「女性も性を楽しんでいい」漫画家・花津ハナヨが描く“リアルな性と欲望”の原点【インタビュー前編】

「女性も性を楽しんでいい」漫画家・花津ハナヨが描く“リアルな性と欲望”の原点【インタビュー前編】

「女性が性を語るなんて」と言われた時代に、性欲、セックスレス、そして不倫までも赤裸々に描いてきた漫画家・花津ハナヨさん。彼女の作品は、ユーモアとリアルさを武器に“女性が自分らしく生きること”の大切さを描き続けてきました。前後編にわたるインタビューでは、創作の裏側から私生活、そして“女性の主体性”まで語っていただきました。

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「少女漫画から“エロ”へ」転換のきっかけ

──なぜ「大人の性」をテーマに描くようになったのか、きっかけについて教えてください。

『なかよし』でデビューしたこともあって、最初は性的な描写のない漫画ばかりを描いていました。でも、実は性に興味があったので、思い切ってちょっとエロの入った作品を描いてみたんです。そうしたら、すごく反響がよくて。

普段から考えていたようなエロいことを描いたら、オファーもたくさん来るようになって、「あ、私にはこっちのほうが向いているんだ」って気づきました(笑)

──女性が女性の性を描く漫画は当時ほとんどなかったと思いますが、いかがでしょう?

本当になかったですね。

たとえば、取材で出会ったセクシーな業界で働く綺麗な女性たちも、実はセックスレスだと話してくれたりして。そういう話って、なかなかオープンにならないけど、描いたらきっと面白いんじゃないかなと思ったんです。

性について何でもオープンにする必要はないけれど、罪悪感を抱かずに話せるような空気はあってもいいと思っていて。そういう話をすることって、悪いことじゃないですから。

──先生の作品には、女性の性が明るくオープンに描かれている印象があります。

当時は「女性が性について話すなんてありえない」「性に積極的だなんてはしたない」という空気が強かったと思います。私自身も、当時の恋人にセックスに積極的な面を引かれたことがありました。でも、『女性だって性を楽しんでいいじゃないか!』とは思っていたんですね。

当時、“愛され女子”みたいな言葉が流行っていて、それって完全に受け身ですよね。あれが本当に嫌でした。なんで相手に合わせなきゃいけないの?って。

SATCがくれたポジティブな性の描き方

──そういった考え方に影響を与えた作品などはありますか?

『セックス・アンド・ザ・シティ(SATC)』の影響はとても大きかったです。毎日のように見ていました(笑)。

あのドラマの中で、女性たちが明るく性の話をして、セックスをポジティブに楽しんでいる様子に衝撃を受けましたし、「こういう描き方があるんだ!」と心から感動しました。

──セックスに積極的でも、なかなか叶わなかったこともあるとさっき言っていましたね。

いつも断られてました(笑)。

例えば男性はその気になれば風俗に行くという選択肢もあるけれど、女性は相手の同意がないとセックスしたい時にできない。当時は、女性向け風俗も今ほど一般的ではなくて、『女風使ってる』なんて言ったら「大丈夫?」って心配されるような時代でしたから。本当に女性は大変だなって。

『情熱のアレ』が開いた新たな扉

──2009年に『コーラス』で連載された『情熱のアレ』では、女性の性欲やセックスレスというテーマが正面から描かれていますね。

正直、最初は賛否両論でした。「なんであんな漫画が連載されているの?」といった声もありました。

でも、連載が進むにつれてアンケートでも上位に入るようになって。評価していただけるようになったのが嬉しかったですね。大手出版社の雑誌でこういったテーマを描けたのは、すごく意味のあることだったと思います

──紙媒体よりも電子コミックで大きく伸びたと聞きました。

紙のコミックスはあまり売れなかったんですけど、ちょうど子育てでお休みしていた時期に電子版がバナー広告で紹介されて、そこから急に売れ始めて。印税がドカンと入ってきてびっくりしました(笑)。『バナーで見て読みました』という読者の方も多かったですね。

──作中で描かれる“セックスレス”のリアリティも印象的です。

“セックスレス”という言葉は昔からありましたが、あまり取り上げられていませんでしたね。

でも、実際には本当に多いんですよ。男友達から『一緒に住んでいる彼女とセックスがない』という話をよく聞いていて。『あんなに魅力的な彼女なのに、なんで?』って聞くと、『家族みたいになっちゃって』って(笑)。『家族になったら勃たない』って……なんじゃそりゃ、って思いました。

──その感覚、共感できる方も多いかもしれませんね。

『情熱のアレ』にも描きましたが、『家族だからセックスしなくて当然』みたいな考え方がどうにも理解できなくて。

もちろん、お互いが望んでいないならしなくてもいいと思います。でも、どちらかに“したい”という気持ちがあるなら、やっぱりすごく辛いことですよね。

ユーモアとリアルで描く、性と欲望

──先生はこれまでの作品で、性や欲望をユーモアと温かさをもって描かれてきました。その表現スタイルには、どのような意図やこだわりがあるのでしょうか?

女性同士で集まると、性に関する話になりませんか?(笑) 私の周りはそういう感じだったんですけど、割と友人たちは赤裸々に話してくれるタイプでしたね。 そこで友人たちが教えてくれたことを漫画の中に入れたりはしていました。

セックスシーンもできるだけ生々しく描かないようにしているんですね。 いわゆる“抜けるエロ漫画”は、私は描けないんですよ。好きじゃないから描けない。 少女漫画がベースなので、そこの延長線上で描けるものをという感じですかね。

ティーンズラブを描いていた頃は、“現実ではない激しいセックスシーンが好き”という人が多いのは感じていました。 でも、そのような形にすると、今度はストーリーがちゃんと入れられなくなっちゃう。

私の場合はセックスの前後の人間の感情を描くのが好きなので、そういうものを大事にして描きたいんですよね。 そうすると、激しい描写は邪魔になってしまうんです。

──「情熱のアレ」はとてもリアルにキャラクターの心情や経験が描かれていると思うのですが、先生の経験がベースになってるのですか?

ほぼ創作ですけど、私の実体験も織り交ぜています。

──例えば、主人公が女性向けのローションを作るために自分の身体を張ってテストしてデリケートゾーンが被れるというシーンがありますが……。

あれは実体験です(笑)。 当時、ローションをもらう機会が多くて色々試してみたりしたんですね。 本当に被れたんですよ、私が(笑)。

 

*インタビュー後編に続きます。

 

プロフィール|花津ハナヨ

花津ハナよ
photo by Hako Hosokawa

1975年、滋賀県彦根市生まれ。東京都在住。1994年、『なかよし』(講談社)で桜井明子名義にてデビュー。2001年、ぶんか社の雑誌『恋愛しよっ!』vol.2にて「ハチ♥ミツ」を発表する際、編集者により命名された「花津ハナヨ」名義での活動を開始。以降、同名義で執筆を続けている。代表作に、テレビドラマ化もされた『CAとお呼びっ!』(ビッグコミックスピリッツ/小学館)、性愛や欲望のリアルを赤裸々に描いた『情熱のアレ』シリーズなど。女性の性や生き方をユーモアと温かさをもって描く作風が、多くの共感を呼んでいる。現在は『人妻A』『情熱のアレ 夫婦編』『セカンドパートナー』など複数作品を連載中。2025年9月末に『人妻A』単行本を発売予定。

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インタビュー・文/mirae.

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