この社会で生き抜くために佐久間裕美子さんが携える「セルフケアの道具箱」とは
佐久間裕美子さんの新刊『今日もよく生きた ニューヨーク流、自分の愛で方』(光文社)では、佐久間さんが30年間のニューヨーク生活で築き上げたセルフケア・セルフラブの道具箱のおかげで自分らしく生きてきた姿を垣間見ることができます。読後は、自分自身に「今日もよく生きた」と言ってあげたくなる本書についてのインタビュー前編です。
ニューヨークに暮らして30年の佐久間裕美子さんの新刊『今日もよく生きた ニューヨーク流、自分の愛で方』(光文社)は、セルフケア・セルフラブをテーマにしたエッセイ集です。本書にて、佐久間さんはウェルビーイングを維持することの重要性を語り、深い洞察力に基づくご自身のお考えをシェアし、生きる姿勢を見せてくれています。本書を通して佐久間さんの考えに触れることは、「呑気に無傷で生きるなんてできない社会」を生きる私たちにとって、時には道標となり、時には希望となるものです。これまで語られてこなかった経験も本書にて惜しみなくシェアしてくださった佐久間さんの今の心境を伺います。
これからは弱さや失敗を認めて語っていく
ーー佐久間さんはこれまでにもさまざまな形で生きる姿勢を見せてくださっていましたが、本書ではそれに加えてご自身の弱さについても語ってくださいました。パワフルなイメージの佐久間さんが「がんばり続けなくてもいい」と発言されていることも印象的です。どうして今、ご自身の弱さについて語ってくださったのですか?
佐久間さん:私は多くの人に、いつもニコニコしているとか、いつも元気だとか思われるタイプだと思うんですが、もちろんそうじゃないときもあって。以前に『ピンヒールははかない』(幻冬舎)という本を書いたときには「めいっぱい生きよう」「人生を駆け抜けたい」といったマインドセットだったんですが、当時は「強くないといけない」と思っていたフシがあって。実際には、いつも強くいられるわけはないし、外に見える自分が元気に見えるのは、元気な時じゃないと出て行かないからなんですよね。いつも元気でいることが当たり前になってしまったらそれはそれで苦しいことだなと思うようになって。特に女性は女性ホルモンの乱れもあるし、アップダウンがあるのが当たり前で。
ひとつのきっかけは「vulnerability(バルネラビリティ)」という、コロナの初期あたりからよく聞くようになった言葉にありました。ブレネー・ブラウンという人が提唱しているんですが、自分の弱さを認められないリーダーより、弱さや失敗を認められるリーダーの方が信用されるという考えが腹落ちして。いつも「大丈夫大丈夫」「元気」って言っちゃってきたけど、そうじゃない日もあるし、しんどいんだよね、って言っていいんだと思ったんです。弱音を吐ける社会じゃないと生きづらいですよね。

ーー佐久間さんが弱さも見せてくれることで肩の力が抜ける人って多いと思います。かつては痛みや悲しみに蓋をして強気でがんばる手法を取ってきたと書かれていましたが、今現在もこの社会で努力する多くの女性たちが、自分の傷や痛みに気づいたときに、「強くあらねば」と自分の痛みに蓋をしているのではと思います。そんな女性たちにどんな言葉をかけたいですか?
佐久間さん:どれだけ痛みに蓋をしたところでなかったことにはならないということを、自分自身、痛い思いをしながら気付きました。かつては、蓋をしておけば押し通せる、向き合う時間やエネルギーもないと思っていました。でも、それはいつかどこかで綻びが出るかもしれない。 弱いときがあったり、傷ついたり、苦しいと感じることは恥ずかしいことじゃないし、生きていたら当たり前のこと。ホルモンに振り回されてメンタルが上がったり、下がったりすることだって当たり前。だから、そういうときは自分のことを「よしよし」ってしてあげてほしいです。
頭を休ませるセルフケアの時間が必要
ーー自分を労わることは誰にとっても必要ですよね。ストレス度が上がったとき、佐久間さんはセルフケアの道具箱を探るそうですが、誰もが複数のセルフケアを持てると良いと思います。佐久間さんのセルフケアの道具箱にはどんなものがあり、どんなことをするのか、紹介していただけますか?
佐久間さん:その時々でいろいろやります。セルフマッサージとか、ヨガやストレッチ、長めにお風呂に入るとかね。 呼吸法や瞑想、散歩もします。最近、特にはまっているのは編み物です。編み物は頭の中が無になるところがいいんです。現代人は絶え間なく考えているじゃないですか。 仕事のこと、家族のこと、昔あった嫌だったこと、「今夜は何を食べようか」とかまで。頭が常に動いている状態なんですよね。それが、編み物をすることで、頭の動きを止めることができるんです。
ーー裁縫が苦手だと編み物って難しそうなイメージを持ってしまうのですが、頭の中を無にできるとは魅力的ですね。
佐久間さん:私も裁縫は苦手だし、難しそうだと思っていました。『編むことは力』という本の翻訳の話がきたときも、「編み物のことは何も知らないんです」って申し上げたくらいでしたが、その後に縁があって、編み物を教えてくれる人に出会ったんです。 SAKUMAGというニュースレターを通じて読者の人たちとコレクティブ活動をやっていて、みんなそれぞれにやりたいことや得意不得意があるから、教え合ったりしているのですが、そこに編み物を教えている人が参加してくれて。 編み物って、糸をどんどん編んでいくと布になっていくわけですよね。そうやって形を変えていく感じが気持ちいいし、利き手じゃない手を使うことで、頭の刺激にもなるし、今では自分のセルフケアの道具のうちの大事なひとつになりました。
ーー先ほどのお話にも出ましたが、本書でもヨガについて言及されていますね。最近もヨガは練習されていますか?また、どんなときにヨガをしますか?
佐久間さん:昨年がんになって胸の全摘手術をし、何ヶ月か腕が上がらなかったので少しさぼり気味だったのですが、そろそろ再開したいと思っています。朝一番に瞑想からスタートして、ヨガをして瞑想で終わる、寝る前にはリストレティブのヨガをするのが理想のルーティーンです。
ーー空いた時間を見つけてはなにかしらのセルフケアをされているのでしょうか?
佐久間さん:そうですね。セルフケアしないと、自分で分かるくらいにストレスが溜まっていくんですよ。ピリピリしてきちゃったり、集中して原稿を書けなくなったり、気になっていることをどんどん考えちゃったりします。だから、編み物や瞑想やヨガで、頭を休ませる時間が必要なんだと思います。
ーーこの社会でこれからも健やかに働いていくためにもセルフケアは必要ですね。
佐久間さん:本当に。私は過去に何度か痛い思いをしたから、そうならないようにセルフケアは必須。燃え尽き症候群とか、急に鬱っぽくなるとかね。この先もそうならないとは言えないからこそ、セルフケアをしてできるだけそうなる前の段階で止めたいですよね。
*後編に続きます
プロフィール|佐久間裕美子さん

1996年に渡米し、1998年からニューヨーク在住。出版社、通信社などを経て2003年に独立。著書に『今日もよく生きた』(光文社)、『Weの市民革命』(朝日出版社)、翻訳書に『編むことは力──ひび割れた世界のなかで、私たちの生をつなぎあわせる』(岩波書店)がある。Sakumag Collective主宰。
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