【便秘と子どもの学力の意外な関係】医師が解説!子どもの便秘を放置すると成績が下がる?!

 【便秘と子どもの学力の意外な関係】医師が解説!子どもの便秘を放置すると成績が下がる?!
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子どもの便秘が慢性的に続く場合は要注意。勉強への支障をきたすとも言われています。善玉腸内細菌のパワーを引き出す「もち麦ごはん」を子どもの食習慣にして、発酵性食物繊維の効率的な摂取を。

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昨年(2024年)は、首都圏の中学受験者数が過去最多の規模となり、大学受験では私立大学の受験者数が前年を上回りました。少子化が進む一方で、子どもたちの受験環境は厳しくなっているようです。ペーパーテストだけでなく、プレゼンテーション能力、コミュニケーション能力などを問う特別入試の制度を取り入れる学校も増え、受験方法の多様化により子ども達の受験を乗り切るための課題が増えてきました。少しでも、子ども達の負担を減らして学習効率を上げるために、新学期が始まるこの時期に保護者が知っておくべきことは何か? 小児科医で赤坂ファミリークリニック院長、伊藤明子先生が解説します。

便秘状態だと「勉強に集中できない」

腸内環境と脳の研究は従来から注目されていましたが、近年、研究手法や技術の革新によってさらに研究が進んでいます。腸内環境が全身の状態に関連することが益々わかってきた中で、特に脳との関連は「腸脳相関」と呼ばれて、注目されている研究分野の一つです。 子ども達の腸内環境の状態は、 ひとつには便通にあらわれます。便秘が慢性的に続く場合は要注意です。全国の高校生1,000人を対象にした調査※1)では、便秘状態では9割弱が「勉強に集中できない」と答えています。また、便秘状態の高校生は、眠気、イライラ、気分がすぐれない、頭痛、肩こりなど体調不良を感じる割合も高いことがわかりました。気分や情緒は脳の状態ですから、腸脳相関ですので、腸の状態がよくないと気分や情緒にも作用します。

 

勉強
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腸内環境の乱れと子どもの脳機能との怖い関係

最新(2023年)のガイドラインによる慢性便秘症の定義は「本来排泄すべき便が腸内に滞ることでコロコロ便・硬い便になってしまう、また、排便回数が減ったり、便を快適に排泄できないでいきんでしまうこと、など排便困難感を認める状態」と定義されています。我が国の有病率は、 調査や報告によってばらつきがあり、多い報告では38%となっています。小腸大腸は、筋肉の収縮によって生じる波のような運動 (蠕動運動) によって、 内容物を運びます。便秘に大きく関わる腸管蠕動運動は、腸内細菌とその代謝(産生)物質によって影響を受けることが数々の研究で報告されています。腸内細菌がエサを食べてつくり出す物質、代謝物質は重要な役割を果たしています。いい働きをする代謝物質もありますが、 中には子どもの脳に悪影響を及ぼす代謝物があることがわかっています。 腸内環境の乱れが、子どもの脳の発達、そして発達障害、摂食障害などの病気に関与していることが近年明らかになってきました。

参考:日本消化管学会「便通異常症診療ガイドライン 2023 慢性便秘症」、内藤裕二「すべての臨床医が知っておきたい腸内細菌叢」羊土社、内藤裕二編集「脳腸相関 各種メディエーター、腸内フローラから食品の機能性まで」医歯薬出版 

子どもの食物繊維の摂取量と便秘の関係が明らかに

山口県周南市の学校に通う小学5年生と中学2年生あわせて約2200人を対象にした研究※2)では、食物繊維の摂取量が多いほど、慢性便秘症のリスクが少ないことがわかりました。この論文で研究者は、 食物繊維が豊富な食習慣が便秘の予防や改善につながると述べています。厚生労働省が定める「日本人の食事摂取基準」では、2015年から子ども(6~17歳)の食物繊維の目標量が定められました。 それまでは、子どもの食物繊維の目標量は定められていませんでした。今、子どもの食生活の中で、食物繊維をいかに効果的に摂るかが課題となっているようです。 

※2)J Nutr Sci Vitaminol,65,38-44,2019

J Nutr Sci Vitaminol,65,38-44,2019 より作成
J Nutr Sci Vitaminol,65,38-44,2019 より作成

 食物繊維は善玉菌のエサ、エサと代謝物の関係に注目

腸内環境と脳機能の関係には、腸内細菌の代謝物が大きく関係しています。腸内細菌はエサを食べて代謝物を産生します。代謝物の中には、短鎖脂肪酸など体に有効に働くものがあり、体に有効な代謝物質を産生する腸内細菌、いわゆる善玉菌は食物繊維をエサにしています。善玉菌が食物繊維をエサにして代謝物質を産生することを発酵といいます。発酵性の高い食物繊維を発酵性食物繊維と呼び、水溶性食物繊維や不溶性食物繊維というカテゴリーとは異なる分類で区別しています。便秘を改善して学習能力を高めるには、この発酵性食物繊維を多く含む食品を積極的に摂ることがポイントになります。

発酵性食物繊維は便秘の改善に役立ち、脳機能に好影響

臨床研究では慢性便秘が改善すると、有効な代謝物である短鎖脂肪酸の1つである酪酸の濃度が高くなるという報告があります。※3)発酵性の高い食物繊維(PHGG:partially hydrolyzed guar gum)を、マウスに与えた研究では、酪酸を産生する腸内細菌の増加がみられることがわかっています。※4)自閉症スペクトラム障害の小児を対象とした研究では、PHGGの摂取により便秘と腸内細菌の異常が改善され、行動過敏性の改善にも役立つことがわかりました。※5) これは、 発酵性食物繊維の摂取が、 腸内細菌叢の改善と脳機能にも関連していることを示しています。

※3)日本消化管学会「便通異常症診療ガイドライン 2023 慢性便秘症」
※4)内藤裕二編集「脳腸相関 各種メディエーター、腸内フローラから食品の機能性まで」医歯薬出版
※5)J Clin Nutr 2019 May;64(3);217-223

腸内細菌の多様性が脳の働きに関係

人間の腸内には腸内細菌が1000種類、100兆個存在するといわれています。発酵性食物繊維をエサにする腸内細菌の数を増やすことも大切ですが、その種類の多さ、つまり多様性も重要であることが最近の研究でわかってきました。ヤングアダルト(26歳)の男女40名を対象に行った研究※6)では、糞便から腸内細菌組成を調査し、その後認知機能のテストを行いました。すると、 腸内細菌の多様性が高いほど、認知機能が高かったことがわかりました。発酵性食物繊維の摂取は、 善玉菌の数を増やすだけでなく腸内細菌の多様性を高めることにも働くことがわかっています。

※6)Gut Pathogens(2022) 14:15 

5歳までの腸内環境が脳の発達に影響!乳幼児も腸内細菌ケアを

腸内細菌の多様性を高め善玉菌を増やすことが重要なのは、受験世代の子どもだけではありません。実は、胎児の時から5歳までの腸内細菌叢の形成が脳の発達に影響していることがわかってきました。※7)今まで、胎盤は無菌とされていましたが、近年の研究で胎児にも腸内細菌が存在することが明らかにされました。 親は妊娠中、またはそれ以前から、子どもは生後すぐから腸内環境に目を向けることが脳の発達に大切なのです。

※7)fcell.2022.880544

発酵性食物繊維が豊富な「もち麦ごはん」を毎日の習慣に

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毎日の生活中で発酵性高い食物繊維を摂るために、手軽に使えて有効な食材はもち麦です。 便秘というとゴボウなどの野菜を思い浮かべますが、実は腸内環境を整え脳の発達も考えるともち麦がベストな食材です。もち麦にはβ-グルカンという高い発酵性を有する食物繊維が多く含まれています。β-グルカンを含む食材は他にもありますが、もち麦は群を抜いて高い含有量を示します。また、 白米と一緒に炊けて調理も簡単です。 毎日の習慣にしやすく、脳機能のパフォーマンスを高めたい時期にもち麦は最適です。

お弁当やおやつにもち麦ごはん!共働き夫婦も便利に活用

もち麦と白米を一緒に炊いた「もち麦ごはん」は、朝晩の食事やお弁当に手軽に活用することができます。忙しい共働き夫婦でも、もち麦ごはんは冷凍保存ができるので手軽に用意することができます。カレーやオムライスなど、 子どもが喜ぶメニューにもち麦ごはんはよく合います。 また、もち麦だけを炊いて、スープやサラダの具材として活用することもできます。スイーツに利用して子どもが食べやすい形にアレンジするのもおススメです。

子どもの年齢やお腹の様子をみながらもち麦の量を調整

もち麦の量は、子どもの年齢やお腹の様子をみながら調整していきましょう。乳幼児の場合、もち麦は離乳食でも使うことができます。多めの水で柔らかく炊いて、さらに小鍋で煮ることで離乳食にも使えます。離乳食ではどの食材もそうですが少しずつ進めるとよいです。もち麦は白米に対して1割程度から始めて、子どもの様子を見ながら3割程度まで増やせます。 

もち麦おにぎりは発酵性食物繊維がアップ

穀類にはレジスタントスターチという難消化性成分が含まれています。この成分も、善玉菌のエサとなる発酵性食物繊維の1つです。 冷やすと多くなる性質があるため、もち麦おにぎりはβ-グルカンとレジスタントスターチのダブル効果が得られます。昼食は学校給食という子どもは、朝晩の食事だけでなくおやつにもち麦ごはんのミニおにぎりなどを作ってもいいでしょう。子どもの食生活に積極的にもち麦ごはんを取り入れ、腸内環境を整え学力向上を目指しましょう。

教えてくれたのは…伊藤明子先生

プロフィール

小児科医。赤坂ファミリークリニック院長。NPO 法人 Healthy Children, Healthy Lives 代表理事。東京大学医学部附属病院医師。

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