「自分を生きていくために」漫画家・花津ハナヨが語る創作と人生のリアル【インタビュー後編】

「自分を生きていくために」漫画家・花津ハナヨが語る創作と人生のリアル【インタビュー後編】
photo by Hako Hosokawa

「女性が性を語るなんて」と言われた時代に、性欲、セックスレス、そして不倫までも赤裸々に描いてきた漫画家・花津ハナヨさん。彼女の作品は、ユーモアとリアルさを武器に“女性が自分らしく生きること”の大切さを描き続けてきました。前後編にわたるインタビューでは、創作の裏側から私生活、そして“女性の主体性”までたっぷりと語っていただきました。

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“想像”から生まれる『人妻A』のリアリティ

──いま『SPA!』で連載中の『人妻A』は、誰にでもあるような日常的な出来事を描いていますが、作品のネタなどはどこから持ってくるのでしょうか?

『人妻A』は、ある架空のラブホテルを舞台に、そこに訪れる人々のドラマをオムニバス形式で描いています。

『人妻A』を読んで「みんな私と同じなんですね〜」という意見ももらいますが、実は取材はほとんどしていません。編集者の話などを参考にしながら、想像で描いているんです。

──作中には不倫の描写もありますが、女性視点で描く難しさはありましたか?

この作品は、最初は男性視点だったんです。担当さんと「男性は、自分の妻が不倫しているとは思っていないことが多いよね」というところから始まって。『じゃあ、今度は女性目線で描いてみましょう』となって。

でも、私の周りには女性で不倫している人はいなかったんですよ。男性からは話を聞くのですけど、女性からは聞いたことがなかったので全然わからなかったんですよね。だから、本当に想像なんです(笑)。

ただ、女性視点だと描くのがしんどい部分もあります。男性だと他人事として描けるんですけど、女性キャラは自分に近いので、どうしてもしんどくなる。

──不倫はどう描くべきか、悩むこともあると?

不倫する側を描くと、厳しいご意見をいただくのはわかっていましたし、お話の着地点をどうしようかと毎回本当に悩んでいます。でも私は、人が揺らいでしまう理由を描きたくて。感情のリアルを丁寧に追いたいんです。

誰かを傷つける行動は問題だと思っています。ただ、パートナー以外の人を好きになってしまう気持ちや迷いには、背景があると思うんです。「どうしてそうなったのか」という部分や、葛藤や後悔も含めて描いていけたらと思っています。

──不倫とは少し違いますが、既婚者の方もよく使うという、女性向け風俗についてはどう思いますか?

最初はママ友から聞いたんです、女風(女性向け風俗)の話。しかも1人じゃなくて、複数人から(笑)。

実際に利用している人もいたし、『気になっているけど利用してはいない』という人もいました。

—先生は不倫をしたいと思ったことはありますか?

結婚していた頃は、そういうことを考える余裕がなかったですね。子供も小さかったですし、家事も仕事もこなすのでいっぱいいっぱいいで。

誰かと出会う以前に、自分の時間はほとんどありませんでした。

結婚で失われた主体性、そして女性たちのリアル

──結婚してから主体性がなくなってしまう女性って多いと思うこともあります。先生が作品の中で女性の主体性を描くことで励まされている人が多いと思うのですが、先生自身はどうですか?

私の一番近いモデルは、両親なんですね。時代もありますが、母は父をサポートする生き方を選ばざるをえなかった。それが幼い頃の私には、とても息苦しく感じられました。なので私自身は早く独り立ちしたくて、漫画を描いて20歳で東京に出てきました。

父との関係がうまくいかなかったこともあって、若い頃は「誰かの(特に男性の)意見に合わせる」ということ自体が苦手だったんです。自分の意見を押し殺さなくてはならない関係性には抵抗がありました。

結婚して苗字を変えるのも、すんなりとは受け入れられませんでした。その時は事実婚を選ぶほどの気力も知識もなかったけど、もっとちゃんと話しあって決めればよかったなぁと、結婚してる間ずっと思っていました。

──先生の漫画を通して、いろんな夫婦の形があることを知る読者も多いと思いますが、いかがでしょうか?

子どもができてから、いろんなご家庭と接する機会が増えて、夫婦の形は本当にそれぞれなんだなと感じています。私自身もいろんな夫婦を知ることで「自分はどうありたいか」と考えるようになりました。

そういう、日々の中で見聞きしたエピソードや、そこで感じた面白さや違和感も、自分の作品に反映されていると思います。

「主体的に生きたい」と思ったきっかけ

──作品を通して、読者にどんな気づきや感情を届けたいとお考えですか?

私は離婚を経験しているのですが、そのときに「自分の人生を、もっとちゃんと生きたい」と強く思ったんですね。「”自分”として主体的に生きたい」と感じたんです。

結婚している時は、どうしても自分のことを後回しにしてしまいがちで、体調を崩しても「これくらいならなんとかなる」と病院に行かないことも多かったんです。

そうしてるうちに、腹痛や食欲不振が続いて、夜も眠れなくなり、どんどん痩せてきてしまって。

──病院には行ったんですか?

いくつか病院に行った結果、産後うつだと言われました。「子供を産んだのは8年前なのに?」と聞いたら、進退を繰り返しながら続いていたって言われて、びっくりしました。

そういわれたら…、と後で思うことはあったんですけど、病名を告げられるまでは全く気づいてなかったんですよ。かなり自分を押さえて生きていたんだと思います。

そういうこともあって、「もっとちゃんと自分の人生を生きよう、私自身を取り戻そう」と思ったんです。

──離婚をしたことで主体的に生きれるようになったということなんですね。

そうですね。金銭面では大変ですけど、自分で選んだ道を歩いているという実感があってとても楽しいです。ストレスも少ないですね(笑)

自分でローンを組んで、小さい部屋を買ってリノベして、子供たちと猫と楽しく暮らしてます。

前に、「シンママ(42)、アプリで運命の恋を見つけます。」の読者の方から「40代の恋愛はないものにされちゃいがちだけど、それを書いてくれてうれしい」というメールをいただいたんです。それがとても印象に残ってます。

私には今パートナーがいるのですが、その話を若い知人にすると「その年で!?」「え、マッチングアプリ使うんですか?」と驚かれることも(笑)。でも恋愛を求める気持ちってどんな歳になってもずっとあるものですよね。それは否定したくないなって思います。

読者の方にも“自分の気持ちを大切にして、自分で選ぶ人生を歩んでほしい”って伝えたいですね。恋愛でも、結婚でも、性のことでも、自分を後回しにせずにいてほしいです。失敗したなって思っても、やり直すことはいつだってできますから。

プロフィール|花津ハナヨ

花津ハナヨ
photo by Hako Hosokawa

1975年、滋賀県彦根市生まれ。東京都在住。1993年、『なかよし』(講談社)で桜井明子名義にてデビュー。2001年、ぶんか社の雑誌『恋愛しよっ!』vol.2にて「ハチ♥ミツ」を発表する際、編集者により命名された「花津ハナヨ」名義での活動を開始。以降、同名義で執筆を続けている。代表作に、テレビドラマ化もされた『CAとお呼びっ!』(ビッグコミックスピリッツ/小学館)、性愛や欲望のリアルを赤裸々に描いた『情熱のアレ』シリーズなど。女性の性や生き方をユーモアと温かさをもって描く作風が、多くの共感を呼んでいる。現在は『人妻A』『情熱のアレ 夫婦編』『セカンドパートナー』など複数作品を連載中。2025年9月末に『人妻A』単行本を発売予定。

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インタビュー・文/mirae.

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花津ハナヨ