私たちはなぜ、恋人・配偶者以外の人を好きになってはいけないと思うのか|関係性の多様性を考える
エコーチェンバー現象や排外主義の台頭により、視野狭窄になりがちな今、広い視野で世界を見るにはーー。フェミニズムやジェンダーについて取材してきた原宿なつきさんが、今気になる本と共に注目するキーワードをピックアップし紐解いていく。
恋人・配偶者以外の人を好きになったら……浮気・不倫以外の関係性とは
付き合っている人がいても、結婚していても、「この人素敵だな」「好きだな」とときめきを感じることは珍しくないでしょう。
しかし、いくら素敵な人に出会っても、既にパートナーがいる場合、自分の感情にストッパーをかけがちです。なぜなら、浮気や不倫は、パートナーへの裏切りであり、関係を壊すきっかけになりうるものだから……しかし、世の中には、そう考えない人もいます。パートナーがいても、もうひとり、いや、もうふたり恋人やパートナーがいてもよい、と考える人たちです。
昨年(2023年)、既婚の人気YouTuberが、お互いに同意のうえでセカンドパートナーとの関係を築いていることを公にし、話題になりました。
夫婦で子育てをしながらも、家庭の外にそれぞれパートナーを作るという関係に、関係者すべてが合意しているならば、外野がとやかく言う必要はないはずです。しかし、彼らの関係性は、一定数の人から非難の対象となりました。
彼らのように、特定のパートナーをひとりに絞らず、関係者全員が合意している関係性のことをポリアモリーといい、ポリアモリーの実践者のことをポリーと言います。なぜポリアモリーが批判の対象となりがちなのかというと、私たちが、モノガミーを前提とした社会に生きているからでしょう。
チェック項目でわかる。「ポリアモラスな体験」があるか否か
モノガミーとは、一対一での恋愛や結婚を推奨したり、実践したりする人たちのことです。日本は結婚やパートナーシップ制度を利用できるのは一対一の関係のみであることからモノガミー前提の社会だということができます。恋愛漫画やドラマ、映画でもロマンチックな関係として描かれるのはほとんどの場合、モノガミーの関係です。
モノガミー前提社会で秩序が保たれている現代社会において、ポリアモリーは秩序から逸脱した異質な人のように思われるかもしれません。しかし、自覚していないだけでポリアモラス(複数の人を同時に好きになるような感受性)を持つ人は珍しくありません。
深海菊絵著『ポリアモリー 複数の愛を生きる』(平凡社新書)では、以下のようなチェック項目が提示されています。当てはまる項目はあるでしょうか?
1交際相手がいるのにほかの人を好きになったことがある
2配偶者がいるのにデートしたいと思う相手が現れたことがある
3すでにパートナーがいる人を好きになったことがある
4実は浮気をしたことがある
5実は二股をかけたことがある
6実は不倫をしたことがある
本書によると、こういった項目がひとつでも当てはまる人は、「ポリアモラスな体験がある」と言えるといいます。しかし、モノガミー規範を内面化している人たちにとって、上記のことは許されないことですから、自分を責めたり、関係をすぐに終わらせようとしたり、罪悪感に苦しんだりしがちです。
ポリアモリーは、同時に複数の人を好きになるという感受性を否定せず、ひとつの関係性のバリエーションとして実践しようとする試みなのだと思います。
モノガミー前提社会に存在するポリアモリーの人々
モノガミー規範が強い社会において、ポリアモリーの実践者は、ときに嘲笑され、侮蔑され、嫌悪されます。「浮気者に都合のいい言い訳」「ヤリマン・ヤリチンの正当化」というわけです。しかし、どれだけポリアモリーが忌避されようとも、実際にポリアモリーを実践している人は現に存在しています。
『もう一人、誰かを好きになったとき ポリアモリーのリアル』(荻上チキ著 新潮社)は、日本に暮らすポリー100人以上への取材、調査から見えてきたものをまとめた一冊です。
「唯一無二の運命の人」と一対一の関係を築くことが理想とされる社会で、「愛する人はひとりだけじゃない」という生き方を選択している人が直面する課題や偏見、生き方、幸せの感じ方が、ここには綴られています。
本書では、「いないこと」にされがちなポリアモリーの人々の可視化が試みられているのです。モノガミーは唯一無二の関係性ではなく、様々な関係性がありうることを本書は提示しています。
何が恋愛感情か、何がロマンチックか、何が結婚生活かを私たちは学習する
私たちは、メディアや法律を通して、どういった関係が理想的か、何が恋愛か、何が結婚生活は、何がロマンスなのかを学びます。現代でも少女漫画雑誌、『りぼん』や『なかよし』のメインコンテンツは恋愛漫画であり、少女は幼い頃から、恋愛のルールや、男女の役割、どういった異性が魅力的かを繰り返しインプットされます。
しかし、そういった恋愛や結婚のルールは不変のものではありません。たとえば、「夫婦愛」というイデオロギーは、明治20年ごろに作られたものであり、それ以前には、夫婦とは生活を営む共同体であり、恋愛とは切り離されたものでした。(※1)
また、2020年、アメリカのマサチューセッツ州サーマビル市で、複数人でのパートナーシップ条例が公的に認められ、2021年には、同じくマサチューセッツ州のケンブリッジ市でも複数パートナーを認めるパートナーシップ条例が公的に認められました。
「たったひとりの運命の人と出会い、永遠に幸せに暮らしました」というストーリーは引力がありますが、万人に適用されるものではないのでしょう。これまで学習してきた恋愛や結婚のルールに違和感がある方は、新しく学び直す時期がやってきたのかもしれません。
※1 『男たち 女たちの恋愛 近代日本の自己とジェンダー』(田中亜以子著 勁草書房)
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