「私たちはいつかは絶対に死ぬ」坂口涼太郎さんが語る、「死」を見つめて「今を踊る」ということ
俳優として存在感を放ち、さまざまな話題作に出演されている坂口涼太郎さんが、初めてのエッセイ集『今日も、ちゃ舞台の上でおどる』を出版されました。本書に込めた思いについて伺ったインタビュー後編です。
悶々とずっと考え続けているよりも、行動してみる
ーーお忙しい生活の中で健やかに過ごすためにセルフケアをされている印象です。心身のケアのために、瞑想の他にはどんなことをされていますか?
坂口さん:体を動かすこと、踊ることですね。悩んでいるときにじっと考えていても、答えなんて出ないんです。壁にぶち当たっているときには、いくら考えても仕方ないんですよね。そういうときに私は体を動かします。料理をしてもいいですね。ヨガもいいです。そうして体を動かしながら意識を無にすると、「なんであんなに悩んでいたんだろう。考えている時間がもったいなかったな」と思えるんです。銭湯に行って、水風呂に頭を浸けて、物理的に頭を冷やすこともあります。「頭を冷やす」と言いますが、頭を物理的に冷やすと落ち着くんです。どうすればいいのか、人間は本能的にわかっているんですよね。それでも、感情によって理性が働かなくなると、見失ってしまうことがある。そういう時の対処方法を知っていると、解決できると思います。
ーー自分に合ったセルフケア方法をたくさん持っておけば、対処できますよね。
坂口さん:私の場合は、悶々とずっと考え続けているよりも、行動してみるということですね。落ち込んでしまってずっと寝ていたいときもあります。そういうときに寝ていてもいいんですけど、「このままじゃいけない」と思うときはやってくるんです。「このまま寝ているとお魚みたいに腐敗してしまう」という感覚って自分でわかると思います。動くことを体が欲する。そのときが来たら、無理矢理にでも外に出てみるんです。そうすると、景色が視界に入ってきて、「お日様って綺麗だな。お花って綺麗だな」と思えるんです。
感情を前向きに動かして、前向きだと自分に思い込ませることも大事
ーー気分転換法として悲劇のヒロインになりきる「悲ロイン活動」略して「悲ロ活」を紹介されていますが、「悲ロ活」もセルフケアのひとつと言えそうですね。
坂口さん:そうですね。「悲ロ活」は感情の運動です。自分が体験したことを思い出してもいいし、誰かの気持ちを疑似体験してもいいんです。そうすることによって、ひどい思いをしてる人が自分以外にもいることに気付けて、自分だけつらいわけじゃないと思うこともあります。感情を発散することも大事だと思っています。
ーー自分の感情を味わい尽くしてから日常に戻るのと、自分の感情に蓋をして見て見ぬふりをしてマイナスの感情を抱え続けるのとでは、日々のストレスレベルが変わりそうですね。
坂口さん:このことは、俳優をやっていると実感します。仕事で感情を晒すことによって、すごく楽になるんです。人生ではいろいろなことがありますから、「どうしてこんな経験をしなきゃいけないんだ」と思うことはあります。でもその経験を資料にして発表することができる仕事なんですよね。そうすることによって昇華されていくんです。消化でもあり昇華されていくことでもあって。そうすると「あの経験も無駄じゃなくなったな。成仏できたな。」という気持ちになるんです。
ーー「悲ロ活」は前向きな感情の運動ですね。坂口さんは考え方そのものが前向きで素敵です。
坂口さん:前を向かないといけないですからね。私たちは前に向かって歩かなきゃいけないんですよ。だったら、感情を前向きに動かして、前向きだと自分に思い込ませることも大事だと思っています。
自分のことを一番かわいがって、一番大切にしてほしい
ーー自分の全てを肯定できなくても、ただ認めてあげたらいいんじゃないかとおっしゃっていて、やさしい考え方だと思いました。自己肯定しようと言われるとどうしても難しかった人にとって、自己認識したらいい。自分に好きじゃないところがあったっていい。と言ってくださることって肩の力が抜けると思います。
坂口さん:自分には優しくしてあげてほしいんですよ。もう無理はさせないであげてほしい。自分のことを一番かわいがって、一番大切にしてほしいんですよ。だから、自分が大好きな人にやってあげている行為を自分にもやってほしいです。もちろん、自分を肯定できればいいんだけど、みんな真面目だから考え過ぎてしまって、自分の欠点や苦手なことはどうしても引っかかりますよね。でも、欠点も含めて自分なんだからしょうがないです。もしも、大好きな人が自分の欠点に戸惑ったりつまずいたりしていたら、手を差し伸べたくなるじゃないですか。そうやって自分にも手を差し伸べてあげてほしいです。自分を抱き締めてあげてほしいんですよ。「大丈夫だよ。お前はそういうところもあるよな。俺は認めているから大丈夫だよ。」と思っていてほしいです。
ーー坂口さんは自分を満たすこと、自分に優しくすること、自分を大切にすることを普段からされているからこそ心からの優しさが湧き上がり、人に優しくできるのだと感じます。自分を大切にすることを難しいと感じる方が多い現代ですが、そんな方はどうしたらいいと思いますか?
坂口さん:自分のことを大切に触ってあげるといいと思う。赤ちゃんを触るときってすごく慎重に触るじゃないですか。自分のこともそうやって触ってあげると、自分のことが大切な存在に思えてくるんです。そうやって扱っていると、自分の心が痛んでいるときに気づくことができると思います。
ーー自分のことってついつい雑に扱ってしまいがちです。
坂口さん:雑に扱いがちですよね。体を平気でどこかにぶつけてしまうとかね。でも、「今日は大切に扱ってみるぞ」と意識すると、「自分の体ってこんな感じだったんだ」と気づいたり、「もう少し手触りを良くしたい」と思ったりするんですよね。今はコスパやタイパを重視されますけど、時間や費用をかけることが本当に無駄なことなのか、よく考えてみるといいと思います。もったいないとか言わずに、「この匂いが好きだからちょっと高いけどこのシャンプーを使おう」と思って使っていると、ご機嫌でいられるんですよ。コスト削減できるものであっても、匂いや質感や色が本当に好きだったらコストを気にせずに選んでみるんです。すると、大切に使うから意外と長持ちすることもあります。無駄だと決めつけないで見極めてみるといいと思います。
ヨガやダンスのクラスも同様です。ヨガやダンスって余暇だと言われちゃうじゃないですか。でも本当は生きていく上で大切なスキルを学ぶ場で、必要なことだと思うんです。だからこそ長く残っているし、昔からいろいろな人がやっているんですよね。そういうところにお金を払うことは無駄じゃないと思ってほしいです。

いろいろな意見が集まってみんなで考える社会になるといい
ーー川上未映子さんの著書『きみは赤ちゃん』を紹介されたり、ベビーカーを押す友人と街を歩いていた際のエピソードを書かれたりと、女性の生きにくさ、育児の大変さについて言及してくださっていますね。男性の立場から触れてくださることがありがたかったのですが、どうしてこのことを書いてくださったのですか?
坂口さん:心の底から思っていることを書いただけなんです。性別やジェンダーが違うから言えないという人もいると思います。でも、本当にそうなのかな。私は男性の体を持って生まれてきたけど、女性について語ってはいけないということではないと思うんですよね。もちろん、私が女性の気持ちがわかると思ってはいけないと思っています。性別やジェンダーに関わらず、人の気持ちはわからないし、体感もできないものですよね。だからこそ、自分と違う体を持っている人の言葉や気持ちを聞いたときに、「そんなこと思ってたんや」とか、「そんな経験してたんや」とか、「そんなに体に変化があるんだ」ということを私は教えてもらったり、気づかせてもらったんです。私は男性の体を持っているけれど、だからこそ言えることもあると思います。ただ、男性陣からすると言いづらい話題ではあると思います。言っちゃいけないと思う人もいますよね。それでも、対話することは大事だと思っています。わからないって言っていいんです。わかったような口をきくのが一番ダメですよね。自分で勉強したからこうだと思い込むことは危ない。まずは当事者に聞いてみないといけないですよね。分かったような口をきかないようにすることは意識しています。
言っちゃいけないことなんてないと思っています。「私はこのことに困ってるんです」とか、「社会に対してこうしてほしいんです」とか、「私はこれが嫌なんです」ということを言っていいんです。それを言うことによって、同意する人が現れたり、「それならばこうした方がいいんじゃないですか」なんて意見が現れたりしますよね。いろいろな意見が集まって、「じゃあどうする?みんなで考えよう!」という社会になるといいと思います。だから、私が『きみは赤ちゃん』をお勧めすることに関してだって、これが全く正解ではないし、これを読んでいろいろなことを思っていただいていいんです。考えるきっかけになれたらと思っています。
メイクやファッションを楽しんでいる姿を見て、楽しそうに踊っている人がいると思ってほしい
ーー『今日も、ちゃ舞台の上でおどる』は、読者のこれからが少しでも良くなるよう祈りを込めて作られた本だと感じました。実際に、現状がちょっとしんどい人が前を向けるような温かい本だと思います。坂口さんはこれからの活動を通してどんなことを届けていきたいですか?
坂口さん:こんな人間もいるんだということを、私はいろいろな人に開示したいんです。私の本当の気持ちを正直に伝えることで、「私も踊ってみてもいいかな」と誰かに思っていただけたら、こんなに嬉しいことはないです。私がメイクやファッションを楽しんでいる姿を見て、楽しそうに踊っている人がいると思ってほしい。そして、「私もこんな服を着てみてもいいか」とか、「こんなメイクしてみようか」と思ってもらえたらいいですよね。
私は自分のことを話すのが苦手で、これまでは自分という人間について伝えたいと思っていなかったんです。でも、私がそうだったように、本や誰かの言動から考え方を受け取ることで安心できる人がいると思うんですよね。だからそういう方に、「自分と同じ失敗をしている人がいるから私も大丈夫かな」なんて思ってもらえたら。この本を読んでいる間は、温泉に浸かっているような感覚になるといいですよね。
私はヨガではシャバーサナが一番好きなんですけど、シャバーサナみたいな本にしたいと思ったんです。シャバーサナって、屍のポーズですよね。「死」じゃないですか。私たちはいつかは絶対に死ぬということをちゃんと分かった上で生きていってほしいという思いがあります。だからこの本にも「死」がいっぱい出てくるんです。死ぬなんて言ってはいけないと教わりますけど、「私たちはいつか死ぬから、今しかないんだよ」ということを気づいてほしくてこの本に散りばめたんです。
私がシャバーサナが好きな理由は、臨死体験ができるからなんです。シャバーサナって、超気持ちいいじゃないですか。やっぱり死って気持ちいいものなんだって、知ることができるポーズだと思います。悩みや欲求を手放せる時間が一番心地良いんですよね。この気持ちいい場所にいつか行けるように、今日は楽しく生きようと思う。そうやって、今日もちゃ舞台の上で踊ってほしいと思っています。
プロフィール|坂口涼太郎さん
1990年8月15日生まれ。兵庫県出身。特技はダンス、ピアノ弾き語り、英語、短歌。連続テレビ小説「おちょやん」「らんまん」(NHK)、映画「ちはやふる」シリーズ、映画「アンダーニンジャ」、ドラマ「罠の戦争」(カンテレ・フジテレビ系)、海外ドラマ「サニー」(Apple TV+)、など話題作に多数出演。ほか、「あさイチ」(NHK)では唯一無二のキャラクターで暴れ回り、「ソノリオの音楽隊」(NHK Eテレ)では主演兼振付師として活躍するかたわら、シンガーソングライターとしても活動。独創的なファッションやメイクも話題を呼ぶ。
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