【スポーツ活動への参加が思春期前後の若者の自殺リスクを低減する可能性】研究結果が示唆
米国で行われた80万人を超える学生を対象にした新たな分析によると、スポーツ活動に参加する中学生、高校生は、自殺念慮や自殺行為を報告する割合が低いことが明らかになった。
米国において深刻化する若年層の自殺リスク
米国では、子どもと若者の自殺率が急激に増加しており、10~14歳の死亡原因の2位、15~24歳の死亡原因の3位を自殺が占めており、深刻な問題となっている。この研究では、2007年から2023年の「Youth Risk Behavior Survey (青少年リスク行動調査)」のデータを活用し、41州の中学生326,085人と高校生508,737人の回答を分析した。中学生のうち、20.5%が自殺を真剣に考えたことがあり、13.5%が計画を立て、8.6%が自殺未遂を経験していた。高校生では、自殺を考えたと回答した割合が16.6%、計画を立てた割合が13.5%、自殺未遂をした割合が9.2%だった。
自殺リスクとスポーツ活動参加の相関関係
研究者は分析の一環として、自殺リスクと過去1年間に組織化されたスポーツ活動に参加した経験との関連性を調査した。( 組織化されたスポーツ活動:一定のルールや規則に基づいて行われ、団体競技だけでなく、個人競技であったとしても大会が行われるなど、組織的に行われる活動。)結果、以下のようなことが明らかになった。
- 自殺リスク(自殺念慮、計画、および試みの率)は、2007年から2023年にかけて若年層で急激に増加した。
- 2019年に高校生の57.4%がスポーツ活動に参加していたのに対し、2021年には49.1%に減少していた。その後もパンデミック前の水準を継続的に下回っている。
- この減少は、物価の高騰、新型コロナウイルスのパンデミック、および心理社会的課題の増加によりさらに悪化した。心理社会的課題には、うつ病、全般性不安障害、社交不安障害、および身体イメージの悩みなどが含まれ、思春期ごろに現れることが多く、学生が組織化されたスポーツ活動に参加するのを妨げる可能性がある。
- 高校生において、スポーツ活動への参加と自殺リスクの低減には、パンデミック前後を問わず強い関連性が見られた。
また、中学生においては、2023年のスポーツ参加と自殺リスクの低減との関連性は、パンデミック前よりもやや弱まっていた。これは発達上の違いを反映している可能性がある。心理社会的課題は年齢が上がると共に深刻化する傾向があり、それに伴い、スポーツ活動が自殺リスクを減らす効果は高校生の方がより強く現れる可能性があると、この研究を主導したワシントン大学公衆衛生学部助教授 マッシー・ムトゥンバ氏は述べる。
スポーツ活動への参加がリスク低減につながる仕組み
スポーツ活動に参加することには、うつ症状や不安症状の軽減、ストレスの低下、全般的な幸福感の向上、自己肯定感の向上など、数多くの身体的・精神的健康上の利益があると、研究者らは述べる。そして、スポーツ活動が自殺予防に効果的で、誰もが利用しやすく、続けやすい公衆衛生対策であることを強調しつつ、スポーツの力を最大限に活用するためには、参加を促進するための新しい方法が必要であることも訴えている。
スポーツ活動への参加を促進するために
研究者らは、参加促進対策として、学校やコミュニティベースのプログラムの費用の補助または全額負担、地域施設(緑地、バスケットボールコート、野球場)への投資、収入に応じた料金体系の導入などを提案する。スポーツ活動への早期の参加が持続的な習慣を育むため、中学校段階においてこういった取り組みがなされることが特に重要となる。また、組織化されたスポーツ活動に、科学的根拠に裏付けられたメンタルヘルスプログラムを組み込むことを提案している。「スポーツ活動は身体活動以上のものを提供します。」「スポーツ活動は規則性、社会的つながり、そして居場所を提供し、現代の青少年が直面する強いプレッシャーを和らげるのに役立ちます。」とムトゥンバ氏は述べている。
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