気力がわかない、思うように動けない…のは気合の問題ではない!心療内科医が「防衛反応」について解説
休んでも疲れが取れない、その理由はなんでしょうか。「日々の疲れが抜けない」 「ストレスを抱え苦しんでいる」「休職を考えている」「つらくて動けない」……。そんな人々を長年サポートしてきた鈴木裕介医師が【本当に心と体を回復させる】休み方を教えます。著書『心療内科医が教える本当の休み方』(アスコム)より、一部内容を抜粋してご紹介します。
思うように動けないのは、気合いの問題ではない
「会社に行かなければ」という気持ちはあるのに、朝、いざ家を出る時間が近づくと、身体が重くなったり、なんとなく意識がシャキっとせず、まぶたが重くなったりすることはありませんか?「うつ」というレベルまでいかなくても、どことなく「エンジンがかかりにくい」と感じられるようなことはないでしょうか?
過労もなく、食事も十分に取れているはずなのに、なんとなくぼんやりして「今、ここ」にいる感じがしなかったり、感情がいきいきと感じられなかったり、モチベーションがわきにくかったりする状態というのは、自律神経の調整不全によって、交感神経がアクティブになるべきときに背側迷走神経系が優位になり、氷のモードに入っている可能性があります。それが、単なる夜更かしや短期間の過労などによる一過性の調整不全だったらまだいいのですが、自分の生活の中にあるストレッサー、脅威に対する防衛反応として氷のモードが発動している可能性があります。たとえば、会社の人間関係が苦痛すぎて、これ以上関わることが「脅威」だと身体がとらえているようなケースがあるのです。「行かなければ」と頭では思っているけど、身体からは「NO」のサインが出ているわけです。
たとえば、私のクリニックに来られたある学生さんは、毎朝、起きたときに体がだるく、血圧が上がらず、気力もわかず、頭も重くボーっとしているという状態がしばらく続いていました。こうした症状は、 「起立性調節障害」という病気によく見られるものです。思春期の子どもに多く、不登校の生徒の約4割に合併しているといわれています。起床時や起きあがったときに、脳の血流の低下によってふらつきや立ちくらみ、だるさやめまいなどの症状が出るのですが、これらは自律神経の調整の乱れによって起こります。正常な自律神経の活動では、早朝になると交感神経活動が増えて身体を活性化し、夜には副交感神経活動が高まり身体を休養させるといった、24時間周期のリズムがありますが、起立性調節障害では、午前中に交感神経が活性化せず、数時間も後ろにずれ込んでしまいます。だから、夕方以降には急に調子が良くなったりして、今度は夜になっても交感神経が入りっぱなしになり、眠れなくていつまでも夜更かしして遊んでしまう、ということが起こります。
そして、その自律神経リズムの障害が、対人関係の傷つきをはじめとするストレスが関連していることがとても多いのです。起立性調節障害は、典型的な「心身症」 、つまり、ストレスに起因する身体的な疾患の一つです。学校での居場所のなさ、部活や学業での悩み、対人関係のトラブルといったものが背景に隠れていることがとても多く、そうした悩みが解決されると症状がすっかり良くなってしまうことも多いのですね。
そして、これ以上傷つかないための防衛のあらわれとして、氷のモードが出現するということがあるのです。しかもこれは、本人が「学校に行きたい」という気持ちを本当に持っていたとしても起こりうる反応です。学校に行きたい気持ちがないわけじゃない。でも、その気持ちとは裏腹に、身体が「危険」だと感知して、ブレーキをかけさせるほどの「おそれ」があるのかもしれない。そういう視点が必要ですが、そうとは知らず、親御さんはずっと、そのお子さんのことを「シャキッとしていない」 「気合が足りない」と感じ、叱っていました。背側迷走神経系が優位の状態は、ぐったりして、目も半開きで、声にも覇気がなく、いかにも「やる気がない」 「サボっている」ように見えます。しかも、夕方になったら改善してくるのですから、より怠けているようにしか見えないかもしれません。
お子さんからすると、ただでさえ背側の防衛状態に入っているところに、親御さんに強く責められたら、ますます背側に入って固まってしまい、もはや話を聞くどころではありません。それが「叱っているのに、話をまったく聞いていない、響いていない」ように見えてしまい、より関係を悪化させてしまいます。すると、その関係性のストレスによって、さらに対人関係に対して防衛的になり、背側迷走神経系の反応が強く出て、ぐったりしてしまう。こういう悪循環が生じるのです。
本人も、好きで起こっているわけではない「症状」を、 「サボり」 「怠け」だと言われ続けると、本当に「ただ怠けているだけなんじゃないか」という気がしてきて、まずます自己評価が下がり、意欲も活力も削がれてしまうでしょう。これと同様の悪循環が全世界で何十万・何百万という単位で起こっているのではないか、と私は考えています。この話を、不登校の方の割合が多い通信制の学校のオンライン講演でお伝えしたところ、 「自分もこれだったのかも!」 「私のことだ!」と、生徒さんから非常にたくさんのコメントや反応がありました。症状の裏に深刻なストレスが隠れているとすれば、それはもはや気合いや根性でなんとかなる単純な問題ではありません。危機に対しての神経学的な防衛反応が起こっているのであり、その反応が出ているおかげで「ストレスの対象から逃れられる」という肯定的な側面がある、ということを忘れるべきではありません。これ以上、危険な場所に行きたくないという「身体の訴え」なのです。
この本の著者/鈴木裕介
内科医・心療内科医・産業医・公認心理師。一般社団法人高知医療再生機構にて医療広報や若手医療職のメンタルヘルス支援などに従事。2015年よりハイズ株式会社に参画、コンサルタントとして経営視点から医療現場の環境改善に従事。2018年、「セーブポイント(安心の拠点)」をコンセプトとした秋葉原saveクリニックを開院、院長に就任。主な著書に17万部を突破した『我慢して生きるほど人生は長くない』(アスコム刊)がある。
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ヨガジャーナルオンライン編集部
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