「頑張って」「大丈夫」は言っていい? がん専門カウンセラー門倉紀子が語る、がん経験者に寄り添うために知っておきたいこと
大切な人ががんになったとき、「何と声をかければいいのだろう」と戸惑う人は少なくありません。一方、善意から伝えた励ましや健康情報が、相手を苦しませてしまうこともあります。看護師として30年のキャリアを持ち、そのうち約20年にわたりがん経験者と向き合ってきた門倉紀子さんが講演で語った、経験者との関わり方とアピアランスケアについて紹介します。
アピアランスケアは「きれいにすること」だけではない
抗がん剤による脱毛や眉毛の変化、乳房切除など、がん治療によって外見が変化することがあります。
そうした外見の変化に伴う苦痛を軽減し、その人らしい生活を支えるのが「アピアランスケア」です。
門倉さんは長年この分野に携わってきましたが、医療現場でも「アピアランスケア」という言葉自体がまだ十分に知られていないと感じることがあると話します。
重要なのは、「見た目を元通りにする」ことそのものが目的ではないということ。
たとえば、乳房切除後には再建をするという選択もあれば、これ以上手術を受けたくないという人もいます。乳輪や乳頭の見た目を補う方法、医療アートメイクなど、さまざまな選択肢があります。
一方で、患者から相談されなければ説明されなかったり、年齢などを理由に十分な情報が伝えられなかったりすることもあるといいます。
選択肢を知ったうえで「私はしない」と決めることと、そもそも選択肢を知らないまま過ごすことは、まったく別のことです。
アピアランスケアとは、見た目を整えることを強制するものではありません。その人が自分らしく生活するために、必要な選択肢を知り、自分で選べるようにすること。それが大切なのだと門倉さんは話します。
患者さんとの関わりで大切なのは「想像力」
「看護に一番必要なものは何か」
そう問われたとき、門倉さんが今なら答えるというのが「想像力」です。
目の前の人は、本当に今の説明を理解できているだろうか。何か聞きたいことを抱えているのではないか。説明をしながら、少しでも「?」という表情が浮かんだ人がいたら、「何か聞きたいことはありますか」と声をかける。最初に「ちょっとでも気になったら、その場で質問してくださいね」と伝えるのも大切だといいます。
医療者にとっては何百人、何千人という人に繰り返してきた説明でも、患者にとっては初めて聞く話かもしれません。専門用語を使っていないつもりでも、突然がんと診断され、混乱している状態では、頭に入らないこともあります。
だからこそ、一方的に説明するのではなく、その都度、納得できているかを確認する。
メリットだけでなくデメリットも話す。他の選択肢も伝える。自分に分からないことは分からないと伝え、必要であれば、その分野に詳しい専門家につなぐ。
「自分が全部できる必要はない。分かる人につなげばいい」
フリーランスになり、さまざまな領域の専門家とつながったことで、門倉さん自身もそう考えるようになったといいます。
「大丈夫」「頑張って」がつらいこともある
では、家族や友人ががんになったときは、どう接すればいいのでしょうか。
門倉さんが注意してほしい言葉として挙げたのが、「早く見つかってよかったね」「今のがんは治るから大丈夫」「頑張って」などです。
もちろん、関係性や状況によっては励ましになることもあります。
しかし、「よかったかどうか」を決めるのは本人です。
すでに診断を受け、治療を選び、副作用にも耐え、生活の変化にも向き合っている人に「頑張って」と言うことで、「これ以上、何を頑張ればいいの?」と感じさせてしまう場合もあります。
「気持ちはわかる」という言葉も同じです。
がんを経験した本人にしか分からない感覚があります。分かったつもりになるより、何を言えばいいか分からないときには、ただ隣にいて話を聞く。それだけで安心につながることもあります。
また、「仕事を辞めたほうがいいでしょうか」「子どもに病気のことを伝えたほうがいいでしょうか」と相談されたときにも、すぐに答えを出す必要はありません。
門倉さんは、「◯◯さんはどうされたいと思いますか?」と聞き返すことを大切にしています。
本人の中には、すでに答えがあり、誰かに背中を押してほしいだけのこともあるからです。
「あなたのため」の情報が、がん経験者を苦しめることもある
もうひとつ門倉さんが強く注意を促したのが、がんをめぐる健康情報です。
「糖はがんの餌だから甘いものを食べてはいけない」
「乳製品や肉、白米はやめたほうがいい」
「抗がん剤をすると体がボロボロになる」
「日本だけが抗がん剤を使っている」
「この水を飲めばがんに効く」
SNSなどでは、こうした情報を目にすることがあります。
家族や友人から「あなたのためを思って」と勧められるケースもありますが、不確かな情報によって食事を過剰に制限し、体重や体力を落としてしまえば、治療を続けることにも影響しかねません。
SNSそのものが悪いわけではありません。同じ経験をした人の言葉に救われたり、患者会や支援につながったりすることもあります。
ただし、SNSに見えているものが、すべてのがん経験者の姿ではありません。
つらい思いを吐き出すために投稿している人もいれば、元気に日常生活を送っていて、病気についてほとんど発信していない人もいます。
情報を集めるほど不安が強くなったときには、一度SNSから距離を置く。そして分からないことは、信頼できる医療者に相談することも大切です。
主治医に話しづらければ、主治医以外でも構いません。
最後まで話を聞いてくれる人。世間話ができる人。「先生に聞いてください」で終わらせず、「私から伝えておきます」「一緒に診察室に入りましょう」と言ってくれる人。
病院の中にも、そんな「頼れる人」を見つけてほしい。
治療だけではなく、外見、仕事、家族、生活、そして心まで。がんを経験した人が抱える悩みは一人ひとり異なります。
だからこそ、「こうすべき」という正解を押しつけるのではなく、まずその人が何を望んでいるのかを聞くこと。
それが、門倉さんが長年、患者と向き合うなかで大切にしてきた、寄り添い方なのかもしれません。
お話を伺ったのは…門倉紀子さん
群馬県伊勢崎市在住。看護師経験30年(がん看護経験20年)。2016年 日本看護協会「がん化学療法看護認定看護師」取得。資格取得後は、治療の選択や副作用対策だけでなく、心理社会面、アピアランスケア、アドバンスケアプランニング、在宅支援など、がんサバイバーに関わるさまざまなケアに尽力した。2023年「親友のようながん専門カウンセラー®」としてナラティブハート®を開業、2025年 日本がん・生殖医療学会「認定がん・生殖医療ナビゲーター」取得。2026年ブレストアロマセラピスト上級講座受講。インスタグラムアカウント@nori_narrative_heart
※本記事は、乳がんによる右胸全摘を経験したMTコスメティクス代表・板橋理恵氏が、一般社団法人Re.代表・ブレストアートメイク看護師の岩元淑子氏の活動に共感し、会場提供という形で支援した研修会での講演内容をもとに構成しています。研修会では、がん専門カウンセラー・門倉紀子氏が登壇し、本記事ではそのお話の一部を紹介しています。
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