たった200時間のトレーニングでヨガ指導者になれるのか?YTTの実態と問題に迫る
昨今、ヨガ指導者になるには200時間ヨガティーチャートレーニング(YTT)を取得するのが主流だ。でも、本当にたった200時間のカリキュラムで生徒への真の安全性とヨガの伝統が守れているといえるのだろうか。
2015年、マンディ・ウナンスキ・エンライトは、今年こそヨガティーチャーになる、と決意した。栄養士でフィットネスインストラクターでもある彼女は、長年ヨガを練習してきたおかげで平穏でいられるし、最近は膝の靭帯損傷手術からも回復できた。エンライトは地元のニュージャージーショアのスタジオのヨガティーチャーたちに、どこのティーチャートレーニングに行くべきかたずねた。皆が口を揃えてすすめたのは、ニューヨークの有名なスタジオだった。
エンライトは、そのスタジオの200時間ヨガティーチャートレーニング(YTT)のカリキュラムに目を通し、修了生たちやスタッフにも話を聞いた。多くの推薦に確信を得た彼女は、自分の履歴書にその名高いティーチャートレーニングを書くことで、職を求める何千人ものYTT修了生たちの中でも目立てるだろうと思った(200時間YTT修了は、スタジオやジムで教えるための必須条件となっていることが多い)。そこで、思い切って4,000ドル(約44万円)を払い、ヨガの指導法を学ぶ気満々で初日を迎えた。だが、計画通りにはいかなかった。
「何時間も練習に没頭できて、リトリートとしては素晴らしい経験だったわ。だけど〝ティーチャートレーニング〞の面では、ずいぶん高くついた。冗談でしょって感じよ」とエンライトは言う。「習ったことといえば、2つのシークエンスと先生の言うことを真似ること、声の抑揚までね。解剖学やアジャストメント法のレッスンはほんの少しだし、ましてや指導者になる心得についてはほとんど習わなかったわ」。200時間のトレーニングが終わっても、生徒にとっての安全な環境の整え方や、2つのシークエンスに含まれない主要なアーサナについては全くわからなかった、とエンライトは言う。生徒たちを不快にさせたくなくて、アジャストメントをするのも怖かった。彼女はヨガを教えないことに決めた。
2016年には世界中で10万人以上のヨギがYTTへ投資
ヨガアライアンス(YA)の広報、アンドリュー・タナーによると、2016年には世界中で10万人以上のヨギが年間平均3,000ドルを200時間YTTに投資しており、エンライトもその一人だ。ヨガアライアンスは、ヨガコミュニティ最大の支援組織で、ヨガスタジオとティーチャーの認定登録や、200時間YTTで一般的に用いられる基準の考案を行っている。受講者の中には単に自分の練習を深めるために参加する人もいるが、ほとんどの人は、修了と同時に教えられるようになることを期待して臨んでいる。だが、エンライトのように、200時間を終えても、クラスを率いて、体の状態を把握し、生徒を混乱、失望、最も避けたいけがをさせずにサポートする技能が身についていないと感じる生徒も多い。
ヨガは何千年もの歴史を持ち、人生を変える力もある複雑な実践だ。だが今日のYTTプログラムは、10〜12回の週末分に相当するたった200時間のトレーニング(週末10〜12回分)で、部屋いっぱいの見知らぬ生徒たちに古代の智恵を伝えられるようになると、うたっているものが多い。生徒の中には、膝に痛みのある人、トラウマやうつを抱えている人、手がつま先に届かない人や、プレッツェルのように体を曲げられる人など、経験も状態もさまざまな人たちが集まって来ているというのに。たとえばYA認定の200時間YTTプログラムの案内を検索すると、次のようなことを約束する言葉が出てくる。「修了生は、誰にとっても安全で効果的なポーズの応用を学べる。自分自身や自分の生徒、あらゆる文化を癒す方法が学べる。ヨガアライアンスに登録できて、追加トレーニングなしで世界中どこでも教えられる」。
このようなうたい文句と、近年のYTTプログラムの爆発的な増加により、数十年の経験を持つ指導者たちの間ではヨガの完全性が失われることへの懸念が強まっている。
そもそも、なぜ200時間がヨガを教える資格の条件となったのだろうか? 果たして、その時間数で十分だろうか?
熟練指導者たちはどんな指導を受けてきたのか
30年以上の経験を積み上級トレーニングを行うヨギたち、たとえば、リチャード・フリーマン、メアリー・テイラー、ゲイリー・クラフトソウ、パトリシア・ウォルデンのような欧米の熟練指導者の多くは、メンターやグルのもとで何年も実践を行う昔ながらのやり方で指導者になった。解剖学トレーニングの時間数を記録するタイムシートやチェックリストはなかった。必要な時間数を満たしたら哲学のような課目は省く、ということもなかった。それどころか、師からクラスを任せてもいいという許可が出るまでは、学べることはすべて吸収しながら何カ月も練習に没頭した。「心から学びたいと思わなければだめよ」と言うテイラーは、35年前にヨガに出会い、師であるスリ・K・パタビジョイスから教える許可をもらうまで、一日も欠かさず何年も練習をしてきた。彼女は、昔ながらの習得法ではヨガの良い面と同じくらい重要な悪い面も経験できる時間があった、と思っている。「かつては練習を通じて成長する時間や、慈悲の心を育む機会が持てたの」とテイラーは言う。
この世代の指導者たちは、80年代の空前のフィットネスブームから、90年代に入って欧米でヨガが主流になるまでの過程を目の当たりにしている。アメリカの主要都市のジムでは、伝統的なアシュタンガヨガ、ヴィンヤサヨガの身体的な練習だけを抜き出したクラスが新設され、同時に週末プログラムでヨガティーチャーを修了させるYTTも現れた。同じ頃、ヨガは代替医療としても一気に注目され始めた。スワミ・サッチダーナンダの弟子で、カリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部教授のディーン・オーニッシュ博士は、心臓病は食事や瞑想、支援グループ、エアロビクス、ヨガによって回復しうるという研究結果を発表した。彼の研究は病院関係者の注目を集め、彼のヨガプログラムを取り入れる病院も出てきた。このすべての流れが最悪の事態を引き起こした。ヨガティーチャーの需要が急増し、ほんの数日で指導者になる能力が求められたのだ。
長年ヨガを実践する指導者や練習生たちは心配し始めた。もしジムや病院、保険会社、あるいは政府機関が、彼らの勝手な指導基準をこの古代伝統に義務づけてしまったらどうなるだろうか? 「それなら、自分たちで基準を設けたいと思ったんだ」とレスリー・上府は言う。彼は非営利教育団体「ブリージング・プロジェクト」の創始者で、シバナンダヨガとTKVデシカチャーの生徒である。カミノフも参加した基準をめぐる議論は80年代後半から徐々に表に出始め、90年代に入ると、議論の場はヨガカンファレンスを主催する非営利団体のユニティ・イン・ヨガに移った。「ヨガのすべてを含む、流派にかたよらない基準にしたいという強い思いがあったんだ」とカミノフは語る。
熟練ヨギたちが、最低トレーニング時間を200時間に制定
1988年になると議論は再び活発化し、さまざまな流派から十数人の熟練ヨギたちが集まって話し合った。彼らは自分たちを「アドホック・ヨガアライアンス」と呼ぶようになり、コロラド州エステスパークでのヨガジャーナルカンファレンスで、聴衆を前にヨガティーチャーの基準についてのプレゼンテーションを行った。ほどなくして、ユニティ・イン・ヨガから非営利法人格を譲渡されたアドホック・ヨガアライアンスは、ヨガアライアンスに改名した。その後、何カ月にもわたる審議や交渉や譲歩を経て、1999年ヨガアライアンス(YA)メンバーは、ティーチャーが生徒を安全に指導するための最低トレーニング時間を200時間とすることに合意した。数十年間インドのアシュラムで行われていた、一カ月の研修プログラムに基づいた時間数だった。
この200時間にはさまざまな分野の実践が割り当てられ、今でもその内訳は次のようにほとんど変わっていない。100時間のトレーニング、テクニック、実践。20時間(現在は25時間)の指導法、20時間の解剖学と生理学、20時間(現在は30時間)のヨガ哲学、ライフスタイル、倫理、10時間の実習、30時間(現在は15時間)の予備時間(上記の全カテゴリーをカバー)だ。「幅広く順応性のある構成なので、『これこそがやりたかったことだ』と言う人はいなくても、誰もが『いいね』とは言うだろう」と語るのは、アナンダヨガのディレクターで、元アドホックのメンバーであり今でもYAの取締役をつとめるナヤスワミ・ギャンディヴ・マッコードだ。
新たな基準とスヴァルーパヨガの創設者であるスワミ・ニーマラナンダ・サラスワティの指揮のもと、YAはヨガスクールと指導者たちの認定登録を開始した。ヨガスクールとして認定を受けるには、条件を満たしていることを示す書類を提出し、年間200ドルを支払う。指導者として認定資格を得るには、YTT修了証明書と55ドルを支払わなくてはならない(現在はどちらにも申請費がかかる)。
今日では、YA認定校は5,500以上、YA認定指導者は6万人以上にのぼる。「200時間基準がヨガ産業全体を生み出したんだ」とYA広報のタナーは言う。通常の場合YTTプログラムは、政府の認可を受ける必要がない。実はこの点がヨガコミュニティ内外での論争のポイントとなっている。デンバー在住のヨガティーチャー、サンディ・クラインは、信頼して指導を受けていた上級ヨガトレーニングのインストラクターたちが無資格者だと知って驚いた。2014年の終わり、彼女は80以上のヨガスクールが州の認可を受けずに操業していることをコロラド州の私立職業専門校部門(DPOS)に報告した。コロラド州上級教育省は、1981年から州法によってヨガスクールを含むすべての私立職業専門校の管理を委任されている。だが州内の何十校ものYTT認定校のうち、申請をして1,750ドルのライセンスフィーを支払っているのはわずかに13校のみだ。
「ヨガティーチングプログラムに関わる人は善意の人が多いけれど、だからといって彼らが最高の仕事をするとは限らないわ」とクラインは言う。彼女はYA基準とは名ばかりで、認定指導者たちは生徒たちを安全に練習させるだけの力を備えていないと論じている。だがタナーの指摘によると、YAはライセンス供与、認定、証明、規制のための機関であるとは一度も言っていないという(しかし多くのスクールは、顧客獲得のためにYAの認定や証明を受けていると主張している)。あくまでもYAの使命は当初から「ヨガを指導する上での完全性と多様性を促進しサポートすることに一貫している」とタナーは言う。「ヨガではすべてが結びつきなんだ。私たちは指導者と生徒たちの間に割って入る気はない。それに本当にいろいろなスタイルがある。どうやってクンダリーニとヴィンヤサを比べるんだ? どのヨガが『いい』なんて、決められるわけがないよ」。
YAはコミュニティ自身による管理を尊重しており、近年では政府によるティーチャートレーニングの管理を阻止すべく多額を投じて戦っている、とマッコードは語る。事実、YAはアラスカ、アリゾナ、アーカンサス、コロラド、イリノイ、ミシガン、ミズーリの7つの州でヨガを規制から保護する法律を通過させている。たとえばコロラド州議会では、2015年の春にヨガティーチャートレーニングを実施するスクールをDPOSの管理から外すための投票を行った。DPOSによると、ヨガインストラクターがその給料だけで生計を立てられるのは稀なため、ヨガ指導が職業として認められないというのが争点だった(YAの調べでは、ヨガが主要な収入源となっているヨガティーチャーは30%にも満たないという)。
最初にシステムの欠陥を認めたのはYAだった。「実際のところ、YA認定200時間トレーニングのすべてが同じようにつくられているわけではない」とタナーは言う。彼はよく言われる批判のすべてをすらすらと述べた。たとえば、現在の登録システムでは、下手な指導者でもトレーニングを率いることができる、とか、全くヨガ経験のない生徒がたった一カ月で指導者になれてしまう、という点だ。確かに200時間で、クラスの作り方や、さまざまな生徒の肉体的、精神的ニーズへの理解や、ヨガの古代伝統への尊敬を学ぶには無理がある。それにほとんどの200時間YTTでは、生徒の安全を図るための解剖学に十分な時間を費やしていない。また、YAには各スクールの基準を監査する権利もない。これらの理由により、ヨガコミュニティの中にはYAへの認定登録は金の無駄遣いだと言う人も増えてきている。
「人々がヨガの精神ではなく、認定証を追うようになるのは目に見えていた」
ヨガの完全性をサポートするという使命を果たすため、ヨガアライアンス(YA)は、2005年に認定ヨガ指導者の上位資格でE-RYT(Experienced Registered Yoga Teachers)を導入することによって、無資格のティーチャートレーニング指導者の問題に取り組むための一歩を踏み出した。「人々がヨガの精神ではなく、認定証を追うようになるのは目に見えていたよ」とマッコードは言う。彼は200時間の認定を受けたばかりの新米ティーチャーたちが自分のヨガスクールをオープンしたり、さまざまなワークショップを寄せ集めてティーチャートレーニングと称するのを見てきた。そこで、ヨガの指導テクニックや技法をYA認定校でシェアするにはE-RYTを取得する必要がある、と取り決めた。取得には、200時間RYTの修了後2年以内に1,000時間の指導経験を書面で提出しなければならない(RYTにならなくてもヨガ哲学と解剖学は教えることができる)。
2014年、YAはヨガコミュニティから監視を強化してほしいとの要望を受け、資格認定システムを導入した。ティーチャートレーニングの修了生がRYTの認定が欲しい場合は、受講したティーチャートレーニングプログラムを、YELPの認定校版のように記名評価をすることを義務づけたのだ。今日までに集まったフィードバックは5万を超えるという。「我々一人一人の回答がコミュニティ内に透明性をもたらすんだ」とタナーは言う。「もしもトレーニングに欠陥があれば……たとえば、カリキュラムがお粗末だとか、解剖学や哲学の講義が削除されていたら……我々は資格認定システムを通じてそれを知ることができる」。もしもある認定校が常に低い評価を得ていたら、YAが調査をして手助けをする。それが無理な場合はYAはそのスクールの登録を抹消する。タナーによると、すでに数校が登録を取り消されているという。「資格認定システムは、YTT基準の完全性を維持するための頼みの綱なんだ」と彼は話す。
だが、外部の監査人を置かずにシステムの有効性が保てるか、と疑問を投げる指導者たちもいる。「生徒たちの多くは、自分の好きなスタジオで好きな指導者のトレーニングを受けるので、単に自分たちが教える準備ができるかどうかという偏った視点で評価するでしょう」と言うのはジーナ・カプートだ。コロラド・スクール・オブ・ヨガの創設者でディレクターで、DPOSの制度に反対するコロラドのヨギグループの主催者でもある。彼女は、問題解決はそれほど容易ではないと見ている。「もっといいチェック法が絶対にあるはずよ。でも私たちはかなり広義にヨガを解釈しているから、本当の意味での規制はとても難しいと思うわ」とカプートは言う。
問題視される生徒の受講前のヨガ経験値
YAが対処していない問題の一つは、生徒がティーチャートレーニングを受講する前の経験値だ。中にはほとんどヨガをやったことのない人もいる。それを解決すべく、カプートのような指導者たちは独自の条件を設けている。カプートの場合は、ティーチャートレーニングの受講を許可するにあたり、2年間ヨガの実践を定期的に行っていて、指導者からの推薦状を提出できる人を条件としている。スマートフローヨガの考案者であるアニー・カーペンターも、生徒にポーズを指導するには経験が必須だと賛同している。カーペンターは、80年代にインテグラルヨガの創始者、スワミ・サッチダーナンダのもとでヨガを始め、アシュタンガヨガとアイアンガーヨガの両方の指導者たちと学んでいる。彼女は、どのポーズでも生徒たちに「自分にはどこまでこのポーズができるか?」と聞くように促しながら、それを具現化して教えられるのが良い指導者だと考えている。必ずしもトレーニングを受けなくても、長年の経験からその能力は得られる。だからカーペンターは自分の200時間プログラムを、生徒たちがより深くヨガに接し、自分が本当に教えたいかを見極める場、そして、彼女が生徒たちの資質を見極める場として位置づけている。もし生徒たちに教える資質があれば、その後さらなるトレーニングを用意している。「500時間トレーニングを修了するまでは教えるべきではないわ」とカーペンターは言う。「ヨガアライアンスは、誰を受講させるかという基準を設けないことによって、ティーチャートレーニングを複雑にしているのよ」。
カーペンターは、スマートフローヨガ指導者と名乗りたい生徒には、必ず彼女の500時間トレーニングと、彼女のメンタープログラムを修了することを条件としている。メンタープログラムを推奨しているのはカーペンターだけでなく、他の熟練指導者たちやヨガジャーナル共同創立者のジュディス・ハンソン・ラサター、次世代を担うティーチャーのアレクサンドリア・クロウも同様だ。ヨガフィジックスの考案者で、ヨガワークスでティーチャーたちに教えているクロウは、個人メンターやオンラインセッションを通じて生徒たちと長期の関係を築くことを奨めている。メンタープログラムで焦点を当てるのは、身体的機能、応用技能、哲学などの項目だ。「メンタープログラムは、ハンドスタンドのやり方を習うワークショップのように人気はないし、売上げになるわけでもないわ」と彼女は認める。だが、自信を持って送り出せる指導者を育てるためなら財政リスクもいとわない、とクロウは言う。
ある分野の実践をさらに深めたいと考える指導者向けの、専門性に特化したトレーニングも国内各地で増えてきている。たとえば、サンフランシスコの老舗スタジオ、ヨガツリーのティーチャートレーニング・ディレクター、ダレン・メインは、200時間トレーニングは単なる足がかりにすぎないと見ている。ヨガツリーでティーチャー職を得るには、たとえばヨガ哲学や、産前ヨガ、ヨガ心理学などの専門分野に特化したトレーニングをさらに300時間受講する必要がある。メインに言わせば、200時間トレーニング修了は週1回ジムでストレッチクラスを教えるレベルだ。「だが、ちゃんとヨガを教えたいなら、最低500時間のトレーニングが必要だ、1,000時間ならなおいいだろう」と彼は言う。「YAは通りにくい針の穴に糸を通すために必死になっているが、設定した基準があまりにも低すぎる」。
だが、新たな非営利団体ヨガネクストが、その基準を上げようと奮闘している。創立者のアーヴィンド・チチュマラは幼い時からインドでヨガを実践し、現在はロサンゼルスでヨガを指導している。ヨガネクストでは、350時間の基礎トレーニング、500および750時間の上級トレーニングを基準とし、5〜10年の指導経験の条件を満たして初めて登録ができる(チチュマラによると、およそ100名がすでに登録している)。2012年、彼は自分が提案した基準を35名のシニアティーチャーとともに見直し、2013年から実施している。チチュマラは、YAはアーサナ以外の実践に十分な注意を払っていない、と主張する。ヨガネクストの基準ではさらに細分化された時間数と教育を定めており、それにはプラーナヤーマ、バンダ、ムドラ、サンスクリット語、バクティヨガ、カルマヨガ、ラージャヨガ、アーユルヴェーダなどが含まれる。「これらの項目がYAの基準に含まれていたら、より多くのスクールが教えたいと思うだろう」とチチュマラは言う。
ヨガネクストではさらに解剖学と生理学の直接指導を最低45時間受けることを条件としており、筋肉と骨をみる西洋医学と、チャクラや微細身をみる東洋医学の両方を網羅している。一方、YAでは解剖学と生理学に20時間と定めており、そのうち直接指導は10時間のみとなっている。「本当に無意味な基準だわ」と言うミーガン・デイヴィスは、ワシントンDC在住のヨガティーチャーでヨガセラピストだ。「多くの人が私に言ってくるの、『医者からヨガを練習するように言われた』ってね。彼らのような人たちが深刻なけがをするかもしれない。肩けん鎖さ関かん節せつ離り開かいの生徒と一緒にオールレベルのヴィンヤサクラスはしないでしょう? でも、中にはやってしまうティーチャーもいるのよ」。デイヴィスはDCや海外で解剖学トレーニングを教えており、主要なけがについても網羅するようにしている。「20時間の解剖学レッスンなんてほんの一瞬よ。生徒やティーチャーたちにけがをして下さいって言っているようなものだわ」とデイヴィスは語る。
一方、ヨガコミュニティの医療専門家たちは、新米ティーチャーのクラスでけがをする生徒が増えているという調査報告はないと主張している。『メディカルヨガ(原題:Yoga as Medicine)』の著者で、ヨガジャーナルの医学編集者であるティモシー・マッコール医学博士は、ヨガ人気と、ペースの早いクラスやトレーニングによる体への負担、さらに熟練ティーチャーの不足がけがの増加の要因だと見ている。「けがの報告をしたがらない人が多いんだ」とマッコールは言う。「彼らは先生を慕っているから、歯を食いしばって大丈夫だと言う。だがひそかに整形外科に通っているんだ」。このような場合は、どのティーチャーでも管理しきれないだろう、と彼は理解を示す。「ティーチャーは、やってはいけないことをやらないように、と生徒たちに促すことはできるが、生徒たちの多くはやりたいからやってしまうんだ」。
「200時間は教える芸術を学ぶには不十分だが、教える技術についてはほとんど誰もが学べる」
200時間トレーニングの安全性や質が疑問視されていても、ほとんどのティーチャーは何もないよりはましだと認めている。「基準についての討論での私の最初のアイデアは、200時間トレーニングの修了者はティーチャーではなくインストラクターという名称で、あらかじめ決められたポーズのシークエンスを教える、というものだったんだ。ティーチャーとは、クラスに入って、その場のエネルギーを読み、生徒たちの身体的、精神的なニーズに合わせてヨガを教えられる人だからね」とカミノフは語る。
また、現在の基準が役立っている人たちもいる。ヨガティーチャーで、ティーチャー指導者、ヨガアライアンス広報のタナーは、彼の200時間トレーニングの修了生たちに勇気づけられているという。彼の生徒たちの約半分は、すぐにでも教えられる準備ができている。タナーはトレーニングに厳しい申請手順を加えており、生徒たちが自分のヨガをどれだけ具現化できるかを見るためのオーディションを設けている。タナーはこれがYA の200時間トレーニングの条件を超えていると理解している。そして新200時間YTTへの批判も競争激化で急成長する業界にありがちなこととして捉えている。
今も、毎年何百人もの生徒たちが、教える意欲満々で200時間トレーニングを修了している。たとえば2015年に200時間を修了したコナー・バーンズは、修了後一カ月でクラスを持つようになった。「200時間は教える芸術を学ぶには不十分だが、教える技術についてはほとんど誰もが学べる」とバーンズは語る。
実際、新たにヨガアライアンス(YA)に登録したヨガティーチャーのほとんどは200時間修了生だ。YTT修了生のおよそ30〜50%が登録している、とタナーは見積もっている。未登録の修了生は、おそらく教えるつもりはないのだろう。また、アシュタンガヨガやアイアンガーヨガのように200時間枠に同意しない流派やスタイルを実践してティーチャーになっている者たちもいる。YAは500時間トレーニングの認定基準も設けてい
るが、YAのマッコードによると、登録するにはいくつかの障害があるという。「金銭的に余裕がない人たちもいる」と彼は言う。それに500時間に従事するよりも継続教育のワークショップを時々受ける方が容易だ。YAはYTTからの収益により、奨学金制度や支援提供、無料のオンライン教育、より安い責任保険のレート交渉などを通じて、ティーチャーやスクール、彼らのビジネスをサポートしている、とタナーは語る。さらに、YAは今、高価になることが予測される州政府によるYTTの基準設定との戦いに優先的に力を入れている、とつけ加えた。「あなたのヨガティーチャー、あるいは彼らのヨガティーチャーがやらなくていいことを請け負っているんだ」。
今も、200時間トレーニングはその基準を保っている。中には200時間のトレーニングでティーチャーとして成功を収める人もいれば、2,000時間やっても失敗する人もおり、問題を解決するためのクリアで誰からも支持される道はないかもしれない。だがシニアティーチャーの多くは協議を続けることに同意している。そんな最中、カミノフは2つの大事な点を強く訴えている。学び続けること、知らないことについて知っている振りをしないこと、だ。
まさにそれは、200時間を修了したエンライトが行ったことだった。初めてのYTTを終えてまもなく、彼女はニューヨークの他の有名スタジオの300時間トレーニングに申し込んだ。だがこのときは、まず彼女はそのスタジオでレッスンを受け、ティーチャーたちを知るようにした。「最初のトレーニングでは、自分が何を求めているのかさえわかっていなかったの」とエンライトは説明する。「オンラインでトレーニングの内容を読んでいても、みんな同じに見えるでしょう。でも実はまったく違うの。ぜひ実際にそのスタジオに行って、自分に合うか見るべきだと思うわ」。彼女は300時間トレーニングを修了して、ようやく自分らしく教えられると感じ、安全にシークエンスを導けるようになった。そして彼女は、生徒を教えるための部屋を見つけた。
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