「本音は、専業主婦になりたかった」超人気セラピストが自身の仕事を「天職」と思えるようになるまで
働いている・いないに関わらず子どもが小さいうちは、自分のことを後回しにしてしまうというママさんは、決して珍しくありません。一方で、「自分のケアも大切にしています」と話すのは、2022年からシンガポールでマレー式産後ボディケアセラピストとして働く牧浦美希さん。6ヶ月先まで予約が殺到するほど人気のセラピストの彼女は、自分のケアをどのようにしているのでしょうか?
趣味の延長線からつながった天職
– 美希さんは、2019年に第一子をシンガポールで出産されてから個人事業主として親子ヨガ教室をはじめられましたよね。そもそも出産前から、お仕事をしたいと思っていましたか?
美希さん: 正直な話をすると、心の中では専業主婦になりたかったです。けれど、私の夫は中華系シンガポール人で、彼らの常識では、夫婦共働きするということが前提にあります。もちろん出産してからも。したがって、私が専業主婦になるという選択肢はありませんでした。妊娠中、出産後も「早く復帰しないと」という気持ちでいっぱいでしたね。
– 子どもができても共働きが前提というのは、どうしてなのでしょうか?
美希さん: 一般的に、シンガポール人のカップルはお財布は別々で、家計は折半します。私たちも結婚前に、それについて話し合いました。シンガポールは、東京23区ほどの小さな島国のため、家族(義理実家)も車で数十分のところに住んでいたりと、共働き家庭に対してのサポートは手厚いです。また住み込みのお手伝いさんを雇うことも普通のこととして受け入れられています。そのため、働きたい女性にとってはとても恵まれた環境ですよね。
– サポートが整っているのだから仕事はしないといけない、という空気だったんわけですね。
美希さん:そうですね。出産後は、妊娠中からフルタイムで働いていた一般企業に復帰しました。これも、シンガポール特有なんですが、シンガポールでは産前産後休暇が16週間しかとれないんです。つまり、私は産後3ヶ月弱で職場復帰したんですが…もっと子どもと一緒にいる時間を作りたいと思いました。それで会社を退職し、子どもとの時間を優先しながら、働ける方法を模索しました。
– 親子ヨガ教室を開いたのはどうしてでしょうか?
美希さん: もともと、私はヨガが趣味で、妊娠する前も、妊娠中もヨガに通っていました。それで、趣味を仕事にするのはいいんじゃないかと思って。それまで、日本でもシンガポールでも何度か転職をしてきたんですが、特にやりたいことがあったわけでもなく…自分の強みもないし、得意なこともないと思っていました。人に誇れるような資格があったわけでもないので、趣味の延長でできたら、子育てをしながらも楽しく働けるのではと思ったんです。それに、出産後、ヨガに通えなかったのは大きかったですね。さすがに、「ヨガに行ってくるから子どもを預かってください」と義理の両親に頼むのは心苦しく…それで、思いついたのが、子どもも一緒に受けるヨガ教室でした。私が第一子を出産した当時、そういった教室はまだシンガポールにはなかったので、自分で作ってしまおうと思ったんです。
– マレー式産後ボディケアセラピストに軸足を移したのに何かきっかけがあったんですか?
美希さん: 親子ヨガ講師として、もっとお母さんの体のケアをしていきたいと思うようになりました。そこで、第一子と第二子を出産した直後に受けた産後ケアのマレー式産後ボディケアセラピーの勉強をしようと思いました。そもそも、ヨガと同じで、マッサージを受けるのも私の趣味の一つだったので、楽しく勉強できると思ったのです。最初は、セラピストに軸足を移そうと思っていませんでした。両方を組みあわせたり並行してできたら、という思いだったんですが、だんだんとボディケアの需要が増えていって。一人では両方を回すことができなくなってしまったんです。それで、親子ヨガはお休みという形で、今はマレー式ボディーケアセラピー1本でやっています。
– マレー式産後ボディケアセラピーとは、どんなお仕事ですか?
美希さん: 私の行っているのは、産後1ヶ月以内のママさんからはじめられるボディーケアセラピーです。出産してすぐのこの時期は、悪露(おろ)が出てきますし、骨盤も不安定な期間です。また、授乳によって腰痛や肩こりに悩むママさんも多いです。そういった体の不調を解消するために、ご自宅に伺って、60分の全身オイルマッサージをします。加えて、産後直後のママさんのお腹は子宮が正常の位置よりも下がっている状態です。マレー式産後ボディーケアセラピーでは、お腹周りにバインディングというものを巻いて骨盤を支え、子宮を元の位置に戻すサポートも行います。日本で言うサラシのようなものですね。
– 産褥マッサージということですね。美希さんも、第一子、第二子出産後に、施術を受けていたということでしたが、シンガポール人は産後ケアとしてマレー式産後ボディケアセラピーを受ける方が多いのでしょうか。
美希さん:そうですね。中華系、マレー系シンガポール人の方々は、マレー式産後ボディーケアセラピーを受ける方が多いです。シンガポールでは、産後1ヶ月間は、体の回復を最優先させることと、授乳することがママさんの仕事と考えられているんです。授乳以外の子どもの面倒や家事は、パパやおじいちゃん、おばあちゃんなど家族がするということが当たり前です。そのため、産後ケアをしっかり受けるのが一般的で、中でもマレー式はダントツで人気のものですね。
– マレー式産後ボディケアセラピストをしていて、やりがいをやりがいを感じる時は、どんな時ですか?
美希さん: マレー式ボディーセラピーは、数週間毎日セッションを重ねていきます。回を重ねるごとに、ママさんの変化が感じられるのは、とても嬉しいことですね。特に、初日と最終日の変化には毎回驚かされます。出産直後のママさんは、気持ちもどんよりしていることが多いんです。もちろん、体もキツイでしょうし。それが、最終日には体も、心も軽くなっていて、笑顔で終わることが多いです。私は、最終日を迎えるのがいつも楽しみです。趣味から派生していったことですが、今では天職だと思っています。
働くママとして大切にしていること
– 現在は、どういったスケジュールで働いているんですか?
美希さん: 今は、土曜日も含めて週6日働いています。混み具合によっては、日曜日も働くこともあります。基本的には、子どもたちがスクールに行っている間を中心にご予約を受け付けるようにして、朝晩はたっぷり子どもたちとの時間をとるよう心がけています。週末は夫や義理家族にサポートしてもらっています。
– 土日に働くことに対しては、ご家族は協力的ですか?
美希さん: そうですね。最初に言ったように、シンガポール人は、妻が働くことに積極的に賛成してくれるので、「子どもの面倒は任せて!」と言ってくれます。実は、私は土日に仕事を入れない方がいいと思っていたんです。けれど、実際は夫に子どもたちを見てもらった方が良いと思うことが多くて。例えば、パパとの時間が増えたことで、子どもたちもパパに懐いてくれるようになりました。
– 子どもたちとパパとの時間が増えたら、絆も深まるということですね!働くママとして、大切にしていることは何かありますか?
美希さん: 家庭と仕事を両立するにあたって、やはりどちらも充実させたいなと思っているんです。そのため、スケジュール調整は、細かくしています。あとは、自分のケアも大切にしています。やはり自分が満たされていないと、お客さまを満たすことができないと思うんです。それに家族にも優しくできないですしね。
– よく分かります!けれど、自分のことは後回しになるママさんは、働いている・いないに関わらず多いのではないかと思います。どのように自分のケアをされていますか?
美希さん: 私はマッサージに月2−3回は通うようにしています。それは、勉強のためとかではなく、本当にただただ自分の体を休めるために。何も考えない時間を作るようには積極的にしていますね。
– 2-3回は多いですね(笑)けれど、何も考えない時間というのは本当に大切ですよね。マッサージでは強制的にスマホなども含めて外部との接触が遮断されますしね。
美希さん: そうですね。実は、最初の数ヶ月は「月に1回しか休みがない」ということもあったくらい、パンパンに予約を受け付けていたんです(笑)けれど、それを続けていると、私自身が体調を崩しましたし、心にも余裕がなくなってしまって…これはよくないとさすがに思いました。それからは、まずは自分の完全オフの日を確保してから、予約を受け付けるというスタイルに変えました。
– きちんと自分を大事にする日を意識的にとる、ということですね。しっかりと休むと、仕事も家事も育児も、全て前向きに取り組めるような気がします。休息のパワーは偉大ですよね。仕事をしていて良かったと思う時はどんな時ですか?
美希さん: 毎日が本当に楽しいことですかね。正直、今でもそうなんですが、あまり「仕事」だと思っていないんですよ(笑)あくまでも私が楽しんでできること…趣味の延長のような形でやっているんです。けれど、求められるようになってくるとやる気も出てきますし、やりがいも感じられて、本当に毎日充実しています。
– 素敵ですね。やりたいことを見つけるコツはあると思いますか?
美希さん:私は、興味のあるものは、とりあえず何でもやってみた方がいいと思っています。新しいことをはじめる時、「本当にこれでいいのかな?」「自分に合っているかな?」と考えることもあるかもしれません。けれど、たとえやってみたことがうまくいかなかったとしても、そこから何かにつながっていく、と思うんですよね。私の場合は、産後に親子ヨガからはじめましたが、ママさんたちの体のことを考えていったらマレー式産後ボディケアセラピーにつながっていきました。何か一つのことを絶対にやり続けなくてはいけないわけではないと思うんですよね。女性の場合は、色々なライフステージで変化があるものだと思います。どんな時も、自分に素直になることが大切なんじゃないかと思います。
– 最後に、今後の夢や目標について教えて下さい。
美希さん: 産後の女性の体や心を整えるための環境や機会が増えていったらと思っています。特に日本では、産後ケアという概念があまり浸透していないと思うんですよね。そういったサポートが整っていくだけでも、少子化を食い止める一つの手段だと思うんです。私は、マレーマッサージに出会って、この手法を広めていますが、それだけではなく、こういった産後ケアがもっと日本に広まるきっかけになったら嬉しいですね。
【プロフィール】牧浦美希 HATIマレー式ケアセラピスト
2016年よりシンガポール在住。中華系シンガポール人の夫と、一男一女の4人家族。
寝てるだけで引き締まるHATIマレー式産後ボディケアセラピストとして2022年より活動を開始。現在、6ヶ月先まで予約殺到。 800名を超える産後女性をケアしてきたゴットハンドの持ち主。
instgram: @malay_massage_miki
AUTHOR
桑子麻衣子
1986年横浜生まれの物書き。2013年よりシンガポール在住。日本、シンガポールで教育業界営業職、人材紹介コンサルタント、ヨガインストラクター、アーユルヴェーダアドバイザーをする傍、自主運営でwebマガジンを立ち上げたのち物書きとして独立。趣味は、森林浴。
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