社会の荒波を超えてきた、40代・50代=ロスジェネ氷河期世代が抱える苦悩とは?【脳科学者が語るさみしさの正体】
「そばにいるのに、わかりあえない」 「ひとりでいるのがつらい」 誰もが抱える「孤独感」の正体を脳科学で解き明かす!脳科学者の中野信子さんの著書『「さみしさ」に負けないための脳科学』(アスコム)より、内容を一部抜粋してご紹介します。
「ロスジェネ世代」の諦め
ここでは、ひとりの人間の一生を縦断的に見ていくのとは別の角度から、時代の影響を色濃く受けたと考えられる世代集団について、少し見ていきたいと思います。この世代は2025年現在、50歳前後になっています。この時期は、能力、体力的に、人生の大きな分岐点といえるでしょう。これからは、これまで蓄積した知のリソースを活かして人生を生きていくことが求められます。一般的な仕事でいっても、まさに働き盛りの年頃。30代の頃以上に重要なポストを任され、責任を負っている人も多いはずです。ところが、現在の40代後半から50歳くらいの人は、就職氷河期を経てきた世代という、特有の社会的な特徴があります。
学校を卒業しても正社員になかなかなれず、非正規雇用を長く続けている。正社員になれたとしても、上の世代のようなスムーズな昇進はままならない。そんな人が多い世代なのです。なにかと押さえつけられてきた時代を長年にわたり過ごしてきたため、パワフルな団塊世代や華やかなバブル世代という上の世代には気を遣い、なおかつ、開き直った感のある新しい時代に順応したゆとり世代以降の若者にも、気後れするような感じがするのではないでしょうか。「ロストジェネレーション」などとも呼ばれる世代です。非正規雇用の拡大、非婚率の上昇、出生率の低下、年収の下降等々、まさに「ロスト=喪失」による、独特の空虚さを背負わされている世代といってもいいかもしれません。
団塊世代が好んで使う言葉に「自己実現」がありますが、対照的にその子世代にあたるこの世代には、自己実現をするための機会が乏しかったといえます。もしかしたら、親世代に遠慮して、あるいは奪われた結果の、自己実現の機会の「ロスト」であったのかもしれません。それは、この世代が産むはずだった次世代の人口の減少というかたちで、じわじわと国そのもののかたちを蝕んでもいます。「就職」「昇進」「結婚」「子どもの誕生」というのは、それまでの日本では人生の重要な節目として、「誰もが経るもの」としての社会通念がありました。しかしながら、ロストジェネレーションにとって、もはやそうした通念は過去の遺物、もしくは上の世代ならば享受できた「ぜいたく品」になってしまった、と分析する人もいます。
仕事や組織、家族、そして自分自身に対して、かつて上の世代があたりまえに得ていたものを、自分たちは得ることができない。しかもそれは、個々人の努力ではどうにもならないという虚無を感じるときの特有のさみしさがこの世代のカラーでもあります。運よく(この運よく、というのも意味深長かもしれません)安定的な仕事が得られ、家族を持つことができたとしても、この年代ならではのさみしさがあります。
仕事が忙しくて家族といられない。
給料が上がらない。
昇進できない。
やりたい仕事ができない。
評価が上がらない。
働き盛りの年頃だけに、さみしさの根源には、仕事にかかわること、家庭にかかわることが多いと考えられますが、そのそれぞれの背景には「期待したものが手に入らない」という、自己効力感の低下を伴う失望感が横たわっていることでしょう。
しばしば、「勝ち組」「負け組」という言葉が使われてきましたが、この世代が経験してきた世相がそのまま反映されている言い回しでもあります。同じ会社でも「出世する人・しない人」がいる。これは、努力の賜物だと思いたいけれども、運の要素も結構大きい。努力しても報われるわけではない。別の角度から見ると、就職試験に複数落ちたりなどして不本意ながら選ぶことになった就職先でも、場合によっては勝ち組になることもあり、そういった要因による格差も無視できない水準です。学生時代の同窓会は「勝ち組」のマウント合戦のようになることもあるでしょう。友だちの顔をしていても、内心は敵同士のようで、参加する気も起きないということもあるのではないでしょうか。
親やバブル世代を見ていて、なんとなく思い描いていた40代。家族と幸せに過ごし、仕事にも満足して、心通わせる仲間たちとの交流があるはずの40代。ところが現実には、いろいろなものが自分の手からすり抜けてどこかへ消えていることに気づいてしまいます。長く続く暗いトンネルを、どうすれば抜け出せるのかわからない。谷の底から上を見て、這い上がれないような気持ちを感じることもあるかもしれません。
この本の著者…中野 信子
東京都生まれ。2008年東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。東日本国際大学教授、京都芸術大学客員教授。医学博士。脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行う。
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