「年をとった“女子アナ”は見たくない」女性アナが直面するキャリアの壁について小島慶子さんに聞いた

 小島慶子さん
小島慶子さん:©️今村拓馬

男性のアナウンサーを「男子アナ」とは言わないのに、女性アナウンサーを「女子アナ」と呼ぶのはなぜでしょうか。元TBSアナウンサーでエッセイストの小島慶子さんに、女性アナウンサーが直面している壁や、その壁を乗り越えるために、視聴者ができることについて伺いました。※初出:wezzy(株式会社サイゾー)

広告

 “女子アナ”という言葉は我々の日常に定着している。だが、違和感を覚えたことはないだろうか。

 男性アナウンサーのことは“男子アナ”と言わないのに、女性アナウンサーのことは“女子アナ”と呼ぶ。“女子アナ”という言葉には「女性のアナウンサー」という以上の意味が含まれているのだ。

 元TBSアナウンサーでエッセイストの小島慶子さんは、今年3月の国際女性デーの前日に、メディアで働く女性有志でリレートークを行った。その中の一つのテーマが「メディア表現とジェンダー」であった。

 アナウンサー、キャスターとして働く女性たちが直面する課題や、メディアにおけるジェンダー表現への違和感についてトークをしていたところ、現役のアナウンサーやキャスターたちが男女複数参加してくれた。決定権のある立場には男性が多く、メディアの女性の扱い方に違和感を覚えても、言い出せないことも少なくないという。

 女性アナウンサーやキャスターが孤立しないよう「組織を超えた繋がりが必要」と感じた小島さんは「女性アナウンサーネットワーク(FAN)」を立ち上げた。活動はメーリングリストでの情報共有や、月に1~2回の勉強会、交流会をオンラインで行っている

 ジェンダーへの関心が高まりつつある中、女性アナウンサーはどのような壁に直面しているのだろうか。また、その壁を取り除くために私たち視聴者はできることがあるのか、小島慶子さんに話を伺った。

女性アナウンサーが直面する壁


 ここ数年、テレビ番組においてもジェンダーや人権に関する表現が問題となる機会が増えている。だが、番組内で偏ったジェンダー表現があっても、アナウンサーの立場で指摘するのはなかなか難しいという。

 メディア内でも変化はあるものの、キャスティング権を握るポジションにある人の多くは男性で、悪気なく女性アナウンサーに“女子アナ”の役割を求めることが多いのが現状です。“女子アナ”とは、若くて華やかなアシスタント、アイドル的な役割もこなす気が利く女の子、というイメージでしょうか。従順な女性像が好まれるので、女性アナが主体的に発言すると「うるさい人」と見られてしまうことも。意見を言ったらキャスティングされなくなるのではという不安から、ニコニコしながら葛藤を抱えている女性アナウンサーもいると思います。

 「ジェンダー主流化」——つまり様々な場面でジェンダーの視点から物事を検討・分析する必要性は国際的に注目されて久しいものの、日本のメディア業界では「一部のうるさい人が何か言ってる」「女性だけが関心を持つ分野」といった認識の人も少なくありません。

 一方で主要な放送局でも、20~30代の社員が自主的にジェンダーやLGBTQについての勉強会を行う動きが出てきています。近年は、性差別やセクハラについてきちんと「あってはならないことだ」と放送で発言する女性アナウンサーやキャスターが視聴者に支持され話題になることも。これは先述したような“そつなく従順な”役割が求められることが多い環境では、勇気のいることです。そうした声をあげた人が孤立しないよう、同じ意識を持っている仲間がいるという実感が持てる、横の繋がりを作ることが大事だと思いました。

 「女性アナウンサーネットワーク(FAN)」では、例えば放送中にジェンダーに関する偏見を助長しかねない表現があったときに、アナウンサーやキャスターがどんなふうに介入したら効果的だったか、スタッフにどんな提案をしたら上手くいったかなどの経験もシェアしています。(小島さん)

 昔は「30歳定年説」という言葉があったように、30歳を過ぎると女性アナウンサーは仕事が少なくなっていった。今では徐々に、出産後に番組復帰したり、30歳以降も活躍し続ける人も出ているが、キャリアに悩む女性アナウンサーは少なくないという。

 一般的な仕事では、年次を重ねて実績を積むほど信頼が増し、任される仕事も増えますが、女性アナは未熟さや新鮮さが重視される傾向があります。だから若い女性アナウンサーには、仕事が集中します。30代でキャリアの展望が描けなくなり、悩む人が多い。

 一方で、私がキャリアをスタートした25年前と比べれば、30代の女性が報道番組のメインキャスターを担うことが増え、育児との両立もしやすくなっています。40代、50代のベテランの女性アナウンサーがテレビに出続けることも、かつてよりは増えています。それでも全体を見ると、まだまだ女性が多様な活躍の場を得ているとは言い難い状況です。ローカル局では未だに「30歳定年説」は現役で、20代の終わりの頃には女性の先輩はほとんどいないといったことも珍しくないようです。

 起用サイドに「視聴者は年をとった女性の顔は見たくないだろう」という価値観が依然として強く、女性が40代・50代で主要なポジションで起用される機会は男性よりも少ない。男性キャスターは50代、60代で新しい番組のメインキャスターに抜擢されることも珍しくないですが、女性はどれほど実力があっても、熟年になると「そろそろ若手に譲ってください」と交代させられることも。白髪頭で深いシワのある男性メインキャスターは皆さんも思い浮かぶと思いますが、日本の女性キャスターでそのような人を見たことがありますか?男性のシワには貫禄があるけど、女性のシワは見苦しい、というイメージがないでしょうか。(小島さん)

 ジャーナリストやプロの司会者として活躍するには、ある程度の年数や実績、経験を重ねることが必要だ。しかし小島さんは、「これまで女性アナウンサーは『経験よりも鮮度が大事」と考えられ、視聴率の低下や番組リニューアルのタイミングで、女性アナを安易に若い人に交代させることも多かった』と話す。ある程度年齢を重ねても画面の華として扱われ、報道番組であっても、女性は視聴率を稼ぐ看板としてキャスティングされるという独特の慣習が存在するようだ。

 日本では、女性のニュースキャスターには、記者の経験や報道での実績はさほど重視されません。女性は視聴率を稼ぐための看板として起用される側面が強いため、もしニュースキャスターを目指すなら、まずは報道番組とは関係のないバラエティ番組などで「知名度」と「人気」を獲得する必要があります。

 アナウンサーの仕事は幅広く、報道を志す人、バラエティのプロを志す人、朗読のプロを目指す人、いろんな人がいます。どの専門を目指す人にも、若い時からベテランになるまで活躍のチャンスがあるのが望ましいと思います。

 でも、実際はそうはなっていないのが問題です。報道を志す人を例にとってみると、ニュースキャスター志望の若い女性が、まずはバラエティで人気者を目指さなくてはならないという構造は、歪ですよね。もちろん、キャスターには知名度が不可欠ですが、アナウンサーや記者として20〜30代でしっかり報道の経験を積みながら知名度を高め、メインキャスターを目指せるようにするのが、本来あるべき育成の道筋ではないかと思います。

 「20代にバラエティで活躍した“女子アナ”やタレントが、30歳前後で報道番組のキャスターに抜擢される」というパターンが多いことからも「女性キャスターは経験よりも話題性」という起用サイドの価値観がうかがえます。もちろん、中には女性キャスターを長い目で育てようというプロデューサーもいますが、これまでは視聴率の低下を女性キャスターの好感度のせいにして、キャスター交代で話題作りをするというパターンが繰り返されてきました。(小島さん)

 女性がメインキャスターを務める番組は徐々に増えつつある。だが、「番組が女性キャスターにどのような役割を担わせているのかを見る必要がある」と小島さんは指摘する。

 例えば、女性にメインキャスターの肩書きはあっても、全体を和やかに回すことや華を添えることが主な役割で、番組の要は男性出演者が担っているのでは、年配男性キャスターの隣に女性をサブキャスターとして座らせているのと実質的には変わりません。

 それでは、見せかけの「女性活躍」です。本当に女性の実績や能力に信頼を置いたキャスティングなのか。本人の責任感や向上心に見合った、きちんとした役割を与えているか。成長の機会を与えているか。目先の視聴率稼ぎに利用するだけの起用になっていないか。

 視聴者も「女性がメインキャスターなんて、かっこいいね」と表面だけを見るのではなく、メインキャスターにその肩書きに見合うだけの役割が与えられているかを注意深く見ることが大事だと思います。女性が、見せかけの女性活躍に利用されないようにチェックする。これはテレビ画面の中でも、ビジネスや政治の世界でも同じことですね。(小島さん)

男性アナウンサーの“女子アナ”化


 「容姿」「若さ」「人気」——これらは“女子アナ”に求められてきたものであったが、「次第に、男性アナウンサーにも同じ傾向が見られるようになってきたようです」と小島さんは注視する。

 かつて男性アナウンサーは、若手時代は女性アナウンサーほど注目されず、入社直後から様々な番組に出演できる同世代の女性アナウンサーとの違いに悩む人も少なくありませんでした。ですが、最近は男性アナウンサーもルックスで人気がとれる人を積極的に採用する動きがあると聞きます。“女子アナ”と同じように、若い頃からバラエティ番組を中心に出演し、専門性を身につける機会がないまま使い捨てられてしまうのではと危惧する男性アナウンサーもいるそうです。(小島さん)

 テレビ業界に限らず、女性に対しては差別やハラスメントとして認識されつつあることが、「男性にはOK」となっている構造が様々な場面で散見される。私たちはどのようなことに注意すべきなのだろうか。

 容姿の整った若い男性ばかり持て囃す“イケメン消費”は、ジェンダーに関するイシューに敏感な女性でも無自覚にやってしまいがちです。中高年男性を「ハゲ」「デブ」「臭い」などとけなす風潮もありますね。男同士の非モテや童貞いじり、ブサイクいじりも。男性は強者だから雑に扱ってもいい、男のくせにからかわれたぐらいで怒るなというのは、男らしさの押し付けに当たります。私もかつてはそういう風潮に染まっていました。

 男性が主流を占める社会では、女性を容姿や年齢で品定めし、性的なモノのように扱うことが常態化してきました。女性差別にNOと声を上げる人がそれを少しずつ変えてきましたが、当然ながら、それは女性だけを特別扱いしろということではなく、全ての人は人として平等に扱われるべきであるという人権尊重の観点から差別に抗議したのです。どのようなジェンダーの人でも、容姿や年齢でジャッジするべきではないという認識を共有することが大事ですね。(小島さん)

 容姿への言及について批判すると、「ならファッションモデルもなくした方がいいのか」といった極端な意見が飛んでくることもある。この点、小島さんは「容姿が重視される職業を否定するわけではありません」と強調する。

 メディアなどを通じて美の基準が画一化されると、人間の“あるべき容姿”が規定され、そこから外れた人を劣っているとみなすようになりかねません。それが差別や偏見を生んできました。だから今、多様な美を讃えようという動きが、ファッションの世界でも主流化していますよね。

 様々な職業がある中で、モデルやタレントのように容姿の美しさが求められる職業もあります。大事なのはその「美」が画一的な価値観の押し付けにならないようにすることです。メディアは文化を作ると言われます。多くの人の目に触れる映像メディアで、この社会に生きるさまざまな属性の人たちの存在が肯定的に可視化されることが大事です。

 洋の東西を問わず、メディアは長らく圧倒的な男性優位の業界でした。コンテンツにはその価値観が色濃く反映されています。メディアに登場する女性は若く美しくセクシーで、鑑賞物として消費される傾向がありました。メディアを通じて「女性の価値は、若さと容姿」という社会通念が強化されたと言えるでしょう。先述したような男性に対する思い込みも同様です。(小島さん)

私たちの声を届けることで変わるかもしれない


 なぜ、テレビ番組の出演者にも多様性が必要なのか。「人は、テレビには世の中が映っていると考えます。無意識のうちに、テレビの中の“普通”が、社会の“普通”だと思ってしまう。テレビで見たことを実生活で再現することも。人気芸人の喋り方を真似したりなんて、よくありますよね。また、実生活では身近ではない人や物事にも、テレビで繰り返し目にすることで見慣れていきます」と小島さんは指摘する。

 視聴者は画面で見慣れた光景を、無意識のうちに「あれが普通」と考えるようになります。女らしさ、男らしさなど、メディアには既存の「らしさ」を強化・再生産する働きもあります。放送局のアナウンサーは、いわばテレビに映るサラリーマン。視聴者がタレントよりも身近に感じやすいため、女性アナウンサーは職場や家庭での女性のロールモデルになりやすい。好き嫌いに関わらず、あれが模範的な女性像なのだろうと思ってしまう。女性アナの大半が若く、男性に対して従属的な役割だと、女性はそうあるべきと印象付けられます。

 また視聴者は、自分と同じ属性の人がポジティブな役割で、あるいは当たり前の存在としてテレビに出演しているのを見ると「自分は社会に受け入れられている」と感じます。非主流の人や少数者がテレビで活躍することには、そうした属性を持つ人たちを社会の一員として可視化する意味合いもあります。

 ただ映っていればいいということではありません。ある属性が、映像の中でどういう扱い方をされているかが重要なポイントとなります。テレビやYouTubeなど多くの人が見る映像メディアは、態度のモデルとなるからです。視聴者は、こういう場面ではこんな態度が望ましいのだな! と映像を見て学習し、現実世界で再現します。

 それには弊害もあります。例えば、相手の容姿や属性を揶揄う「いじり」。テレビの世界では気の利いたトーク術や話芸とみなされていますが、視聴者が実生活で再現すると、ハラスメントやいじめになり得ます。画面の中で、容姿や属性を貶された人がおどけて笑いを取ったり、「いじってもらって有り難いです」と発言して周囲から好意的に評価されるのを繰り返し見るうちに、それが実生活でハラスメントやいじめを受けたときの「あるべき態度」だと学習してしまう。いじられて怒るなんて野暮だ、洒落だと思ってむしろ感謝しなくてはと。

 私もかつて「人のことをいじっていいんだ」「いじられたら『おいしい』と思わなくてはいけないんだ」と思っていました。子どもも大人も、「いじり」をコミュニケーションの才能のように思っている人が大半ではないでしょうか。けれど、日本でもここ数年でハラスメントに関する知識が広まり、法整備も進んでいます。人権への配慮を欠いた動画や広告、テレビ番組が「炎上」するのは、人々の意識が変わっていることの表れと言えるでしょう。(小島さん)

 最後に、私たち視聴者ができることについてコメントをいただいた。

 あなたの声をテレビに届けてください! SNSのほか、直接放送局に電話やメールをするのも効果的です。「視聴者の声なんてお客様センター止まりで、制作現場には届かないだろう」と思うかもしれないですが、意外としっかり届いているんですよ。視聴者の声に真面目に耳を傾ける制作者もたくさんいますから、ぜひトライしてみてください。

 ダメ出しも大事ですが、褒めることはさらに効果的です。ジェンダーに関して言えば、女性アナウンサーの“女子アナ”扱いに異を唱えるだけでなく、ジェンダーステレオタイプを強化しないように配慮した表現に「いいね!」を表明したり、セクハラ演出に「NO」を示した出演者への応援コメントを寄せたりして、ディレクターや出演者を励ますことができます。褒められると、番組制作者は「もっとそういう表現を増やそう」と考えるようになります。

 テレビを作っている人の大半は、どうしたら視聴者を楽しませることができるだろうと真面目に考えています。ただ、テレビ黄金時代の成功体験が強すぎて、なかなか時代についていけていないところもあります。視聴者の声によって、テレビ局の人の価値観がアップデートされることは大いにあり得るので、ぜひみなさんの声を届けてください。(小島さん)

【プロフィール】

小島慶子(こじま・けいこ)
1972年生まれ。95年TBS入社。2010年に独立。エッセイスト、タレント、ソーシャルコミュニケーター。東京大学大学院情報学環客員研究員、昭和女子大学現代ビジネス研究所特別研究員。連載: AERA、VERY、日経ARIA、withnews、mi-mollet 、FQ Kidsほか

※初出:wezzy(株式会社サイゾー)2021.09.12 17:00

※情報は初出掲載時当時のものです。

※冒頭の導入文は転載時に追記しています。

広告

AUTHOR

雪代すみれ

雪代すみれ

フリーライター。企画・取材・執筆をしています。関心のあるジャンルは、ジェンダー/フェミニズム/女性のキャリアなど。趣味はヘルシオホットクックでの自炊。



RELATED関連記事