「フェミニズムを知って恋愛がうまくいくようになった」石川優実が考えるフェミニズムと恋愛観
世間では「フェミニスト=男嫌いの人、モテないおばさんの妬み」というイメージを持たれることは少なくないが、本当にフェミニストは男嫌いで恋愛をしないのだろうか。 女性が職場でヒールのある靴を強制されることに抗議する「#KuToo運動」発起人の石川優実さんは、著書『もう空気なんて読まない』(河出書房新社)にて、フェミニズムに出会ってからの恋愛や、フェミニストになってから恋愛が上手くいくようになったことを綴っている。前編では、フェミニズムに出会うまでの恋愛に関する悩みや、フェミニズムに出会ってからの恋愛観について、石川さんに話を伺った。
男性に選ばれて結婚しないとダメだと思っていた
——フェミニズム*に出会う前の恋愛観ではどのようなことに悩んでいましたか。
「結婚しないと一人前になれない」という感覚があって、結婚してなくて子どもがいない自分は不完全な人間という呪いが根強かったです。結婚するためには、誰かと付き合うことも達成しなくてはならなくて、そのために「選ばれる」必要があると思い込んでいました。
自分がどうしたいかという気持ちよりも、男性から付き合いたいと思ってもらえる「選ばれる」人間にならなければいけないと思っていたので、いつもモヤモヤしていて苦しかったですね。
*フェミニズム:性差別に反対する思想や運動のこと
——「結婚しなければいけない」という感覚はいつから持っていましたか。
気づいたときには当たり前のようにありました。私は岐阜県出身で、生まれた街は名古屋のベットタウンのような場所であったのですが、一般的にイメージされる田舎の価値観はあって。地元の友人は、20歳頃には結婚し子どもを産んで、車を買って一軒家を建てて……という同じ道を辿っていくんですよね。
私は20歳の時点で、東京で仕事をしていたのですが、地元に帰ると「いつ戻ってくるの?」と必ず聞かれました。女性が仕事を持つことを軽く見られている空気を感じていましたね。男性だったら家業を継ぐなどでなければ、東京へ働きに出た人に対して「いつ戻ってくるの?」とは聞かれないと思うんです。
そういった空気の影響を受けて「独身だと惨めに思われるから結婚しないといけない」と思い込んでいました。
——「子どもを産まなくてはいけない」と思っていたのも、そういった空気の影響は大きいのでしょうか。
そうですね。地元に帰ると、私が子どもを欲しいと思っている前提で話をされるんです。それに結婚して子どもを産んで家を建てて……という人が立派だと肯定されるのを見るので、「子どもは欲しいと思うものだよね」と自分に言い聞かせていた部分があります。
——石川さんはご自身について<常に誰かしらに恋をしている>と書かれていますが、一方でパートナーと別れるか迷うなかで「寂しい」と思うことについて、<「私が寂しいから」なのか、「人に寂しいと思われそうだから」なのか、どちらなのだろう。>と書かれていた部分が印象的でした。
交際の有無は別として、いつも好きな人がいるような状態で、誰でもいいわけではないものの、気が合う彼氏が欲しいとは常に思っていました。パートナーがいないときは「選ばれていないからダメな自分」という感覚がずっとあって、だからパートナーが欲しいみたいな感覚もあったんですよね。
でも今振り返ると、一人でいる自分のことをあまり認めてあげられてなかったのかなと。世間の「恋愛しろ」という圧力は強くて、恋人がいないと勝手に「寂しい人」扱いをされるじゃないですか。そういうレッテルを貼られるのが嫌だったのも「パートナーが欲しい」と思う理由になっていたと思います。
大事なのは周りからの評価ではなく、私がどう感じているか
——フェミニズムに出会ってからそれらの呪いはどのように解けていきましたか。
最初フェミニズムと恋愛は私の中であまり繋がらなかったんです。もともと私は2017年に芸能界での性暴力について#MeTooをしたことからフェミニズムを知ったので、最初は性暴力のことからフェミニズムの知識を得ました。勉強を続けていくなかで、家父長制(※)的な物の考え方の問題や、性暴力の根底にある性差別の問題を知るようになって、恋愛をする中で自分が苦しめられたこととフェミニズムは繋がっていることに気づいたんです。
自分が「嫌だ」とか「つらい」とか思いながらも押し付けられてきたことは、正しいことでも受け入れなきゃいけないことでもないと気づいて、徐々に呪いが解けていく感覚がありました。
※家父長制:家長である父親に権力が集中し、家族を支配・統率する家族形態のこと
——フェミニズムに出会ってからの恋愛観にはどのような変化がありましたか。
無理して付き合う必要も、結婚する必要もないと理解して、苦しくなくなりました。パートナーがいなくても、結婚していなくても、私の人生であって、私自身が満足しているかが一番大切なことだとわかったことが大きいですね。
パートナーとの関係でも、自分も「相手を選ぶ」視点を持つようになったことで、自分の言いたいことを伝えるようになって、結果的に相手と話し合いができるようになったので、関係も良好になりました。
また、以前はパートナーが言ったことに対して腹が立っていても、何にモヤモヤしているのかがよくわからなかったんです。でもフェミニズムに出会ってからは「このモヤモヤの根底には女性差別がある」と気づけて、パートナーに何に対してモヤモヤして、なぜ怒っているのか説明できる言葉を得ました。もちろんすぐ問題解決できることばかりではないのですが、構造がわかるだけでも多少は楽になりましたね。
でも単純に「全部スッキリした!」とは言えないんです。30年近く培ってきた価値観は簡単に抜けていくものではなくて、今でも呪いが解け切れてるとは言えないんですね。今でも恋人がいることや、結婚をすることが「良いこと」という風潮は感じるので、心から「パートナーはいなくてもいいんです」って言えているかと問われると、100%ではないです。でもそう思ってしまうのも「結婚すべき」という世間の呪いのせいだとわかっているので、昔よりは全然楽になりました。
あなたにとって「モテる」とは?
——貴著ではフェミニズムの活動を始めてから「モテない女の僻み」などとよく言われると書かれています。でも「モテたい」なんて言ってないですよね。
そうなんです。私が「モテたい」と言ってなくても「女は男に好かれたいはず」「女は男に好かれたいと思うべき」って考えてるからそう言ってくるんですよね。そうやって抑圧すると昔の私みたいに「男性に好かれなきゃ」って自己主張をせずに男性の顔色をうかがってくれる女性が増えて、都合が良いんだと思います。
あと「モテること」の定義を考えたいと思っていて。今の私にとっての「モテ」の定義は、自分が仲良くしたいと思っている人から、同じように思ってもらえてることなんです。そういう意味ではフェミニストになってからの方が「モテ」ていますし、20代の頃に比べて恋愛がうまくいくようになりました。
でも世間は「モテる」ことって不特定多数の人から好意を持たれることと定義していて、モテる女性=若い、容姿が美しい、気が利く、男性を立てる、家事が得意などがよく挙げられていると思います。私も20代の頃はそういう要素でモテることを、心のどこかで抵抗感がありつつも「男性に興味を持たれることは良いことだ」と思い込んでいたので、拒否はしていませんでした。でもその「モテ」って文句を言わなさそうとか、自分の世話をしてくれそうとか、単純にナメられてたり軽く扱われてたりしただけだったのかなって。
——確かに「不特定多数からの好意=モテ=良いこと」だと思い込んでるので、ナンパやセクハラも「モテている証だから良いじゃん」って言ってくる人はいますよね。
そうですね。そういう点で言うと、20代前半の頃は、仕事とプライベートを曖昧にして近寄ってくる人が本当に多くて嫌でした。私はグラビアをしていたときもフリーランスの時期が長くて、仕事の受注も自分で行ってたんですけど、22歳の頃、SNSのDMで「仕事の依頼がしたいので、とりあえずご飯に行きませんか?」と誘われて。食事をしながら仕事の話をするんだろうと思って行ったら、食事中には全然仕事の話がなくて、その後も映画に付き合わされて、手を握ってきたんですよ。そのとき手は払えたんですけど「この後で仕事のやり取りをするかもしれない」と思って、きつくは言えなくて。でも結局最後まで仕事の話をすることはなかったです。
こういうのも「好意を持たれていた」「デートに誘われたということはモテてた」って言う人もいるんですけど、それなら最初から仕事だと言わず、デートとして誘えばいいですよね。仕事を振る側という権力がありながら、仕事と偽って誘ってくるのは、魅力を感じているからではなくて「仕事を依頼してもらえるから」という相手の断われない心理を利用して近づいてるだけだと思います。
——「発注者とフリーランス」のように、地位関係性を利用したセクハラ(性暴力)の話は、酷いですが珍しくないですよね。
本当に嫌でした。でも同じような状況でちゃんと仕事の話として誘われることもあるので、事前に判別するのも難しくて。
こういう話をすると「二人で食事をしたんでしょ?」「ご飯を奢ってもらったんでしょ?」って被害者非難をする人もいるんですけど、二人で食事をすることは性的同意ではないですし、恋愛関係じゃなくても二人で食事をすることはありますよね。奢ることだって、打ち合わせで発注者が奢ることは、相手の性別に関係なく珍しくないことですし、「ご飯を奢ってもらう代わりにデートする」って約束で会ってるわけじゃないですから、おかしな話です。
そもそも仕事の話をするつもりがなかったんだろうし、「仕事と偽って誘ってくる方が悪い」って今はわかるんですけど、当時は「食事中に『この人に仕事を振れない』と判断されたのかな」って真面目に自分が悪いと思ってしまってたんです。本当は自分は悪くないのに自分を責めていたことは、今考えてもすごく悔しいですね。
——「私はフェミニストです」と明示するようになってからは、そのような状況に変化はありましたか。
そうですね。嫌な思いをすることは滅多になくなったので本当に良かったです。今の私だったらハラスメントや性差別をされたときに、誰かに相談したり告発したりすると思われているでしょうし、実際にそうすると思うので、標的にされにくくなったとは思います。
——貴著内の<フェミニストになって男が好きになった話>について、石川さんが<私はフェミニズムに出会って、男性への偏見があったことに気がつき、男性と関わることがあまり怖くなくなった>と書かれていますが、そう思えるようになった過程についてお話しいただけますか。
女性と関わるよりも嫌なことをされる可能性は高いと思うので、今でも苦手意識が残っているのも事実です。何度も男性から性暴力や性差別に遭っているので、以前は男性の思考回路がそういうものだと思っていました。
でも男性脳・女性脳といった話は科学的に誤っていることや、性暴力や性差別の社会構造的な問題を知りましたし、フェミニズムの活動を始めてから出会った男性は良い人も多く、信頼している男性もいるので、恐怖心が薄れていきました。また、社会にはセクシュアルマイノリティの方もいますし、一つのカテゴリーから人を見たときに、そのカテゴリーに属する人がみんな一緒の人間ではないことも理解して、捉え方が変わりました。
※後編では、フェミニズムに出会ってからの生き方や物の考え方の変化などについて伺っています。
【プロフィール】
石川優実(いしかわ・ゆみ)
1987年生まれ。俳優・アクティビスト。2014年にはふみふみこ原作、吉田浩太監督「女の穴」で初主演。 2017年末に芸能界で経験した性暴力を#MeTooし、話題に。2019年、職場で女性のみにヒールやパンプスを義務付けることは性差別であるとし、「#KuToo」運動を展開。 2019年10月には英BBC「100 Women」に選出。著書『もう空気なんて読まない』(河出書房新社)、『#KuToo ーー靴から考える本気のフェミニズム』(現代書館)
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