独身差別「シングリズム」を考える|「独身者は未熟で不幸で孤独死する」というステレオタイプについて

 独身差別「シングリズム」を考える|「独身者は未熟で不幸で孤独死する」というステレオタイプについて
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エコーチェンバー現象や排外主義の台頭により、視野狭窄になりがちな今、広い視野で世界を見るにはーー。フェミニズムやジェンダーについて取材してきた原宿なつきさんが、今気になる本と共に注目するキーワードをピックアップし紐解いていく。

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「結婚して一番よかったことは、まだ結婚しないの?と聞かれなくなったこと。なんで独身なの?と追及されなくなったこと」。

最近結婚した友人Aがそう言ったのを聞いて、私は彼女の気持ちが理解できると思った。ある一定の年齢を迎えると、結婚に興味があろうがなかろうが、友人との飲み会や、親戚の集まりの場で、結婚にまつわる話題を避けることは難しい。

結婚の話題、といってもそうバラエティに富んでいるわけではなく、既婚者に対して、「なぜ結婚したの?」「ほんとうに結婚してよかったと思ってる? 年を取ったときに後悔するのでは?」といった厳しい追及がなされることはない。

一方で独身者には、「なぜ結婚しないの?」「理想が高いのでは?」「誰か紹介してあげようか」といった声がかけられることが多々ある。

生涯未婚率が上昇しているにも関わらず、結婚=よきもの、必ずみんなが求めているもの、求めるべきもの……といった社会的規範は未だ健在だ。そして、その社会的規範から逸脱している者は、しばしば偏見にさらされる。

独身者に対する無意識の偏見・差別

以前、読書家で、様々な形の差別に厳しい目を向けている知人Bがこんなことを言っていた。

「○○さんは、ずっと独身で、自分の思う通りに生きてきているから、ワガママなところがある」と。

私は驚いた。彼のような、差別や偏見に対して敏感な人であっても、独身者に対して無自覚に抱いている偏見には、気づけないものなのか……と。

独身者に行う差別や、抱いている偏見は、自覚しづらい。独身差別を意味するシングリズムという言葉を知っている人も少数派だろう。なぜ、人は、無意識に独身者を差別してしまうのか。それは、結婚=成熟、幸せ、独身=未熟、孤独といったステレオタイプが世の中に空気のように溢れていたからだろう。

しかし、このステレオタイプは実態を表しているのだろうか?

結婚は孤独という問題のソリューションになりえるか?

『「選択的シングル」の時代 30カ国以上のデータが示す「結婚神話」の真実と「新しい生き方」』(文響社 エルヤキム・キスレフ著 船山むつみ訳)は、そういったステレオタイプが真実ではないと述べている。結婚は孤独という問題のソリューションとしてはあまりにも不確実だ、と様々なデータが示している、と。

本書によると、結婚後、数年間は幸福感がアップする傾向にあるものの、すぐに幸福度は結婚以前と変わらなくなり、離婚や死別などを経験することにより、シングルの場合よりも孤独感が強まり、幸福度は下がるという。また、そもそも、支えあうために結婚したふたりであっても、どちらかが病気になったり、経済的に困窮したりした場合、離婚する確率はグッと上がる。

シングルの人たちは、配偶者がいないため、家庭の外に人間関係や生きがいや、頼れるコミュニティを探す傾向にあるため、生涯を通して考えると孤独感は感じにくいというデータもある。既婚者は、配偶者という安定を得て、そのほかのコミュニティや友人関係にリソースを割かない傾向があり、それゆえ、結婚生活が終わりを告げたり、死別を迎えたりしたあと、精神的または経済的に脆弱になりかねないというリスクがあるのだ。

2割から3割程度の日本人は、「男性は結婚してこそ一人前」と思っている

「男性は結婚して一人前」そんなことを口にする人は少なくなってきているが、未だにそう信じている人は少なくない。

令和3年、内閣府は、「男性は結婚して家庭をもって一人前だと思うか」という調査を行った。「そう思う」「どちらかと言えばそう思う」を合計し、もっとも高い数値を記録したのは、60代男性で約40%だ。もっとも低い数値は、20代女性の15%で、全世代全性別の平均は2割から3割程度となった。

つまり、現代でも2割から3割程度の日本人は、「男性は結婚しなければ半人前、未熟である」と思っているのだ。また、『選択的シングルの時代』によると、シングルの女性はシングルの男性より苛烈なスティグマに苦しめられているという。すでに死語になったが、「オールドミス」「いかず後家」というシングルを揶揄する女性のための言葉があったことを考えると、性別によって、与えられるプレッシャーの形が違うことが伺える。

「男は結婚してこそ一人前」「女は結婚したら幸せになれる」と考える人は、実際に結婚しても未熟な男や、結婚後不幸になった女の存在を知っているはずだが、現実とは無関係に偏見を維持しており、その偏見が、独身差別につながっている。

独身差別「シングリズム」をなくすには?

前述した内閣府の調査によると、年齢が若くなればなるほど、「結婚=一人前」と考える人は少なくなっていっている。近年は、独身であることをポジティブに描くドラマや映画なども増えていることから、独身であることにまつわるスティグマは払拭されつつあるといっていいだろう。

しかし、独身に対する差別や偏見がゼロになったわけではない。未だに独身差別はあらゆる形で存在している。ちょっとした友人や親族、上司との会話のなかで、独身は既婚よりも下の扱いを受けることがある。

独身差別はすぐに消えてなくなることはないだろう。しかし、あらゆる差別がそうであるように、そこに差別がある、と認識することは、差別解消の一歩になるはずだ。

独身に対するスティグマが解消し、シングルという生き方によいイメージを持つことができれば、誰もがもっと、自分に適したライフスタイルを選択できるだろう。そういった世界は、独身者にとっても既婚者にとっても、より生きやすい世界なのではないだろうか。

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AUTHOR

原宿なつき

原宿なつき

関西出身の文化系ライター。「wezzy」にてブックレビュー連載中。



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