女友達とのジェンダー意識のギャップに悩んだら? 田嶋陽子さんとアルテイシアさんが語るフェミニズム

 田嶋陽子さんとアルテイシアさんの写真
田嶋陽子さん(左)とアルテイシアさん(右) 撮影/冨永智子

フェミニズムの話ができる友達ができて幸せ!な一方で、昔の友人から「セクハラをかわしてこそ一人前」「女性として仕事が忙しくても綺麗であるべき」などと言われ、ジェンダー意識の溝に悩んでいる人もいるのではないでしょうか?女友達との付き合い方について、1990年代にお茶の間にフェミニズムを届けた田嶋陽子さんと、ユーモアあふれる言い回しでフェミニズムを伝える作家・アルテイシアさんが語った内容を『田嶋先生に人生救われた私がフェミニズムを語っていいですか!?』(KADOKAWA)より抜粋してお届けします。

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アルテイシア(以下、アル):私も20代の頃はフェミニズムの話ができる友達がいなくて孤独でした。でも今はフェミ友がいっぱいできて幸せです。逆にフェミニズムに出会って、寂しさを感じることもあるんですけど。

田嶋陽子(以下、田嶋):そうなの? どうして?

アル:友人との間にジェンダー意識のギャップが生まれるからですね。ジェンダー意識が安土桃山生まれみたいな人といると、アップデートが進んでいる側はしんどく感じてしまう。
「女友達と価値観がすれ違って疎遠になってしまいました」とか「フェミトークができる新しい友達をどう作ったらいいでしょう」とか、そんな悩みをよくもらいます。

田嶋:それは仕方がないよね。それはそれで受け止めて、いつかまた出会ったときに相手も変わっていて、話が合うこともあれば、ますます遠くなることもあるし、いろいろ。

アル:そうですよね。人はみんなアップデートの途中だから、タイミングが合わないこともある。そういうときはそっと距離を置いて、今の自分に合う人と仲良くするのが幸せだよね、と私も思います。

田嶋:相手に完ペキを求めちゃうとキレツを生むよね。でもみんな女友達が欲しいんだね。

アル:人生100年時代とか長すぎるんで、女友達がいないと人生厳しいです。

田嶋:人は変わるから、ずっと同じ人がいつまでも友達でいるわけじゃないしね。

アル:フェミニズムを学ぶと解像度が上がって、世界の見え方が変わるので、フェミニズムをインストールしてない友達とだんだん話が合わなくなってしまう。性暴力の話題になって「女性も悪いよね」「枕営業もあるでしょ」とか二次加害(*1)的な発言をされてしまうことも。
 
田嶋:不愉快なことだけど、でもそれは女性たちが、男社会に都合のいい呪いをかけられて過剰適応してきた結果だから、おしえてあげるしかない。

アル:そうなんです! 本人は呪いをかけられてることに気づいてないんですよ。こちらは運よく「フェミ眼鏡」をゲットして、世界の解像度が上がったことで、男社会で抑圧される女性の立場が見えるようになった。でも相手はまだ「家父長制眼鏡」をかけているから、見えている世界が違うんですね。

田嶋:運よくつらい経験をせず、気づかないまま生きていけてしまう人もいるからね。

アル:読者には「あなたがモヤれるのはアップデートできている証拠だから、胸を張ってくださいね」と伝えてます。でもしんどいことも多いですよ。90歳のおじいさんにモヤる発言をされても「おじいさんだから仕方ねえな」と思えるけど。

田嶋:いちいち説明するのシンドイよね。でも私はこう思うんですよって、伝えてみるのもいいかも。今の90歳は意外と元気だから(笑)。

アル:元気ですよね(笑)。まあおじいさんなら諦めもつくけど、同世代の友人から言われるとショックがでかい。それで心を削られてしまうなら、いったん距離を置くしかないですよね。「友達は季節に咲く花のようなもの(*2)」という言葉があるんですけど、花が散ることもあれば咲くこともあるように、友人と距離が近づくこともあれば疎遠になることもある。疎遠になる友人がいるのは寂しいけど、一度途絶えた友情がまた復活することもあるし、結局は「そのときどきの自分」に合う人が残るんだと思います。

田嶋:付かず離れずがいいかな。ずっと仲良くしなきゃいけないとか、ケンカしたらずっと不仲でいなきゃいけないとか、そういうのに縛られなくていい。

アル:私も性暴力の話になってケンカした女友達が後から「あのときに言ってた意味がわかった」って連絡をくれて。だから一度は離れてしまっても、いつかわかりあえる可能性はあるんですよ。

田嶋:うんうん、後から友達もフェミ眼鏡をかけて、あなたが言ってたのはこういう意味だったんだって見えるようになるかもしれない。

アル:「友達やパートナーにアルさんのコラムをシェアするうちに、相手のジェンダー意識がアップデートしました」という報告をもらうんですよ。そんなふうに役立ててほしいなと思って、こつこつとコラムを書いてます。

田嶋:いいねぇ、役に立ってるなんてもんじゃない、人の命救ってるよ。

アル:「私のための、私が生きるためのフェミニズムであって、フェミニズムが先ではないからね」という先生の言葉を標語にしてるんで。自分の暮らしや人生に役立つフェミニズムというのは、田嶋先生が拓いてきた道ですから!


*1:被害者の服装や態度を責めたり、「大したことない」と矮小化したりと被害者非難をすること。セカンドレイプとも呼ばれる。
*2:作家の深沢七郎さんの言葉。


 

田嶋陽子さんとアルテイシアさんの写真
田嶋陽子さん(左)とアルテイシアさん(右) 撮影/冨永智子
『田嶋先生に人生救われた私がフェミニズムを語っていいですか!?』(KADOKAWA)の表紙
『田嶋先生に人生救われた私がフェミニズムを語っていいですか!?』(KADOKAWA)

田嶋陽子(たじま・ようこ)
1941年、岡山県生まれ。津田塾大学大学院博士課程修了。元法政大学教授。元参議院議員。英文学者、女性学研究家。フェミニズム(女性学)の第一人者として、またオピニオンリーダーとして、マスコミでも活躍。近年は歌手・書アート作家としても活動。著書に『愛という名の支配』(2022年に韓国版、23年に中国版が刊行予定)など。23年4月、『新版 ヒロインは、なぜ殺されるのか』が復刊。

アルテイシア
1976年、神戸市生まれ。大学卒業後、広告会社に勤務。2005年に『59番目のプロポーズ』で作家デビュー。著書に『フェミニズムに出会って長生きしたくなった。』『モヤる言葉、ヤバイ人 自尊心を削る人から心を守る「言葉の護身術」』『自分も傷つきたくないけど、他人も傷つけたくないあなたへ』『ヘルジャパンを女が自由に楽しく生き延びる方法』など。

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雪代すみれ

雪代すみれ

フリーライター。企画・取材・執筆をしています。関心のあるジャンルは、ジェンダー/フェミニズム/女性のキャリアなど。趣味はヘルシオホットクックでの自炊。



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