働けなくなるという恐怖…性暴力被害で複雑性PTSDになった当事者が語る経済・住居・就労の壁|石川優実さん
性暴力被害によって複雑性PTSDやうつ病を抱えた場合、治療だけでなく、経済面や住居、就労といった生活全般に深刻な困難が生じます。『私が私を取り戻すまで──性暴力被害のその後を生きる』(新日本出版社)の著者・石川優実さんに、被害後の暮らしについて引き続きお話を伺いました。生活保護の利用、安心して住める家の重要性、そして「働きたくても働けない」現実。被害者が自分の力で生きていくために必要な支援とはどんなことでしょうか。※本記事は性暴力に関する内容を含みます。
働けなくなるという恐怖
——被害後の生活で、特に大変だったことは何でしょうか。
働けなくなってしまったので、一番は経済面です。特にフリーランスだったので、有給休暇も傷病手当もありません。休んだらお金がなくなるのは当然のことでした。でも、休まないと体調は良くならない。
最初は収入がなくなるのが怖くて、なかなか休みきれなかったんです。中途半端な休み方をしたせいで、かえって回復まで長引いた感覚はあります。
当時、リモートワークで働いていたのですが、業務内容がフラッシュバックのトリガーになってしまう部分があって。パソコンを開けなくなり、結局働けなくなりました。その後の仕事は、体調の関係で在宅で探したものの、特別なスキルを持っていない限り、ほとんど求人がないんです。
お金を稼ぐことができなくなり、貯金を切り崩していく状態になって、不安が膨らんでいきました。
——その後、生活保護を利用されたと伺いました。
貯金を6万円まで減らさなければ申請できないと言われ、そこまで減らすことが怖くて、最初は生活保護の申請をためらっていました。
その後、全然働けなくなり貯金が底をついてしまったので、申請することにしたんです。私の場合は、いわゆる「水際作戦」のように、なかなか申請をさせてもらえないということもなく、ケースワーカーさんも親切でした。
すでに被害届を出していて、精神科での診断も出ていたので、生活保護を利用せざるを得ない理由が、ケースワーカーさんとしても判断しやすかったのも、スムーズだった理由の一つかもしれません。
扶養照会(福祉事務所が申請者の親族に援助が可能か確認すること)についても、私は親のことは好きではないですが、連絡されることまでは嫌ではなかったので、「連絡しても大丈夫ですか」と聞かれて、「大丈夫です」と回答しました。
親からすでに「お金は渡せない」と言われていたので、「連絡が来るとは思うけれど、払えないと言っておいて」というやり取りはしました。
——実際に受給が始まって、精神的な負担は変わりましたか。
毎月お金が振り込まれるので安心しました。「これなら休んで治療に向き合える」と思えたんです。物価高もあるので、かなり切り詰める必要はありますが、体調が悪くて働けない中、病院代や水道料金を無理して払っていた頃に比べたら、不安感は軽減されました。
現在も働けるようになったわけではないのですが、犯罪被害者給付金が入ったので、生活保護は停止という形になっています。管理されている感覚から一旦抜けられて、自由にお金を使えるのは嬉しい。でも同時に、働けてはいないので、またお金がなくなっていく恐怖感が襲ってくることはあります。
安心して住める家の大切さ
——住居面についてはいかがでしょうか。
前の家は家賃が約7万円で、オートロックがついていて、シャッターがあって、駅から遠くない1階でした。防犯シャッターがあるので1階でも安心して暮らせていたのですが、私が住んでいた地域だと、生活保護の住宅扶助は約5万3000円。
引っ越しは必須ではないと言われましたが、差額分の家賃が出るわけではないので、生活保護の中の生活扶助の部分でやりくりが必要になる。つまり日常生活に使えるお金が減ってしまうので、「厳しいと思います」とケースワーカーさんからは説明を受けました。
東京で5万3000円で住める家だと、オートロックはまず期待できません。でも性暴力の加害者もいますし、ネット上で誹謗中傷する人もいたので、回復には安心して住める家が必要だったんです。
本当にどうしようか悩んでいたのですが、当時、正直に困っていることを周りの人に打ち明けていました。そうしたら、分譲マンションを持っている知人から「ちょうど空いた部屋があるので住みますか」と言ってもらえて、家賃も相場に比べてかなり低く設定してくれたんです。本当に運が良くて、特殊なケースでした。
——「困っている」と正直に話すことで、人の縁に助けられることもあるのかもしれませんね。
本来は、安心して住める家は誰にでも必要なはずなんです。今の家に住んでいるからこそ、順調に回復していっている面はあると思います。治療中は家にいる時間が長いので、安心していられる環境でないと、元気になっていかなかった。
収入が低かったり社会的に弱い立場に置かれると、シェアハウスを勧められることが多いですよね。人と一緒にいることで癒される人もいると思いますが、回復のために一人でいることが必要な人もいる。
私は一人の時間が必要な人間です。病気の症状として緊張状態が大きいということもあって、人といると全然休まらなくて。だから人といるか、一人でいるか選べることが大切だと思うんです。「贅沢だ」と切り捨てずに、治療のために大切なことだと知ってもらいたいです。
被害後に働くことの難しさ
——被害後に働くことが難しくなるというのは、具体的にはどういった状況なのでしょうか。
複雑性PTSDやうつ病の症状として、朝、急に体が動かなくなってしまったり、決まった時間に眠ったり起きたりすることが難しいという状態です。
いくつかバイトに応募したこともあったのですが、面接の日に体が動かなくなってしまうことが何度もありました。「予定を決めること」自体がプレッシャーになってしまうみたいです。先方からしたらドタキャンなので、近隣の働きたいと思っていた候補がどんどん減ってしまうんです。
電車での通勤や、決まった時間に動くことも難しいのですが、自宅で自分のペースで文章を書くことはできるんです。なので、できれば家でできる仕事をやりたいのですが、求人を見ていてもなかなかありません。
障害者雇用も視野に入れたかったので、障害者手帳を取って、ハローワークにも行きました。でも、後遺障害のある人については、あまり相談できない印象を受けました。
障害者対象の就労訓練は、おそらく知的障害のある方を対象としたものが多くて、自分には当てはまらない。一般の就労訓練だと、育児や介護をしている人しかリモートは対象にならないと言われてしまって、受けられませんでした。
「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律(女性支援新法)」では性的な被害を受けた女性も対象になっていますが、その人たちを対象とした就労支援が全然ない。働くことが想定されていないように感じます。
——フリーランスだとなおさら支援が手薄な印象があります。フリーランスはキラキラしたイメージを持たれがちですが、体調的に会社勤めが無理なのでフリーランスをやっている人は意外といらっしゃいますよね。
そうですね。毎日決まった時間に決まった場所に通勤することが難しいから、仕方なくフリーランスという働き方しかないのに、「フリーランス=自己責任」と言われ、保障が少ない。本当に理不尽だと思います。
私は症状がそこまでひどくないと判断されてしまって、障害年金を受けられていないんです。でも、会社勤めをしていて厚生年金に加入していたら、もしかしたら3級を取れたかもしれない。
小さい頃や10代の頃に被害にあってずっと体調が悪ければ、生活保障を持つためのみんなと同じスタートラインに立てない。体調不良で「普通」の働き方ができない人のことが想定されていない社会設計になっていると思います。
働くことは心の回復でもある
——働くことは、心の回復にとっても大切なものなのでしょうか。
働いて得られることはお金だけではないですよね。社会貢献できることで自分の心が満たされるのは、元気な人も病気な人も同じだと思います。社会とのつながりによって、「自分でもできることがあるんだ」と心から思えることは、大切なことです。
自分で働いてお金を得て生活していくことも、自分で自分の人生をコントロールしているという感覚になるため、すごく大事なことだと思うんです。
私の場合は労働の場での被害がほとんどでした。だからこそちゃんと働きたいという気持ちが強いのかもしれません。でも、被害自体も、その後も症状もつらくて、普通に働くことができないことも苦しいです。
被害を受けた人に、現実的な就労支援をしてほしいというのが、一番の願いかもしれません。もちろん回復のためには、一時的なお金も必要です。その先も被害者の生活は続いていきますし、被害前に戻れるわけではないんです。その前提で、自分の力で生きていけるような支援がもっと必要だと思います。
——今、関心を持っていることはありますか。
コーヒーの焙煎への関心が高まっています。コーヒーの生産の場はジェンダー不平等が強いと知って、女性たちが作った豆を使って、焙煎も女性がおこない、カフェに出すことができたらいいなと思ったんです。
障害者向けの作業所でコーヒーの焙煎所があることを知り、一般企業で働くことが難しい人の取り組みとして、焙煎は悪くないと思いました。
ただ作業所ですと、男性と一緒の場しかなくて、今あるところに私が行くのは高いハードルを感じています。性暴力被害を受けての障害であることが想定されていないからです。なので、女性専用の場所を自分が作りたいという気持ちを今は持っています。
※後編では、被害経験を発信してきて感じたことや、回復してきて感じた変化などについて伺っています。
【プロフィール】
石川優実(いしかわ・ゆみ)
1987年生まれ、岐阜県出身。俳優、性暴力サバイバー。2005年に芸能界入り。
2017年末、「#MeToo」ムーブメントを受け、芸能界で経験した性暴力について声をあげる。それ以降ジェンダー平等を目指し活動。
2019年、職場で女性のみにヒールやパンプスを義務付けることは性差別であるとし、「#KuToo(クートゥー)」運動を展開。同年10月、英BBCが選ぶ世界の人々に影響を与えた「100 Women」に選出。2022年2月には、ブログで映画界での性暴力を告発した。
著書に、『#KuToo 靴から考える本気のフェミニズム』(2019年、現代書館)、『もう空気なんて読まない』(2021年、河出書房新社)などがある。
- SHARE:
- X(旧twitter)
- LINE
- noteで書く





