感情をぶつけず、自分の願いも諦めない。台湾流EQによる心地よい境界線(バウンダリー)の守り方

感情をぶつけず、自分の願いも諦めない。台湾流EQによる心地よい境界線(バウンダリー)の守り方
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竹田歩未
竹田歩未
2026-03-22

「友人の些細な行動にイライラ」「親友なのに本音を言えない」――。相手と親しいほど、人間関係には悩みが尽きないもの。その悩みに「EQ(心の知能指数)」という考え方が役立つかもしれません。この記事では、台湾で普及しているEQについて、現地のリアルな様子をまとめた書籍『心を守りチーム力を高める EQリーダーシップ』を執筆した、台湾在住のノンフィクションライター近藤弥生子さんにお話を伺いました。実は彼女も、かつて自身のEQの低さに悩んだ一人。あなたも、親しい相手とのトラブルを解決するヒントになるかもしれないEQの考え方に触れてみませんか?

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台湾初代デジタル大臣オードリー・タンさんの言葉

ーーー本書の中で、EQの概念を一言で表した言葉に「自分を曲けず、それでいてみんなとより良くやっていける方法」というのがありますよね。

近藤さん:このフレーズは、台湾の初代デジタル担当大臣として、日本でもよく知られているオードリー・タン(唐鳳)さんの言葉なんです。日本では高IQの人物としても知られています。わたしはオードリーさんを取材させていただく機会が多いのですが、実際にお会いするたびに彼女のEQの高さには感銘を受けます。

オードリーさんはその賢さ故に、小学生の頃には学校に通うことを拒否し、希死念慮を抱くほど思い詰めていました。しかし当時の台湾では義務教育を受けている子供が学校に行かなければ保護者が行政罰を受けるという決まりがありました。それでも彼女は学校に行きたくないと主張したことで周囲とぶつかり続ける苦しい状況に直面したのだそう。そして彼女は、中学二年生の時に自ら「自主学習プラン」というものを編み出し、学校の先生と交渉しながら自分なりに勉強を進めていく方法を模索しました。

当時の様子について、オードリーさんは「自分がどうしても学校に行きたくないという気持ちは曲げない。しかし、それでいて保護者や先生側を困らせずに、上手く折り合いをつける方法はきっとある」と考えたと語っています。

高EQの秘訣「1秒コントロール」

ーーー近藤さんから見たEQが低い人の特徴は?

近藤さん:台湾には、EQが低い人の特徴を端的に表した「鑽牛角尖」という言葉があります。「こうしなければならない」という思いが煮詰まって、結局自分で自分を苦しめてしまう状態を「牛の角の奥へと突き進む」様子に例えた言葉です。わたし自身、この典型的なタイプに当てはまります。そんなわたしの様子を見て、台湾の方が言ったのが「自分の理想や条件に自分自身ががんじがらめになると、自分や他者に対する寛容さが失われてしまう。しかもそれが原因で最終的に怒りを爆発させるのは残念なことかもしれないね。」ということでした。つまりこの状態はEQが低いんです。

ーーーこのような状態を回避するためには具体的にどうしたらいいですか?

近藤さん:わたしがEQについて考える際、よく参考にしている方がいらっしゃいます。それは、台湾人作家のジル・チャンさん。彼女と仕事でご一緒する際には、そのEQの高さにいつも驚かされています。彼女が教えてくれたのは「たった1秒程度のわずかな時間に捉え方を変えるだけで、物事の結果は180度違ってくる」という考え方。これは、わたしが夫婦喧嘩の悩みを相談したときに彼女がかけてくれた言葉です。いつでも、誰に対してもEQを高く保つのは難しいことですが、たった1秒意識するだけなら自分にもできるかもしれない。そう思わせてくれる体験でした。

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友人からの過度ないじりに疲れ...EQで心地よい境界線を守る

ーーーでは、近しい友人との関係について、EQの考え方が役立ったエピソードはありますか?

近藤さん:わたしは昔からいじられキャラなのですが、今から数年前、時々度が過ぎるいじり方をされて傷つくことがありました。とある友達がいて、彼女のことをすごく好きなんだけど、接していると自分の心が疲弊してしまうからあまり会いたくない時期があったんです。だけど、モヤモヤを放置したままだといつの日か爆発しそうで。丁度そのタイミングでEQを知り、友達に自分の想いを伝えてみることにしたんです。

その時は自分の心に従って、相手に「友人関係を続けたいと思っているけど、あなたの●●な発言で傷ついたから、このままだと一緒にいられなくなる。あなたのことを信じているからこそ、もしわたしのことを大切に思ってくれてるなら改善してほしい。」と伝えました。相手からすると、単純に場を盛り上げるための発言だったそうですが、その代償としてわたしは深く傷ついていた。すぐに直ることはなかったけど、意識して改善しようとしてくれている様子が伝わってきたので、今でも友人関係を続けられています。

正直、もう二度と会えなくなる可能性も想定していたし、やっぱり相手からも驚かれました。でも、もしEQの「お互いのバウンダリー(境界線)を守りながら互いに心地いい関係を作る」という考え方に基づいて伝えなかったら、彼女に何も伝えないまま友人関係が疎遠になっていたかもしれません。これは、オードリー・タンさんが語った「自分を曲げず、それでいてみんなとより良くやっていける方法」を実践できた例だと思っています。

親しい仲ほど大きくなる要望

近藤さん:わたしは相手と親しくなればなるほど、つい「こうしてほしいな」という要望が増えてしまいがち。でもよく考えてみると、そのほとんどは自分の願望なんですよね。客観視すると、もし自分が同じことを求められても応えきれないような無理な条件を、自分が相手に対して求めていることに気づきます。

これに気づけると、まずはそのままの相手を受け入れようという考えに切り替わっていくと思うんです。すると、相手に対する要望のハードルがだんだん低くなってきて、謙虚な気持ちが芽生えてくる。やがて、自分と一緒にいてくれるパートナーや育ててくれた親に対して感謝の気持ちを持てるようになるかもしれません。その上で、相手に対して「あの時はこんな風にしてもらってありがとう。わたしはすごく嬉しかったよ。」と具体的な言葉で伝えるようにすると関係がさらに良くなる気がします。親しい間柄だからこそ、相手に求めていることが過度になっていないかを意識すると、日々のやり取りが心地よいものになるのではないでしょうか。

プロフィール:近藤弥生子さん

オードリー・タンから教育、カルチャー、社会など、生活者目線で取材し続ける在台15年目のライター。プライベートでは台湾での妊娠・出産、離婚、6年間のシングルマザー生活を経て、台湾人と再婚、次男を出産。現在二児の母。主な著書に『オードリー・タンの思考』、『台湾はおばちゃんで回ってる⁈』『オードリー・タンの母が綴る「家族と教育」』がある。パーソナリティを務めるVoicyチャンネルでは、音声で台湾について発信中。
Voicyチャンネル 近藤弥生子の、聴く《心跳台湾》

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写真提供:近藤弥生子、撮影:Kris Kang

近藤弥生子さん執筆書籍

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近藤弥生子著『心を守りチーム力を高める EQリーダーシップ 』(日経BP)¥1,980(税込)
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