カナダ先住民ヨガ講師に学ぶ「失ったアイデンティティ」の取り戻し方【内なる創造主とつながろう】
私が初めて彼女に会ったのは12月だった。彼女のテレビ番組「Red Earth Uncovered」(先住民の謎や神話や伝説を探求する、カナダの先住民テレビネットワークのドキュメンタリーシリーズ)の制作と、ルルレモンの写真撮影(彼女は同ブランドのアンバサダーで構成されるグローバル諮問委員会の一員)という多忙なスケジュールの合間にようやく会うことができた。マトリアーク・ムーブメントは正式に非営利団体となり、先住民の若者向けのウェルネスワークショップやリトリートを主催し始めていた。
「交流の場として始めましたが、今では瞑想やダンスや〝メディスン〞を通じて先住民の声を広める組織に発展しています」とストーンチャイルドは言う。彼女の言う〝メディスン〞とは?「それは先住民の世界観を取り戻す聖なる力です」と彼女は説明した。
たとえば、昨年彼女はマトリアーク・ムーブメントのインスタグラムアカウント(@matriarch.movement)上で11人の先住民族の女性にインタビューし、どのように自分の力やアイデンティティを取り戻しているかをたずねた。「私にとっては瞑想やダンスですが、ほかの人はまったく違うかもしれません」とストーンチャイルドは言う。「では、どうすれば私たちの伝統を現代に取り入れられるかと考えたら、やっぱり自分たちのレンズを通して自分たちの物語を語るべきだと思ったのです」
これまでずっと先住民の物語は白人や植民地支配の観点から語られてきた。「私たちは常にステレオタイプのイメージで描写されます。いつも馬に乗っているとか、踊りの集会をしているとか、笛を吹いているとか。そのようなこともするかもしれませんが、それらは固定観念にすぎません」
ストーンチャイルドが昨年インタビューした11人の女性の中には、活動家であり研究者でもあるメディア制作者のニッキ・サンチェスや、カナダの俳優グレイス・ドーヴもいた。ドーヴは2015年の映画『レヴェナント:蘇えりし者』でレオナルド・ディカプリオが演じた罠猟師ヒュー・グラスの妻役を演じた。この映画は同年のアカデミー賞で最多12部門でのノミネートを果たしたが、賞候補者の白人偏重をめぐる激しい論議があったにもかかわらず、ドーヴは呼ばれなかった(詳細は#OscarsSoWhiteで検索)。ストーンチャイルドと同様に、29歳のドーヴにとっても、〝メディスン〞は自分たちの本来の姿を伝える助けになっている。「私はハリウッドの典型的な先住民イメージに対抗し、本来の姿を描く役を演じ続けることによって、自分のパワーを取り戻しています」と、ドーヴはストーンチャイルドに話した。「声を上げられない人々のために、自分が立ち上がって声を上げているんです」
ピピル(エルサルバドルの先住民)とマヤ族で、先住民統治を学び修士号を取得している34歳のサンチェスは、共通の友人を通じてストーンチャイルドを紹介された。サンチェスは、ストーンチャイルドの謙虚で陽気なところ、そしてよく笑い、楽しむ様子に驚いたと話す。「多くの場合、ウェルネススペースはとても排他的で、さまざまな人種や文化の多様性を許容できないものです」とサンチェスは説明する。「なので、この分野で成功して認知されるには図太い神経が必要です。また通常は、歓迎されない場所で落胆しないようにとエゴが働くものです。でもシェイラは思いのままに行動し、好意的に受け入れられながら、オープンな心と明るさを持ち続けています。素晴らしいことです」
マトリアーク・ムーブメントのワークショップは、白人中心のウェルネスからの脱却を目的としながら、(現在はオンラインで)レクチャー、呼吸ワーク、ムーブメント、瞑想のエクササイズを通じて先住民のコミュニティに癒しをもたらしている。また自殺予防、依存症からの脱却、感情的、肉体的、精神的な健康のバランスを保つ方法など、さまざまなレパートリーを参加者のニーズに応じてカスタマイズし、ヨガや瞑想の実践も必ず取り入れられている。
ストーンチャイルドは2009年12月に父親を自殺で亡くした後、植民地化によるトラウマとともに成長した。そして18歳の時にヨガに出会い、必要な癒しを見つけた。ヨガティーチャートレーニングで哲学を学んだ時、彼女はヨガの知恵と自分たちの先祖からの遺産との関係性に気づいた。
「かつて先住民の暮らしは、創造主やまわりの世界と密につながっていました」と彼女は言う。「私たちは大地、水、空、星と交流していたんです。口調や波動や周波数でコミュニケーションを図り、物語は口頭で伝承していました。愚かだったからではなく、言葉や波動、意志、祈り、歌の背後にある力を知っていたからです。私たちは献身、祭式、儀式を通して心と体と精神を浄化することを覚えました。そして常に自分よりも高次の存在のために己を清め、身を捧げていたのです」。ヨガでは違う言葉を用いるかもしれないが、意図するものはまったく同じだとストーンチャイルドは言う。どちらの伝統でも、私たちは内なる神聖な存在と一体であると教えられる。つまり、外側に〝宇宙の根源〞を求める必要はないのだ。
だからこそ、彼女の存在を定義する社会と自分とヨガを切り離せないのだと彼女は説明する。最近は、政治をウェルネススペースから遠ざけて、〝心地よさだけ〞を求める傾向がみられるが、それでは全体を否定することになってしまうと彼女は言う。「もし自分の半身だけ玄関に置いてくるようにと言われたら、本当に完全な体で現れることはできません。では社会正義と心身共に満たされた状態の中でバランスを見いだすには?
そのためには全体を見る必要があります。先住民の私は、存在そのものが政治です。カナダ政府から見れば、私たちは依然として好きに扱える存在だからです。私にとっては生きること自体が政治活動なのです」
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