フェミニズムに出会って変わった「働き方、生き方」 #KuToo発起人・石川優実さんに聞く

 石川優実さん
石川優実さんよりご提供

#KuToo運動の発起人で、『もう空気なんて読まない』(河出書房新社)の著者である石川優実さんに、フェミニズムに出会ってからの生き方や物事の考え方の変化をお話しいただきました。フェミニズムに出会って専業主婦になることのイメージが変わった話や、#KuToo運動を行ったことによって、私たちの生活と政治の近さを実感した話は必見です。

広告

フェミニズムを知って、働くことが楽しくなった

——フェミニズムに出会ってから生き方にどのような変化がありましたか。

仕事に対しての考え方が大きく変わりました。地元では「女性は結婚して仕事を辞めるもの」という風潮が強く、「男性は仕事、女性は家事育児・もしくはパートと家事育児」といった分業が当たり前で、私の母も専業主婦でした。そういう空気の影響も受けて、女性が熱心に仕事に取り組む姿があまりイメージできていなかったですし、自分には稼ぐ能力がないと思い込んでいました。

働くことにも前向きな感情を持てていなくて、「面倒くさい」「なんとなく嫌」という気持ちも大きかったんです。でも、フェミニズムに出会い、労働問題のことも勉強するようになって、私が嫌だと思っていたのは働くことそのものではなくて、「男社会」での働き方だったんだと気づかされました。

たとえば、「24時間働けますか」まではいかなくとも、残業は当然として、私生活を犠牲にしてまで会社に尽くすことをよしとする風潮とか、パワハラとかセクハラとか、お茶汲みとか細かいところの掃除とかをなんとなく女性がすべきという空気とか。そういうものが嫌なだけであって、むしろ働きたかったんです。今はそういうものとは遠い働き方をしているので、仕事をして社会と繋がっていたいとか、社会の役に立ちたいとか思いますし、やりがいも大きいですし、自分で生活費を稼げることの喜びも感じます。

前編でフェミニズムに出会う前の結婚観の話をしたように「頑張ってもどうせ結婚して仕事をやめることになる」「それが女性としての幸せ」だと思い込んでいたんですけど、今は自分で稼いで自分のお金が欲しいですし、自由に使えるお金がないと怖いと思うようになりました。

フェミニズム
AdobeStock

——専業主婦になることのイメージが「幸せ」から「怖い」に変わったのですね。

昔は夫に養ってもらうことの「男性に守られている感」が女性にとって幸せなんだろうって思ってました。上の世代では「結婚したら子どもを産んで、専業主婦かパート勤めになるのが当然」という価値観が一般的だったと思いますし、仕事を続けたくても「女なのに我が強い」などと嫌味を言われたり、マタハラが酷かったりと選択するのが難しい人もいたと思います。

でも、お金がなければ選択肢が減ってしまって、専業主婦やパートで夫に養われる状態だと、何かあっても離れられない、経済的自由を失っている状態だと思うんです。「夫に捨てられたら生活できない」って思って、嫌なことを言われても我慢したり、対等に物を言えなくなったりするのが、私はすごく嫌だなって思うようになりました。

政治は私たちの生活と密接なもの

——#KuTooを通じたご自身の変化についてもお伺いしたいです。

よく誤解されているのですが、#KuTooはヒールの靴をなくしたいと言っているのではなくて、「強制することをなくしたい、履く靴を選べるように」という趣旨の運動です。私自身は仕事でルールになっていることから問題提起しているので、プライベートで履くことは想像していたのですが、#KuTooを始めて以降、多分一回もヒールの靴を履いていないと思います。ヒールですと足が痛くなってしまいますし、元々体力もないほうなので、ヒールで歩くと疲れてしまって。昔はヒールを履いていたようなプライベートでのフォーマルな場でも、最近はフラットシューズで行くようにしています。

私にとってはヒールの靴は「女性だから履かなきゃいけないもの」という感覚が強かったのだと思います。ヒールの靴はフォルムが素敵だと思うので、眺めるのは好きですけど、自分が履きたいものではなかったのだと気づきました。

どういう靴を履くかは自分で選べばいいと思うのですが「なぜヒールを選んでいるか」は考えてもいいと思います。多くの男性がヒールを選んでいなくて、社会で「男性の装い」としてイメージされているものにヒールの靴ってほぼないですよね。それは男性と女性とで、扱われ方に差があったことを意味していると思います。

靴
AdobeStock

——#KuTooという社会運動を通じて気持ちの変化はありましたか。

政治がこんなに私たちの生活と近いと思っていませんでした。#KuTooを始めるまでは全然政治の知識がなくて、与党と野党が何なのかも知らないくらいだったんです。#MeTooからフェミニズムのことを学んで、性暴力がきちんと裁かれるかは刑法が関係しているなどを知り、#KuTooを始めてからは議員さんとお話しする機会が増えて、色々な議員さんが協力してくださって、議員さんの存在の近さを感じました。

最初は「すごく偉い人と会う」という感覚だったんですけど、運動をしていくうちに、議員さんは社会を変えていくために、一緒に頑張っていく人たちだという意識に変化していきました。政治家は私たちができないことを代表してやってくれるお仕事ですが、丸投げにするのは違って、自分も政治にきちんと参加していかないといけないと思うようになりましたね。だから最近でも、地方選挙で選挙運動に参加もしています。

「怒り」も大切な感情だ

——貴著では「怒ること」を大切にされていることも書かれています。そもそも怒りを言語化するのって難しいと思うのですが、石川さんはどのように自分の心を整理しましたか。

まず、映画に出始めた頃に自分の人生に向き合いたいと思って、『ゆたかな人生が始まる シンプルリスト』(講談社)を参考に「これからしたいことリスト」「もう二度としたくないことリスト」「今後どういう人生を送りたいかリスト」「自分が幸せを感じる瞬間のリスト」などを作っていました。

また、頻繁に自分の気持ちをノートにひたすら書いて整理していました。最近ですと「ジャーナリング」と呼ばれていますね。

——文面ですと、落ち着いて言葉を考えられるので怒れるのですが、対面で失礼なことを言われたときに瞬時に怒ることが難しく感じます。石川さんは対面で意見を伝えるためにどのようなことをされていますか。

今でも瞬時に怒れないことは結構あります。散々「空気読めよ」って怒らない訓練をさせられてきてるので、簡単に怒りを伝えられないですよね。

なので後から文面で伝えるようにしています。たとえば友人など近い関係の人には「言われた瞬間はショックですぐに言えなかったのですが」って付け加えて、何にどう傷ついたのかを伝えますし、店員さんに失礼なことをされたら、あとでお問い合わせ窓口にメールすることもあります。

でも本当は対面で伝えたいと思っているので、日々シミュレーションはしています。もちろん頭の中でイメージするのと、実際にできるかは別だとは思いますが。最近はお休みしていたんですけど、「フェミやろ!!!!」ってイベントをフェミニスト仲間と4人で開催していて、今後「怒る練習会」をする計画をしています。

怒り
AdobeStock

——貴著の全体の感想なのですが、書かれている内容は性暴力や性差別、誹謗中傷など、つらい出来事もあるのですが、石川さんが冷静にツッコまれているので、ところどころ笑いながら読みました。

世の中にツッコミたいことはたくさんありますね(笑)色々とつらいことはありましたし、精神的に悪影響のあることも多かったですが、「性暴力被害者=ずっと暗い」というイメージを持たれているのは疑問です。

性暴力被害に遭って、PTSDなどで心身の調子を崩されている人がいることも事実ですが、性暴力被害者だからといって、24時間365日苦しい瞬間ばかりではないのは当然だと思います。笑うこともありますし、幸せな瞬間だってある。

被害に遭った後もこの社会で生きていかないといけないわけで、「被害者らしく暗い顔をしてろ」という抑圧もおかしいと思うんです。自分の過去の経験を暗く語らないといけないわけではないと思っていたので、笑える部分もあったという感想をいただけたのは嬉しいです。

——石川さんはヨガをされているのですよね。ヨガからはどのような影響を受けましたか。

10年くらい前に役者の仕事を始めて、自分の心とどうしても向き合わなきゃいけなくなって。そこで、今まで自分から生まれる感情を見てこなかったことに気づいたんです。自分と向き合うためにどうするかと考えたときに、ヨガと親和性が高いのではと思ったのが始まりでした。

ヨガで自分の内面を見ることに慣れて、自分がどんなことを不快に感じたか、逆にどんなときに幸せだと思うかを把握していきました。

忙しくてできていない時期もありましたけど、ゆるく継続して続けています。コロナ禍になってからは、YouTubeでヨガをすることが多くなりました。「今日はちょっと面倒だな」と思っても、5分や10分でもやると「やってよかった」って思えるんですよね。ヨガを通じて自分の様子を伺うことは習慣になっていますし、ヨガをすると心が落ち着くので、やってて良かったと思います。

※前編ではフェミニズムに出会う前後での恋愛観について伺っています。

『もう空気なんて読まない』(河出書房新社)
『もう空気なんて読まない』(河出書房新社)

【プロフィール】

石川優実(いしかわ・ゆみ)

1987年生まれ。俳優・アクティビスト。2014年にはふみふみこ原作、吉田浩太監督「女の穴」で初主演。 2017年末に芸能界で経験した性暴力を#MeTooし、話題に。2019年、職場で女性のみにヒールやパンプスを義務付けることは性差別であるとし、「#KuToo」運動を展開。 2019年10月には英BBC「100 Women」に選出。著書『もう空気なんて読まない』(河出書房新社)、『#KuToo ーー靴から考える本気のフェミニズム』(現代書館)

広告

AUTHOR

雪代すみれ

雪代すみれ

フリーライター。企画・取材・執筆をしています。関心のあるジャンルは、ジェンダー/フェミニズム/女性のキャリアなど。趣味はヘルシオホットクックでの自炊。



RELATED関連記事

Galleryこの記事の画像/動画一覧

フェミニズム
靴
怒り
『もう空気なんて読まない』(河出書房新社)