男と女、どっちがずるい?…フェミニストが語る恋愛とジェンダーの落とし穴【対談】

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「女性専用車両は男性差別」「レディースデーはずるい」——SNSでよく見かけるこうした声に、どう向き合えばいいのでしょうか。さらにパートナーとの関係で「自分を相手好みに変えようとしてしまう」現象や、家事のすれ違いから見える夫婦のリアルな課題まで。『男と女、どっちがずるい? 10代のジェンダー、49の疑問と悩み』(集英社)の著者であるアルテイシアさんと太田啓子さんに、ジェンダーをめぐる素朴な疑問の裏側にある構造について、たっぷりとお話を伺いました。

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「女性専用車両がずるい」の本当の意味

——女性専用車両が「男性差別では?」という質問が未だに多いのでしょうか。

太田啓子さん(以下、太田):本気で「女性専用車両は男性差別だ」と思っているというより、ネットミーム(ネット上で拡散される中で定着したネタや表現)だと思っています。議論に水を差す道具として使われている。自分の頭で考えているというより、どこかで聞きかじった言葉を反射的に出してくるという感覚です。

地方の大学で非常勤講師をしている友人がリアクションペーパーで「あなたの身近で差別を感じたことはありますか」と問いかけると、「女性専用車両」という回答が返ってくることが多いそうです。でも、その地域には女性専用車両は走っていない。「身近で差別を感じたこと」と聞いているのに、自分の生活圏にはなくても「女性専用」という言葉だけに反応して、「男性が排除されている」「女性だけの特権だ」とイメージしてしまう構造があるんですよね。

アルテイシアさん(以下、アル):学校でジェンダーの授業をするとき、中高生に「女性専用車両は何のためにあるか知ってますか」と聞いても、多くのの子が答えられないんです。女性だけふかふかのシートに座ってると誤解してる人もいるかもしれないけど、あれは痴漢被害を防ぐための、いわばシェルターです。統計から見ても性犯罪被害者の9割は女性で、加害者はほぼ男性。だから女性専用車両が必要になる構造がある。それを伝えると、たいていの子は納得します。

——「男性専用車両がないのはずるい」という意見にはどう答えていますか?

アル:男性に対する痴漢加害も多くは男性によるものなので、男性専用車両を作っても被害は防げない。「冤罪が怖いから男性専用車両を」という意見も聞きますが、「男性専用車両に乗りたいか」というアンケートでは、「むさ苦しいから乗らない」という回答が多いそうです。乗りたくないと言われているものを車両が限られている中で、鉄道会社としては作らないだろうと説明してます。それにそもそも痴漢がなくなれば、女性専用車両も必要なくなるし、“痴漢冤罪”もなくなる。「だから一緒に痴漢をなくしていきましょう」と伝えてます。

——レディースデーやプリクラコーナーの「男性だけで利用NG」も、同じ文脈で語られがちです。

太田:映画館のレディースデーは企業側がマーケティングとして取り入れていたことですし、現在では性別を問わない割引になっていたりとあまり聞かないですよね。飲食店で「女性だけにサービス」と小さな杏仁豆腐が提供されることもありますが、それも企業側がやっていることですし、そんな小さなことより賃金格差をなくしてほしいですよね。

アル:プリクラコーナーの男性のみでの入場禁止も、覗きやナンパといった迷惑行為が実際に起きてたから設けられたもの。「男性全員が悪いわけじゃない」と“ノットオールメン論”を展開してくる人もいるんですけど、それなら迷惑行為をする男性に「やめろ」と言ってほしいんです。企業だって本来なら男性グループも使ってくれた方が収益になるのに、一部の男性による迷惑行為があって、女性客が安全に利用できなくなってるから制限の必要が出てきてるんですよね。

あと試しに生成AIにこの件について聞いてみたら、ちゃんと答えてくれたから、脊髄反射で「男性差別だ!」って言う前にAIに聞いてみたらいいんじゃないかって思います。

かつては自分を男性の好みに合わせようとしていた

——現在ではフェミニストとして発信してるお二人ですが、かつては好きな男性を喜ばせようとしてきたこともあったそうですね。

太田:服や髪型に細かく口を出す人と何人か付き合ってきたんです。一番すごかった人は、洋服屋に連れていかれて、その人が選ぶものを試着して買って帰る。私のお金で買うんですけどね。私はそんなにおしゃれな人間でもないから、服を買ってきてもタグをつけたまま部屋にしばらく置きっぱなしにすることもあるくらいなんですけど、彼はすぐに「今着てファッションショーをして」と言うんですよ。

アル:彼女を自分のアクセサリーみたいに扱ってる。

太田:前髪の分け目の位置まで細かく希望を言われてたこともあります。当時もモヤモヤしてはいたけど、今つくづく思うのは、パートナーの服装や体型、容姿に注文をつけたり、細かくリクエストしたりするのは、要注意なサインだと思います。

アル:アラートが鳴りますよね。うちは結婚して20年経ちますが、夫は私の分け目がどこにあるのか知らないと思います。オシャレに興味のない人だから「分け目って何?」ってところから説明が必要なんじゃないかと(笑)。

私も10代20代の頃は彼氏の好きそうな服を着てみたり、フェロモン香水をつけてみたりしたことはありましたが、それは自分も楽しんでやってたから嫌な思いをしたわけではなかった。「せっかくだから、これも着てみるか」という気持ちで、新しい扉を開く感覚もあったし、「意外と似合うかもしれない」という発見もあって。ただ、そうやって自分から楽しみながらやってみるのと、相手から指定されてやるのとではぜんぜん意味が違う。今の若い女の子たちにも、そこは見極めてほしいと思います。

太田:私も違和感を覚えながらも彼の要求に応じていたんですよね。「フェミニズムに出会って一気に変わった」というようなシンプルな話でもなくて、彼の好みに合わせようとする自分と、違和感を覚える自分とで、ずっと綱引きが行われていました。最後に違和感が勝ったのはフェミニズムがあったからだとは思いますが、フェミニズム的な感覚が自分にあったからといって、それだけで即座にきっぱり拒めるようになったわけではなかったです。そんな単純なものじゃないと思う。

謝れるだけでえらい!?

アル:私自身「ご飯を作らなければ」の呪いからはなかなか解放されなくて。夫は結婚当初から「俺のご飯なんか気にしなくていい」と言ってたんですけど、私は「だます気か」と疑ってご飯を作り続けてた。夫に100回くらい「気にしなくていい」と言われて、ようやく呪いが解けたんです。今は「個食制度」を導入してて、お互いに好きなものを作ったり買ったりして食べるようにしてます。子どもがいないというのもありますけど、それでよかったと思っています。

そんな感じで夫とは友情結婚みたいな感じで暮らしてるんですけど、この間「電球事件」があったんですよ。

——何があったのでしょうか。

アル:すごく気に入ってるアンティークの照明があって、点滅し始めたから夫に電球交換をお願いしたんです。もう同じものは手に入らないから「絶対に割らないでね」と何度も念押しして。普段、掃除も洗濯も備蓄も私が全部やってるから、電球交換くらいは夫にやってもらってもいいだろうと。

——嫌な予感がします。

アル:見事に落として割りました。ダチョウ俱楽部じゃないんだからさ(笑)。万が一落としても大丈夫なようにマットを敷くとかすればいいじゃないですか。そこまで一から言わないとダメなのか?と。本当に悲しくてわんわん泣きながら、もう離婚だ!と思いましたよ。しばらく経って夫が「まあ、かける言葉もないけど」って言いながら、お詫びとしてお金を渡してきたんです。「誰のせいやねん」と思いつつ、早速新しい照明を検索しました。

その後、この話を女友達の何人かにしたら「うちの夫だったら絶対に逆ギレするよ、謝るだけえらいじゃない」と言われたんです。傍から見たら「ふつうのいい夫」であっても、妻から叱られると防御的になって「じゃあ自分でやればいいじゃん」と不機嫌になる人もいる。

不機嫌にならない夫は、それだけで「えらい」と言われがちなんですけど、いやいや、合格ライン低すぎないか?って。悪意がなくても割っちゃったら「ごめんなさい」って言うしかないやんって思うんですけど、そうじゃない夫婦も少なくないのが日本の現時点なんですよね。

太田:もし会社で上司からお願いされたことで、やり方がわからなければ自分から確認するだろうし、失敗したからといって上司に「最初から自分でやればよかったですね」とは言わないですよね。逆ギレする人は相手を選んでいる部分はあると思います。そういうことも、対等な関係が築けるかの一つのチェックポイントになりますよね。

アル:日本の夫たちのレベルが低すぎて、電球を割った夫が褒められるヘルジャパン。私は電球事件を機に夫に対する「嫌いポイント」が一気に貯まったので、世の夫たちはマットを敷くことをおすすめします!

※後編に続きます。

『男と女、どっちがずるい? 10代のジェンダー、49の疑問と悩み』(集英社)
『男と女、どっちがずるい? 10代のジェンダー、49の疑問と悩み』(集英社)

【プロフィール】

プロフィール写真

アルテイシア(写真・右)
ジェンダーやフェミニズムを明快に軽快に語り下ろす作家。頌栄短期大学非常勤講師。全国で講演や授業も多数おこなう。
主な著書に『だったら、 あなたもフェミニストじゃない?』『生きづらくて死にそうだったから、いろいろやってみました』(講談社)、『モヤる言葉、ヤバイ人から心を守る言葉の護身術』(大和書房)、『ヘルジャパンを女が自由に楽しく生き延びる方法』『フェミニズムに出会って長生きしたくなった。』『離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由』『40歳を過ぎたら生きるのがラクになった』(以上、幻冬舎)ほか多数。

太田啓子 (おおた・けいこ)(写真・左)
家族関係の仕事を多く手がける弁護士。関心事はジェンダーと憲法。
明日の自由を守る若手弁護士の会(あすわか)メンバーとして「憲法カフェ」を各地で開催。著書『これからの男の子たちへ』(大月書店)が反響を呼び、韓国・台湾・タイほかで翻訳出版。他の著書に『100年先の憲法へ』(太郎次郎社エディタス)、『いばらの道の男の子たちへ』(共著、光文社)。

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