「非婚」という言葉は日本と韓国にしか存在しない?「結婚しないという生き方」を選んだ女性たちの選択

 「非婚」という言葉は日本と韓国にしか存在しない?「結婚しないという生き方」を選んだ女性たちの選択
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エコーチェンバー現象や排外主義の台頭により、視野狭窄になりがちな今、広い視野で世界を見るにはーー。フェミニズムやジェンダーについて取材してきた原宿なつきさんが、今気になる本と共に注目するキーワードをピックアップし紐解いていく。

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非婚と未婚とは違う。「未婚」が、「未だに結婚をしていない。つまりいつかは結婚をする状態」を指すのに比べて、「非婚」は、将来的にも結婚する意思がない状態を指す。

興味深いのは、非婚という言葉は、日本と韓国にしか存在しないということだ。もちろん、諸外国には結婚をしないと決めている人は珍しくはない。ではなぜ日本と韓国にしか非婚という言葉がないのかというと、それは恐らく、結婚していない人のことを、「未だに結婚していない、未婚」と現しているのが、日本と韓国だけだからだろう。

非婚という言葉は、未婚という言葉ありきの言葉だ。「未だ結婚していないのではなく、結婚する意思はないんです」「自分の人生に結婚が必要だとは考えていません」といった意思表示のために生まれた言葉が非婚なのだ。

日本では非婚という言葉が話題になることはあまりないが、韓国の女性たちの間では10年ほど前から非婚は興味をそそるトピックとなっている。非婚をテーマにした記事や書籍や番組、ポッドキャストなどが流行し、韓国で出版された書籍のいくつかは今年(2024年)に入り、日本でも翻訳出版された。

『私の「結婚」について勝手に語らないでください。』非婚は生き方のうちのひとつ

『私の「結婚」について勝手に語らないでください。』(亜紀書房・清水知佐子訳)は、コラムニストで独立出版レーベルの代表でもあるクァク・ミンジによって書かれた、非婚ライフを綴ったエッセイだ。

37歳のクァク・ミンジは非婚をテーマにしたポッドキャスト「ビホンセ」を運営するポッドキャスターでもあり、日々、非婚という生き方について発信を行っている。クァク・ミンジは恋愛はするが、結婚は望んでおらず、夫はいないが推しがいる生活を楽しんでいる。将来に対する悩みや不安もあるが、その悩みや不安は、結婚したからといって打ち消せるものではないことを知っている。

クァク・ミンジのエッセイは非婚をテーマにしているが、彼女が語っているのは、結婚の否定でもなければ、非婚の勧めでもない。

「非婚は結婚の反対語ではなく、多様な生き方のうちのひとつである」とクァク・ミンジは語っている。

『未婚じゃなくて、非婚です』恋愛、結婚、セックス、出産にNO!

一方、非婚を実践する人のなかには、明確に「結婚という生き方よりも非婚という生き方を選ぶほうがいい」と考える人もいる。既婚者のなかにも、結婚の理由(恋愛感情、世間体、経済的事情、妊活のため、ビザのためetc)が様々に異なるように、非婚を実践する人も一枚岩ではないのだ。

『未婚じゃなくて、非婚です』(左右社・すんみ・小山内園子訳)は、非婚をテーマに発信するYouTube『ホムサムピギョル』を運営するYouTuberエスとエイというふたりの女性によって書かれた非婚エッセイだ。

エスははっきりと、「数多くの女性差別の問題を解決する鍵は非婚なのだ」と述べている。差別問題のほとんどは家父長制というメカニズムによって生みだされており、家父長制を維持するための核となる歯車が結婚制度であるゆえに、結婚は望ましくない、と彼女は主張する。

エスは個人的に非婚であるというだけではなく、結婚制度自体に反対しており、自分のことを非婚であると同時に「反婚」であるとも述べている。さらに、非恋愛、非婚、非セックス、非出産も同時に唱えており、これまで「よきもの」とされてきた、恋愛を経てのセックス、結婚、出産、という一連の流れにNOを突き付けている。

また、エスとエイは脱コルセットも行っている。脱コルセットとは、ハイヒールやメイク、露出度の多いタイトな服、手入れの必要なロングヘアなどを女性に課されたコルセットであり、着飾り労働だと捉え、それらから脱却する運動のことだ。韓国の10代、20代の女性を中心に脱コルセット(略して脱コル)は流行し、エスとエイも、脱コルを行っている。

エイにとって脱コルは「選ばれる側であることからの脱却」も意味しており、着飾りにつぎ込んできたお金や時間を、いまや、自分に投資することでより健やかに過ごせていると述べている。

結婚神話はいつまで続く? 非婚者が結婚祝い金と同額のお金を受け取れる時代の到来

上記で紹介した二冊の非婚エッセイは、非婚を選択した理由も、ライフスタイルもまったく異なる。クァク・ミンジは恋愛やおしゃれ、推し活を楽しみながらも結婚しないという選択を行っている。エスとエイは、脱コルセットを行い、恋愛はせず、結婚には明確に反対の立場に立っている。

まったく異なるライフスタイルを選んでいる二組だが、共通している点もあった。それは、「なぜ結婚しないの?」「まだ最適な人に出会っていないのでは?」など、周囲から非婚という選択についてたびたび疑問を投げかけられる、という点だ。

これほど多様性の大切さが謳われる社会にありながらも、「結婚は全ての人が当然求めるはずのもの」「結婚=幸せ、成熟」という神話は現代でも強固に残り続けているのだろう。

しかし、非婚の人々が増えることで、社会のシステムも変わり、結婚神話も徐々に崩れていく可能性はある。実際、韓国では、非婚者が増えるにしたがって、企業が福利厚生の在り方を変え始めている。

たとえば、ロッテ百貨店は、2022年秋から、結婚祝い金や結婚休暇と同様の福利厚生を独身の社員にも適用できる制度を導入している。

また、大手通信事業者のLGユーザープラスは、満38才で勤続5年以上の社員が非婚を宣言した場合、結婚祝い金と同額の一カ月ぶんの基本給を支給するとともに、5日間の有給休暇を与える制度を2023年から導入している。

従来、結婚しないと受けられなかったメリットが、非婚者にもどんどん拡大していったなら、「結婚は全ての人が当然求めるはずのもの」という神話は、解体されていくのかもしれないし、それでも強固に結婚神話は残り続けるのかもしれない。未来は未知数だ。

いずれにせよ、結婚してもしなくても、一生、自分とは離れることはできないなら、自分で納得のいく生き方を選ぶべきだろう。どの選択がベストなのか、決められるのは、自分しかいない。

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AUTHOR

原宿なつき

原宿なつき

関西出身の文化系ライター。「wezzy」にてブックレビュー連載中。



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