「治療が終われば不安も終わる」わけではない。がん専門カウンセラー門倉紀子が語る、診察室では話しきれないがん経験者の本音

「治療が終われば不安も終わる」わけではない。がん専門カウンセラー門倉紀子が語る、診察室では話しきれないがん経験者の本音
Getty Images

がんと診断されたとき、向き合わなければならないのは治療だけではありません。仕事や家族との関係、これからの人生、再発への恐怖――。病院の診察室だけでは話しきれない悩みを抱える人も少なくありません。看護師として30年、そのうち約20年にわたりがん経験者の看護に携わり、現在は「がん専門カウンセラー」として活動する門倉紀子さんに、がんを経験するということ、そしてその心に寄り添うために大切なことを伺いました。

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病院の中だけでは、患者さんの悩みを支えきれない

群馬県伊勢崎市在住の門倉紀子さんは、30年のキャリアを持つ看護師です。長年がん経験者の看護に携わり、2016年には日本看護協会の「がん化学療法看護認定看護師」の資格を取得。2023年にはフリーランスとなり、がん専門カウンセラーとして「ナラティブハート」を開業しました。

現在は対面のほか、ZoomやInstagramのDMなどを通じ、がんを経験した人やその家族から相談を受けています。

門倉さんが病院の外で活動するようになった背景には、看護師として多くの患者と接するなかで抱いてきた思いがありました。

病院では、治療方法や薬の副作用、検査結果など、限られた時間の中で伝えなければならないことがたくさんあります。一方、その人がどんな人生を歩んできたのか、何を大切にしているのか、家に帰ってからどんな不安を抱えているのかまで、十分に聞く時間を持つことは簡単ではありません。

治療そのものだけでなく、「その先にある生活」を支える人が必要なのではないか。そう考えたことが、がん専門カウンセラーとして活動するきっかけになったといいます。

「ナラティブ」には、「語り」「物語」という意味があります。

ナラティブハートには、ここを訪れる人が主人公となり、親しい友人に話すように、これまでの人生で大切にしてきたことや、これからどんなふうに生きていきたいのかを、心と心で語り合ってほしい――そんな思いが込められています。

「主人公は、ここを訪れるあなたです」

ナラティブハートのホームページには、そう記されています。

がんと診断された瞬間、「昨日までの自分」と世界が変わる

講演で門倉さんが紹介したのは、実際にカウンセリングを受けた人たちの声です。

「一人だけ別の世界に来てしまったような絶望感がある」

「毎朝目を覚ますと、自分はがんなのだと思い出す」

「少しでも体に痛みや不調があると、再発ではないかと思って立っていられなくなる」

「治っていると言われても、何年経っても不安がなくならない」

がんになる前には、誰もがそれぞれの人生を思い描いています。

結婚して家族をつくりたい。子どもの成長を見守りたい。仕事を頑張りたい。起業したい。老後には旅行を楽しみたい。

ところが、がんという予想していなかった出来事が起きた瞬間、それまで当然のように思い描いていた未来が揺らぎます。

治療が順調に進んだからといって、その不安まで同時になくなるとは限りません。特に検査が近づくたびに再発が怖くなったり、些細な体調変化に敏感になったりすることもあります。

「検査の1週間前になると、Zoomの向こうで泣いている。でも最後には笑って終わるんです」

毎月のように、1年半以上もカウンセリングに通い続けた人とのやり取りを、門倉さんはそう振り返ります。

無理に「前向き」にならなくていい

がんを経験した人の発信をSNSで見ていると、病気をきっかけに新しい活動を始めたり、患者会を立ち上げたり、自らの経験を誰かのために役立てたりしている人も目にします。

もちろん、それもひとつの生き方です。

しかし、すべての人が短期間で前向きになれるわけではありません。

大きな喪失や衝撃に直面したときには、まず悲しみや苦しみと向き合う時間が必要だと門倉さんは話します。

たくさん泣く人もいる。なかなか現実を受け止められない人もいる。半年や1年で新しい一歩を踏み出す人もいれば、5年、10年と時間が必要な人もいる。

そこで無理に明るく振る舞ったり、周囲に心配をかけないよう元気に見せ続けたりする必要はありません。

また、病気を経験したあと活発に活動する人のSNSを見ることさえ、つらく感じる人もいます。

大切なのは、「がんを経験したのだから、何か意味を見つけなければ」「もっと前向きにならなければ」と自分を追い立てないこと。

その人には、その人の時間があります。

治療だけを見るのではなく、その人がこれまでどんな人生を歩み、これからどんな人生を望んでいるのかを見る。

門倉さんが病院の外で行っているカウンセリングは、病気だけではなく、一人の人間の「物語」に耳を傾けることから始まっています。

お話を伺ったのは…門倉紀子さん

群馬県伊勢崎市在住。看護師経験30年(がん看護経験20年)。2016年 日本看護協会「がん化学療法看護認定看護師」取得。資格取得後は、治療の選択や副作用対策だけでなく、心理社会面、アピアランスケア、アドバンスケアプランニング、在宅支援など、がんサバイバーに関わるさまざまなケアに尽力した。2023年「親友のようながん専門カウンセラー®」としてナラティブハート®を開業、2025年 日本がん・生殖医療学会「認定がん・生殖医療ナビゲーター」取得。2026年ブレストアロマセラピスト上級講座受講。インスタグラムアカウント@nori_narrative_heart

※本記事は、乳がんによる右胸全摘を経験したMTコスメティクス代表・板橋理恵氏が、一般社団法人Re.代表・ブレストアートメイク看護師の岩元淑子氏の活動に共感し、会場提供という形で支援した研修会での講演内容をもとに構成しています。研修会では、がん専門カウンセラー・門倉紀子氏が登壇し、本記事ではそのお話の一部を紹介しています。

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