上司をなぜ無能だと思ってしまうのか?【脳科学者が教える】部下に信頼される伝え方「BYAF法」とは


伝えたはずなのに、伝わっていない......。言葉で伝えても、なかなか伝わらない。こういったうまく伝わらない現象を、脳科学では「認知のズレ」と呼んでいます。今回は、西剛志(にし・たけゆき)さんの著書『結局、どうしたら伝わるのか? 脳科学が導き出した本当に伝わるコツ』(アスコム)より内容を一部抜粋してご紹介します。脳の特性から研究された、具体的でシンプルな、本当に伝わるコツは必見です。
上司をなぜ無能だと思ってしまうのか?
「上司がバカすぎる」
「上司ガチャではずれた」
「無能な上司できつい」
いつの時代も、上司に対する不平や不満は生まれるものです。なぜ、上司のことを無能だと感じてしまうのでしょうか? 本当に上司は無能なのでしょうか?実際には有能な上司も、無能な上司もいますよね。社内でそのポジションに上がっているのですから、仕事で実績を上げた、社内の立ち回りがうまいなど、何かしらの強みはあるはずです。でも、部下から見ると、上司を優秀だと思えない理由があります。
その大きな要因が「命令」です。命令をする上司は、部下からは無能扱いされやすくなります。命令はダメなコミュニケーション法なのです(詳しくは202ページに)。「え、自分は部下に命令なんてしてない」そう思う上司もいるかもしれないですが、この「命令」は「これをするように言いつける」ということだけではありません。たとえば、自分の意見を前面に押し出し、部下がNOを言えない雰囲気をつくる。たとえば、これまでのやり方にこだわり、ほかの人に有無を言わせない。これらは、いってみれば命令です。

一方で部下からの評価が高い上司は、命令は極力使いません。命令ではなく、選択権を部下に与えています。そんな上司がよく使っているのがBYAF法(あなたに任せる法)というメソッドです。このBYAF法ですが、効果は科学的にも証明されていて、世界でたくさんの論文が発表されている信頼性の高い方法です。やり方は簡単です。自分の意見をいろいろ伝えます。そして、ポイントは最後のところです。
「最後はあなたの判断に任せます」
「最終的にはあなたの自由です」
そう伝えて終わるのです。つまり、自分の意見を押し殺すわけではなく、ちゃんと伝えつつ、選択を相手に委ねる。これがうまくいく人のコミュニケーションです(BYAF法は、But You AreFree を略したものです)。
繰り返しますが、この方法のポイントは最後の部分です。そこまであれこれと話をしたら、最後に「きみの選択に任せるよ」と、選択権を渡します。選択権が自分にあると、それは「自分ごと」になりやすい。だから、自分で判断して行動に移しやすいのです。このひと言を添えただけで、相手の行動の確率が2倍に上がります。「うまくいく人」の多くはBYAF法を活用しています。

以前、ソフトバンクの孫正義さんの講演を聞いたことがあるんですが、孫さんもまさにBYAF法の達人でした。これからの社会に対する危機感、変化などの話を熱く語ったあとに、「これからどんな行動をするかはあなたの選択次第です」という言葉で締めくくっていました。まるで映画のワンシーンの台詞のように。カリスマ性のある人は、言葉が強く、引っ張っていってくれる人という印象がありますが、実はこのBYAF法を使って、選択権を相手に渡していることがよくあります。実は、そのほうがよりカリスマ性を感じやすくなるのです。いまは強い言葉を使うと「パワハラになってしまうんじゃないか」というリスクのある時代です。こんな時代だからこそ、パワハラにならないように話しながら、行動変容を促すことができるBYAF法は、ぜひ身につけておきたいメソッドです。
パワハラになるかもと心配して、部下の指導ができないという話をよく聞きます。何かを言うと強く感じられる。でも言わないと育てることができない。そんな心配がある人はBYAF法を使ってみてください。超常現象などを扱うテレビ番組で有名な言葉に「信じるか信じないかはあなた次第です」というのがありますが、あの言葉も、まさにBYAF法です。あのひと言で、視聴者は自分ごととして考えるようになり、「もしかしたら真実かもしれない」と感じるようにもなるのです。

教えてくれたのは…西 剛志(にし・たけゆき)さん
脳科学者(工学博士)、分子生物学者。1975年、宮崎県高千穂出身。東京工業大学大学院生命情報専攻卒。博士号を取得後、特許庁を経て、2008年にうまくいく人とそうでない人の違いを研究する会社を設立。30代で対人関係やストレスで難病を宣告されるも、脳の研究を通して自身のストレスをなくすことに成功し、半年で病気が完治。現在は、世界的に成功している人たちのコミュニケーションや脳のしくみ、才能を引き出す方法を提供するサービスを展開し、企業から教育者、高齢者、主婦など含めてこれまで3万人以上に講演会を提供。
- SHARE:
- X(旧twitter)
- LINE
- noteで書く