「性差別を憎んで、人を憎まず」私たちはアップデートの途中…フェミニズムと漆黒の恋愛史から学んだこと【対談】
「自分らしくいるほどモテから遠ざかる」「嫌だと感じても言い返せない」——かつて多くの女性が抱えてきた葛藤は、今を生きる10代にも形を変えて受け継がれているのかもしれません。さらに、自身の過去の失敗を振り返りながら語られる「みんなアップデートの途中」という言葉や、中高生から寄せられる家庭の悩みのリアルまで。『男と女、どっちがずるい? 10代のジェンダー、49の疑問と悩み』(集英社)の著者であるアルテイシアさんと太田啓子さんに、引き続きじっくりとお話を伺いました。
自分らしさを出すほど「モテ」から遠ざかる引き裂かれ
——本書でも「モテること」に関連する質問がいくつかありましたが、今まで悩んできたことはありますか?
太田啓子さん(以下、太田):私は、漫画『タッチ』の浅倉南のような、明るくて、可愛くて、みんなにモテモテ、みたいな女の子みたいなポジションにいたかったんですよね。でも自分は、男子に「怖い」と言われるような、国語の授業で先生を論破してしまうようなタイプの女の子だったんです。自分の良さを出せば出すほど、「男の子にモテる女の子」ポジションから遠ざかっていくんじゃないかという感覚があって、10代の頃はずっと引き裂かれる感覚がありました。
アルテイシアさん(以下、アル):時代もあると思うんです。私たちの頃は「モテ=肉じゃがを作る」みたいな世界観だったので、男性に尽くす女性像が正解とされてた。でも今SNSでモテ研究していると「彼がいなくても楽しめる女になれ」「自立した女になれ」というメッセージのコンテンツが多い。インスタでそういうのばかり見ていたら、モテ指南がじゃんじゃん流れてきて、めちゃめちゃモテたい人のタイムラインみたいになってます(笑)ともあれモテの基準も変わってきて、私たちの世代が感じてた引き裂かれは、当時の文脈ではもっと強かったんじゃないかって。
太田:「私を好きだと言ってくれる人なんてレアキャラ」だと思い込んでいたから、「この人と別れたら次はない」と思って付き合い続けてしまうところもありました。自信のなさが、結果的にモラハラする人ともズルズル付き合うことにもつながっていた気がします。
——嫌だと感じたときにその場で言えていたのでしょうか。
太田:私は言えない女の子でした。30年くらい前、風邪で喉が痛くて、何個ものど飴を舐めていたら、当時のパートナーから「太るぞ」と言われたんです。すごく傷ついたんですけど、「ひどい」と言い返せなかった。
アル:ひどいわ!!私は彼氏に体型のことを言われたら鬼の形相でキレたから、相手はビビッて二度と言わなくなりました。でも太田さんがキレられなかった気持ちもわかります。私も恋愛については漆黒の歴史の連続だったので。
太田:自分のことと、他人のことは全然違うものなんですよ。友人が同じ目に遭った話を聞いたら、「モラハラだから別れた方がいい」と即答できる。でも自分の話になると、「こんな私を好きだと言ってくれる人は他にいない」と思って吞み込んでしまう。
——いつから「NO」と言えるようになったのでしょうか。
太田:離婚がそれまでの人生で最大の「NO」だったと思います。30代後半で離婚を決めて、4年くらいかけて手続きをし色々大変でした。今振り返ると、結婚生活と離婚から学ばせてもらったことも『これからの男の子たちへ』(大月書店)の出版にもつながっています。
アル:太田さんの血と涙の結晶があの本なんだね。黒歴史は恥でもないし役に立つ。
——フェミニズムを学ぶことで、モラハラやDVを見抜く力もついてくるのでしょうか。
太田:完全に避けきれるとは言えないと思います。フェミニストが「なぜそこに飛び込んでいくんだろう」と思うような相手と付き合ってることもありますよねえ。。ただ自分が今どういったところに飛び込もうとしているのか理解する力はあって、飛び込むこと自体は止められないけれども、フェミニズムの理解のおかげで、何が起きているかは分析できているというか。フェミニズムによって救われはするにしても、だからといって恋愛で失敗しないかというと話は別かなと思います。
私たちもみんなアップデートの途中
——読者さんの中には「過去にこういうことを言っちゃったから自分はフェミニズムを語れない」と思っている方もいると思います。
太田:私自身、子どもの頃ですけど、「男の子はガサツで傷つかない生き物」という思い込みがありました。小学生の頃、近所の仲良しだった男の子がピアノを習い始めたときに、私は「ピアノが似合わない」ってひどい言い方をしたと思います。でもそのときその子のお母さんが私を叱ってくれたんですよね。そのときちゃんと言ってもらえたことは今でも感謝しています。
アル:私は「みんなアップデートの途中」を人生の標語にしてるんです。私も色々と間違ってきました。たとえば30年くらい前のテレビ番組で、大御所の芸人さんが後輩を呼び出して、「脱げ」と言って本当に脱がせてムチで叩く、というドッキリ企画があったんですよ。今ならテレビ局に意見を送ったりSNSで抗議の声をあげたりするレベルのものだと思いますが、当時の私はゲラゲラ笑ってたんです。
30年前でも同じことを女性にできない空気はありました。でも男性に対するものは「ネタ」として消費する空気があって、私もそのままインストールしてたんです。フェミニズムを知る中で男性の性被害が軽視されがちなこと、そういった空気があるゆえに被害申告のハードルが上がっていることを学んで、今は「どうして昔はあんなものを見て笑えてたんだろう」って感覚なんですよね。
女性に対しても「なんであんなこと言っちゃったんだろう」って思ってることもあります。20代のとき友人が上司と一緒の仕事で終電を逃してホテルに泊まることになって、別室を取ったのに、上司が「ちょっと部屋に入れて」と言ってきて被害に遭ってしまった。その話を聞いたとき「なんで部屋に入れたの」と言ってしまったんです。当時から彼女に責任があるとは思ってなくて、加害者の男性に対する怒りと、彼女が被害に遭ったことの悔しさで出てしまった言葉でしたが、結果として彼女を責めてしまった。今でも反省してる出来事です。私自身もこういう失敗をしてるけど、性暴力をなくし、被害者が責められない社会をつくったほうがいいから「性差別を憎んで、人を憎まず」という気持ちでいます。人はみんな間違うし、アップデートの途中なんですよね。
中高生からの相談で見えてくる家庭の現実
——お二人とも、講演で中高生と接する機会が多いとのことですが、子どもたちから印象的だった相談はありますか。
アル:「うちの親のジェンダー観がヤバい」という相談は多いですね。たとえば「父親は会社ではジェンダーや人権の研修を担当してるけど、家では家事を母親に丸投げで、口だけなのを見てるのがつらい」とか、親から体型のことをイジられて摂食障害になっちゃったとか。でも親のことを嫌いになりたくなくて、泣きながら相談してくる子もいます。
学校でLGBTQの授業を受けて家で話したら「あんたもそっち系なの?」と言われたという相談もありました。たしかに子どもにジェンダー教育は必要だと思いますが、むしろ親の方こそアップデートが必要だ、と感じる場面はよくありますね。
太田:親のジェンダー観に悩んでいる話は私もよく聞きます。「女の子だから進学しなくてもいい」と親から言われて悩んでいる生徒がいるんですけど、どう答えればよかったでしょうか、と高校の先生からご相談いただいたこともありました。私は「親御さんだからと遠慮してかばうんじゃなくて、あなたのお母さん/お父さんのその発言はひどいとその子に言ってあげるのがいいですよ」とお伝えしました。家庭に関する言及を遠慮してしまう気持ちが先生にはあると思うんですが、親の言葉に傷ついている子どもには、周りのほかの大人が「あなたの親のその言動はひどい」という考えを伝えることが救いになることもあると思うんですよね。
アル:それでも先生は立場上言いにくいこともありますよね。私たち外部講師なら言えることもあるので、ぜひ授業に呼んでください!
太田:女性専用車両やレディースデーがネットミームのように使われているように、ネット上に女性叩きコンテンツがあふれているので、息子をミソジニーに染めたくない、もしくはすでに影響を受けているのでどうしたら……といったご相談を保護者の方から聞くこともあります。
アル:ジェンダーの本やマンガを、食卓やトイレなどにそっと置いておくといいんじゃないかなって。思春期の子どもは、親の言うことを聞かなくなりますよね。私も大人の言うことなんか聞いたら負けやと思ってました。だからさりげなく情報に触れる機会をつくっておくのがいいんじゃないかと思います。
【プロフィール】

アルテイシア(写真・右)
ジェンダーやフェミニズムを明快に軽快に語り下ろす作家。頌栄短期大学非常勤講師。全国で講演や授業も多数おこなう。
主な著書に『だったら、 あなたもフェミニストじゃない?』『生きづらくて死にそうだったから、いろいろやってみました』(講談社)、『モヤる言葉、ヤバイ人から心を守る言葉の護身術』(大和書房)、『ヘルジャパンを女が自由に楽しく生き延びる方法』『フェミニズムに出会って長生きしたくなった。』『離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由』『40歳を過ぎたら生きるのがラクになった』(以上、幻冬舎)ほか多数。
太田啓子 (おおた・けいこ)(写真・左)
家族関係の仕事を多く手がける弁護士。関心事はジェンダーと憲法。
明日の自由を守る若手弁護士の会(あすわか)メンバーとして「憲法カフェ」を各地で開催。著書『これからの男の子たちへ』(大月書店)が反響を呼び、韓国・台湾・タイほかで翻訳出版。他の著書に『100年先の憲法へ』(太郎次郎社エディタス)、『いばらの道の男の子たちへ』(共著、光文社)。
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