「空気を読んで黙る」はEQが低い?自分の気持ちを押し殺さずに相手に伝える「心の知能指数」の磨き方

「空気を読んで黙る」はEQが低い?自分の気持ちを押し殺さずに相手に伝える「心の知能指数」の磨き方
写真提供:近藤弥生子、撮影:Evan Lin
竹田歩未
竹田歩未
2026-03-22

「パートナーの些細な行動にイライラ」「恋人なのに本音を言えない」――。家族、恋人、親戚、親しい相手との人間関係には悩みが尽きないもの。その悩みに「EQ(心の知能指数)」という考え方が役立つかもしれません。この記事では、台湾で普及しているEQについて、現地のリアルな様子をまとめた書籍『心を守りチーム力を高める EQリーダーシップ』を執筆した、台湾在住のノンフィクションライター近藤弥生子さんにお話を伺いました。実は彼女も、かつて自身のEQの低さに悩んだ一人。あなたも、親しい相手とのトラブルを解決するヒントになるかもしれないEQの考え方に触れてみませんか?

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台湾式のEQの本質「エンパシー」

ーーーなぜ台湾のEQを日本に伝えたいと思われたのでしょうか?

近藤さん:まずわたしの見方では、台湾で育まれているEQの感覚は、EQの提唱者であるアメリカの心理学者、ダニエル・ゴールマンさんが唱えているものと全く同じではなく、元来の概念が台湾現地で信仰されている道教や儒教、人々の価値観と融合してローカライズされたものだと認識しています。

台湾式EQの本質の一つはエンパシー、つまり相手の立場から物事を見ることです。台湾では「換位思考」という言葉で表します。そして、日本の社会は相手への思いやりをとても大切にしますよね。だからこそ、台湾式のEQは日本の社会に馴染みやすいのではと思っているんです。ですが、日本ではEQがほとんど定着していないので、もったいないなという印象があります。そこで、自分もEQについて学びつつ、みんなと一緒にEQについて考えたいという想いからこの本を書きました。

EQとアサーティブの違い

ーーー本書の中に「アサーティブ」という言葉が出てきますが、これはEQとは異なるのでしょうか?

近藤さん:わたしが理解している範囲でお話すると、台湾式のEQとは、目の前で何らかの出来事が発生した時に突発的に湧き起こる感情「情動」をコントロールする概念。負の感情が湧いてくること自体は問題ないけれど、その感情をコントロールして人にぶつけないということが、EQの高さだと認識しています。一方で、アサーティブは、自分の気持ちを上手く相手に伝えながら、相手の気持ちも尊重する「手段」だと解釈しています。どちらも欠かせない要素ですね。

空気を読める=EQが高いわけではない?

ーーーでは、EQと空気を読むことは違うのでしょうか?

近藤さん:いわゆる空気を読むことは、相手を前にして「今はこういう空気だから、自分が言いたいことは黙っておこう」というように自分の気持ちを押さえつけてしまう状況だと思うんです。ですがEQの概念に基づくと、これはEQが低いと解釈されます。EQが高い状態とは、もし伝えたいことがあれば、周囲に受け入れてもらいやすい方法を探して、タイミングを考えながらしっかり伝えられるということ。

例えば、会議の場面で明らかに自分のミスではないことを指摘されたり、人格を否定されるようなことを言われて、自分は納得できなかったにもかかわらず周りの雰囲気に流されて謝罪したとします。けれど、後になって溜まったイライラや不満が一気に爆発したならば、これは言うべきことを言わなかったために起こっているので、EQが低いということになります。一方、EQが高い人は、会議の場でも感情的にならず、落ち着いた態度で自分の意見を伝えることができます。

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ネガティブな出来事に”心を使わない”

ーーーわたしが台湾に住んでみて、個人的に感じたことがあります。それは、日本では思いやりや配慮を心がけることが当たり前になっていて、逆に配慮がほんの少し足りないだけで腹を立てる人が少なくないということです。近藤さんはどう思いますか?

近藤さん:本当に共感します。サービスが発達していることは素晴らしいことですが、その一方で、お客様ファーストが基準になりサービスへの過剰な期待が生まれているのかもしれません。例えば、電車が数分遅れると駅員さんに対して怒りを露わにする人がいますよね。でもよく考えてみたら、電車が遅れていることとその場にいる駅員さんは全く関係のないこと。もちろん、台湾に怒る人が全くいないわけではないですよ。ですが、自分が配慮されない場合に腹を立てる人は、EQが低いという印象を持たれるので人から尊敬されづらい。これは、台湾社会が面子を重視するというのも関係していると思いますが、基本的に人から尊敬されないことは社会規範的にネガティブな意味合いが強いです。だから、接客にがっかりしたとしても、相手の事情を考慮せずに感情を露わにするのは恥ずかしい行為と見られます。

台湾で生活していると、例えば飲食店の従業員の態度が良くない場合でも、現地の方は相手を責めず、最低限の思いやりを備えた態度で接する姿にいつも感心します。彼らは、相手の立場を慮ることに慣れているのかもしれません。店員さんは暑くてクーラーもないような労働環境の中で忙しく動いてくれて、低価格で美味しい食事を作ってもらえるのだから、きっとイライラする瞬間も多いはずだ、というように。そもそも、サービスに対して過剰に期待せず、満足いくサービスが受けられなかったとしても運が悪かった程度の感覚なのかもしれません。前提として相手の事は変えられないから、その出来事に対して心を使わない。そして、どうせ相手と接するならできるだけ楽しい気持ちで接するというのが台湾人のスタンスであるように思えます。

相手のEQが低い場合は?

ーーーもし親しい相手のEQが低い場合は、どのように対処したらいいでしょうか?

近藤さん:パートナーのEQが低くて困っているという相談は非常に多いです。職場の同僚ぐらいの間柄ならなるべく距離を保てばいいですが、恋人や家族、親戚となると違ってきますよね。EQについて取材してきて感じているのは、相手とどのような距離感で接すると、自分の心が最も幸せでいられるかを自分自身に問うことが大切だということです。EQが低い人の特徴として、相手の悪い所にばかり着目するというのがあるのですが、やはり相手のことは変えられないから、自分側の態度を変えるしかないと思うんですよね。難しいことではあると思いますが、まずは自分の中でパートナーや家族とどのように接していきたいのかを考えると良いと思います。

プロフィール:近藤弥生子さん

オードリー・タンから教育、カルチャー、社会など、生活者目線で取材し続ける在台15年目のライター。プライベートでは台湾での妊娠・出産、離婚、6年間のシングルマザー生活を経て、台湾人と再婚、次男を出産。現在二児の母。主な著書に『オードリー・タンの思考』、『台湾はおばちゃんで回ってる⁈』『オードリー・タンの母が綴る「家族と教育」』がある。パーソナリティを務めるVoicyチャンネルでは、音声で台湾について発信中。
Voicyチャンネル 近藤弥生子の、聴く《心跳台湾》

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写真提供:近藤弥生子、撮影:Kris Kang

近藤弥生子さん執筆書籍

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近藤弥生子著『心を守りチーム力を高める EQリーダーシップ 』(日経BP)¥1,980(税込)

 

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