先の無理難題にも応え、時間がかかっても相手が満足する仕事のしかたを大切にしていました。そんなやり方が利益重視の会社の方針と合わず上司と衝突。折り合いがつかないとわかったとき、『私がやれることはすべてやった』と踏ん切りが付き、8年半務めた職場に退職願を出しました。今思うと、上司との衝突があったから自分の生きがいに気付けたのかも。自分が何を一番大切にしているか、満足するのはどういう時なのかを知ることで、次の一歩に進むことができたのだと思います」

高野真利
Photo by Shoko Matsuhashi

――ヨガの指導者資格は、退職後に取得されたのですか?

「いえ、ヨガ講師の資格は在職中に取りました。ようやく仕事に慣れた頃、ふと立ち止まり理想とする将来の自分の姿を想像してみたんです。いずれは結婚して子どもも授かりたい。でも終電があたりまえの働き方を続けていたら、家族の時間を大切にするような生活は難しいのでは。自分の能力についても考え、大手商社という看板を下ろした自分には何もできないのではとも。会社の看板がなくても働けるスキルを身に付けたいと思い立ち、ヨガで指導者資格が取れると知りスクールに通うことにしたんです。将来に疑問を感じながらも仕事は好きだったのですぐに独立は考えず、平日は会社員、週末だけオーディションに合格したスタジオでヨガ講師をするという働き方を2年間続けました。退職を決めたのは、その後のことです」

――在職中は、副業としてヨガ講師をされていたのですね。退職後、独立された際は、ヨガ一本で生活することに不安はありませんでしたか? 

「『やらなければいけない』より『やりたい』という思いを優先した結果、ヨガ講師一本で働こうと決めました。フリーランスという働き方は初めてだし、レッスンの相場もよくわからないまま(笑)。でも不安を感じたのはほんの一瞬、待っていても仕事はこないのでヨガスタジオのオーディションを受けまくりました。すぐ行動に移した甲斐があり1ヵ月で10本のレッスンが決まり、いただける仕事は断らずすべて受けていました。でも、頑張り過ぎるのが私の悪い癖。がむしゃらに走りすぎて心身ともに疲れてしまいレッスンの中身が疎かに。私が大事にしていたはずの「目の前の人を幸せにする」クラスができない状態。これでは本末転倒ですよね。そこでレッスンの数より質を高めることに意識を切り替え、生徒さんに満足してもらうクラス作りのために休息を含め十分な準備をするようなりました。心からやりたいと思うことを優先し、やり過ぎなくて良いということを、ヨガは教えてくれましたね」

高野真利
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――営業時代に身につけたスキルで、ヨガ講師に活かせていると感じることはありますか?

「営業での私の強みだった「相手のニーズを読む力」と「提案力」は、ヨガ講師にも役立っています。今はヨガスタジオとフィットネスジムでレッスンを担当していますが、生徒さんのニーズはそれぞれ違います。ヨガスタジオは、ヨガを集中して深めたい人が多く年齢層もある程度一定しています。一方、フィットネスジムは年齢、性別はもちろん、ヨガをする目的もさまざまなので、オーソドックスなヨガを伝えるだけでは満足してもらえないこともあります。だからこそ、一人ひとりの体力や目的を理解した上で、その方に合うアプローチをしています。レッスン中の声掛けにしても、体を動かすことに慣れていて積極的に動きたい人には背中を押すような言葉を、健康維持のために通っている年配の方には無理をしないようにといった具合です。営業時代は、リサーチや普段の何気ない会話から商談相手が求めていることを想像し、事前準備を徹底的に行うのが私の営業スタイルでした。今もちょっとした会話から生徒さん一人ひとりのヨガをする目的を探り、要望に応えられるクラスを提供できるように努力しています」

――現在はヨガスタジオとフィットネスジムでのレッスンに加え、イベント出演など幅広くご活躍されていますが、どのように仕事の幅を広げていったのでしょうか? 依頼先から信頼を得るために気を付けていたことはありますか

「社会人として当たり前のことですが、提出物の期限や約束の時間を守り、メールの返信をスピーディーにするなど相手にストレスを与えない仕事の仕方を心掛けています。それが当たり前にできるのは、常に相手の立場を考えて動く営業の経験があるからだと思います。仕事を安心して任せてもらうには相手と信頼関係を築くことが大切、それには最低限のルールを守れる社会性が必要です。多くの人がヨガを好きでヨガ講師を目指すと思いますが、社会性がないと趣味の延長になってしまいます。お金をいただく以上はプロ意識を持ち、クライアントに信頼される行動を心掛けたいですね」

高野真利
Photo by Shoko Matsuhashi
ヨガイベント
全体に注意を払いながら、一人ひとりに寄り添ったクラスを展開。

――時間のやりくりが大変な中、欠かさずに続けているヨガの学びはありますか?

マイソールクラスに通い、どうしても行けない時は自宅でアシュタンガヨガシークエンスを行っています。アシュタンガヨガの魅力は、決められたアーサナを決められた順番に行う中で、体はもちろん心の変化に気付きやすくなること。私にとってアーサナの実践は体だけでなく、心の状態、心の癖と向き合うための練習です。アーサナの実践を通して学ぶことは本当に多く、私の場合、最後のひと踏ん張りが苦手な心の癖に気付けたおかけであきらめない精神力を養うようになりました。また、「心の揺らぎを止める」というヨガをする本来の目的を見失わないために、折を見てヨガの哲学書「ヨーガ・スートラ」などを開き、ヨガが単なるエクササイズにならないよう哲学の教えを心に刻むようにしています」

高野真利
Photo by Shoko Matsuhashi

――ヨガ講師を目指して指導者養成コースに通う人たちに忘れてほしくないことはありますか? 先輩講師としてメッセージをお願いします。

「ヨガを伝えたい人が増えるのは、ヨガを愛する者として嬉しい限りです。でも、美しい外見やファッション性だけが注目されることには違和感を覚えてしまいます。そして、シークエンスを上手にリードできることが良い講師であると、私は思ってほしくありません。ヨガとは本来心を穏やかに保つための練習法です。そうした素晴らしい伝統の担い手としての自覚と、生徒さんの体と心に携わる責任を持って講師になってほしいと思います。そのためにもポーズだけでなくヨガ哲学をしっかり学び、生活の中で実践し、ヨガの教えを生徒さんに伝え継いでくださいね」

――今後、どのような人に向けてヨガを発信したいですか。思い描くヨガ講師としてのキャリアプランを聞かせてください。

「商社で働いていたとき、最優先するのは仕事、健康は二の次と考えている人が多いと感じていました。女性の場合は、美しくなりたいという思いからエクササイズを始める方も多いですが、男性の場合は、体調を崩して初めて体の変化に気付くといった事も多いように感じます。本当は適度に体を動かしたほうが健康にはもちろん、頭がクリアになり仕事の効率もアップするはずなのに。自分自身も会社員として働いた経験があるからこそ、今後は企業ヨガに力を入れて日本人の健康意識の改革ができたらと考えています。その足掛かりとして2019年、世界中のヨガが集まるNYで日本にはないヨガメソッドを学んだり、ニューヨーカーたちのヨガへの取り組み方に触れてくる予定。海外のヨガをうまくミックスして、男性も女性も楽しみながら健康になれるヨガメソッドを広めていきたいです」

高野真利
Photo by Shoko Matsuhashi

高野真利
ヨガインストラクター。現在、表参道のヨガスタジオ「@yoga life」「ゴールドジム」でレギュラーレッスンを担当するほか、IT業界やヘアメイク関連の会社で企業ヨガを開催。「オーガニックライフ東京」「ヨガフェスタ横浜」などヨガのビッグイベントの出演も増えている。また、米国最大級のヨガトレーニングプログラム実施団体であるヨガワークスのティーチャートレーニングのアンバサダーを務める。

撮影協力:ALOHA SALADS cafe 六本木1丁目店
溜池山王駅直結「泉ガーデンタワー」内に佇むサラダ専門店

※表示価格は記事執筆時点の価格です。現在の価格については各サイトでご確認ください。

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Photos by Shoko Matsuhashi
Text by Ai Kitabayashi
撮影協力:ALOHA SALADS cafe 六本木1丁目店



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