「SNS映えしなくても丁寧じゃなくてもいい」余裕がない人にこそ届けたい、自分を大切にする方法

『たいていのことはめんどくさい』(文藝春秋)より
『たいていのことはめんどくさい』(文藝春秋)より

「ご自愛」がテーマの漫画『たいていのことはめんどくさい』(文藝春秋)。主人公・片岡よしの(32)は地元・宇都宮を出て東京で就職するものの、がんばりすぎて限界を迎え、彼氏から逃げ出し地元にUターン転職します。地元に戻ってからも無理をしていたよしのですが、あるお店に入ったことをきっかけに「自分を大切にすること」に向き合い始めます。作者の六多いくみさんに、インタビュー後編では、キャラクターの造形に込めた思いや、六多さんのセルフケア事情について伺いました。

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キャラクターはみんな問題を抱えている

——読み進めるうちに登場人物の「こんな面もあるんだ」と気づきがある点が印象的でした。造形で意識されたことをお話しいただけますか。

これまでは読者さんに嫌われたくないという気持ちが強くて、いい人を多く出してしまう癖があったのですが、今回は何かしら「問題」を抱えているキャラクターを出そうと思って。初登場では「嫌な感じ」と思うポイントが出るよう意識して描きました。

たとえば同僚の一人の小西さんは、正直すぎて思ったことがそのまま口から出てしまうタイプ。もう一人の同僚の深田くんは、「男性は嫉妬が見えにくい」と言われる傾向にありますが、嫉妬深いキャラクターにしました。二人とも素直とも言えて、思っていることが顔や言葉に出てしまうんです。

私自身は、若い頃は自分の言いたいことをつい我慢したり、心を開けなくて、自然と距離を取ってしまう癖がありました。距離を取っていると相手のこともわからないですし、その人がどんな人で、どういうことが嫌でどういうことが得意なのかも掘り下げられない。「この人はこういう人だ」と勝手に決めつけて、距離を作りがちでした。もしそこで一歩踏み込んで言葉をかけられていたら、関係が変わったかもしれないと思うことが多かったんです。「自分にできなかったことをよしのにやってもらおう」というちょっとズルい気持ちで、よしのが周囲の人たちと関わっていく中で違う側面も見えるストーリーにしています。

『たいていのことはめんどくさい』(文藝春秋)より
『たいていのことはめんどくさい』(文藝春秋)より

——元恋人の瑛二さんは最初はモラハラ気質なのかな、と疑いながら読んでいましたが、だんだんと印象が変わっていきました。

瑛二は一見すると思いやりがあって、弱っている彼女を守ってあげたくてプロポーズしたという“良い彼氏”と見られることもあり得るキャラクターです。でもよしのを「守るべき頼りない存在」として見ているところがあって、悪い人ではないけれども、よしのを一人の人間として尊重することができていないんです。

瑛二は、よしのが連絡もせずに地元に戻ってしまって自分の置いていかれてしまった感情を、自分で処理できていない状態で、ずっと拗ねているんです。その「拗ねている」という感情に、これからどう向き合っていくのか。もちろん自分の力だけではなく、適切に人を頼ったり、自分の弱いところを伝えたうえで然るべきところに助けてもらったりすることが大事です。ただまずは、「自分は今よしのに対してずっと拗ねているのだ」と気づいて、次に進めるように、という思いを込めて描いています。

私の中では、他人に強く出てしまう人は「自分のケアができていない人」というイメージがあります。自分の機嫌や傷つき、不安を自分で解消できないから、誰かに当たったり強く出たりして、自分を保っている。それは、極端な気質の人でなくても、人間なら誰しも持っているものではないでしょうか。瑛二を通じてそういったことも考えるきっかけになったら、と思っていますし、セルフケアを難しく感じてる人は少なくないと思うので、本作からヒントを得てもらえたらうれしいなとも思っています。

——6話の深田さんの「あなただけが生きるの下手なわけないじゃないですか」というセリフには、グサリとくる読者も多そうだと感じました。

私自身の経験から出てきたセリフです。ここまで直接的に言われたわけではないですが、私は自分に対してはすごく繊細なのに、周りに対しては鈍感だった頃がありました。自分がつらくなると、周りの人も同じように何か抱えているということを忘れてしまうことがあって。特に外で働いていた頃は、「みんなはちゃんと仕事ができて、悩みがあってもそつなくこなしているのだろう」と思い込んで、「なんで自分だけできないんだろう」とマイナスモードに入って、先輩に機嫌を取ってもらうようなことをしていました。今思い返すと恥ずかしくて、同じような面があるよしのにも、一度気づく機会が必要だと思ったので、深田くんにあのセリフを言ってもらったんです。

気づいたからといって、急に変われるわけではありませんが、気づくことができれば対処が可能になる。立ち振る舞いを変えることはできるんですよね。

『たいていのことはめんどくさい』(文藝春秋)より
『たいていのことはめんどくさい』(文藝春秋)より

一般論よりも自分に合うセルフケアを

——六多さん自身、日々のセルフケアは変わっていったのでしょうか?

まず整体へ行くようになって、股関節からほぐすよう言われて、家でもできる1、2分で終わる簡単なストレッチを教わりました。そこから少しずつ、自分のケアをするようになっていきました。第1話に出てくる「梅干し入りの白湯」も、そのひとつです。白湯に体に良いとされるものを入れる「トッピング白湯」というジャンルがあると知って「これなら続けられるかもしれない」と思い始めました。毎日きっちり続けるというよりは、余裕がある日に取り入れるくらいの気持ちです。

体にちょっといいことを、両手の指の数くらい引き出しに持っていて、「今日はこれをやろう」「明日はこれをやろう」とローテーションで回している感覚ですね。健康は継続が大事だとよく言われますが、私は同じことをずっと続けるのが苦手なんです。白湯のほかにも、お風呂に入って体をほぐす、炭酸水にレモン汁を入れて飲むなど、努力しなくてもできることをぐるぐる回しています。白湯も鉄瓶は持っているのですが、疲れているときは電気ケトルで沸かしたお湯で十分だなって思って、無理しないようにしています。そうやって過ごしていると、定着しないものは自然になくなっていきます。義務的にやらず、自分の中で忘れてしまったものは自分に合わないと思って諦め、手元に残ったものを大事にしています。

一時期、ジムに通ったこともあります。最初は合っていると思って8カ月ほど通いましたが、あるとき周りの音がすごく気になるようになって、行くと逆に疲れてしまうと気づきました。健康情報としては「筋トレをしなさい」と書かれていますが、私にはどうしても筋トレが定着しなくて。一方でウォーキングは好きで続けています。一般論としては筋肉をつけた方がいいのだと思いますが、私にとってはウォーキングが合っているのだから大切にしようと思うようになりました。

——一連の経験を通して、「自分を大切にすること」とはどういうことだと思いましたか。

わかりやすく何かをするというよりは、自分の本当に望んでいることを自分で掬い取ってあげること、自分の声をちゃんと聞いてあげることだと思うようになりました。何をしたくて、何が苦手で、何が負担なのかを一つひとつ探っていく。可能な範囲で自分の望みを叶えていくことが私にとっての「自分を大切にすること」なのかな、と思っています。

「ていねいな暮らし」でなくていい

——日々の生活に追われて、自分を大切にすることが難しくなっている人に向けて、メッセージをいただけますか。

余裕がないときのご自愛って、難しいことをやろうとしてる状態とも言えると思うんです。そもそもハードルが高いことなので、継続にこだわる必要も、無理して「絶対にこれをやらなければ」と頑張る必要もないんじゃないかなって。子育て中だったり、仕事が本当に詰まっていたりして、時間をとるのが難しいときもあると思うのですが、15分以内に終わることを1つやってみるとか、その時間だけは自分を優先してみるという感覚なら取り入れやすいんじゃないかと思います。

私は「こうでなければいけない」という思い込みをとにかくなくすよう心がけています。たとえば「炭酸水にレモン汁」も、レモンを絞ろうと思ってもできないんです。切って絞ればいいだけなのに、残ったレモンを保管することを考えるとめんどくさくて、市販のレモン汁を使ってしまう。でも「ていねい」とは見られなくても「自分にちょっといいことをしたぞ」という気持ちになれることは、たくさんあると思うんですよね。

最初から「ていねいに綺麗に」とがんばらなくてよくて、雑でもいいからやってみる。そういう気持ちで自分のモチベーションを保っているところがあります。普段の生活を写真に撮って誰かに見せるわけでもないですから、「SNS映えしなくても、自分を大事にできるよ」と自分で自分を励ましています。

 

『たいていのことはめんどくさい』(文藝春秋)
『たいていのことはめんどくさい』(文藝春秋)

【プロフィール】
六多いくみ(ろった・いくみ)

健やかに暮らしたい漫画家。宇都宮市在住。
代表作『リメイク』『メイクはただの魔法じゃないの』
最新作『いつかのいつか』『たいていのことはめんどくさい』

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