休職を繰り返す原因と防ぐ方法|復職を遠ざける心理トラップと危険な思考パターン5選|臨床心理士が解説

休職を繰り返す原因と防ぐ方法|復職を遠ざける心理トラップと危険な思考パターン5選|臨床心理士が解説
Adobe Stock

「また休んでしまった…」「戻ってみたけど、やっぱりしんどくなった」 そういう言葉を、相談の場で何度も耳にしてきました。一度目の休職で「次こそは」と思い、復職して、それでも同じような状態に陥ってしまう。そのたびに「やっぱり自分はダメなんだ」と、自分をさらに追い詰めていく——そんなパターンを繰り返している方が、決して少なくないんです。

広告

正直に言うと、これは「本人の努力が足りない」という話ではないんですよね。臨床の現場で多くのケースを見てきた実感として言えるのは、休職を繰り返してしまう背景には、本人も気づいていない"心理的なトラップ"や、根強い思考の癖が深く絡んでいることが多いということ。むしろ、真面目で責任感が強い人ほど、このパターンに引っかかりやすいといわれています。

この記事では、休職を繰り返す理由を整理しながら、復職を遠ざけてしまう心理トラップや自己否定的な思考パターンを5つ取り上げます。さらに、認知行動療法の知見をベースにした、繰り返さないための具体的な方法についても解説していきます。

「もう同じことを繰り返したくない」と感じている方に、少しでもヒントになれば幸いです。

休職を繰り返す理由・原因とは?よくある背景を整理

環境要因(職場の人間関係・業務負荷)によるストレス

まず見ておきたいのが、職場という「場」そのものの影響です。

人間関係の緊張感や、終わりの見えない業務量——これらは、慢性的なストレスを静かに積み上げていきます。問題は、そのしんどさに慣れてしまうことかもしれません。面接の場でよく聞くのが、「ずっとこんな感じだったから、これが普通だと思ってた」という言葉。気づいたときにはすでに、限界を超えていたというケースが少なくないんですよね。

特に「我慢すれば何とかなる」という感覚の強い方は、自分のSOSに気づくのが遅れがちだといわれています。

個人要因(性格傾向・完璧主義・責任感の強さ)

環境だけじゃなく、個人の思考パターンも、休職を繰り返す大きな要因になります。

完璧主義や強い責任感は、一見すると長所です。でも、「失敗してはいけない」「期待を裏切ってはいけない」というプレッシャーに変わったとき、それは自分を追い詰めるスイッチになってしまいます。相談してきたクライアントの多くが、「仕事ができることが自分の価値」と感じていました。その信念が強いほど、休むことに強い罪悪感を覚え、回復が遅くなりがちです。

回復プロセスのズレ(焦って復職してしまう)

もう一つ見落とされがちなのが、「回復のタイミング」のズレです。

十分に回復しないまま復帰してしまうケース

症状が落ち着いてくると、「もう大丈夫かな」と感じるタイミングが来ます。ただ、症状が軽くなることと、ストレス耐性が戻ることは、必ずしもイコールではないんですよね。体がそれなりに動くようになっても、心のタンクがまだ空に近い状態で職場に戻ると、小さな負担にも敏感に反応してしまうことがあります。

周囲の期待に応えようと無理をしてしまうケース

「迷惑をかけた分、取り返さなきゃ」という気持ち、すごくよくわかります。でも、その焦りこそが再発を引き寄せてしまうことが多いといわれています。回復途中で無理をする——これが、休職の繰り返しにつながる大きな要因の一つです。

休職を繰り返してしまう人に共通する心理トラップとは

実際のカウンセリングの場では、繰り返し休職してしまう方の話を聞いていると、驚くほど似たような思考が出てきます。本人は「自分だけ特別にダメなんだ」と感じていることが多いんですが、実はそうじゃない。むしろ、特定の心理的なトラップにはまってしまっているだけだということが多いんです。

代表的なものを5つ、整理してみましょう。

「頑張れば何とかなる」という思い込み

これまで努力で乗り越えてきた経験がある人ほど、「もっと頑張れば大丈夫」という確信が強い傾向があります。でも、心身の疲弊は根性論では解決しないことが多く、頑張ること自体が消耗につながることもあります。

「迷惑をかけてはいけない」という過剰な責任感

周りへの気遣いが強い方ほど、自分のしんどさを後回しにしがちです。「まだ大丈夫」と自分に言い聞かせながら、じわじわと限界に近づいていく——そんな経過をたどる方が多い印象を受けます。

「弱音を吐いてはいけない」という信念

「相談するのは恥ずかしい」「愚痴を言っても意味がない」という感覚が強いと、助けを求めるタイミングを逃してしまいます。面接では、「本当はずっとしんどかったけど、言えなかった」という話を何度も聞いてきました。

「完璧にやらなければならない」という思考

少しのミスも許せない状態は、常に緊張感を生み出します。仕事中ずっと「ちゃんとできているか」を監視しているような感覚が続くと、エネルギーはあっという間に枯渇してしまいます。

「一度休んだから次は失敗できない」というプレッシャー

これが一番やっかいかもしれません。過去の休職経験が「失敗の証拠」として記憶されているため、次の復職が始まる前から、すでに強いプレッシャーを背負ってしまっている状態です。スタート地点で、すでに消耗しているんですよね。

自分を追い詰める思考パターンの正体(認知行動療法の視点)

自動思考とは何か?無意識に浮かぶ考えの影響

認知行動療法では、感情が生まれる手前に「自動思考」と呼ばれる瞬間的な考えが浮かぶとされています。ミスをしたとき、瞬時に「やっぱり自分はダメだ」という考えが頭に浮かぶ——あれがそれです。

この自動思考は、本人が意識して選んでいるわけじゃないんですよね。習慣のように自動的に浮かんでくる。だからこそ、気づかないまま影響を受け続けてしまいます。厚生労働省のみんなのメンタルヘルスでも、こうした認知の働きが気分や行動に影響を与えることが説明されています。

認知の歪み(白黒思考・過度の一般化など)

思考の癖は誰にでもあります。ただ、特定のパターンに偏りすぎると、現実をかなり歪めて捉えてしまうことがあります。

白黒思考(オール・オア・ナッシング)

「できた/できなかった」の二択でしか物事を評価できない状態です。ちょっとでもうまくいかないと「全部ダメだった」になってしまう。小さな成功が視野に入りにくくなるといわれています。

過度の一般化(1回の失敗を全体に広げる)

一度ミスをした経験から、「自分はいつもこうだ」「どうせまたやらかす」という結論に飛んでしまいます。たった一つの出来事が、自己評価全体を塗り替えてしまうんですよね。

心のフィルター(ネガティブな面だけに注目する)

良いフィードバックをもらっても、一つの批判だけが頭に残る。肯定的な情報が入ってこないというより、そこに意識が向かない状態になっているのかもしれません。

思考パターンが感情・行動に与える影響

こうした思考の癖が積み重なると、不安や焦りが慢性的に続き、「早く元に戻らなければ」という焦った行動につながります。そして、その無理が再び心身を消耗させる——この悪循環が、休職の繰り返しを生み出す大きな要因だと考えられています。

復職を遠ざけてしまう悪循環のメカニズム

不安や焦りが強まる流れ

復職が近づいてくると、「うまくやれるだろうか」「また同じことになるんじゃないか」という不安が高まってきます。この不安があるからこそ、「ちゃんとしなければ」という焦りが生まれやすくなるんですよね。

無理をして働くことで再び限界に達する

焦りから無理をする。回復途中で過負荷をかける。その結果、また体調を崩してしまう。これは本人の意志の弱さでも何でもなく、心理的なプロセスがそうさせているといわれています。

自信の低下と自己否定の強化

繰り返すたびに、「やっぱり自分には無理だ」という感覚が強くなっていきます。

「またダメだった」という学習

失敗体験が積み重なると、それが「自分の実力の証拠」として記憶されてしまいます。これはある種の学習で、脳が「また同じことが起きる」と予測するようになるんです。

次の復職への不安が増大する

結果として、次の復職を考えること自体が大きなストレスになります。「戻りたいけど、また同じことになるのが怖い」という葛藤を抱えたまま、時間だけが過ぎていく——そういうケースも多く見てきました。

休職を繰り返さないための防ぐ方法5選(認知行動療法ベース)

①自分の思考パターンに気づく(セルフモニタリング)

まず取り組んでほしいのが、自分がどんな場面でどんな考えを持ちやすいかを観察することです。日記でも、スマホのメモでも構いません。「今、どんなことを考えていたか」を書き留める習慣が、自動思考への気づきを育てます。

この「セルフモニタリング」は、認知行動療法の出発点として広く活用されている方法です。

②現実的な考え方に修正する(認知再構成)

「また失敗するに決まってる」という考えが浮かんだとき、「本当にそうだろうか?」と問い返してみることが大切です。その考えを支持する事実は何か。反対に、それを否定する事実はないか。

極端な思考を、より現実に即した柔軟な見方に置き換えていく——これが「認知再構成」と呼ばれるアプローチで、認知行動療法の中核的な手法だといわれています。

③小さな成功体験を積み重ねる

「大きな目標」を持ちすぎると、達成できないたびに自信が削られていきます。それより、「今日は30分、集中できた」「一つの仕事を終わらせた」といった小さな達成感を積み重ねていくほうが、回復への近道になることが多いです。

目標は小さければ小さいほどいい——最初はそのくらいの気持ちで始めてみてください。

④無理のない復職プランを立てる

段階的な復職(リワーク・短時間勤務)

いきなりフル稼働を目指す必要はありません。最初は短時間勤務から、徒歩通勤だけを試す段階から——そんな小さなステップを踏んでいくことが、再発のリスクを下げるといわれています。

リワーク支援(復職支援プログラム)を活用するという選択肢もあります。厚生労働省も、職場復帰支援の段階的なプロセスを推奨しています。

周囲とのコミュニケーション調整

「できないことを正直に伝える」のは、思ったより難しかったりします。でも、職場と状況を共有して働き方を調整していくことが、長期的に安定した就労を続けるうえでとても重要だと考えられています。

⑤「休むこと=悪」という考えを見直す

「また休んでしまった」と感じるとき、休むこと自体を「失敗」として捉えていないでしょうか。でも、休養は回復のプロセスの一部であり、弱さの表れではないというのが、精神医学・心理学における共通した見解です。

車がガス欠になったら給油するように、心にもエネルギーの補給は必要です。「休む=逃げる」じゃなくて、「休む=整える」という感覚に少しずつシフトしていけると、回復のペースも変わってきます。

復職を安定させるために大切な考え方

「回復は段階的なもの」と理解する

「もう回復したはずなのに、また気持ちが落ちてきた」——回復には波があります。一直線に良くなっていくわけじゃない。調子のいい日と悪い日が繰り返されながら、ゆるやかに安定していくのが自然なプロセスだといわれています。

「また悪くなった」ではなく、「波の中にいる」という視点で見るだけで、少し気持ちが楽になることもあります。

完璧を目指さない働き方へのシフト

「前みたいに100%の力で仕事をしなければ」という考えは、回復を遠ざける大きな要因です。最初は60%でいい、うまくできない日があっていい——そういう余白を持った働き方が、長く安定して続けるためには必要だと思います。

支援を受けながら働くという選択

一人で抱え込まないこと。これが、繰り返しを防ぐ最大のポイントかもしれません。主治医、産業医、カウンセラー、職場の上司——それぞれの役割で、あなたの回復を支えられる人はいます。「相談するのは迷惑」じゃなくて、「相談することが回復の一部」と捉え直してみてください。

まとめ|休職を繰り返すパターンから抜け出すために

無意識の思考に気づくことが第一歩

「なぜまた同じことに…」と思ったとき、ぜひ自分の思考パターンを振り返ってみてください。思い当たる節はあったでしょうか。気づくことが、変わることの始まりです。ここでいう“気づく”という感覚は、マインドフルネスでも大切にされている視点です。今の自分の状態に気づくだけでも、思考に飲み込まれにくくなります。

自分を責めるのではなく理解する

繰り返してしまうのは、性格の問題じゃなく、パターンの問題です。パターンは変えられます。ただし、責め続けていると変えるエネルギーが残らない。だから、まず「そういう癖があるんだな」と理解するところから始めてほしいのです。

小さな変化の積み重ねが回復につながる

大きく変わろうとしなくていいです。「今日は少しだけ早く寝てみる」「モヤっとしたことをメモしてみる」——そのくらいの変化を積み重ねていくことが、最終的には安定した復職と、長く続けられる働き方につながっていきます。

焦らなくて大丈夫。あなたのペースで、一歩ずつ進んでいきましょう。

 

参考文献

厚生労働省「うつ病の認知療法・認知行動療法(患者さんのための資料)」

国立精神・神経医療研究センター(NCNP)「うつ病」

厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」

広告

RELATED関連記事