最初はみんな「理解のある彼くん」だった。59人目でわかった恋愛に必要な「妥協」ではないポイント

最初はみんな「理解のある彼くん」だった。59人目でわかった恋愛に必要な「妥協」ではないポイント
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作家のアルテイシアさんの新刊『だったら、あなたもフェミニストじゃない?』(講談社)は、生まれた家庭で受けた影響や、恋愛、ルッキズムのことなど、さまざまな方向からフェミニズムについて語っている対談集です。本書に関連して、インタビューpart2では、摂食障害のご経験と、夫さんに出会ってからのこと、自分に合う相手と出会うためのコツについて伺いました。

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「ブス=黙れ」という意味だった

——摂食障害の症状があったのは大学生からだったのでしょうか。

高校生のときも食べないダイエットをしたことがありましたが、大学生になってから、男子に直接「ブス」「デブ」と言われたことが大きかったです。

今思うと、私が特段ブスでデブだったわけじゃないんですよ。というのも、黙ってる時は言われなかったから。私がハッキリ意見を言ったり、面白いことを言うと「ブス」と言われて。「ブス=黙れ」という意味だったのだと今ではわかります。

特に飲み会だと、男子が盛り上げて、女子はさすが!すごい!という「さしすせそ」的な仕草を期待された。だから私が笑いを取ると「ブス」と言う男が多かったんです。

高校まで女子校育ちで、おもしろいことを言ったら「おもしろい!」と喜んでもらえる環境にいたので気づかなくて。「私がブスでデブだからダメなんだ」と思って、過食嘔吐をするようになってしまいました。

——過食嘔吐はしばらく続いたのでしょうか?

止まったり、また始まったりを繰り返しました。就活や失恋や仕事のストレスが高まると過食嘔吐してしまったので、ストレスの代替行動だったのだと。

摂食障害はストイックな人がなりやすいと言われますが、私はストイックな性格ではなく、三日坊主ならぬ三日大僧正と呼ばれています。一度決めたらやりきるみたいなアスリート魂や根性がないので、そこまで深刻にならなかったんだと思います。

大量飲酒やセックス依存もですけど、依存的な行動はつらい状況を生きるために必要だったんですよね。そもそも、みんな何かに依存して生きてると思うんです。だから自分を痛めつけない依存が大事だと思います。

依存先を複数持って、一つにのめり込まないようにするとか。私は女友達とおしゃべりをする時間が増えたので、健康を害するような依存はしなくなりました。過食嘔吐も30歳を過ぎてからは止まっています。

「理解のある彼くん」に出会うまでに58人去っている

——59番目である夫さんとの出会いは、メンタルの安定への影響として大きかったのでしょうか?

結果的にはそうなんですけど、でも「理解のある彼くんがいればいい」という話ではないと思ってます。だいたい最初はみんな理解のある彼くんじゃないですか?

過去の元彼たちも最初は「毒親育ちで傷だらけの君を守ってあげたい」とか言うてたくせに、そのうち「こんな面倒くさい女だと思わなかった、サヨナラ~」と去っていくんですよ。

私の場合、59番目でやっと手のひら返しをしない人に出会ったわけで、それまでは「五七転五八倒」してました。「オアシスだと思ったら蜃気楼でした」ということを58回繰り返してきたんです。

——夫さんが手のひらを返さない人だと確信を持てたタイミングはありましたか?

試しに付き合いながら確かめていった感じです。夫と出会った頃は、自分でも面倒くさい女だと思いつつ、見捨てられ不安からお試し行動をしてしまいました。私が「もう別れる!」とか言っても、夫は「俺は別れない!」とキッパリ言うので「お前すごいな、根性あるな」って(笑)

58番以前は、私が「もう別れる!」と走り出しても追いかけてこなくて、コンビニで泣きながら酒を買って帰宅してました。そういうことの繰り返しで、自分は前世で墓に放火とかしたんだろう、転生しないと幸せになれないと思ってました。

でも夫は「いろいろとつらいことがあったんだから、不安定になって当然だろう。別に変わらなくていいんじゃないか」と言ってくれて、生まれて初めて「それでいいのだ」と認められた瞬間でした。

——そう言ってもらえると、安心しますね。

この話をすると「夫さんはアルさんに惚れてたんですね」とか言われるんですけど、もともと夫の器が大きいんだと思います。私が騒いでも叫んでも、彼にとっては大したことじゃなくて、ビクともしないんですよ。

だから「惚れさせればいい」という話ではなくて、相手次第なんだと思います。「拾ってきた捨て猫をまた捨てる」みたいなことをしない人を選んでほしい。

——夫さんみたいな人と出会うにはどうしたらいいですか?

「59番さんみたいな人と私も結婚したいです」と言われたときには、「初めてのデートに高校時代に買った肩パッド入りのコートを着てきて、店も予約してなくて、ずっと恐竜や昆虫の話をしていても、2回目に会う?」と聞くと「無理」と返ってきますね(笑)

人間には当然デコボコがあります。夫は器が大きい人だけど、いわゆるスマートなデートなどは苦手。大事なのは「あんパンの皮じゃなく、あんこ」。その人の奥にある部分は、何度も会わないとわからないんですよね。

——なぜ2回目以降も会おうと思ったのですか?

前提として、私にとって「デート」というものが軽かったのはあります。ビッチという黒歴史がありますから、尻軽ゆえにフッ軽に夫とも付き合った。黒歴史は恥だが役に立つ、と思いますね。

夫に何度も会おうと思ったのは、シンプルに会話が面白かったから。58番目までは、素敵なレストランでデートしても、話がつまらなくて早く帰りたいと思う人が多かったんです。でも夫とはファミレスでも何時間でも話せた。

よく「結婚相手には妥協が必要ですか」と聞かれますが、妥協ではなく、自分が譲れるものと譲れないものを見分けることが必要だと思います。58番目までに、エスコートしてくれる人や、お金持ちな人、容姿が整っている人とも付き合ってきましたが、自分にとって譲れないものではないことがわかりました。何人とも付き合う中で、自分が本当に求めているものがわかってきたんです。

——頭で考えているだけではわからない部分もありますよね。

本当にそう。「どんなラーメンが好きか」と聞かれたときに、ラーメンを食べたことがなかったら答えられないですよね。いろいろなラーメンを食べる中で、「自分が求める究極かつ至高のラーメンはこれだ!」とわかる。付き合わなくてもいいですが、デートをするという経験を重ねることは必要だと思います。

「おせんべいの片割れを見つけよう!」と気合いを入れるとつらいので、フィールドリサーチでデータを集めるという感覚でいろいろな人に会ってみると、自分はどういう人とマッチするかわかると思います。お話を伺っていると、実際に会うという経験をせずに、頭で考えてる人は多い気がします。

——失敗したくないですし、傷つきたくもないので、実践せずに考えることで解決したくなるのもわかります……。

「正解」が欲しいと思う人は多いと思うのですが、数学の問題と違って、考えれば正解が出るものではなくて、ある程度、無駄に思えるような経験をすることで気づく部分はあると思うんです。

ラーメンの話に戻ると、理想的なラーメンに出会うまでには、損した!と思うくらいおいしくないラーメンを食べることもあれば、人気ラーメンでも自分の口には合わないみたいなこともあるわけで。稀にビギナーズラックみたいな人もいますが、それはかなり幸運。

それに結婚してハッピーエンドではないので。平均寿命までの年数を考えても、50~60年近くは一緒に暮らすので、その間には揉めたり喧嘩したりもする。それでもお互いにすり合わせながら関係を築いていくことが必要ですよね。

夫とのジェンダー意識のギャップの埋め方

——結婚前の時点で、夫さんはアルテイシアさんの「世間に向かって唾を吐いているところが好き」とおっしゃっていたのですよね。昔から、社会問題や政治について話していたのでしょうか?

夫は小学生のときに「政界再編土俵際」というタイトルのオリジナル漫画を描いたぐらい政治への関心が高い人。私の父が自殺したときに「どうしてうちの父は自殺したんだろう」と言ったら「プラザ合意が原因だろう」と返してきました。

それだけ政治に詳しいのに、たとえば数年前までは、日本で選択的夫婦別姓が導入されてないことは知らなかった。最初は「なんでやねん」と思いましたが、こつこつと説明するようにしました。夫は「女から教えられるのが嫌」とか「責められてるみたいでつらい」とかは言わない人で、知らないことは知らないと認めて、ちゃんと話を聞くんです。

私が書いたコラムのリンクを送ると素直に読むので、だんだんと夫もアップデートされていって、自然と「こういうことを言うのはよくない」と学んでいってます。なので、最近はジェンダー系の話でムカつくこともほぼないです。

ただ、私は夫にそこまでジェンダーに関して完璧であることを求めてないんです。

——どういうことでしょうか?

ジェンダーやフェミニズムの話ができる女友達がたくさんいるので、夫とは別にそこまで深い話ができなくてもよくて。もし私にフェミ友がいなかったら、夫にすごく求めてしまったと思います。

完璧を求めてないというのは、私もものすごく不完全な人間だからです。私にとっては、私の邪魔をしないことが一番大事なんです。夫には「あれをしろ、これをするな」と言われたことが一度もなくて。私が「頭に皿を載せてカッパとして暮らそうかな」と言った時も「いいんじゃないか」と賛同してくれました。

そこが満たされてるので、それ以上は求めてないです。たとえば夫は家事が得意ではないですが、それも私にとっては譲れるポイントなので。

※part3に続きます。

『だったら、あなたもフェミニストじゃない?』(講談社)
『だったら、あなたもフェミニストじゃない?』(講談社)

【プロフィール】
アルテイシア

フェミニズムを明快に軽快に語り下ろす作家。
主な著書に、『フェミニズムに出会って長生きしたくなった。』『モヤる言葉、ヤバイ人』『離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由』『40歳を過ぎたら生きるのがラクになった 』『オクテ女子のための恋愛基礎講座』『59番目のプロポーズ』ほか多数。

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