「定期検診はセルフラブ」乳がん生還アクティビストRIKA KELLYさんが伝えたい言葉

 「定期検診はセルフラブ」乳がん生還アクティビストRIKA KELLYさんが伝えたい言葉
乳がん経験者のためのウェルネスヨガコミュニティ

ヨガジャーナルオンライン では、乳がん月間に「PINK OCTOBER」企画として、乳がん経験者のためのウェルネスヨガコミュニティメンバーから「乳がんを経験する前の自分に伝えたい言葉」というお題で言葉を募り、その中から5つをピックアップしステッカーにデザインする、という企画を行いました。「定期検診はセルフラブ」という言葉を寄せてくれたのは、コミュニティリーダーを務めるヨガ講師のRIKA KELLYさん。言葉の真意を伺いました。

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―――検診を受けて乳がんが発覚したそうですね。RIKAさんは、検診でどんな検査方法を選択したのでしょうか? 

RIKAさん:マンモグラフィと超音波に加え、針生検の検査を受けました。乳がん検診というと、マンモグラフィで胸を圧迫される痛みのイメージが強いかもしれませんが、私の場合は、針生検の痛みが一番印象に残っています。針生検を受けると、初見でおおよそ、がん細胞があるかどうか、がんの悪性度、どのようなタイプのがんなのかといった内容を調べることができます。 

―――ご自身がヨガインストラクターということもあり、一般の方に比べると自分の体の変化には敏感かと思います。以前から、胸に異変や違和感を感じることはあったのでしょうか。 

RIKAさん:自分の胸にしこりの存在は感じていました。でも、妊娠・出産を経て授乳をしていたとき、一度乳菅内に乳汁がたまって炎症が起きてしまい痛んだ経験があったんです。なので、そういった一時的な症状、またはホルモン分泌の関係で起こった「乳腺症」のようなものだと思っていました。 

普段ヨガやレッスンをしているときも、特に体に異変は感じていませんでしたし……当時、あのタイミングで乳がん検診に行かなければ、発見がもっと遅くなっていた可能性は大いにあると思います。 

―――ここまでお話を聞いただけでも、定期検診に行くことの大切さがひしひしと伝わってきます。乳がんだと宣告され検査を重ねた結果、ステージ3だと分かったそうですね。 

RIKA:一番初めはステージ0と言われました。ですが、より詳しい検査を重ねていくうちにリンパ管の外までがん細胞が飛び出していることが分かり、ステージ3に行きつきました。治療は抗がん剤の投与と2回の手術、放射線治療、そして現在は投薬によるホルモン治療を継続して様子をみています。 

関心を持つことがサバイバーの助けになる 

RIKAさん:抗がん剤の副作用のイメージとして、一般的に広く知られているのは「吐き気」の症状だと思います。でも、実は副作用による吐き気に対応してくれる薬は、割と開発が進んでいるんですよ。これはあまり知られていないかもしれません。 

―――その情報は初めて耳にしました。「抗がん剤は、吐き気に耐えなければいけない」と認識して、怖いイメージを持っている人は確かに多そうです。 

RIKAさん:実はがんの中でも、乳がんは薬などの開発費用が集まりやすく恵まれているという世間の見方もあります。 

今回のヨガジャーナルオンラインさんの「PINK OCTOBER」企画や、他で行われているピンクリボンキャンペーンなどもありますよね。そうやって乳がんを知ってもらったり、サバイバーの方々をサポートしたりするイベント企画って、結構多く催されているんです。 

それだけ関心を持つ人や、力になりたいという人も多いということ。人々の関心が高い病気は、それだけ自然とサポート費用が集まりやすく、薬の開発が進んでいるという事実もあります。 

―――なるほど、関心を持ってくれる人が増えるだけでも、がんサバイバーの方々の助けになる可能性があるのですね。では、RIKAさんが一番辛かったという、抗がん剤の副作用による「足の痛み」についてお伺いできますか? 

RIKAさん:前述した通り、私が抗がん剤を投薬している最中は、薬のおかげで想像以上に吐き気に苦しむということは比較的少なかったです。しかし、抗がん剤そのものは本来、劇薬や毒薬のカテゴリーに当てはまるもの。がん細胞を破壊するためには必要ですが、体に良いものではありません。 

さらに、局所的に抗がん剤を使用することはできないため、全身を毒が巡ってしまいます。そうすると、どうしてもその人の弱いところに痛みや他の症状が出てしまう。私の場合は、それが足にきてしまった。いまも、後遺症のような形で片方の足に痛みが残っています。 

そんな中でも、足の状態をマイナスに捉えて気持ちが沈まないよう、いい意味で「仕方ない。抗がん剤のような強い薬が体内に入ったのだから、そういう症状も出るよね。」というスタンスで向き合っています。 

これも、ヨガの「ありのままを受け入れる」という哲学的な考え方に助けられている部分が大きいですね。 

闘病中に感じた煩悩からの解放感 

―――がんになったら「すべて終わり」「辛いことしか待っていない」そんなイメージが、世間一般ではまだまだ強いように感じます。実際に乳がんを経験したからこそ、RIKAさんが体感した闘病中の興味深い心境の変化があったそうですね。 

RIKAさん:おっしゃる通りで、がん=悪いもの・辛いこと・苦しいこと、このイメージしか持っていない人が多すぎると思います。もちろん、その通りではあるんだけど、私は闘病中、心の中に「生きやすさ」を感じる瞬間もあったんですよ。 

人が感じる辛さって、数字では表せないし、本当に個人間で差がありますよね。あくまで、私のケースとして聞いてもらいたいのですが、私は乳がん闘病中より、子どもを産んだ後の3ヶ月の方が余程辛かった思い出があります。 

子どもを持つお母さんは共感してくれるかもしれないのですが、赤ちゃんを産んですぐは自分のホルモンバランスの乱れもあるし、数時間ごとに母乳をあげたり赤ちゃんを気にしたりしなければいけないから、身体も心も休まりません。 

妊娠中は周囲のサポートが手厚かったのに、産んで家に帰った瞬間から、孤独やプレッシャーとの戦いに切り替わっていってしまう……。そのような状態が続いてしまった結果、産後うつになってしまう人もいます。 

―――産後すぐのときよりも、闘病中の方がメンタル的に安定していたということでしょうか? 

RIKAさん:もちろん闘病中だからこその辛さはあったし、楽だったなんて言えません。 

でも、家族や病院の方々のサポートもあり、私は「乳がんにだけ向き合えば、それでいい」という状況に居させてもらえた。変に聞こえないといいのですが、それがすごく生きやすかったというか……生と死の問題だけに真剣に向き合える時間が得られたことで、雑念や煩悩が取り払われた不思議な解放感を感じました。これって、乳がんにならなかったら分からなかった感覚だと思います。 

―――今回、PINK OCTOBER企画に寄せてくださった「定期検診はセルフラブ」というフレーズに「共感した」というメッセージをたくさん頂きました。乳がんになる前後で、RIKAさん自身のセルフラブに対する意識に変化もあったのではないでしょうか。 

RIKAさん:がんになる前、私のセルフラブのイメージはゼロからプラスに持っていくイメージでした。例えば、美容や健康食、トレーニングなどでもいいのですが、何か自分にとって良さそうなものを生活の中に取り入れて「自分を磨いていく」といった感じです。 

がんになった後は、そのイメージに少し変化がありました。いまは、自分にとってマイナスポイントになりうる事実にも向き合えるツールやプラクティスを生活に取り入れることも、素晴らしいセルフラブだと考えるようになりました。 

―――セルフラブと食事、または病気と食事の関わりについて、食べる物で健康やメンタルの状態が左右されると考える人も多いかと思います。実際にそのような相互関係があるのも事実かもしれません。RIKAさんにとって「食事(=体に入るもの)」とは、どのような存在なのか、お伺いしたいです。 

RIKAさん:食事に関しても、心が安定して元気でいられるかどうかを判断の軸にしています。実は私、元々ジャンクフードも好んで食べる方なんですよ(笑)現在、アメリカのロサンゼルスに住んでいるのですが、やはり食に対する国民性の違いも自分自身に影響を与えてきます。さらに地域性が関係しているのか、炭水化物を一切食べないスタイルや、ヴィーガンスタイルを積極的に、しかも極端な度合いで取り入れる人もすごく多い。それで逆に身体を壊してしまった人も見てきました。 

そういった姿が反面教師になって、口に入れるものに対しては「絶対こうでなくてはならない」という考えはあまり持っていないです。食は私にとって旅のようなもの。その時に食べたいもの、いいと言われている物を試して、感じて、その後も取り入れ続けるのかを判断する。基本的には、この作業を繰り返しています。 

乳がんはすぐに死ぬ病気じゃない 

RIKAさん:これは経験者として、声を大にして伝えたいことの一つです。乳がんを宣告されたら短期間で死んでしまうというイメージを持っている人が多すぎる。データ的にも、ステージ3と宣告された人の5年相対生存率は80%を超えています。 

それだけ乳がんを克服して生きている人たちがいることを、もっと知ってもらえたら嬉しいです。向き合うことができれば、克服できる可能性は高い病気であることを知らない人も多いと思います。 

―――RIKAさんのレッスンは、ポーズの完成度や新しいヨガの形に固執せず、自分の内側に目を向けることにフォーカスしている印象があります。乳がんサバイバーの方、またはこれから何か試練に立ち向かう人に向けて、自分の軸をブレさせないポイントがあれば教えていただきたいです。 

ヨガはポーズの完成度やボディメイクの要素が全てではありません。どちらかというと、それらは安定した心があってこそなし得るヨガの副産物のようなポジションに近いと思います。 

普段からヨガを取り入れることはもちろんオススメしたいですが、ポーズやヨガの種類に限らず、日常的に心を鍛えることをしておく。これは一つオススメしておきたいですね。 

私も乳がんを経験し、肉体よりも心の深いところでヨガの良さを改めて感じるようになりました。 

勘違いして欲しくないのは、決して自分に向かってきた敵を蹴散らすための強さを持てという訳ではありません。自分の人生で次々に起こる出来事に対して、決して逆流せず、安定した心で流れに身を任せる術を学んでいって欲しい。その人が強いかどうかって=折れない心を持っているかだと思うんです。もちろんヨガをすることも、その強さを磨く方法の一つですよね。 

ヨガは流れるように生きるためのツール 

―――最後に、乳がんを克服したRIKAさんの今後の活動について、またヨガに対しての想いを聞かせてください。 

RIKAさん:ヨガは、誰かに強要されてやるものではありません。自分でメンタルを安定させ、しなやかに生きていく方法が学べるのであれば、別の方法だってもちろん構わない。 

ただ、私は自分がヨガを伝えていく立場であること、そしてヨガによって乳がんを乗り越えることができた経験があることから、「どんな状況や時代においても、ヨガはとても汎用性の高いツールである」と確信しています。 

世の中には色々なヨガの種類が溢れているけれど、どれを選択したっていいと思っているし、各自が確立した信念のもと実践して良い効果を感じているのであれば、リスペクトに値する素晴らしいチャレンジだと心から思います。 

あとがき 

乳がんの辛さを語ってくださる一方で、いま乳がんと闘っている人や宣告されたばかりで絶望している人に向けて、「大丈夫。あなたは今すぐには死なない。」という心強いメッセージも添えてくれました。乳がん宣告から現在に至るまで、さまざまな葛藤を繰り返したRIKAさんだからこそ、発せられたメッセージには理屈では語れない暖かさと気丈さを感じました。 

りかケリー
RIKA KELLYさん

RIKA KELLYさん プロフィール:
ビバリーヒルズを中心にプライベートセッションを行うヨガインストラクター。ハリウッドセレブから癌患者までのべ1500名以上を指導。2022年春に乳がんと診断され、治療を続けながら、乳がん経験者向けのヨガクラスや闘病中の人を対象にしたヨガクラスを開催。2023年5月にはヨガジャーナルオンラインとともに「乳がん経験者のためのウェルネスヨガコミュニティ」を立ち上げ、コミュニティリーダーとして活動。2023年12月2日に開催されるイベント「Meet up for Wellness 乳がん経験者とすべての女性の"ウェルネス"のために」(東京・表参道にて開催)に出演、ヨガプログラムを担当。

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インタビュー・文/岩本彩

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ヨガジャーナルオンライン編集部

ヨガジャーナルオンライン編集部

ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。



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