【脳科学者・中野信子が教える】今起きているありのままを受け止める「マインドフルネス」実践のヒント

【脳科学者・中野信子が教える】今起きているありのままを受け止める「マインドフルネス」実践のヒント
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「そばにいるのに、わかりあえない」 「ひとりでいるのがつらい」 誰もが抱える「孤独感」の正体を脳科学で解き明かす!脳科学者の中野信子さんの著書『「さみしさ」に負けないための脳科学』(アスコム)より、内容を一部抜粋してご紹介します。

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自分の心と向き合う「マインドフルネス」の考え方

社会から断絶されることに対して強い恐怖やストレスを感じるのは、人としてあたりまえの反応です。また無意識に社会的なつながりを求めてしまうのも、人間として当然の欲求です。

「これは、脳が社会的つながりを奪われることに対して、ネガティブに反応しているだけなのだ」と認知して、過度にその原因をなんらかの出来事に帰因させようとするのを抑えることで、その情動に振り回されることも少なくなるのではないかと考えられます。ひとりでいることに不安を抱くのはあたりまえのことですが、その不安が誰かへのさみしさとうまく付き合っていくために敵意や必要以上の依存心などに変わってきた場合は、「ひとりでいても大丈夫」などと捉え方を変え(これをリフレーミングといいます)、自分の行動を制御するという方法があります。

たとえば大切な人を失い、心のなかにぽっかりと穴が開いてしまったようなとき。そんなときわたしたちは、その穴を誰かに、あるいはなにかに埋めてもらおうと考えがちです。しかし、「誰か」といっても、その人にはその人の都合があり、「なにか」といっても、そう簡単に失った人の代わりになるようなものを見つけることは難しいでしょう。なかなか都合よくいかないことは、多いはずです。そんなときは、まず「自分にとって大事な人を失ってしまった」「それによって自分の心が深く傷ついてしまった」という状態を、そのまま受け入れるように努めてみることです。これは、「マインドフルネス」と呼ばれています。

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ほかのもので埋めることができないのは、それくらいかけがえのない大事な人だったからです。心はひどく傷つき、痛みを感じているはずです。簡単に気持ちを切り替えられるはずがありません。このとき、「こんな自分はダメな人間だ」などと自分を否定し、さらに傷つけてしまうことがあるかもしれませんが、そんな気持ちさえも、自分の心に起こったこととして受け止めていくのです。

「自分の心に起きたことをまず受け止める」というのは、自分を大事にするということでもあります。現代では、「タイパ(タイムパフォーマンスの略)」という言葉が頻繁に聞かれることに象徴されるように、感情をいかに迅速に処理できるかがその人の価値を決めるとでもいうような、根拠のよくわからない価値観が広がっています。けれども、そういったはっきりしない基準で自分を切り分け、大切な自分を売り渡したり、振り回されてしまったりするような愚を犯すことは、ぜひとも避けていくべきだと強く訴えたいところです。

迅速な処理よりも、自分の気持ちとじっくり向き合うことのほうがずっと大切です。自分の気持ちと向き合えない人が、他者の気持ちに向き合うことなどできるはずがありません。自分を大切にできる人でなければ、まわりにいる人の気持ちを理解したうえで受け止めて、ともに歩んでいくのは難しいでしょう。自分の心としっかり向き合い、それを受け止めて、自分を育てていく。その人の内面が豊かであればあるほど、相応の時間も必要になります。

「いま、また自分はひとりぼっちだと思ってしまったね。あの人を失ったことを悲しみ、喪失感を抱え、ひどく落ち込んでいるんだね」と、自分の隣にもうひとりの自分がいて、その人が自分を見つめているかのように感じてみる、というのがマインドフルネスで取られる方法です。「このさみしさをどう自分の人生に活かしていけるかな」と、もうひとりの自分に相談してみるのもいいかもしれません。

「時間がかかるだろうね」
「さみしいのはあたりまえだよ」

このように自分に語りかけていくことができれば、それは自分を大切にするためのプロセスの第一段階のクリアといっていいでしょう。

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さみしさに耐えて生きていくことは、自分がそういう局面にいなければ、想像がしづらいものです。自分が、「さみしいと訴えている人」にかつて向けていた冷たい視線を想起する人もいるかもしれませんが、だとすれば、それはさらにつらく感じられることでしょう。だからこそ、ただ耐えようとしたり、目を背けようとしたりするのではなく、よくよく向き合ってその姿を受け止めたうえで、どう付き合っていくのかを考えていくことが賢明なやり方です。

これは決して特別な、選ばれた誰かにしかできない方法ではありません。少しずつ時間をかければ、誰でもできるやり方です。ときどきフラッシュバックするように強い喪失感が襲ってくるかもしれませんが、年齢を重ねれば出会いよりも別れが多くなるのは当然のことですから、その人のことを大切に思うことができた時間の豊かさをしみじみと思い出して、じっくりと向き合っていくのがいいでしょう。さみしさに蓋をするのではなく、その感情をどのように見据え、付き合っていくかを工夫していくのです。さみしさは、人間であれば誰しもが経験する感情です。これを抱えているのは自分だけではないというのはあきらかなのですから、その気持ちをなにかに綴るというのもいい方法のひとつです。

『「さみしさ」に負けないための脳科学』(アスコム)
『「さみしさ」に負けないための脳科学』(アスコム)

この本の著者…中野 信子

東京都生まれ。2008年東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。東日本国際大学教授、京都芸術大学客員教授。医学博士。脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行う。

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『「さみしさ」に負けないための脳科学』(アスコム)