深刻化する子どものSNS依存|オーストラリア「16歳未満のSNS禁止法案」が問いかける課題とは?
オーストラリアでは、子どもたちのデジタル依存やSNSによる有害な影響が深刻化する中、政府が具体的な行動に踏み出した。2024年12月、世界初となる法案が成立し、16歳未満の子どもたちがソーシャルメディアにアクセスできないよう規制する仕組みが導入された。この動きは、子どもたちを守るための重要な一歩であり、同時に家庭や社会全体での取り組みを再考する契機となっている。
SNSの危険と子どもたちを守る法案の成立
アメリカ小児科学会(AAP)や疾病予防管理センター(CDC)によると、18ヶ月未満の赤ちゃんはスクリーンタイムを避けるべきだとされている。18〜24ヶ月の子どもについては、質の高い教育コンテンツを親と一緒に視聴することが推奨されており、2〜5歳の子どもには1時間以内、5歳以上には2時間以内のスクリーンタイムが推奨されている。一方、スクリーンタイムが長時間続くことによって、子どもたちの発達に悪影響を及ぼす可能性が指摘されている。例えば、18ヶ月未満の子どもがテレビを見ていると、言語発達に悪影響を及ぼし、親とのコミュニケーションが減少するという研究結果もある。SNSが子どもたちの精神的健康や安全に与える影響は、世界的に長年議論されてきた。
そして、今月12月、オーストラリア政府は、SNS利用が子どもたちに与えるリスクを真剣に受け止め、TikTok、Instagram、Facebookといったプラットフォームに対し、16歳未満のユーザーがアカウントを作成できないよう求める法律を制定した。この新法により、SNS企業には違反した場合、最大5千万オーストラリアドル(約48億円)の罰金が科される可能性がある。この厳格な措置の背景には、SNSを通じたトラブルや有害なコンテンツの拡散に対する社会的な懸念がある。特に、いじめや不適切なコンテンツへのアクセス、さらには依存症が問題視されていた。
法案成立の背景:深刻化するSNS依存と社会的懸念
オーストラリアのクイーンズランド州にあるロックハンプトン病院のコーネ・エステルフイセン医師は、デジタル依存が子どもたちの脳にコカインやヘロインと同様の影響を及ぼすと指摘している。親が子どものデバイスを取り上げただけで、激しい感情的反応や行動の崩壊を引き起こすケースが増えているという。また、子どもたちが夜遅くまでSNSを利用し続けることで、不安感や攻撃性が高まる現象も報告されている。
このような状況を受け、オーストラリア政府は法案の早期成立に踏み切ったが、親や専門家の間では賛否が分かれている。一部では、SNSが現在、若者にとって重要なコミュニケーションの場であることを理由に、過度な規制が反発や孤立を生む可能性を指摘する声もある。
デジタルデトックスが生むポジティブな変化
法的な規制だけでなく、重要なのは家庭での取り組みだ。中央クイーンズランドに住むエリン・アルコーンの事例では、息子が学校のパソコンを使って夜通しYouTubeを見続けるなどの問題行動を繰り返していた。しかし、家族全員で1か月間のデジタルデトックスを行った結果、息子の学業成績や行動が改善し、家族の絆も深まった。この取り組みを支援する形で、オーストラリアの家族研究所は年齢別のスクリーンタイムガイドラインを示している。たとえば、2歳未満ではスクリーン使用をゼロとし、5~17歳では学業以外の使用を1日2時間以内に制限することを推奨している。
今後の課題
法案の成立や家庭での取り組みは、子どもたちをオンラインの危険や依存から守るための重要なステップだ。しかし、SNS規制は、孤立や別の問題を生む可能性もあるため、親や教育者、社会全体が一体となって取り組む必要がある。臨床心理士のヘレン・マデルは、「親も一緒にデバイス使用を見直し、オフラインで楽しめる環境を提供することが、デジタル依存を防ぐ鍵です」と指摘している。エステルフイセン医師も次のように呼びかける。「子どもたちの健康を守るためには、彼らを外に出し、自然の中で遊ばせることが大切です。デジタルデバイスを手放す勇気を持てば、子どもたちの成長に驚くような変化が現れるでしょう」。
出典:
Australia passes world-first law banning under-16s from social media despite safety concerns
A social media ban in Australia for children under 16 is first in the world
Australian Parliament bans social media for under-16s with world-first law
Digital detox urged for children who are aggressive, hospitalised when parents pull plug on devices
AUTHOR
山口華恵
翻訳者・ライター。大学卒業後、製薬会社やPR代理店勤務を経て10年間海外(ベルギー・ドイツ・アメリカ)で暮らす。現在は翻訳(仏英日)、ライフスタイルや海外セレブリティに関する記事を執筆するなど、フリーランスとして活動。趣味はヨガとインテリア。
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