セクシュアリティのカミングアウトをされたら?ジェンダーバイアスに気づくために…大人も学べる性教育
ここ数年で性教育への注目は高まってきました。子どもが性教育を学ぶ機会が増えてきている一方で、大人は学ぶ機会を逃したままの人が多いのではないでしょうか。子どもとのコミュニケーションの中で悩んでいる人もいらっしゃるかもしれません。一般社団法人ちゃぶ台返し女子アクションが制作した『性のモヤモヤをひっくり返す! ジェンダー・権利・性的同意26のワーク』(合同出版)は、中学生以上の子どもを対象にした性教育の本で、大人も一緒に学ぶことができます。同団体の出版チームである大友久代さん、戸谷知尋さん、中村茜さんに、子どもとのコミュニケーションのテーマを中心に、性教育について話を伺いました。
「性的同意」を広めていく
一般社団法人ちゃぶ台返し女子アクション(以下、ちゃぶじょ)は2015年に立ち上げられました。当時、ジェンダー問題が山積みな中でも、声をあげている人が少なかったり言いづらいような雰囲気がありました。その感覚を共有している数人の仲間で、ダンボール製のちゃぶ台をひっくり返しながらモヤモヤを言語化する場を作ったことが始まりとのことです。
2016年に刑法性犯罪改正キャンペーンに参加したことを機に、性教育に本格的に関わっていくことに。「セクシュアル・コンセント・ハンドブック」の作成や、性的同意を学ぶワークショップの実施など、性的同意を大学や社会に向けて発信し、広めていくことを一貫して行ってきました。そして現在に至るまで、ジェンダーやセクシュアリティを始め、構造的な暴力や差別、抑圧のない社会を目指し、活動を行っています。
ちゃぶじょで制作した『性のモヤモヤをひっくり返す! ジェンダー・権利・性的同意26のワーク』(合同出版)は、性の多様性・ジェンダー・対等な関係を築くためのコミュニケーション・バウンダリー(境界線)・性暴力について、学べる本です。
セクシュアリティのカミングアウトをされたら?
——セクシュアリティに関するカミングアウトをされたとき、どのような対応をするのが望ましいでしょうか?
大友久代さん(以下、大友):LGBTQ+について知っている人は増えているものの、社会に差別がなくなったわけではないのが現状です。その中でも打ち明けてくれたということですので、信頼や安心が継続するような反応を返すことが重要だと思います。
本書ではカミングアウトをされたときには、相手のアイデンティティや経験を否定せず、「そうなんだね」とありのままに受け止め、勝手に第三者に話すこと(アウティング)をしないことを伝え、困っていることがあるか聞いてみることを提案しています。
戸谷知尋さん(以下、戸谷):「してはいけないこと」を知っておくことも、相手を傷つけないことに繋がります。アウティングがその例ですが、家族間であっても、たとえば「きょうだいには話せたけれど、親には話したくない」といったこともあります。カミングアウトをされた場合に、「あなたはこういう見た目だから、○○なんだろうね」など、セクシュアリティを決めつけないことも重要です。
——カミングアウトをされたとき、最初のアクションで失敗してしまうこともあると思います。その後、どういった対応ができると思いますか?
大友:間違えることはあっても、会話を諦めないことが大事だと思います。自分の誤りを認めて謝罪するのは前提として、謝ったからといって、相手の傷つきがすぐに回復するかはわかりません。許してくれたり、再び心を開いてくれることを期待しすぎないのも必要なことです。
中村茜さん(以下、中村):相手を尊重すること、傷つけないことを大前提として、個人的にはその場で完璧に対応しようと思わなくてもいいと思います。「大人だから子どもに正解を言わなきゃいけない」と思ったがゆえに空振りしてしまうこともあると思うんです。だから迷ったときには、一旦立ち止まって、リフレクション(振り返り)や勉強をした上で、その後のコミュニケーションついて考えてもいいのではないでしょうか。そういったアクションは、必ずしも相手の発言や勇気を否定していることにはならないですし、無茶をしないという点では、誠意のある接し方でもあると思います。
私自身、幼稚園で働いたことがあるのですが、子どもと関わる中で、大人も間違えることがあることを実感しました。自分が発信する立場として「こういうときはこうしたらいい」と当たり前のように言っていた内容について、実際に直面したときにあたふたする自分がいたんです。
大友:今はジェンダーやセクシュアリティに関する情報がたくさんあって、調べれば色々と辿り着けます。だからどんなことに気をつければいいのか、勉強することで知識をサポートする側になれる可能性もあると思います。
ジェンダーバイアスに気づくために
——大人は「男らしく」「女らしく」と育てられてきたゆえに、染みついてしまってる人も多いと思います。自分の中にあるジェンダーバイアスに気づくポイントを教えていただけますか?
大友:当たり前だと思っているので気づきにくいものの、ジェンダーバイアスに気づこうと思ったときに材料は転がっていると思います。性別に関連して特定の行動や見た目、職業、家事分担などが紐づけられていることは、周りを観察しているとたくさんあります。どれだけこの社会が性別によって扱いを変えたり、違うプレッシャーをかけたりしているか考えてみることが第一歩ではないでしょうか。
中村:本書には「ジェンダーバイアスに気付こう!」というワークも掲載しています。組織内でのポジションや、職業などを聞いたときに、どんな人を思い浮かべるか。趣味や将来の夢など、家庭内での何気ない会話から考えることも、自分が言いそうになった言葉にツッコミを入れてみることもできると思います。
大友:以前、雑誌の編集をしていて、子どもたちの将来の夢を聞いたときに、科学者や数学者と聞いて「女の子なのにすごいね」という言い方をしそうになったことがあって、そんな自分にショックを受けました。「褒めているからいいのでは」と思うような言葉でも、「女の子は大抵は理系科目ができない」というバイアスの再生産につながります。
中村:私も子どもと接しているときに「おうちの人に聞いてみなよ」ではなく、「お母さんに聞いてみなよ」と言いそうになった自分にショックを受けたことがあります。完璧な人・失敗しない人はいないですし、知識は毎回アップデートしていくもの。振り返って、次はどうしようか考えつつ、自分を責めないことも大事だと思います。
自分に似た人が描かれている本を
——本の制作で力を入れたことをお話しいただけますか?
中村:個人・相手・社会という3つの視点を持って項目を作成しました。自分自身を大切にするために必要な知識やスキルを身に着けることは「個人」、周りの人を尊重できるようになるために学ぶことは「相手」、学校などの身近なコミュニティや社会構造を理解し、みんなの権利が尊重される場にしていくために必要なことは「社会」と分類しています。
これまでの性教育の多くは、個人の話が中心だったと思います。ですが、対人関係や、自分が所属するコミュニティや社会全体の構造も自分と繋がっていること。だから性教育のテーマで捉える必要があります。
戸谷:私たちは性的同意を通して、主に大学生に性教育を伝えてきましたが、自分たちが直接届けられる人には限りがあります。性教育を伝えたいけれども伝え方がわからない学校の先生や、子どもの保護者など、もっと多くの人が性教育について話せるようにしたい、誰もが性教育の担い手になれるようにという思いがあります。この本にはテーマごとにワークがあり、読めばその場で実践できるようなものが多いので、学校やご家庭でも取り組んでみていただければと思います。
大友:「同意」について学ぶためのワークとして、「みんなで食べたいピザ」について話し合うものがあります。サイズやトッピングなど、どのようなものが好きかを話し合って決めるものです。教育者の方々へのワークショップでも実施したのですが、性の話はハードルを感じるものの、ピザを一緒に作ることで同意の形成の体験をすることは着手しやすく、「実際に、教育現場でもやってみます」というお声をいただきました。
戸谷:私はロンドンで生活しているのですが、ロンドンには色々な人種やセクシュアリティの人がいて、絵本にもそれが反映されています。自分と似た人が本の中にいないのはよくないと思ったので、この本でも多様な人を描いていただきました。ジェンダーニュートラルな雰囲気の子もいますし、髪型も色々で、メガネをかけている子もいます。カップルも異性カップルだけではありません。
大友:性暴力の話はステレオタイプが大きなテーマでもあるので、「男性加害者と女性被害者」が固定的にならないように、同性間や、女性が加害者となって起こる性暴力を連想するようなイラストも載せています。
※後編に続きます。
【プロフィール】
大友久代(おおとも・ひさよ)
2018年お茶の水女子大学人文科学科卒業後、 会社員として雑誌・書籍・ コーポレートツールなどの編集制作に従事。ちゃぶ台返し女子アクションでは、大学在学時に『セクシュアル・ コンセント・ハンドブック』ページ制作を一部担当。その後、性的同意ワークショップの改善プロジェクト、『性のモヤモヤをひっくり返す!ジェンダー・権利・ 性的同意26のワーク』(合同出版)の出版プロジェクトのページ編集制作に関わる。
戸谷知尋(とや・ちひろ)
ちゃぶ台返し女子アクションのメンバーとして2017年に『セクシュアル・コンセント・ハンドブック』を共同制作。2018年から、慶應義塾大学のKeio Gender Collevtive/ Safe Campus および東京大学のTottoko Gender Movementで、キャンパスにおける性暴力の問題に取り組む。 2024年に出版された『性のモヤモヤをひっくり返す! ジェンダー・権利・性的同意26のワーク』(合同出版) の著者の一人。現在、ロンドン大学東洋アフリカ研究学院人類学博士課程在籍中。
中村茜(なかむら・あかね)
創価大学でBeLive Sokaの立ち上げメンバーとして、性的同意啓発活動に取り組む。ちゃぶ台返し女子アクションでは、性的同意ワークショップの教材開発、「ちゃぶじょ・チェンジ・ リーダー・プログラム(CLP)」のプログラム設計、『性のモヤモヤをひっくり返す!ジェンダー・権利・ 性的同意26のワーク』(合同出版)の出版に関わる。コロンビア大学教育大学院修士課程修了。現在は国際NGOで教育、子どもの保護事業に従事。
■ちゃぶ台返し女子アクションHP
https://www.chabujo.com/
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