「ダラダラする時間が欲しいから」意外な理由から生まれた過集中メソッド®創始者が教える実践法
『「過集中」メソッド やる気ゼロからでもゾーンに入れる脳の使い方』(主婦と生活社)著者の新井琴香さんが過集中メソッド®を確立した背景には、韓国の大学院での挫折経験がありました。量をこなす努力では通用しなくなったことを機に、集中の「質」を追求し始めたといいます。後編では、メソッド誕生の経緯に加え、日常生活での実践法や、集中を上手に区切るためのコツについて伺いました。
量をこなすだけではついていけなくなった
——新井さんご自身が過集中を身につけられた過程についてお伺いします。
韓国の大学院での経験が一つの転機でした。今まで時間をかけ、やる気と根性で頑張ればできると思い、1日8時間など長時間練習することでどうにか追いついていたんです。ところが韓国はクラシック音楽のレベルが高くて、3ヶ月で40〜50分の曲を全部新曲で覚え、本番まで持っていかなければいけないことが年に3回あったんです。そんな状況ですと、量をこなすだけでは到底追いついていけないんです。でも周りの子たちは練習量が多いわけではないのにどんどん上達していく。この差はなんだろう?と思ったとき、量ではないことに気づきました。
——練習方法を見直していったのですね。
どうしたら自分は一番集中して練習できるのだろうと、集中の観点から1日の練習を組み立てるようになりました。すると、以前より練習時間は短くなったのですが、曲をすぐに覚えられたり、弾けるものも増えたりと、成果が出るようになってきたんです。それで自分に合った集中サイクルを意識して練習を続けました。
その後、演奏活動に加え、福祉の仕事や子育てとやることが増えていったとき、生活が回らなくなっていきました。再び大学院時代のことを思い出し、時間を効率的に使う工夫をしていったら、体に負担なくできるようになっていった。集中を切り替えて生活することの重要性を痛感したんです。
——その後、どう出版に繋がったのでしょうか。
出版について学ぶ塾に入っていて、最初は何を書こうか迷っていたのですが、集中力について工夫してきたことに気づきました。それから脳科学や心理学について学んだところ、私は科学的な論理に沿って実践していたことがわかったんです。私は元々は集中力がなかったですし、やる気だけでできると思ってきた人間です。実践から学んだことを体系化したのが、この「過集中メソッド®」です。
「過集中メソッド®」の活用
——現在は日々の生活のどういう場面で、過集中メソッド®をご自身で活用していますか?
1日の流れとして、フルタイムの仕事の後、子どもの習い事の送迎をし、ご飯を作ったり一通りの家事をしたりしてから、夜に過集中メソッド®の講座やピアノの練習をしています。その中で大事なのが、集中に入るまでの時間を短くすることです。集中しようと思ってすぐに過集中に入れたら、それだけ短時間で成果を上げられますから。たとえばダイニングの自分の席で、パソコンを開けた瞬間に集中できるような環境設計をしています。決まった時間になったらパソコンを開けて作業することがルーティーンになっていて、やることも事前に決めてあるので、すぐに集中して作業に入れるんです。
——やることはどのタイミングで決めておくのでしょうか?
家事をしながら、「今日はこういう流れでやることを進めていこう」と頭の中で考えておきます。なのでいざ作業に入るときに「何をしようかな」から始まらないんです。とにかく過集中に入る立ち上がりを、いかに早くするかということを私は大切にしていますね。極端かもしれませんが、やることが決まっているならデスクトップに出しておけばいいんです。そうすれば他の情報を視界に入れず、やるべきタスクに集中できる。そうやって他のことを考えなくて済む設計がポイントだと思います。
——1日の中でゆっくりする時間もあるのでしょうか?
事前にゆっくりする時間も決めておきます。その時間はやることがあったとしても絶対に何もしないようにする。「後で好きなことができるからいっか」と思えることも集中力のコントロールにつながる。流れに身を任せないようにしています。実は過集中メソッド®を作ったのは、「ダラダラする時間を作りたいから」と言っても過言ではないくらいです。好きな時間を確保するために、やるべきことの時間を短くする、そういう考え方をしています。
集中を区切ることも大切
——過集中というと、何時間も作業を続けてしまう人もいます。休憩を挟んだほうがいいのでしょうか?
集中できるようになると、集中し続けることで、ランナーズハイのような状態になります。でも、その後に疲れてしまうんです。そのときだけ集中すればいいのでしたら、それでもいいかもしれませんが、日常生活の中で使っていくとなると、疲れないための設計が必要なので、休むことも大事になってくるんです。
また一旦区切って見直すことで、成果物がより良いものになっていくこともあります。レポートや仕事の資料等を作成した時、少し時間を置いて見直すと、変なことが書いてあった経験がある方も多いのではないでしょうか。集中できているからといって、良質なアウトプットができているかというと話は別です。疲労するような集中をするよりは、一旦区切って休憩することで思考も整理されるので、休みを挟みながら再び集中に入ることが大切です。
過集中がよくないもののように言われてしまうのは、中断できなくて疲労を蓄積し、翌日にも支障が出てしまうことがあるからだと思うんです。でも過集中そのものは質の良い集中なので、集中のオン・オフの切り替えができれば、問題はありません。
——中断するのにおすすめの方法はありますか?
タイマーをかけたり、可能なら人に声をかけてもらったりと、物理的な方法がいいと思います。特に過集中気味の人はやめる仕組みをしっかり作った方がいいと思います。いずれは中断もコントロールできるようになっていくと思いますが、集中を一度切ってから再度集中に入ったという成功体験がないと、中断するのが惜しくなってしまうので、最初は訓練だと思って中断していただくとよいかと思います。
小さいお子さんだと自分で調整するのもまだ難しいと思います。私の家庭では、長男がドリルをやり始め、やりすぎているときには、ドリルを閉じて視界に入れないようにしています。私自身はフル充電のパソコンを充電器から外し、バッテリーがなくなるまでは仕事をするようにしています。バッテリー残量が減っているという通知が出ると「今日はそれだけ作業をしたんだ。もう終わらなきゃ」とスイッチを切り替えられるんです。
——中断方法の相性も人それぞれなのでしょうか?
本書では視覚優位(見て理解するのが得意)、聴覚優位(聞いて覚えるのが得意)、言語優位(言葉や文章で整理するのが得意)、体感覚優位(体を動かしたり、感覚でつかむのが得意)の4つの認知特性について説明しています。タイプによって中断しやすい方法も異なってくるんです。視覚優位の人は視界に変化を与えるのがいいと思いますし、聴覚優位の人はアラームをかけたり音楽を変えたりが有効でしょう。
体感覚優位の人はその場から離れたり、体の動きを変えたりするとか、言語タイプの人はアラームでも「終わりです」といった言葉のものを設定したり、人に声をかけてもらったり。自分のタイプによって向いている方法が違ってくるので、試してみる中で見つけていくといいと思います。
【プロフィール】
新井琴香(あらい・ことか)
1990年生まれ。音楽の街・静岡県浜松市出身。
東京藝大卒のピアニスト、過集中メソッド®創始者、精神保健福祉士として就労系障害福祉事業所の管理運営にも携わる。2児の母。
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