胸がドキドキする。でも心臓の検査では「異常なし」胃腸の調子が心臓に影響?医師が教える〈腸-心連関〉の最新知見
「最近、胸がドキドキする」「なんとなく息苦しい」「でも、心臓の検査では異常なし」そんな経験はありませんか?実は、こうした“心臓の不調っぽい症状”は胃腸の乱れから起きていることがあります。医師が解説します。
胃腸の調子が心臓に影響することがあるの?
一見、心臓と胃腸はまったく別の臓器。でも、両者は神経やホルモンを通じて密接にやり取りしています。
これを「腸-心連関(gut-heart axis)」と呼び、近年、医療界でも注目されるテーマになっています。
たとえば、胃もたれや腹部膨満感、便秘、下痢などの消化器症状が続くと、体は“自律神経のバランス”を崩します。
自律神経には、体を活動モードにする「交感神経」と、リラックスモードに導く「副交感神経」があります。
このうち交感神経が優位になると、心拍数が上がり、血圧も上昇しやすくなる。つまり、胃腸の不調が心臓に“過剰な緊張信号”を送ってしまうのです。
また、胃酸の逆流や胃の膨張が原因で、胸のあたりに圧迫感や違和感を感じることもあります。
これが“狭心症っぽい”痛みとして表れることもあり、患者さん自身も「心臓の病気では?」と不安になることがあります。
実際、消化器内科で逆流性食道炎が見つかり、治療したら動悸や胸の圧迫感も改善した――そんなケースも珍しくありません。
「胃腸と心臓」、一見無関係のようで、神経や血流を通じてつながっている。だからこそ、心臓のトラブルを感じたら、胃腸の調子にも目を向けてみる価値があるのです。
腸-心連関の最新知見
最近の研究で、腸内環境と心臓病のリスクには驚くほど深い関係があることがわかってきました。
腸には、体全体の免疫細胞の約7割が集まっていると言われます。
腸内環境が乱れると、炎症性の物質が血中に放出され、血管や心臓に悪影響を及ぼすのです。
とくに注目されているのが、「TMAO(トリメチルアミンN-オキシド)」という物質。
これは、腸内細菌が肉や卵などに含まれる栄養素を分解するときに作られるもので、血中濃度が高い人ほど動脈硬化や心不全のリスクが高いことが報告されています。
つまり、腸内細菌のバランス次第で、心臓の健康状態まで左右されてしまう、というわけです。
また、腸には「セロトニン」という神経伝達物質が多く存在します。
セロトニンは“幸せホルモン”として知られていますが、実は心拍のリズムや血管の拡張にも関わっています。
腸の動きが悪くなってセロトニンの分泌が乱れると、心臓のリズムも乱れやすくなり、不整脈や動悸の原因になることもあります。
このように、腸は単なる“消化器”ではなく、心臓を含めた全身の調整センターのような存在なのです。
最近では、「プロバイオティクス(善玉菌)を増やすことで、血圧や心機能が改善した」という報告もあり、腸活が“心臓の健康管理”の一部になりつつあります。
日常生活の中で、腸の働きを守ることが心臓の健康を守ることにもつながります。
たとえば、バランスのとれた食事(発酵食品、野菜、食物繊維)、十分な睡眠、適度な運動、そしてストレスを溜めないこと――どれも腸の動きを整え、自律神経を安定させる効果があります。
まとめ
「最近、胸のあたりが変だ」「動悸が気になるけど、検査は異常なし」・・・そんなときこそ、胃腸の状態を見直すサインかもしれません。
腸のコンディションが崩れると、自律神経のバランスが乱れ、血流や心拍のリズムにも影響します。
つまり、“腸を整えることは、心臓を整えること”でもあるのです。
ストレスの多い現代社会では、交感神経が常に優位になりがち。胃腸がキリキリしたり、食欲が落ちたりしているとき、心臓も同じように疲れているかもしれません。
そんなときは、無理に頑張らず、腸を休ませるような生活を意識してみましょう。
たとえば、以下のような小さな積み重ねが、腸にも心にも優しく働きかけます。
- 夜遅い食事を控える
- よく噛んで食べる
- 発酵食品をとる
- ぬるめの風呂でリラックスする
- 深呼吸して副交感神経をオンにする
「腸は第二の脳」とよく言われますが、今や「腸は第二の心臓」と言ってもいい時代。
体の中の臓器たちは、思っている以上に深くつながっています。
胃腸の不調を“軽いこと”と思わず、体全体のメッセージとして受け取る――それが、心臓を守る最初の一歩です。
今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。
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