【子どもの身長が伸びないのは腸内環境が悪いせい？】腸と子どもの成長の関係を大規模研究が示唆

これまで、科学者たちは子どもの成長が遅れる主な原因を栄養不良と考えてきた。しかし、それだけでは説明できない場合もある。同じ食事をとっている2人の子どものうち、一方は順調に成長し、もう一方は発育が遅れることがあるのだ。こうした中で、新たな研究は隠れた要因として、人間の腸内に存在する膨大な数の細菌やウイルス、その他の微生物からなる「マイクロバイオーム」を指摘している。ソーク生物研究所の研究者は、ワシントン大学とカリフォルニア大学サンディエゴ校の科学者と共同で、成長が停滞した子どもたちのマイクロバイオームが、正常に成長した子どもたちと大きく異なることを明らかにした。この発見は、マイクロバイオームが、子どもが本来見込まれる身長に達するかどうかに影響を及ぼす可能性を示している。

マイクロバイオームの全貌に迫る新技術

研究チームは「メタパンゲノミクス」という新たな手法を用いた。これは培養を必要としない最新の分析技術である。従来のマイクロバイオーム研究では、DNAの短い断片を解析したり、細菌を実験室で培養したりする方法が主流だったが、これらでは腸内に存在する多様な微生物や遺伝情報の多くを見逃してしまうことがある。それに対し、この新しい手法では、長いDNA配列を読み取る技術によって、便のサンプルから微生物のほぼ完全なゲノムを再構築することができる。

チームは、栄養失調が最も深刻な地域の一つであるマラウイの幼児から11か月にわたってサンプルを収集し、わずか47のサンプルから986もの完全な微生物ゲノムを再構築した。その多くは、これまでに知られていなかった種のものだった。これらのゲノムは、どの微生物が存在し、どんな遺伝子を持っているのかを示す詳細な地図となる。研究者たちはこの知見を、さらに42人の子どもを対象とした検証グループで確かめた。高精度の解析と広範な追跡調査を組み合わせたこの研究は、子どもの栄養不良を理解するためのマイクロバイオーム研究としては、これまでで最も大規模かつ詳細なものの一つとなっている。

腸内の「ゆらぎ」が成長を妨げる？

研究チームは、結果の中に明確な傾向を見いだした。調査期間中に年齢に対する身長のZスコアが低下した子ども、つまり成長の遅れが見られた子どもは、正常に成長した子どもよりも腸内微生物のゲノムが不安定だった。成長に課題を抱える子どもたちの腸内では微生物の構成が激しく変動しており、健康な子どもではより安定していたのだ。このゲノムの不安定さは、腸内環境の不健康さを示している可能性がある。微生物の状態が常に変化していると、体が必要な栄養素を十分に取り込めなかったり、慢性的な炎症が起きたりするおそれがあり、これはどちらも成長の妨げとなる。また研究では、母乳育児の有無が腸内の微生物構成に強い影響を与えていることも確認された。さらに、子どもが暮らしている村の違いも影響していた。同じ地域内であっても、食生活や環境、文化の違いがマイクロバイオームに痕跡を残していることが示された。

腸内細菌が子どもの発育に関わるしくみ

腸内細菌は食物の分解を助け、ビタミンを生成し、人間が自ら作り出せないアミノ酸を作り出す。中には免疫システムの発達に影響を与えるものさえある。そして、有益な菌株が不足している子どもは、こうした目に見えないが不可欠な働きを得られない可能性がある。

マイクロバイオームによる新たな発育支援の可能性

長年にわたり、栄養失調の治療は食物に焦点を当ててきた。食物に対する方策は依然として不可欠だが、これだけで必ずしも健全な成長を回復できるわけではない。新たな研究は、マイクロバイオームがこれまで見落とされていた重要な要素である可能性を示している。将来の臨床試験で特定の微生物が発育を促すことが確認されれば、医師が栄養プログラムと併せて、対象を絞ったプロバイオティクスやマイクロバイオームに基づく治療を処方できる可能性がある。単に食物を与えるだけでなく、適切な腸内細菌の定着や安定を治療の目標にできるようになるのだ。期待は持てるものの、著者たちはこの研究が因果関係を示すものではなく、あくまで関連性を示しているに過ぎないと慎重に強調している。そして、研究者らは次の段階として、子どものマイクロバイオームを変化させることで実際に発育が改善されるかを検証する対照臨床試験の実施を予定している。

出典

https://studyfinds.org/gut-health-tied-to-stunted-growth-in-children/

https://medicine.washu.edu/news/microbiome-instability-linked-to-poor-growth-in-kids/