「男らしさ」の呪いから脱却するために。田嶋陽子さんとアルテイシアさんがフェミニズムの視点で語る

 田嶋陽子さんとアルテイシアさんの写真
田嶋陽子さん(左)とアルテイシアさん(右) 撮影/冨永智子

「男らしさ」の規範に反するため、「男性が弱音を吐くことにはハードルがある」という議論が昨今されています。弱音を吐ける男性はどう変わっていったのか、女性にも変化が必要な部分があるのでは。日本のフェミニズムの道を切り拓いた田嶋陽子さんと、「ひょうきんフェミニスト」の作家・アルテイシアさんの対談本『田嶋先生に人生救われた私がフェミニズムを語っていいですか!?』(KADOKAWA)より一部抜粋してご紹介します。

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田嶋陽子(以下、田嶋):男性の生きづらさについては「男性も弱音を吐こう」って話してるけど、男が男らしく生きなくなることを否定する女性もいるんじゃない?

アルテイシア(以下、アル):フェミニストではあまりそういう人は見かけないですが、世間全体で見たらいると思います。

田嶋:男性たちが男らしさを捨て始めたとき、女性たちがどれだけ許容できるか、変化として受け止められるか、そこはやっぱり気をつけなきゃいけないと思う。変化した男性がいい面を出したときはいいよ。でも男性が弱い部分を出したとき「男なのにナヨナヨしてる」とか、女性に奢らなくなったときに「男のくせにケチ」なんて言わないようにしないと。

アル:私、枝野幸男さんの妻の和子さんの本(*1)を読んだことがあるんですけど、和子さんが息子に「男のくせにまた泣いて、めそめそしないの!」とか言うと、枝野さんが「そんな言い方よくないよ」ってボソッと言うそうです(笑)。夫の方がジェンダー意識が高いカップルもいますよね。

田嶋:いいねぇ(笑)。そうそう、女性でも男社会のマッチョな考えを内面化している人もいるしね。

アル:以前、せやろがいおじさん(*2)と対談したときに〈(フェミニズムやジェンダーについて)僕自身がまだまだ無知なので「教えて」とお願いしたら、講師役を買って出てくださる方もいて〉〈「男性優位の日本社会で暮らす僕は特権を享受している」「無意識のうちに女性を抑圧していることもある」という事実。これに気づかないままずっと過ごしていたらと思うと……今でもぞっとします〉と話してました。あと、れいわ新選組の山本太郎(*3)さんが街頭で話している動画を見たら、山本さんは「このことに詳しくないので、誰か分かる方いたら教えてくれませんか」って言ってました。自分の無知を認めて「わからないから教えて」って言えることは、男らしさの呪いから脱却するために大事ですよね。

田嶋:山本さんは以前『そこまで言って委員会』に来てたことがあるけれど、当時、山本さんは議論で全然言い返せなかった。最近はすごく変わった。勉強したんだと思う。素直に教えてくださいって言えない男性は多いから、それを言えるのはすごいよね。

アル:「知識がある方、教える方が上」みたいな上下関係や勝ち負けから解放されると、男性はもっと生きやすくなりますよね。せやろがいさんはお母さんがフェミニストなんだそうです。やっぱり親が子どもに与える影響は大きいですよね。

田嶋:それは大きいよね。父親が母親を蔑視していたら、子どももその影響を受けて女性を下に見るようになる。

アル:私のいとこがネトウヨなんです。昔は素直でかわいい少年だったのに、父親が反共右翼のDVおやじで、家庭内の男尊女卑を引き継いでしまって。

田嶋:子どもは一番身近な親をお手本にするからね。問題は大人になって男が親を脱するか。

アル:全く脱してないですね。いとこは父親のコピーみたいになってます。今度年賀状でも出して「ご無沙汰してます。私は今フェミニストとして、共産党の女性議員さんたちと痴漢撲滅活動をしてます」って送ってみようかな(笑)。でもそんないとこも、悪人というわけじゃないんですよ。

田嶋:普通の良識ある男性は、うっかりしてるとみんな女性差別主義者なのよ。

アル:そうですよね。数年前、昔働いてた会社の同期会に参加したら、男の同期が「相変わらずおっぱい大きいね」「俺全然イケるわ」とセクハラ発言してきたんですけど、彼らも既婚者で子どもがいる「普通の良い父親」なんですよ。

田嶋:職場で「君綺麗だね」「スタイルいいね」なんて言う男はそこらじゅうにいるけど、完全に女をバカにしてるよ。見た目を褒めれば、女は喜ぶと思ってる。でも女はたとえ喜んだとしても、心のどこかで性対象として見られていることを知っていて、不愉快に思っている。

アル:彼らに「それルッキズム的にアウトですよ」と指摘すると「褒めてるのになんだよ!」と逆ギレしますよね。スウェーデン在住の友人によると、スウェーデンでは「人を見た目で判断しない」「人の見た目に言及しない」が子どもでも知ってるモラルの基本だそうです。「人の見た目について何か思ったとしても、口に出すのはマナー違反」が常識なので、けなすのはもちろん、褒めるのも基本NGなんだとか。

田嶋:それだけ人権意識やジェンダー意識が進んでるんだよね。

アル:これもTPOの問題ですよね。恋人同士が「綺麗だよハニー」とか言うのは好きにやればいいけど、仕事の場では見た目って関係ないじゃないですか。「美人は得だよな」とか言われて、正当に実力を評価されないこともありますよね。でも性別問わず、ルッキズムに傷つく人は多いと思います。男性の方が雑にいじられる場面もあるし、すべての人の尊厳が守られる社会になるべきですよね。


*1:『枝野家のひみつ 福耳夫人の20年』枝野和子著(光文社)。
*2:1987年-/お笑いコンビ・リップサービスのツッコミ/赤いふんどし姿にて沖縄の海をバックに社会問題について叫ぶYouTube動画を投稿。
『ウートピ』での対談記事(https://wotopi.jp/archives/116134)2021年7月26日公開。
*3:1974年-/れいわ新選組代表・元俳優・元タレント。
 

田嶋陽子さんとアルテイシアさんの写真
田嶋陽子さん(左)とアルテイシアさん(右) 撮影/冨永智子
『田嶋先生に人生救われた私がフェミニズムを語っていいですか!?』(KADOKAWA)の表紙
『田嶋先生に人生救われた私がフェミニズムを語っていいですか!?』(KADOKAWA)


田嶋陽子(たじま・ようこ)
1941年、岡山県生まれ。津田塾大学大学院博士課程修了。元法政大学教授。元参議院議員。英文学者、女性学研究家。フェミニズム(女性学)の第一人者として、またオピニオンリーダーとして、マスコミでも活躍。近年は歌手・書アート作家としても活動。著書に『愛という名の支配』(2022年に韓国版、23年に中国版が刊行予定)など。23年4月、『新版 ヒロインは、なぜ殺されるのか』が復刊。

アルテイシア
1976年、神戸市生まれ。大学卒業後、広告会社に勤務。2005年に『59番目のプロポーズ』で作家デビュー。著書に『フェミニズムに出会って長生きしたくなった。』『モヤる言葉、ヤバイ人 自尊心を削る人から心を守る「言葉の護身術」』『自分も傷つきたくないけど、他人も傷つけたくないあなたへ』『ヘルジャパンを女が自由に楽しく生き延びる方法』など。

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雪代すみれ

雪代すみれ

フリーライター。企画・取材・執筆をしています。関心のあるジャンルは、ジェンダー/フェミニズム/女性のキャリアなど。趣味はヘルシオホットクックでの自炊。



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