ヘアロスに悩む人が新しい自分を発見できる。医療ケア帽子BAREN(バレン)創業者が伝えたいこと

 ヘアロスに悩む人が新しい自分を発見できる。医療ケア帽子BAREN(バレン)創業者が伝えたいこと
写真: BAREN(バレン)

治療によるヘアロスや、髪のトラブルのための「医療ケア帽子」に皆さんはどんなイメージを持たれますか?もしかしたら、医療ケア帽子ブランド「BAREN(バレン)」のスカーフハットを見たら驚くかもしれません。創業者の原まゆみさんは、癌を患い治療によりヘアロスを経験したことから、この帽子開発に踏み切りました。どんな思いを込めたのか、またどんなことを伝えたいのか、お話を伺いました。

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闘病中のマインドを変えたかった

– 私のBARENさんの第一印象って「わぁ!オシャレだ!」ってことでした。

まゆみさん: ありがとうございます。ざっくばらんにお話すると「癌が見つかりました」と言われて、まず最初にウィッグとかケア帽子を探すのですが、「買いたい」と思うようなビジュアルのものがなかったんです。それで、オシャレにしてやろう!と思ったんです。

写真: BAREN(バレン)
写真: BAREN(バレン)
 

– これまで私が見たことがある医療用ケア帽子とは全く違います。

まゆみさん: これまでの帽子は、いかにも「病人です」というようなものばかりなんですよね。

– そうですね。だから、BARENさんのスカーフハットを見た時に、すごく良い意味でのギャップに驚かされました。

まゆみさん: ありがとうございます。 

– この商品を作ろうと思ったきっかけについて教えていただけますか? 

まゆみさん: 一昨年、子宮頸がんが見つかりステージ3だったんですけど、手術をして抗癌剤治療に入った時に、看護師さんに「この時期に髪の毛が抜けるので、ウィッグやケア帽子を準備しておいて下さい」って言われたんです。けど、探し始めたらやる気を失ってしまって。だって、ただでさえ病んでいるのに、いかにも「病人です」というようなデザインのものばかりだったんです。戦う気力を削がれるなと思いました。

– なるほど。確かに、ゲンナリしてしまうかもしれませんね。

まゆみさん: それでも、医療ケア帽子をネットとかで取り寄せたり、ウィッグのお店に行ってかぶってみたりしました。医療用ウィッグって、結構高くて7万円くらいから50万円くらいのものまであるんですね。私は、7万くらいのものにしたんです。けど、つけてみたら、頭が絞めつけられて頭痛がするし、汗もかくし、長時間かぶっていられないものばかりでした。 

– 頭痛もあるんですか?

まゆみさん: はい。ネットで絞めつけてウィッグをつけるんですが、それが本当に痛いんです。けれど、それが緩かったらウィッグが飛んでいってしまったり、ズレてしまうんですよ。また、汗って髪の毛で止まっているんだなということが分かりました。ヘアロスしてしまうとウィッグの中から、汗が滴ってくるんです。 

 – それは、きついですね。 

まゆみさん: 何度か入院している間に看護師さんにそんな話しをしていたら「高いウィッグを買っても、使わなくなってしまった患者さんって結構いますよ」ということを伺いました。その言葉を聞いて「私だけではなくて、みんな同じ気持ちなのかもしれない」と思ったんです。

 – 看護師さんの言葉がきっかけだったんですね。

まゆみさん: それで、私なりにリサーチをはじめてみたところ、婦人科系癌に罹患する方の人数って、右肩上がりで年々増えていっている状態だそうです。しかも若年層に多くなっていて…抗癌剤治療でヘアロスを経験する方が、全体の1割ほどいるということも分かりました。

– 若い方にも多くなってきているとは知りませんでした。 

まゆみさん: そういったことを踏まえて、改めて今の市場で販売されている医療用ウィッグやケア帽子って、年齢層が高い女性をターゲットにしているのが、かなり多いように感じたんです。昔ながらのケア帽子だったり、高価なウィッグだったり... 若者が買いたいと思えるものではないと思ったんです。罹患者は若い方も増えているのに、ケア用品はアップデートされていないんだと思いました。それなら、満足のいくものを作ろうと発起した感じです。

– 商品を作ろうと思った時期って身体的にも精神的にも辛い時期だったと思うのですが、それでも他人のためにも立ち上がろうと思えたのはどうしてでしょう?

まゆみさん: 私自身も含めて、闘病中の方々のマインドも変えたいなと思ったんです。少しでも前向きになってほしかったですし、オシャレしてふさぎ込んでいる気持ちを明るくできたらいいんじゃないかと思ったんです。けれど、実際に(もっとオシャレで使い勝手の良いものを)求めている人がいるんだろうなっていうのは分かっていたんだけど、それを作ることは自分本位で自己満足なことだと思っていましたし、それまでこういった商品がなかったので、それが一般受けするのが分からなくて、すごく手探りではありました。みんなに広まればいいなと思っていましたけど、共感されるかは分からないなっていう感じでした。

– とりあえずやってみようっていう感じだったんですね。

まゆみさん: そうそう、とりあえずやってみようと思った感じです。そしたら意外と、好評でした。

BAREN=オヤジギャグ!?意外なブランド名の由来

– 構想を練って作りはじめて色々試行錯誤されている時に、ご家族の反応はいかがでしたか?

まゆみさん: 会社名が『MAYK』というんですが、家族のアルファベットにしたんです。そんなことをやって巻き込んでいったという感じです。2人の子どもたちは、「わぁ!ママ、帽子屋さんになるの!すごい」と言って応援してくれました。実は、最初に背中を押してくれたのは夫なんです。待合室で「こんなケア帽子しかないんだよね。だからもっとオシャレなものを作ろうかなって思ってるんだよね」という感じで夫と雑談していたんです。彼は「いいじゃん」と結構軽いノリで返事をしていました。もしかしたら、彼は私がこんなに本気でやるとは思っていなかったんだと思います。だから、もしかしたら今、引いているかもしれません(笑)基本的には賛成してくれています。

– 「やりたいならやりなよ」というスタンスで応援してくれているということでしょうかね。

まゆみさん: そうですね。ノータッチですが、好きにやりなよって感じです。

– ブランドネームのBARENですが、日本語の「ばれん(ばれない)」から来ているそうですね。すごく面白いなと思いました。

まゆみさん: 理由を聞いたら忘れないっていうのがネーミングの基本だなと思っていて、ひらめいたものをどんどん書き出していったんです。そうしたらなんとなく親父ギャグに辿り着いちゃったんです。主人に「BARENってどうかな?」って聞いてみたら、「どうせ、親父ギャグでしょ?ダサいよー」って言われました(笑)けれど、友達に聞いてみたら「いいじゃん!(まゆみさん)らしいよー」って言われたんです。普段から、そんな感じなんです。ギャグとかいう感じで。なので、夫の意見より友達の意見に勇気をもらいました(笑)

– アルファベットで「BAREN」だったので、英語ではない別の国の言葉なのかなと思ったんです。カッコいいなって思いました。どんな思いを込めたんですか?

まゆみさん:  私も「BAREN」という言葉がないかなと思って調べてみました。ドイツ語で「クマ」っていう意味があったんですが、これくらいならいいかなって思って(笑)由来を聞いたら、やっぱり「クスッ」と笑えるじゃないですか。ホッコリするというか。闘病中でも、心を癒されてほしいなと思っています。

写真: BAREN(バレン)
写真: BAREN(バレン)

– まゆみさんのバックグラウンドなんですが、アパレル業界でのご経験はないんですよね?

まゆみさん: 全くないです。大学生の時にショップ店員をしていたくらいです。

– だとすると、ものづくりって大変だったと思うんですが…

まゆみさん: 大変なことだらけでした。 帽子とウィッグって違うサプライヤーにお願いしているんです。帽子の話ですと、帽子のサプライヤーはそんな形のものは作ったけとがないと言いました。それで、アパレルの方に手を広げて見つけて発注したんです。そこまでいくのに、30-40社くらいのかたとお会いしたと思います。そもそも、私がやりたいことを「できるよ」と言ってくださった会社さんが少なかったんですよね。

生地も、提案してくださる生地が私の求めていたものと違ったりして…例えば、プリント柄を求めているのに、無地しかなかったり。でもすごく一生懸命調べて、幕張で開催された布の展示会に行ったりもしました。そこでプリント柄を見つけたんです。

– ものづくりって座って黙々とするというイメージがあったんですが、ゼロから一人で作り出すっていう過程を伺うと、すごくフィジカルなんですね。ウィッグの方はどうでしたか?

まゆみさん: ウィッグはウィッグで、やっぱり作ったことがないと言われました。前髪を取り外せるようにしているのにマジックテープを使っているんですが、そこが難しいと言われて。このマジックテープも医療用のマジックテープなので、柔らかくて痛くならないようにしています。とにかく、探しまくっていましたね。

– 開発期間はどれくらいでしたか? 

まゆみさん : 1年くらいはかかったかな。 

– 初めに自分が求めていたものができた時はどんな気持ちでしたか?

まゆみさん: 全然自信がなかったです。自分はいいんだけど、人にどう思われるかが、不安でした。商品に対しての肯定感がめちゃくちゃ低かったんです…実は、今もそうなんですが。サンプルができるたびに友達に必ずかぶってもらって、意見をもらうようにしています。本当に周りの方々のおかげです。

– みんなで作り上げているんですね。商品の特徴について、教えていただけますか?

まゆみさん: BARENのスカーフハットは、「快適性」と「ファッション性」を大切にしています。 快適性で言うと、一番の特徴は、医療用マジックテープを利用して前髪を取りはずせるようにしていることです。このマジックテープがあることで夏も涼しく快適に過ごすことができるんです。スカーフは、通気性や吸水性、また保湿性にも優れたオーガニックコットンを使用しています。また、前髪とスカーフハットがセパレートになることで、帽子は洗濯機で丸洗いもできますし、前髪もしっかり洗うことができます。日々のお手入れが、ストレスなく楽にできます。医療用ウィッグは、メンテナンスがとても大変なんです。洗いすぎるとゴワゴワになったり。

– 「ファッション性」についても教えて下さい!

まゆみさん: 前髪なしだと、どうしても病人っぽくなってしまうんですよ。前髪があると全然違います。また、お好みに合わせて帽子はアレンジができるようにしています。例えば、付属のシュシュを使って上の方で結んでいるようにしていただいたりもできます。

 

– 商品を「作って良かった!」と思う時ってどんな時ですか? 

まゆみさん: お客様からレビューをすごくいただくんですが、リリースしてから半年で100件のレビューいただいていて、星の数もほとんど5で、平均したら4.9だったんですね。

例えば、「旦那さんに褒められました」「前向きになりました」「おしゃれは心の薬です」「今まで引きこもっていたけれど、BARENのおかげで外に出て自分を取り戻すことができて本気で泣きました」なんてコメントをいただいて…私も泣きながら読ませていただいていて、それを読んでいると「やって良かったな」と思います。先程、商品に対しての肯定感が低いって言ったじゃないですか。このレビューをいただいてやっと、ようやく自信が持てたなという感じです。「良かった。間違ってなかった」と思いました。

– 商品を届けてもフィードバックをもらえないと「どうなんだろう?」って不安になってしまいますもんね。

まゆみさん: そうなんです。それに今リピートのお客様もすごく多くて、全体の2割くらいの方がリピートされているんです。そんなに安くはない商品なので、それは本当に有り難いですし、嬉しいですね。中には、6回リピートで、7個購入っていう方もいました。すごく嬉しいですね。 

– すごいですね!

まゆみさん: お話したら「洋服に合わせてコーディネートしたくて」とおっしゃっていました。他にも、お客様の中にはこれに合わせて新しいコーディネートを試してくださる方もいるみたいです。おしゃれをもっと楽しんでいただけているようで、すごく嬉しいです。

写真: BAREN(バレン)
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女性の社会復帰を応援したい

– 素敵ですね。このBARENを通して、まゆみさんご自身が伝えたいことってどんなことですか?

まゆみさん: 最初にお話した通り、闘病中の方のマインドを変えたいなと思います。勇気とか自信とかにつながって、前向きに自分らしく過ごせるようになればいいなと思いますね。実を言うと、全然利益のことは考えていなくて、ただただ一人でも多くの方に、このマインドが伝わればいいなと思っています。諦めなくていいんだよ、転んでもただでは起きないみたいな感じで。

– まゆみさんご自身も自分の満足のいくものを手にした時、マインドは変わりましたか?

まゆみさん: そうですね... うん。なんか不思議じゃないですか。見たことない形状だし、ターバンなのかヘアバンドなのかよく分からないじゃないですか。こんなのかぶっている人、あんまり日本では見かけないですし。けれど、自分は脱毛したし、あえてこういうのもいいのかなと思っているんです。保守的になりたくなかったんですよね。今までの商品を手にとってみると「元の自分に戻ろう」みたいなメッセージがあるなという印象を私は受けました。「髪の毛が抜ける前に戻ろう」みたいなことです。それだと面白くないし、保守的だし、マインドも変わらない。いっそのこと、この自分を楽しめたらいいじゃんって思っていて。初めてサンプルをつけて外に出た時はドキドキしましたが、結構褒められてすごく嬉しかったです。最初にかぶって出かけた時が、ビックサイトでやっている布の見本市だったんですが、すごいたくさんの人に声をかけられたんです。「これウィッグなんですよ」と言ったら驚かれて。「男性用も作って下さい」とか言われたりもしました。その後、友達に会った時にも、みんな「かわいい、かわいい」と言ってもらえるので、すごく嬉しかったですね。

– 確かに首から上って、どうしても会話をしていると目に入ってくる部位なので、そこが華やかだと、すごく素敵な印象を受けますよね。そういう方って、自信が醸し出されて、素敵なオーラを感じます。

まゆみさん: はい。あと、女性の社会復帰も応援したいと思っています。BARENのスカーフハットは1日中つけていても疲れないようにデザインされているので、仕事場に復帰して、これで全然いけるようにしたかったんです。仕事場で医療用帽子はかぶれないし、医療用ウィッグは疲れるし。私自身も、会社員だったので、そこにはこだわりがあって...私も医療用ウィッグをかぶっていた時に、偽物だというのがバレないかが本当に不安でした。BARENをつけて仕事に行ってもらったら、もしかしたら周りはザワザワするかもしれないけれど、オシャレの一環で行っていただけるかなと。

– 素敵ですね。これからプランしていることや目標にしていることってありますか?

まゆみさん: ベレー帽を販売する予定なんです。このスカーフハットだと体積が少ないので、その上に被っていただけるようにと思っています。これで秋冬も暖かく過ごせていただけるかなと思っています。

写真: BAREN(バレン)
写真: BAREN(バレン)

– 秋冬用なわけですね。

まゆみさん: はい。スカーフハットがハードルが高いと思っている方でも、スカーフハットの上にこちらをかぶるのは挑戦しやすいかなと思うんですよね。

– 楽しみですね!

まゆみさん: また、年配の方からはシルバーヘアのウィッグないですか?というお声をいただいたので、シルバーヘアのウィッグを開発しているのと、それと合わせてブロンドヘアーのウィッグも開発中です。というのは、海外進出を視野に入れているからです。これからも闘病中の女性に寄り添った商品を開発していきたいと思っています。

〈プロフィール〉原まゆみさん

写真: BAREN(バレン)
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株式会社MAYK代表取締役。自身が子宮頸癌に罹患したことをきっかけに、「ウィッグが取り外せる医療用帽子」専門ブランドBAREN(バレン)を立ち上げる。

BAREN : 公式HP

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AUTHOR

桑子麻衣子

桑子麻衣子

1986年横浜生まれの物書き。2013年よりシンガポール在住。日本、シンガポールで教育業界営業職、人材紹介コンサルタント、ヨガインストラクター、アーユルヴェーダアドバイザーをする傍、自主運営でwebマガジンを立ち上げたのち物書きとして独立。趣味は、森林浴。



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